キズ 「これが今を生きるVisual Rockだ!」猛暑の大阪城音楽堂ワンマン公式レポート
キズ
キズが7月26日に大阪城音楽堂で開催した単独公演『JP:PARASITE OSAKA』のオフィシャルレポートが到着した。
7月26日、大阪城音楽堂にて『JP:PARASITE OSAKA』と銘打たれたキズの単独公演が開催された。当日の大阪は最高気温が36度を超える猛暑日。盛夏の野外ライブの盛況ぶりを伝えるにあたっては「暑さを超えた熱さ」などと形容するのがお約束かもしれないが、アンコールも含めて全17曲、100分以上に及んだこの夜のステージを観終えた後には、熱さばかりではなく、心地好い感動と清々しい余韻が漂っていた。
開演定刻の午後6時を4分ほど過ぎた頃、BGMの音量が上がり、当然のようにまだ明るい空の下、客席を埋め尽くした群衆は臨戦態勢を整える。赤い照明が点滅し、ステージの前線では8基のスパークラーから火花が噴出。オープニングSEに乗って次々とステージ上に姿を現したメンバーたちは見慣れない新衣装をまとっている。貴公子然とした純白のコスチュームに身を包んだユエ(Ba)の姿以外には、例によって一言では形容しがたいものがある。
以前、来夢(Vo)の口から「メンバー1人ひとりが個別のライブをしているようなところがある。いわばキズというバンドが4つある感じ」という発言を聞いた記憶があるが、まさにそのたたずまいは四人四様としか言いようがなく、まるで各々が異なった次元の住人であるかのような趣でもある。しかしそんな異形の怪人たちが一堂に会すると、そこにキズならではの世界が生まれることになる。真夏の夜の幕開けを飾ったのは「Bee-autiful days」。今宵も顔を白く塗り潰した来夢の扇動に、会場を埋め尽くしたオーディエンスは一瞬の時差もなく同調していく。
そして「『JP:PARASITE OSAKA』へようこそ!」という言葉に導かれて始まった2曲目は「地獄」。そのイントロで強烈な爆裂音が轟き、さきほどまで手を空に掲げていた群衆の動きはヘッドバンギングの激流へと転じていく。そんな時差も温度差もない反応のあり方に、ステージ上の4人も満足そうだ。来夢は「大阪、とことんやろうじゃねえか今夜は!」などと煽りながらも「倒れんなよ。頑張りすぎんなよ」などと思いやりのある言葉をぶっきらぼうに投げ掛けてくる。そんな中、彼の口からは「雨、降らねえな」という言葉も聞こえてきた。去る3月に開催された東京・日比谷野外大音楽堂での『雨男』の際も、そうした公演タイトルを掲げたことが逆に功を奏したのか好天に恵まれていたが、もはや彼らは天候さえもすっかり味方につけることができているのかもしれない。
続いて、ピンクと紫を基調とした照明に彩られながら聴こえてきたのは、彼らのライブに欠かせない定番曲のひとつである「ストロベリー・ブルー」だ。2025年の幕開けの場となった去る1月6日の東京・日本武道館公演の際にはこの曲が1曲目に配置されていたが、来夢は後日、そうした選曲が「初めての場所で初めての経験をすることになるファンが、過度に緊張することなく最初からライブに入り込めるように」という配慮によるものだったことを認めていた。それが裏付けているように、この曲はやはり人を引き込む力がとても強い。筆者の視界の隅でつい先ほどまで会場全体の空気に馴染みきれずにいる様子だった男性客2人組も、躊躇なく手を高く掲げ、ジャンプに同調している。
そのまま畳み掛けるように「ヒューマンエラー」へと突入すると、ふたたびオーディエンスは激しく髪を振り乱す。その激烈な曲展開の中、後半に差し掛かる地点で挿入されるreiki(Gt)フレーズが空気の流れを変える。この曲に限らず、キズの楽曲にはハッとさせられるような一瞬をもたらす要素が仕掛けられていることが多々ある。周知のとおりこのバンドの楽曲は来夢の原案によるものばかりだが、そこに個々が持ち込むさまざまなアイディアが各曲をいっそう印象深いものにしていることも間違いない。
