The Birthdayの「ローリン」を渋谷すばる、GLIM SPANKY、SPECIAL OTHERSが熱演ーー味園ユニバースで刻まれた、新たなる伝説の日『たとえばボクが踊ったら、 #6.5』レポート
『たとえばボクが踊ったら、 #6.5』2025.2.24(MON)味園ユニバース
「関西で魅力的なキモチいいフェスしたい」をコンセプトに2016年からスタートした『たとえばボクが踊ったら、#6.5(以下、『ボク踊』)』が、2025年2月24日、味園ユニバースで開催された。番外編を含めて10回目の開催となる今回は、『ボク踊』にとって特別な1日となるであろうことが発表時から明らかだった。サブタイトルに「THANX“UNIVERSE”」と冠されたように、会場は今年の夏前に取り壊しが決まっている「味園ビル」にある味園ユニバース。出演アーティストはThe Birthday(クハラカズユキ、ヒライハルキ、フジイケンジ)、SPECIAL OTHERS、GLIM SPANKY。そしてThe Birthdayのゲストボーカルには、味園ビルを舞台にした映画『味園ユニバース』(2015年公開、山下敦弘監督)で映画単独初主演をつとめた渋谷すばる。まさに『ボク踊』と味園ユニバースに縁のあるメンツが勢ぞろいした。こんなにも意味深いラインナップで、何も起きないはずがない。必ず伝説の夜になる。最初からそんな確信があった。
2016年に大阪・服部緑地野外音楽堂で行われた『#001』は、The BirthdayとSPECIAL OTHERSのツーマンライブだった。そこから始まった『ボク踊』の歴史は、豪雨や巨大台風、新型コロナウイルスなど、数々の苦難とハードルを乗り越えながらも脈々と紡がれてきた。お客さんの『ボク踊』への愛情も深く、出演アーティストに「ホーム感がある」といわしめるほど、毎回アットホームかつピースフルな雰囲気で「キモチいいフェス」を体現してきた。
そんな中、2023年11月にThe Birthdayのチバユウスケ(Vo.Gt)が闘病の末にこの世を去った。The Birthdayは、『ボク踊』と切っても切り離せない特別な存在のバンドである。2023年9月に行われた『#005』では、療養中のチバの復帰を願うパネルが会場に設置されていたことを覚えている人もいるだろう。主催者である夢番地・大野氏は、誰よりも深い愛をもってチバの回復と復帰を願い、『ボク踊』のSNSでは折に触れてチバへの想いを綴っていた。The Birthdayが『ボク踊』に出演するのは今回で6度目だが、3人になったThe Birthdayでの出演は初めて。解体を前にした味園ユニバースという場所でのイベント開催も大きなトピックスだが、やはりThe Birthdayにつながる意味合いは強い。
会場を入ってすぐのラグジュアリーな階段の横には、額に入ったThe Birthdayのコンピレーションアルバム『WATCH YOUR BLINDSIDE 2』(2019年)のポスターが飾られていた。実はこの時のアー写は味園ユニバースで撮られたもので、The Birthdayと味園ユニバースの歴史も感じさせる(このアルバムに収録の『ペーパームーン』のMVもユニバースで撮影されている)。物販ブースでは、2022年開催の『#004』のThe Birthdayのステージ写真とチバの手書きの「ボク踊サイン」を施したロンT・Tシャツなど、オリジナルグッズが限定販売されていた。
本公演は非常に反響が大きく、先行販売ではキャパ1,000人に対し、なんと1万5,000人の応募があったという。開場時間となり、プレミアムなを手に入れた幸運なオーディエンスたちが、続々とユニバースに吸い込まれていく。『ボク踊』は常連のファンが多く、過去の『ボク踊』グッズを身につけて来場する姿が散見されたが、この日ばかりはThe Birthdayのグッズ率がとても高かった。
会場の雰囲気も、さすがにいつもの野外の開放的な空気感とは違う。元キャバレーで、宇宙をモチーフにしたレトロな空間。荘厳なシャンデリアに、惑星のような丸い照明がピカピカと光る。きっとこの日初めて味園ユニバースに来た人もいるだろう。逆に何度も訪れて、この日が最後の味園ユニバースという人もいるだろう。築70年の歴史の終わりを名残惜しむように、バブル時代の絢爛ぶりを目に焼き付けるように、唯一無二の景色を写真におさめる人の姿も多く見られた。
少々センチメンタルになりがちな要素もあるこの日だったが、根底には「皆で楽しくイベントを作る」という純粋な音楽への愛情が流れていて、それがお客さんにも浸透しているのが『ボク踊』らしさだと思った。お酒やドリンク片手に開演を待つオーディエンスは皆楽しそうだった。
