Doona、brkfstblend、S.A.R.が三者三様のスタイルで揺らしたフロアーークールで気負わないムードに満ちた『T.B.O presents #長堀界隈 ver1208』レポート
『T.B.O presents #長堀界隈 ver1208』2024.12.8(SUN)大阪・心斎橋CONPASS
応援歌を聴けば腹の底からメラメラと力が湧きあがってくるように、心地よい音楽を聴いた日はコートを靡かせて街を颯爽と歩きたくなる。2024年12月8日(日)に大阪・心斎橋CONPASSにて開催された『T.B.O presents #長堀界隈 ver1208』は、都市の空気が似合うスタイリッシュな自分に生まれ変わらせてくれるような夜だった。『T.B.O presents #長堀界隈』は、大阪のイベンター・夢番地の大野氏が「関西で魅力的なキモチいいフェスがしたい」という想いから2016年に始動させた『たとえばボクが踊ったら、(以下、ボク踊)』のスピンオフ企画。ここではDoonaとbrkfstblend、S.A.R.の3組が出演し、『ボク踊』のクールなムードを受け継いだこの日の模様をお届けする。
Doona
トップバッターを任されたDoonaのショータイムは、サーチライトのように照明がうごめく怪しげなステージに姿を現したSOTA(Gt)とRYO(Ba)、RINTA(Key)、ZAKKI(Dr)によるセッションで幕を上げた。キーボードのロングトーンとTVの砂嵐を喚起するシンバルのサラサラとしたサウンドを充満させたところで、まずは「Green Tips」をドロップ。<踊り明かしてまやかし跳ねる期待right?>と歌う同曲は、“踊り”を冠するこの日のオープニングナンバーとして至極の1曲であると同時に、Doonaが踊る理由を浮き彫りにしていく。
<果てない旅に明けない夜はないじゃない><呆気ない音にならなければいんじゃない>のリリックは、マニュアルやルールでがんじがらめにされて自分を偽るうちに見失ってしまった信念を、踊りという本能な行為で取り戻そうとする様子を描いている。このメッセージは、イントロで提示されるギターリフが中盤にかけて変容していく展開を身上とする「APE」や、天から稲妻の如くライトが降り注ぐ中、RYOのロータリー奏法を合図に雪崩れ込んだ「BEG」にも通底するものだろう。同ナンバーにおいて、マイクを力強く指差したGENKI(Vo.Gt)の姿は、まさしく彼らが音楽を選んできた理由を具現化していた。
MCもなくストイックに進行していった40分間において、GENKIが「踊りたいヤツどんだけいますか! 大阪!」「ぶち上がってもらっても良いですか!」と咆えた「Hot Dog」は、最大火力を叩き出したワンシーンだ。RINTAがキーボードを持ち上げて舞台ギリギリまでせり出すと、負けじとフロント3人も前方へ。ストロボで縁取られた4人のシルエットは、四天王を彷彿とさせるほどの存在感を放ち、会場もすっかりパーティータイムに。
奥行きのある低音から少年性を帯びたハイトーン、ざらつく攻撃性を帯びたシャウトまでを自由自在に使いこなすGENKIの歌声と、ユニゾンのフレーズや折に差し込まれるトゥインクルなメロディーで、スタイリッシュな空間を醸成したDoonaだった。
brkfstblend
「We are brkfstblend! Are you ready?」。不敵な笑みを浮かべたMichael Kaneko(Vo,Gt)のこんな問いかけと共にスタートを切った、brkfstblendのショータイム。恍惚とした表情でギターを爪弾くKanekoが、Keity(Ba)と粕谷哲司(Dr)によるミニマムかつ穏やかなセッションに合流すると、まずは「Cannonbal」を1曲目に据える。1970年代のディスコミュージックを再解釈したという同ナンバーが、ローなボーカリゼーションや繊細なコーラスワーク、深い青へ染まったステージによって、しとしとと雨が降り始めた街に漂うペトリコールをイメージさせていく。裾を濡らすじっとりとした悲しさに浸っていると、体が反動でバウンドするほどパワフルに叩かれたドラムが一気に激情を呼び覚まし、メロドラマさながらの感傷的なひとコマを作り上げた。
ゆっくりと走り始めた後は、「盛り上げていきます」の宣言からオールドスタイルなリフを鳴らす「nyc」、細やかに刻まれるビートにクラップも発生した「Fine Love」を連投。フロントの2人が自然と粕谷の下へ集まったり、幾度も目を合わせて破顔している様子も見られ、自らの好きな音楽を追究するために誕生したこのバンドで音を鳴らせることへの喜びが自然とフロアに伝播していく。言うまでもなく彼らはエンターテイナーであるが、強引に観客を巻き込もうとしているのではなく、「ノリで始めた」と語る3人のやり取りを眺めている内にその交歓の輪へ加わっていた感覚を与えてくれるのだ。こういった親近感は、アルコールを呷りながら演奏を繰り広げるラフなムードや、MCで「来週からタイでの公演があって。普通に遊びも兼ねて行ってきます」と話していたことからも垣間見ることができた音楽と生活、遊びを連続して捉える態度に由来するものであろう。
会場全員で合いの手を入れた「2am」で、ハッピーなラストを迎えたbrkfstblend。「ツアーくる人?」の質問に対し、まばらに挙がった手を見てメンバーは「少なっ!」と笑っていたが、3人の胸の空く楽曲群は間違いなくこの場にいた全ての人の心を掴んでいた。
S.A.R.