「ヒューマンエラー」での熱狂にさらに油を注ぐかのように、来夢が「命かけてやってんだ。全員まとめてかかってこい!」と呼びかけると、今度はそれを合図に「ステロイド」の激流へと突入。その終盤、ユエとreikiが左右からドラムライザーへと歩み寄り、そこに両サイドから片足をかけながらプレイする。その光景自体はいかにもロックバンド然としたありがちなものではあるが、常にそれぞれ好き勝手に振る舞っているように見えなくもないメンバーたちが、実は阿吽の呼吸で機能的に噛み合っていることを垣間見させるものでもあった。
「1人ひとりに歌うからな。受け止めろよ!」
そんな来夢の言葉に導かれて始まったのは、シンフォニックなアレンジと歌の力が印象的な「My Bitch」。さらにはステージ後方に設えられた6基のトーチに炎が揺らめかせながらの「鬼」へと続いていく。静から動へ、そしてふたたび激情を鎮めていくように綴られていく7分間の起伏を味わいながら、そこはライブ全体における“谷”にあたる部分のようでありながら、実は山場なのではないかと気付かされる。身体に直結するようなエキサイトメントと内側からこみあげてくるような興奮が、交互に巡ってくるのだ。この曲でのreikiのギターソロにも印象的なものがあったし、着地点に至った際に来夢が発した「これが今を生きるVisual Rockだ!」という言葉、そしてドラムに仁王立ちして両腕を大きく広げたきょうすけの雄姿には、このバンドの自信とプライドを感じずにいられなかった。
そして物語はふたたび激烈な方向へと転じていく。「飛ばしていくぞ、いいか!」という号令に合わせて炸裂した「傷痕」のイントロでユエの脚は空を蹴り、レーザーライトが稲妻を描く。来夢がアコースティックギターを掻き鳴らしながら歌う「銃声」と「平成」へと雪崩れ込んでいくと、稲妻はさらに激しさを増し、来夢は観衆に「死ぬ気で来い、死なねえから!」と檄を飛ばし、ステージ前線には白煙が噴き上げる。そのスモークがステージ下手側から上手側へと流れていくさまを目にしながら、心地好い風が吹いていることに気付かされる。そして音が止み、静寂が訪れると、客席後方から蝉の声が聞こえてきた。
気の遠くなるような暑さに見舞われたこの日ではあったが、時間が経つにつれだいぶ過ごしやすくなってきていた。しかしライブのクライマックスはこれからだ。ようやく空の色も照明効果を発揮できる深みを帯びてきた。流星群のような光を背景にしながらの「十八」、そして「人間失格」ではユエの衣装が赤いライトに染まる。そして気付けば来夢の口からは「LAST! 悔い残すなよ!」という言葉が聞こえ、「リトルガールは病んでいる。」が始まっていた。レーザーの光が背景に描くこの曲の歌詞が、来夢の歌唱とシンクロしながら空に吸い込まれていく。80年前の夏に広島と長崎で起きたことに思いを馳せずにはいられなくなるこの楽曲が、この夜のクロ―ジングに据えられていたこと自体にも、意味深さを感じずにはいられない。
とはいえ、ライブはまだ終わらない。アンコールを求める声に応えて聴こえてきたのは耳慣れないヘヴィなSE。そして、それに誘われるようにふたたびステージ上の配置に就いた4人が披露したのは、この夜のメインディッシュともいうべき「JP:PARASITE」だった。この日、限定生産盤CDとして会場で販売開始となったこの楽曲は、12月10日にリリース予定の待望のフルアルバム『極楽より極上の雨』からの先行曲となるものだ。
キズの音楽的特性のひとつとして、ヒップホップ的なエッセンスとアコースティックギターの取り入れ方のユニークさが挙げられるが、初めて耳にしたこの楽曲にもそれを強く感じさせられた。そして、同じくアルバムに収録されるものとみられる「R/E/D/」へと移行していくと、前述の日本武道館公演の際もことに印象的だったこの楽曲が、すでに特別な存在感を持ち始めていることに気付かされる。ふたたびステージ前線はスパークラーから噴き上げる火花と白煙に彩られ、その場はまさにクライマックスに相応しい光景と化していく。