定刻の5分前、初回からMCを担当するFM802 DJの加藤真樹子がステージに登場。明るく挨拶すると、待ちわびたオーディエンスから最高のレスポンスが返ってくる。ソファが取っ払われたフロアは、後方までパンパンの超満員。加藤は「私『たとえばボクが踊ったら、』のお客さんを超信用しているので、ひたすらみんなピースに最後まで音楽を楽しんでくれると信じてます。この味園ユニバースで音楽を全身で浴びて、会場そのものを楽しんでください」と笑顔で述べて、いよいよイベントがスタートした。
GLIM SPANKY
トップバッターを飾ったGLIM SPANKYは『ボク踊』初出演。The Birthdayとは2023年5月に東京・中野サンプラザ(同年7月に施設建て替えのため閉館)でツーマンライブが決まっていたが叶わず、今回念願の対バンが実現した。SEに合わせてフロアからは大きなクラップが発生。サポートに栗原大(Ba)、中込陽大(Key)、かどしゅんたろう(Dr)を迎えた編成で、松尾レミ(Vo.Gt)と亀本寛貴(Gt)が姿を現した。松尾が「こんばんは、GLIM SPANKYです!」と一言挨拶し、「愚か者たち」からライブをスタート。エッジーなロックサウンドと松尾のハスキーな歌声が鼓膜と心をビリビリと震わせる。もう、のっけからカッコ良すぎる。
そこからシームレスに「怒りをくれよ」へ。疾走感たっぷりにエネルギッシュな骨太ロックで飛ばしてゆく。サビではもちろん手が挙がり、亀本は嬉しそうにギターソロをキメる。さらに松尾の高音域で歌われるメロディーが美しいミドルナンバー「美しい棘」でノスタルジックなサウンドスケープを描き出し、オーディエンスをどっぷりと音楽に浸らせた。
松尾は「ついにこの日が来ましたね。今日ここに来てくれてる皆は選ばれし勇者たちですよ。こういう熱い対バンで味園ユニバースでできるって、超スペシャルな夜だと思います。誰よりも楽しんでやる気持ちでいますので、皆も一緒に楽しもう!」と気合い十分。亀本もニコニコの笑顔で「今日はスペアザと渋谷さんと一緒に皆で楽しんでできたらいいなと思って来ました」と念願のThe Birthdayとの対バンを喜んだ。
後半も、壮大で生命力あふれるサウンドに圧倒された『連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―』の第4話エンディングテーマ「赤い轍」、イントロのドラミングに痺れた「いざメキシコへ」と続き、昨年メジャーデビュー10周年を迎えリリースされた初のベストアルバム『All the Greatest Dudes』に収録された、LOVE PSYCHEDELICOとの新曲「愛が満ちるまで」をバンド初披露! LOVE PSYCHEDELICOとの融合ぶりを感じるブルージーなサウンドに、目も耳も釘付けになる。松尾のボーカルの魅力が爆発し、音楽を浴びる多幸感が会場全体に広がっていった。
松尾は「楽しい夜ですわ、本当に」としみじみ。ラストは学生時代から披露している「大人になったら」を松尾の弾き語りから存分に聴かせていく。陶酔するように音を鳴らす5人の姿も印象的。味園ユニバースにぴったりのセットリストで、スキルフルな演奏と歌を、熱く全身で届けたGLIM SPANKY。ステージを去るメンバーに贈られた鳴り止まぬ拍手と大歓声が、ライブの素晴らしさを物語っていた。
SPECIAL OTHERS
続いては、初回から出演している常連(今回で6度目!)のSPECIAL OTHERS。加藤はMCで改めて初回の『ボク踊』を振り返る。SPECIAL OTHERSの時は晴天だったがThe Birthdayで突然の雷雨に見舞われ、結果的に大熱狂が渦巻く伝説の日になった。この話は後世に語り継がれていくだろう。主催の大野氏とスペアザの付き合いも15年を超えた。『ボク踊』のそばにスペアザあり、と言っても過言ではない。「絶対に踊らせてくれる」という信頼に基づいて、フロアの期待感も高まっていった。
SEなしで登場した芹澤 "REMI" 優真(Key)、柳下 "DAYO" 武史(Gt)、又吉 "SEGUN" 優也(Ba)、宮原 "TOYIN" 良太 (Ds)は、それぞれチューニングをするように軽く音を鳴らし始める。バラバラに鳴っていたサウンドが徐々にまとまって輪郭を作り、音量もじわじわと大きくなっていく。プロローグのようなジャムセッションから聴こえてきたのは、大アンセム「AIMS」。一度聴いたら忘れられない軽快でメロディアスなラインが一気に気分を高揚させる。フロアは言わずもがなの大歓喜。猫も杓子も踊りまくる。3度目のサビの後にアプローチを変え、ギターとベースのソロを挟んで4人がアンサンブルを奏でていく空気感がたまらない。さすがスペアザ。1曲目から最高に気持ち良くしてくれた。