今宵のアンカーを務めるS.A.R.は「S.A.R.です。よろしくお願いします」とsanta(Vo)の簡素な挨拶から、「Clouds」でティップオフ。DoonaのGENKIはジャケットに、brkfstblendの3人はスーツに身を包んでいた分、ナイロンジャケットとビーニー姿で登場したsantaを筆頭とする6人のストリート的なエッセンスが際立っており、さらりとキックオフしたライブが気負わないものになることを冒頭で確信する。
santaの喉奥で鳴るような発声によって日本語や英語の意味が漂白され、音としての快さを際立たせる「Kawasaki」を終えると、<No more no more>の一声を聴いたファンが間髪入れずに大熱唱。そんな一幕から披露された「Uptown」は終止シンガロングが巻き起こっていたのだが、その歌声には上手く歌おうとする以上に「こっちは元気にやっているけど、そっちはどう?」と手紙を送るみたいな親密さが詰まっていた。
S.A.R.の音楽は確かなテクニックに裏付けられながらも、些細な機微を汲み取りながら心のときめく方へと歩みを進めていくジャムセッションの要素を多分に含有している。そういった即興性に魅了されているオーディエンスもまた、彼らと同じポリシーを有しているのではないか。客席を埋め尽くした合唱に「大阪、最高かよ!」とsantaも喜びを露わにしたこのワンシーンを目撃して、そんなことを思った。
「改めて、S.A.R.です。知っている人いたら鼻歌でも手拍子でも良いんで、一緒に楽しくなりましょう」の語りで先刻に負けず劣らずのチャントが発生した「CAP」、Imu Sam(Gt,MC)の鋭いラップと固いサウンドを鳴らすmay_chang(Dr)のドラムが重厚感を演出する「3AMBLACKCAT」を経て、次に補填されたのは「pool」。ロングトーンを主軸に構成された1節がリフレインされることによって、ファルセットを多用するsantaの色気を纏ったボーカルに焦点が当たる。天を仰いで歌声を響かせたのち、一瞬の静寂からクライマックスへと突入していく流れは問答無用の爆発力で、Attie(Gt.)のギターが炸裂したアウトロと共に、ディープな後半戦へと畳みかけていく。
ラストはアタック感の強いEno(Ba)のスラップが下腹部を心地よく震わせる「Kaminari」から、「最後に踊ろうぜ、大阪!」と突き抜けた「Cannonball」でフィニッシュ。偶発的なハウリングまでを味方につけて、アダルトな魅力を見せつけたステージだった。
折にスマートに、折に緩く、三者三様の手法でフロアを躍らせ続けた『T.B.O presents #長堀界隈 ver1208』。終演後、客席に設けられたテーブルの上に視線をやると、こんもりとカップの山ができており、今夜がいかにダンスフロアであったのかを実感することができた。なお、2025年3月29日(土)には大阪・梅田3会場にて『梅田界隈 THE CIRCUIT '25』の開催を予定しており、DoonaとS.A.R.の出演も決定している。ミラーボールの下で再会する日は遠くない。
取材・文=横堀つばさ 写真=オフィシャル提供(撮影:etsu)
イベント情報
時間:OPEN/START 14:00
出演:Black petrol/どんぐりず/Doona/Jairo(YAMORI+John-T)/jean/QOOPIE/Redhair Rosy(ex.the McFaddin)/S.A.R./Shu(ego apartment)/スーパー登山部/Testa/登山部experiment/TRIPPYHOUSING/and more
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・全自由(Dr別・整理番号付)¥5,000
・U-20(Dr別・整理番号付)¥3,500
※20歳以下はU-20
※ご入場の際、別途ドリンク代(¥700)が必要になります。
企画・制作;たとえばボクが踊ったら
問合:YUMEBANCHI(大阪)06-6341-3525<平日12:00~17:00>
https://www.yumebanchi.jp/
ライブ情報
大阪 心斎橋CONPASS
OPEN19:00/START19:30
名古屋 今池TOKUZO
OPEN18:00/START19:00
東京 代官山UNiT
OPEN18:00/START19:00
ADV.4,000円/DOOR.4,500円
U-25 3,000円