みんなで「『民王』のテーマ」を口ずさんでいる未来がやってくる。ミュージカル『民王』有澤樟太郎、別所哲也、池井戸潤インタビュー
(左から)別所哲也、有澤樟太郎、池井戸潤
「現職総理大臣の父と息子の心が入れ替わる」という混乱を、社会や政治への皮肉と風刺を絡めて描いた池井戸潤のコメディ小説『民王』がミュージカルに! 池井戸作品初の舞台化としても注目を集める本作、脚本は映画『シャイロックの子供たち』で第47回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した“あの”ツバキミチオが手がけ、音楽をピアニスト/作曲家の角野隼斗が担当、そして父・武藤泰山役には別所哲也、息子・翔役には有澤樟太郎という強力布陣が揃った。この日は本格的な稽古を前に、有澤樟太郎、別所哲也、池井戸潤が3人揃っての初顔合わせ。新たなオリジナルミュージカルの成功に向け、大いに語り合った。
■ もともとミュージカルが好きでずっとやってみたかった(池井戸)
――池井戸作品初の舞台化、しかもミュージカルというニュースは驚きでした。脚本はツバキミチオ氏、音楽は角野隼斗さんですが、どのような作品になっていきそうでしょうか。
池井戸:僕は元々ミュージカル好きで、ずっと関わりたいと思っていたんです。音楽の角野さんは縁あって僕からお声かけしたんですけど、さらに(角野氏が在籍するバンド)Penthouseの浪岡真太郎さん、大原拓真さんというお二人も音楽と作詞に参加されているそうです。第1幕の曲を聴いてみたら、いい曲ばかりで。この先も期待しています。
――池井戸さんから何か曲のイメージを示されたのでしょうか?
池井戸:曲のイメージは角野さんの自由にしていただいていて、お任せです。角野さんは今ニューヨーク在住ということで、ジャズにも詳しいし、当然クラシックにも詳しい。いろんな音楽を融合させることができる器用な方で、すごいです。バリエーションのある楽曲ができていると思います。
――創作現場は着々と進んでいます。俳優チームはいかがですか?
別所:僕はもちろん原作を読んで、台本を拝見して、そして昨日初めていろんな曲を聞く機会があって、「うわ、こういうふうに音楽が立体的にこの世界を作るんだ!」って感じています。新しいミュージカルはこうして生まれるんだなって。ナンバーはバリエーションがすごくあって冒頭からワクワクするし、とりわけ「『民王』のテーマ」という曲はもう……今年下期のミュージカル界を席巻するナンバーになるなと思っています! ゼロイチと言うと変なんですけど、あの原作をオリジナルのミュージカルにするっていうワクワクから始まり、次はこれをどうやって樟ちゃんと立体化するんだろうなっていうのをね、僕自身も楽しみにしてるところですね。
有澤:僕ももう本当に楽しみしかないです! 池井戸さん始めクリエイターのみなさんも、キャストの方々も、普段ミュージカルに携わってない方も巻き込んでいろんなところから集まった完璧な布陣のメンバーでの異種格闘技みたいな感じで、その化学反応がすごく楽しみですし、あのビジュアルの雰囲気からももうこのミュージカル『民王』にはすでに“大当たり感”というか、“間違いない感”がすでに漂っていて……その分、早くもハードルが上がっちゃってるんですけど(笑)。でもこれ、やはり面白くならないわけがないと思います。台本を読んで、音楽を聴いている今の段階で、僕らも本当に未知の世界に飛び込むんだな、見たことないようなものになるんじゃないかなという期待は大きいです。
■ 俳優冥利に尽きる「めちゃくちゃやりがいがある役どころ」(別所)
――有澤さんと別所さんは2度目の共演。今作での再会でお互いどんなところを期待しているのか、また、池井戸さんは舞台上でのおふたりのどんな姿を見たいと思われていますか?
池井戸:おふたりがどんな姿になるのか本当に謎で、楽しみにしています(笑)。入れ替わる瞬間は、舞台上でどうやってやるのかなって。まだ情報がないので、そこからもう謎なわけです。
有澤:入れ替わりに気づくシーン、面白いですよね。確かに「あれをできるのかな、ミュージカルで」とは僕も思いました。
別所:でも俳優としてはもうめちゃくちゃやりがいがある役どころというか、入れ替わりなんて究極のシチュエーション。こんな奇想天外な役柄をいただけて、しかも一度親子をやっている樟太郎君のそのまっすぐなピュアな感じっていうのが、今回の作品でどうなるのか。僕が有澤樟太郎演じる翔になって、商見た目は総理大臣っていう状況、この二重、三重の構造の中で、それを信じきって演じるってすごい面白いことなので。稽古でもじっくり有澤樟太郎を観察したいです。
有澤:(笑)。僕もそうですね。台本を読んでの泰山のイメージとかもあるんですけど、親子なのでやっぱりお客さんにも「似てるな」と思わせたい。そこはやはり別所さんが作る泰山をどれだけ研究できるかだと思うので、別所さんの特徴というか……別所さんっていろいろなお名前で呼ばれていませんか? 「ハムの人」とか、ラジオも長年やられていますし、他にもいろいろ。
別所:(笑)。
池井戸:マルチにやってらっしゃる印象がありますよね。
有澤:そういういろんな多方面の一面を、せっかくなので役として落とし込めたらと思っています。
別所:僕ら身長もガタイもなんとなく似てるし、僕も10年くらい前はこれくらいキラキラしてたんですけど(笑)、ま、ビフォーアフターって感じでね、どういうふうにできるのか。面白いですよね。
有澤:ただやっぱり入れ替わっての状態は複雑すぎて……。
別所:そうだね。混乱をしないように組み立てていこうとは思ってますけど……。
有澤:どうなんでしょう?