続いては「Journey」。ユニゾンのように聴こえるギターはルーパーによるものなのか、リフが多重に重なるテクニックもワクワクする。明るくて華やかで、花が咲くように優しい音色から、芹澤のキーボードソロがクリーンに響きわたる。オーディエンスは歓びと音を全身で受け止めるように大きく両手を広げたり、クラップしたり、身体を揺らしたりと、めいめいの楽しみ方で極上のインストサウンドを味わっていた。
「どうもSPECIAL OTHERSです。俺たちとしては味園ユニバースに立つのは最後だね。皆目に焼きつけておいてね」と宮原。デビュー15周年イヤーの2022年には、彼ら自身も味園ユニバースでワンマンライブ2daysを行ったことから、感慨深げな様子。芹澤も「さみしいね」とユニバースの解体を惜しんでいた。
楽器の役割を明確にわけつつも、繊細にダイナミックに変化するサウンドと構成で、フロアを大熱狂させた「THE IDOL」を経て、「最後はパイセンの曲で。ありがとうみんな。ありがとうユニバース。ユニバースもバンドもいつまであるとも限らない、生きてるうちに応援しよう(宮原)」と述べて、The Birthdayの「なぜか今日は」をカバー。スペアザファンはもちろん、The Birthdayファンもイントロから興奮して前のめりに食らいつく。ボーカルパートを奏でるのはギターとキーボード。愛とリスペクトが詰まりまくったアレンジに、グッとこみ上げるものがある。フロアは一糸乱れぬクラップでひとつに。音も景色も、なんて美しいのだろう。キャリアに裏付けされたテクニックを惜しげもなく披露しつつ、素晴らしい輝きを放ったSPECIAL OTHERSだった。
The Birthday
(クハラカズユキ,ヒライハルキ,フジイケンジ)Guest:渋谷すばる
いよいよお待ちかねのThe Birthday。メンバー登場前の会場の熱気たるや、もうすさまじかった。サウンドチェックの音のデカさに細胞が目を覚ますように、オーディエンスは熱を滾らせていく。チバの逝去後もステージに立ち続けてきたクハラカズユキ(Dr)、ヒライハルキ(Ba)、フジイケンジ(Gt)。バンドとして歩みを進める彼らを受け止めつつも、今もなかなか癒えない喪失感を抱える人も多いだろう。しかし、この日The Birthdayに向けられる眼差しは、愛と尊敬を含んだ、あたたかくて明るいものだった。
加藤は3人のThe Birthdayのステージを観るたびに、ゲストボーカリストやお客さんの愛とリスペクトを感じていたと語る。「今まで私たちがもらってきた愛が、今こうやって目に見える形で目の前に展開しているんだなと思いました。今日はどんなステージになるんでしょうか。ユニバースの姿と、今から起きることを脳裏に焼き付けて帰ってください!」とバトンを渡した。
ザ・クレスツの「シックスティーン・キャンドルズ」が流れ、メンバーがステージに上がる。1曲目は、チバの遺志を継いで完成させ、昨年4月にリリースされたEP「April」の収録曲から「I SAW THE LIGHT」をかっとばす。突き抜けるようなフジイのギター、地を這うヒライのベース、爆音で下腹を響かせるクハラのドラム。3人が音を出すだけでその場を掌握するパワーがある。3人一緒に叫ぶように歌う姿は、とてつもなくエモーショナルだった。
続けざまに「Red Eye」を投下。大人の色気を振りまいてギターを弾きつつ歌うフジイに、フロアは大興奮。中盤のヒライとクハラのソロパートも最高にクールだ。音の良いポイントや重なり方を熟知しているかのようにテクニカルに音を紡ぐ3人は、実に気持ち良さそう。素晴らしい完成度で、既にクライマックスのような雰囲気すら醸し出す。演奏が終わるとフジイは「楽しい!」と一言。感情の乗ったその言葉に呼応したフロアの熱が、後方まで伝播した。
「声」は、クハラがボーカルを担いながらタイトなビートを繰り出す。3人全員がボーカルを取る形でバンドを継続している彼らだが、楽器を弾きながらリードボーカルを歌うのは容易ではないはずだ。全力で楽器を鳴らし、チバを彷彿とさせる歌声を力強く響かせ、コーラスを歌う3人の姿に胸が熱くなった。
