クラシックから名作映画のナンバーまで コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子が贈るリサイタル・ツアーへの想いとは

インタビュー
クラシック
2025.9.2
田中彩子

田中彩子

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ウィーンを拠点とし、日本・ヨーロッパをはじめ世界各国で演奏活動を展開するコロラトゥーラ・ソプラノの田中彩子。2025年9月19日(金)から12月7日(日)まで全国8か所(東京・大阪・福岡・木曽・岐阜・八ヶ岳・豊田・埼玉)をめぐる長期的な全国ツアーを開催する。プログラムはコロラトゥーラの魅力を堪能できるクラックのレパートリーに加え、映画音楽や60年代のユーロポップスのナンバーまでで田中自身の既存のイメージを打ち破る意欲的な内容だ。リサイタル・ツアー『コロラトゥーラ・ファンタジー』への意気込みを田中本人に聞いた。

――今回は9月から12月まで全国8か所をめぐる長期的な全国ツアーですね。田中さんらしいレパートリーが目白押しです。

今回のツアープログラムのテーマは“ファンタジー”というような方向性で考えてみました。例えばメシアンの「ヴォカリーズ・エチュード」はミステリアスな作品で、他にもかなり非日常的で幻想的な作品を集めてみました。中でもエキセントリックという意味での非日常性はオッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』の「オランピアのアリア」で感じて頂けると思います。さらに、今回は自然や動物たちの世界にも広げ、アリャビエフの「夜鳴きうぐいす」なども入れたいと考えています。

田中彩子

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――今回そこまでファンタジーや非日常性に思いを馳せたのは?

基本的にコロラトゥーラ的な役柄や作品はかなり非日常的なキャラクターや作風のものが多いのですが、田園風景を思わせる作品や鳥や人形、そして何とも掴みどころのないメシアンのヴォカリーズというのは、小さい頃から読み親しんでいたファンタジーの小説の世界観そのものなんです。何となくそんな幼少期に懐かしんだストーリーが頭の中によみがえってきて、それぞれのシーンを反芻するように想い浮かべながら選曲してみました。

――後半プログラムは大人の映画のシーンが展開されます。ここからまた別の物語が始まるわけですね……。

『コロラトゥーラ・ファンタジー』というタイトルの通り、“幻想的な物語”という意味でクラシック音楽も映画音楽も一つの枠組みや流れの中でとらえていただけるのかなと思っています。後半は名作映画のナンバーも選曲していて、コロラトゥーラの軽やかで柔らかい音色とともにお聴きいただきながら、何となく「映画一本を見た感じ!」というように楽しんでいただけたら嬉しいですね。

――映画音楽やカンツォーネなど、かなり大胆にレパートリーを広げていらっしゃいますね。

子どもの頃、家で父がよく60年代ユーロポップや映画音楽を聴いていて、私も小さい頃から自然と耳にしていました。実はここ数年、コンサートでも少しずつ懐かしいメロディというものをレパートリーに加えていたんです。そうしましたら、意外にもお客様の反応が良くて、口をそろえて「懐かしかったです」と言ってくださる方々が結構いらっしゃったんですね。聴き手の方々の心にキュンとなるようなものがあったらいいなと思っています。

田中彩子

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――ジリオラ・チンクエッティの愛唱歌(「夢みる想い」)などもプログラミングされていますが、例えばチンクエッティという歌手は、女性らしさはありますが、声質的にはコロラトゥーラの対極みたいな歌手ですよね。

チンクエッティの「夢みる想い」は最も幼い頃から耳にしている曲で、確かに声質はそうなんですが、彼女のピュアな感じに惹かれています。もちろん調性的には少し高く上げていますが、永遠のときめきを感じさせるあのかわいらしい雰囲気を残しつつ歌いたいなと思いました。

――普段バッハやヘンデルなどのオラトリオも歌われる田中さんがこのようなレパートリーの場合どのようにアプローチするかはとても興味があるのですが……。

世界観は違うとしても、歌への向き合い方としては根本的にはクラシックの作品へのアプローチと変わらないんです。どのジャンルを歌うにしても、揺らいではいけない土台というのは一緒なんです。そしてソプラノ歌手としてのクラシック音楽作品に向かう時のスタイルやとらえ方の流れを汲みつつも、これらの作品たちが持つオリジナルな雰囲気をどのように活かし、かつ田中彩子として、自分らしくコロラトゥーラ的な色合いも交えていけるか……。これらのいくつかの要素をバランス良く保ちながらいかにレパートリーにふさわしいアプローチができるかというのが、私にとっての新たな課題であり、一つの挑戦でした。

田中彩子

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――コロラトゥーラ的な色合いを加えながらというのは、それなりに編曲を施しているということでしょうか?あるいは、あくまでもオリジナル版そのままに装飾音を加えるというような解釈やアレンジをしているということでしょうか?

いわゆるコロラトゥーラ特有の技法である、コロコロコロみたいな技法(アジリタ)は入っていないです。ただ、コロラトゥーラという声質自体が少し器楽的なところがあると思うので、何曲かはヴォカリーズ(歌詞のない発声だけの歌唱スタイル)で歌ったり、そのような意味合いでのアレンジをしています。

――そんな田中さん自身の夢が詰まったプログラムを通して、聴衆の皆さんに今回はどのようなことを一番感じて欲しいですか?

一般的にはコロラトゥーラというと単に高い音ばかりを歌う声と思われがちなのですが、今回はその固定観念のようなものを超えて皆さんに何か違う視点や感触を感じ取っていただけたら嬉しいですね。例えば、フワーっと浮遊するような掴みどころのない感じのイメージの曲たちとファンタジーという明快な世界観が合わさった時に、今までよりももっと新しいコロラトゥーラの魅力を皆さんに感じて頂けるのではないかと私自身、とてもワクワクしています。

田中彩子

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取材・文=朝岡久美子 撮影=荒川潤

公演情報

MORIMOTO presents
田中彩子ソプラノ・リサイタル2025
『コロラトゥーラ・ファンタジー』

 
[公演曲目]
メシアン:ヴォカリーズ・エチュード
アリャビエフ:ヴォカリーズ・夜鳴きうぐいす
オッフェンバック:オランピアのアリア(『ホフマン物語』より)
アーン:クロリスへ
パガニーニ/クライスラー:ラ・カンパネラ
ローラン:シバの女王
ルグラン:シェルブールの雨傘
ニーサ/パンツェーリ:夢みる想い
モリコーネ:ネラ・ファンタジア 他
※都合により曲目、曲順が変更になる場合がございます。
 
[ツアースケジュール] 全8公演(2025年)
9月19日(金)18:30開演【長野】木曽文化公園文化ホール
9月27日(土)14:00開演【福岡】アクロス福岡シンフォニーホール
10月12日(日)14:00開演【岐阜】サラマンカホール
10月26日(日)15:00開演【長野】八ヶ岳高原音楽堂
11月2日(日)14:00開演【埼玉】所沢市民文化センターミューズマーキーホール(中ホール)
11月8日(土)14:00開演【大阪】住友生命いずみホール
11月15日(土)15:00開演【豊田】豊田市コンサートホール
12月7日(日)14:00開演【東京】第一生命ホール
 
特別協賛:株式会社モリモト
企画・制作:エイベックス・クラシックス・インターナショナル/Kit
制作協力:インタースペース
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