池井戸:僕に聞かれてもわからない(笑)。
有澤・別所:(笑)。
池井戸:翔になっている泰山、泰山になっている翔が、脚本のあらゆるところに出てきますよね! 蔵本になってるエリカ、エリカになってる蔵本も。
別所:そう、そっちもあります。
池井戸:大変です。原作者ですら読んでいて混乱するので、演じる方はもっと大変でしょうね。
有澤:さっき池井戸さんに「よくオファーを受けましたね」って言われました(笑)。僕は「いや、やります!」って、「即答」でした。
池井戸:泰山と翔は一生懸命な感じ、熱い感じでいいんじゃないですか? そもそも役者さんって普段から作品の役と入れ替わってるじゃないですか。今回はそれがもう1個、増える“だけ”で(笑)。
別所:いやいやそのとおりです。おっしゃるとおりです。
有澤:あの、今回の台本に関してなんですけど、ミュージカルのオリジナルシーンが結構あるんです。そこで翔のラブストーリー味が……真衣ちゃん(林瑠奈)とのロマンス的なものが、もしかしたらミュージカルでは結構強調されるのかな、という予感がしたんですけど……。
池井戸:ツバキミチオさんの脚本では、それっぽい感じになってますね。
別所:あ、でもそこの回収、中身は泰山なんだよね?
有澤:だから泰山の中身の翔として真衣ちゃんに接するのか、それとも外見が翔の泰山が真衣ちゃんと接するのか、とかまあまだわからないんで……今また頭が混乱してきました(笑)。
池井戸:きっとそこに(泰山の有能な秘書の)貝原(山崎大輝)もいますから、あいつが教えるでしょう。だから大丈夫です。
別所:確かに(笑)。でも台本、だいぶ原作から変わりますよね?
池井戸:そうですね。舞台化にあたって原作を読み直して最初に感じたのが、このままじゃミュージカルにならないのではということ。2時間ぐらいの舞台にするためには、構成をガラッと変える必要があるだろうなと思いました。
有澤:400ページぐらいの小説を2時間ほどに納めるのって、絶対大変な作業ですよね。
■ ミュージカルだからできることで、いろんな立場の人の思いを伝えたい(有澤)
――小説がミュージカル化されるにあたってどのような点がポイントだと思われますか?
池井戸:小説であれば問題ない展開も、舞台としての流れを出すには、話の山と谷を作り直さないとうまく収まらない。そして劇中の歌は確かに歌なんだけど、セリフでもあると思うんですよね。ミュージカルを観に行くといつも、役者さんには2種類あって、歌を歌として歌っている人と、役の中のセリフとして歌っている人とがいるなと思うんです。今回はミュージカルという形になっていますが、その歌詞の部分もストーリーの一部であるはず。だから作りとしては、ミュージカルだろうが映画だろうが連続ドラマだろうが、同じだなと思っています。
――本作は「政治×コメディー」であり、且つミュージカルというスタイルが最大の個性。エンタメと政治の融合は刺激的でもあります。
有澤:こんなにがっつり国会がテーマというミュージカルもなかなかないと思います。今、世の中としても割と政治的な関心も高まってきていて、僕の周りでもそういう話がちらっと出たりもするし、僕も国民として「税金、なんで下がんないんだろう」とか、「ガソリンが高いな」とか思うけど、そういう国民の不満と、政治家たちが日本を良くしたいと思っている目線はちょっと違うのかもしれなくて……不満を解消することが国を良くすることに直接つながるかどうかはよくわからないんです。それでも、ミュージカルってやっぱり内面をすごく言葉にして、音楽に乗せて歌えるっていうのが強みだと思うんです。ほんとの本音のぶつかり合い、みたいな。
なので今回もそういう“ミュージカルだからこそできるようなこと”で、いろんな立場の人の思いをお客さんに届けられたらいいなと思います。
結局は誰かに寄り添うことの方が大事だったりするのかなと思ったりするので、そういうこともお客さんにちょっと考えてもらえるような、ただ単にわかりやすいものじゃなくて、相手になにかを問うような感触のものにしたいなと思います。
別所:ミュージカルの「政治を歌っちゃう」みたいなことや、「問題を笑い飛ばしちゃおう」っていう力強さ。