ここでゲストにGLIM SPANKYの2人が呼び込まれる。披露されたのは「プレスファクトリー」。フジイと亀本がリードとバッキングを入れ替えながらギターを奏でる。心底嬉しそうにギターソロを弾く亀本の姿から、愛があふれている。そして松尾のハスキーボーカルとThe Birthdayの親和性はとても高く、楽曲をまた違った味わいで新鮮に魅せてくれた。
松尾が「本当にこんな貴重な機会をいただけて、こうやって一緒に演奏できてとても光栄です。チバさんもいるし」と天を見てスッと手を伸ばすと、フロアは湧きに湧きまくる。「愛でぬりつぶせ」では、まさしくThe Birthdayへの愛で味園ユニバースがぬりつぶされていく。歌い始める前に、松尾がマイクを高く掲げた姿が印象的だったが、この日歌われた全員のボーカルに、チバの気配を感じた。やはりチバが観に来ていたのかもしれない、と思わずにはいられなかった。
GLIM SPANKYがステージを去り、「味園ユニバースときたらこの人」とフジイに呼び込まれて渋谷すばるが登場。スーツ姿の渋谷は「味園ユニバースは自分にも特別な想いが詰まった場所でして。そんな場所で、今日はスペシャルなステージに呼んでいただいて本当に嬉しく思ってます。感謝とリスペクト、色んな想いを込めて」と語り、フジイが作詞作曲した「渚と台風」を歌唱。自身もThe Birthdayのファンだと公言する渋谷がフジイとコラボしたのは、渋谷がグループに所属していた2010年の「BOY」以来2度目。「渚と台風」は「BOY」の対になる楽曲で、フジイによって同時期に作られていたそう。時を越えてその曲を渋谷が歌うことになるとは、運命的だ。今回のゲスト出演はThe Birthdayから声をかけられて実現した。渋谷は真剣な表情で張りのある歌声を響かせ、いなたくも美しい世界観を表現した。
続く「くそったれの世界」での渋谷は圧巻だった。歌始まりのこの曲、アカペラで先ほどとは段違いの大音量でボーカルを放った瞬間、会場の空気が変わった。全員が渋谷のボーカルに釘付けになる。一気に拳が突き上がる。チバが乗り移ったようにしゃがれた歌声を張り上げ、フロアに強い眼差しを向けてパワフルに歌う。そんな渋谷の気迫に飲み込まれ、一挙手一投足から目が離せない。彼を支える3人の演奏とコーラスも一体となり、エネルギッシュなパフォーマンスへと昇華されていった。
渋谷はライブの翌日、加藤が担当する『UPBEAT!』(月〜木・11:00-14:00)にゲスト出演。『ボク踊』を振り返って、「忘れられないライブ、忘れられない経験ができた、濃い時間でした」と感動を口にしていた。ファンの前でThe Birthdayの曲を歌うことに不安もあったそうだが、彼が込めた想いとリスペクトは、オーディエンスにもしっかりと伝わっていた。
そして最後は再び3人で「LOVE ROCKETS」をゴリゴリロックにぶつけ、会場全体を熱狂の渦に巻き込みながら本編をフィニッシュ。割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
アンコールは『ボク踊』恒例のスペシャルセッション。これ以上ないほどの大歓声と拍手に迎えられたクハラは「今日は本当にありがとうございました。最後にもう一発!」とビートを繰り出しながらフジイとヒライを呼び込み、続けてSPECIAL OTHERS、GLIM SPANKY、渋谷を呼び込んだ。出演者全員で披露するのは、The Birthdayの「ローリン」。クハラ、松尾、渋谷が順にボーカルを担当し、亀本はギターで、芹澤はキーボードで、柳下、又吉、宮原はタンバリンとマラカスで演奏にジョイン。そして渋谷はブルースハープハープを披露。個人的に、渋谷のブルースハープハープが楽曲にもたらしたアクセントは今も忘れられない。この日のこのステージだけしか起こらない、素晴らしい化学反応。お互いに向けられたリスペクトがありありと伝わってくる、パワフルで愛に満ちたステージだった。
こうして『たとえばボクが踊ったら、 #6.5』は大団円で幕を閉じた。MCの加藤も興奮したように「最高だった!」と叫ぶ。愛のあるセットリストと、歓喜と汗にまみれた最高の時間。正直「もっと観ていたいな、聴いていたいな」という気持ちが湧き出して止まらなかった。『ボク踊』の歴史に、またひとつ忘れられない伝説の日が刻まれた。
取材・文=久保田瑛理 写真=『たとえばボクが踊ったら、』提供(撮影:ハヤシマコ)
・3月27日(木)FM802『UPBEAT!』(11:00-14:00)にて
当日のLIVE音源が一部オンエア決定!
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