その「R/E/D/」を歌い終えてすぐさまステージから姿を消した来夢が、ほどなく特攻服で武装して現れると、今度は「ピアスにフード」が始まる。全日本白塗協会の総長たることを示すその特攻服の背面には、新たに「鬼」と「R/E/D/」のリリックの一部が描き足されていたようだ。それを誇示するかのようにオーディエンスに見せつけた彼は「たまにはちょっと喋らせてよ」と前置きしながら語り始めた。彼が日頃から芸術とエンターテインメントの狭間で葛藤をおぼえていることをご存知の読者も少なくないはずだが、ステージ上で喋るということ自体についても、それによって「芸術が薄れてしまうのではないか」という懸念を抱いているのだという。しかしステージ上の彼はそれを認めながらも「でも今日は、(すべてを)出し切ったご褒美として」喋らせて欲しいと言い、オーディエンスに語り掛け始めた。
その中で彼は「“鬼”あたりから記憶がねえ」と言った。それほど邪念なくステージに集中できていたということだろう。そして3月の日比谷野音公演の際に自らの体力不足を感じたこと、以降の鍛錬により野外公演に対する苦手意識を克服しつつあることを認め、「(やるべきことを)やってるんだよ、俺は毎日。コイツらも」と言い、さらに「だからお前たちもやれ! 時間は限られてる。やったもん勝ちだ! 隣のやつはライバルだと思え!」とオーディエンスに叱咤激励の声を飛ばした。
この時点ですでに開演時から90分ほどが経過していたわけだが、筆者はその時間経過をあっという間のように感じていた。そして、実のところ日比谷野音での公演時にもまったく不足を感じてはいなかったが、来夢の言葉からこの夜のライブがこんなにも濃密なものになり得た理由を教えられた気がした。そして彼が「最後に、ここは大阪だけど……」と言いながら紹介した正真正銘のラストチューンの正体は「東京」だった。すっかり夜の色に染まった大阪の空の下で聴く「東京」にはとても味わい深いものがあった。
ステージを去る間際の来夢は、幾度となく「ありがとう!」と告げたのち「これが、キズです」と言い残してステージから去っていった。それを追うようにreiki、ユエ、きょうのすけも名残惜しさを噛み締めるようにしながら姿を消していった。真夏の夜の大阪で繰り広げられた『JP:PARASITE OSAKA』はこうして幕を閉じた。
この先、8月には広島と長崎での単独公演『Peace begins with…』、さらにはDEZERT、 ΛrlequiΩとの共闘による『VISUAL SCARLET』も控えているし、それ以降もさまざまなイベント等への出演が決まっているキズ。そして、その先には『極楽より極上の雨』の登場が控えている。そして彼らがこの日の終演後に発した「2025.08.15」というメッセージが何を示唆するのかについても気になるところだ。日本人にとって忘れるわけにいかないこの日付に何が待ち受けているのかを、今は心して待つとしよう。
文=増田勇一 撮影=小林弘輔
セットリスト
2025.7.26 大阪城音楽堂
01.Bee-autiful days
02.地獄
03.ストロベリー・ブルー
04.ヒューマンエラー
05.ステロイド
06.My Bitch
07.鬼
08.傷痕
09.銃声
10.平成
11.十八
12.人間失格
13.リトルガールは病んでいる。
〈ENCORE〉
14.JP:PARASITE
15EN2.R/E/D/
16.ピアスにフード
17.東京
ライブ情報
-THANK YOU SOLD OUT-
キズ x DEZERT x ΛrlequiΩ SPECIAL 3MAN LIVE
『VISUAL SCARLET』
2025年8月17日(日) 豊洲PIT
キズ / DEZERT / ΛrlequiΩ
8月2日(土)10:00~