そこにはちゃんと本音だったり、建前だったり、人間のいろんなもの……“業”みたいなものも見えるだろうし、そういう思いをお客さんと一緒に共有できるミュージカル『民王』がこの日本で生まれて、そしていろんな人が日本の政治を見たり、世界を見たりする入り口になってくれたらいいと思いますね。笑い飛ばしちゃってるんだけど、なんかこう「みんなが思い当たる節」っていうもの、「このままじゃいけないんだよね」をなんとかみんなで見つけていく。
僕、自分でやってるラジオで「ご機嫌は自分で作るもの」って言ってるんですけど、このミュージカル『民王』もそういう「ご機嫌をどう作るか」、みたいな作品になるんじゃないでしょうか。政治もちゃんと関わったほうがきっとご機嫌な世界になるんだろうな、というメッセージもちゃんとある作品に。
池井戸:いいんじゃないでしょうか。僕自身はデモに行くといった活動はしていませんが、代わりに、作品という形で何かを主張したいと思っています。
――作品自体が持っているパワーとメッセージ。それがすべてですね。
有澤:今日も早速ワークショップがあって、歌稽古も始まって、今はやっと僕らの資料が揃ったみたいな感じ。これだけ池井戸先生が関わってくださっていて、角野さんのミュージカルナンバーもキャッチーですし、ミュージカルならではの要素も台本にいろいろ盛り込まれていて、あとはもう僕たちがこの体でどう作っていくか、なんですけど……だいぶ体当たりにはなると思います。台本を読んで僕が感じたことや、原作を読んでそこからもらった良さをそのまま翔として、泰山として、伝えられるように頑張ります。ミュージカルが好きな方にもちゃんと届くし、新しいお客さんにも届くような、そういう、“みんながやりたかったようなもの”が実現できることが楽しみです。楽しみにお待ちいただけたらと思います。
別所:かつて、内閣総理大臣が出てくるような政治ミュージカルってあっただろうか。しかも親子が入れ替わるという! 奇想天外な、痛快な新しいジャンルがミュージカル界に生まれます。やる側もチャレンジであり、面白いことが本当にたくさんたくさんあるんですけど、観ていただくみなさんにとっても、今までにない体験をしてもらえるんじゃないでしょうか。
池井戸先生の作品って全部そうなんですけど、弱いものに寄り添っていたり、強そうに見えるものが弱かったり、なんかこう……社会のいろんなことへの景色が変わって見えてくる力があるんです。今回はとりわけ「政治」に関して、劇場を出る時にはなんか見え方が変わってくれていたりしたらいいな、と思いますね。そして、帰り道にはみんながあの「『民王』のテーマ」を歌ってるっていう、そういう世界になるのは間違いないでしょう。
池井戸:僕はお客さんと一緒の立場なので、「ミュージカル『民王』。傑作か、珍品か、それが問題だ」といった気持ちで楽しみたいです。どんなお芝居、どんな演出になるのか……本当に、これだけ謎な芝居はありません(笑)。これから稽古そして本番と、作品はどんどん固まっていくでしょうから、そうやって『民王』が成長していく様子を、僕も一緒に楽しみたいと思います。
取材・文=横澤由香 撮影=奥野 倫
・有澤樟太郎
ヘアメイク:窪田健吾(aiutare)
スタイリスト:山田安莉沙
・別所哲也
衣装クレジット
Yohji Yamamoto POUR HOMME
お問い合わせ先:ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500
ヘアメイク:森川英展(NOV)
スタイリスト:Ryo Chiba(AVGVST)
公演情報
ミュージカル『民王』
スケジュール:
2026年9月6日(日)~10月6日(火) 東京・シアタークリエ
2026年10月11日(日)~13日(火) 大阪・梅田芸術劇場 シアタードラマシティ
2026年10月17日(土)~19日(月) 福岡・博多座
出演:
武藤 翔 有澤樟太郎
武藤泰山 別所哲也
村野エリカ 豊原江理佳
南 真衣 林瑠奈(乃木坂46)
貝原茂平 山崎大輝
新田 理 上川一哉
蔵本志郎 福田転球
武藤 綾 一路真輝
城山和彦 竹中直人
原作:池井戸潤「民王」(文春文庫/角川文庫)
脚本:ツバキミチオ
音楽:角野隼斗
演出:永井誠
共同音楽:浪岡真太郎(Penthouse)
歌詞:大原拓真(Penthouse) 角野隼斗
共同脚本:笠浦静花
主催:東宝/テレビ朝日
製作:東宝
公式ホームページ
http://tohostage.com/tamiou/