ペーター・レーゼル(ピアノ)のバッハ、そしてモーツァルト
Photo:Takehiro Yamano
自らの音楽的なルーツとピアノ音楽の歩みを辿るようにして、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲(2008〜11年)、ドイツ・ロマン派の多彩な作品群(12〜14年)、そしてモーツァルトのピアノ協奏曲(13年〜)に取り組んできたドイツの巨匠ペーター・レーゼル。
5月11日、2年ぶりに紀尾井ホールで開かれるリサイタルにおいて、彼がいよいよバッハを聴かせてくれる。曲目は「イタリア協奏曲」と、「パルティータ第4番ニ長調」。二段鍵盤のチェンバロを想定した前者はその名のとおり、イタリア風の華やかな作品。後者はフランス風の序曲に始まるピアニスティックな技巧が光る組曲だ。多声部による音楽の立体感を余すところなく伝えるレーゼルのタッチが、バッハの鍵盤楽曲の傑作をいかに構築し、2作の曲想の違いをいかにプレゼンテーションしてくれるのか、じっくりと耳を傾けたい。
後半は、上述のとおりレーゼルが近年協奏曲の録音プロジェクトを進めてきたモーツァルトのソロ作品。「ピアノ・ソナタニ長調 K576」は、モーツァルトが完成させた最後のソナタ。そして対で演奏されることの多い「幻想曲 K475」および「ソナタ K457」は、モーツァルトには珍しい短調の作品。幻想曲が自由な展開によって伝える重苦しさや夢見るような甘さ、ハ短調のソナタが織りなすシリアスな世界観を、レーゼルの正統的でありながら瑞々しい演奏が、明確な輪郭をもって届けてくれることだろう。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)
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