牛丸ありさ(yonige)×ホリエアツシ(ストレイテナー)――変化を重ねてきた両者が衝突する『Homing tour』Zepp DiverCity Tokyo直前対談
牛丸ありさ(yonige)×ホリエアツシ(ストレイテナー) 撮影=稲垣ルリコ
結成12年目にして自身初となる47都道府県ツアー『Homing tour』を開催中のyonige。KOTORIやさよならポエジー、FOMAREをはじめ、盟友たちを招いた対バン編とワンマン編を織り交ぜながら、各所へドサ回りする本ツアーは、牛丸ありさ(Vo,Gt)が「勝手にグルーブが高くなっていく」と語ってくれた通り、バンドの筋肉をしなやかに太く熟成させている。ツアーも終盤に差し掛かる10月1日(水)、東京・Zepp DiverCity Tokyo編では、長らく憧れ続けてきたストレイテナーとのタッグが実現。開催日も近づく中、牛丸とホリエアツシ(ストレイテナー)に語り合ってもらった。
ずっと対バンしたいと思っていたので、今回ようやく実現した(牛丸)
――10月1日(水)にyonigeが5月から全国47都道府県を巡っているツアー『Homing tour』の東京・Zepp DiverCity Tokyo編が開催されます。まずは、同公演にストレイテナーをお誘いした理由を教えてください。
牛丸ありさ:高校1年生の時、初めて組んだコピーバンドで「REMINDER」と「Melodic Storm」をコピーさせていただいたことがあって。学生の頃から聴いてるバンドには特別な愛着があると思うんですけど、ギターの土器さん(土器大洋)も私もストレイテナーに対してそういう思い入れを抱いていたんです。ずっと対バンしたいと思っていたので、今回ようやくそれが実現したっていう。
ホリエアツシ:出会ってからは、かなり時間が経ってる気がするんだけど。
牛丸:最初は何だったんですかね……。『勇者ヨシヒコ』?(※2017年8月27日(日)に千葉・幕張メッセ 国際展示場9・10ホールで開催された『勇者ヨシヒコ ダイブイキタクナルツアー』。ライブアーティストとして、ストレイテナーとyonigeも参加した)
ホリエ:確かに、『勇者ヨシヒコ』のイベントはかなり記憶に残っていて。ロックバンドも他に出演していなかったし、あくまでもメインは役者さんたちで、来ているお客さんもドラマのファンだったから。「こんなところに出て行って、大丈夫なの?」みたいな感じがあったんですよ。
牛丸:主題歌(※「From Noon Till Dawn」)をやってらっしゃるんだから、絶対に出て良い(笑)。私たちは山田孝之さんが呼んでくださったことがキッカケでしたけど。
ホリエ:そのタイミングで根掘り葉掘り話せたというか。だいぶ打ち解けた気がしていましたね。でも、そこから対バンする機会がなくなっていって。一方、My Hair is Badとかとライブをやる中で話は聞いていたから。あれから時間も経ったけど、こうやってまた対バンできて嬉しいし、今のyonigeはその頃のyonigeとまた違うと思うんで、今やれる意味があるかなと。
――出会った頃のyonigeと今のyonigeは違うとおっしゃっていただきましたが、ホリエさんは今のyonigeに対してどんな音を鳴らしているバンドだと感じていらっしゃいますか。
ホリエ:もともと出会った頃は、いわゆるガールズギターロックバンドがなかなかいなかった時期だと思うんですよ。Homecomingsをはじめ、インディーロック感の強いバンドは活動していたけど、ガールズバンドのど真ん中をいく人たちはいなかったから、みんなが群がっていた気もしていて。仲良くなりたかったし、対バンも誘ってみたかったんですが、人気者だからちょっと引いて見ちゃう、みたいな。そこからちょっと目を離している隙に、土器くんがギターに加わったことを知って。最近の曲はギターの自由な感じや遊びが如実に良さとして出ているなと。初期は赤裸々な綺麗に見せない歌詞が武器だった気がするんですけど、今はそこにサウンド的なインディーロック感や洋楽っぽさが加わって面白いと思っています。
――逆に牛丸さんはストレイテナーとどのように出会い、どこに惹かれていったのでしょう。
牛丸:中学3年生の時、当時憧れていた高校の先輩が「REMINDER」や「Melodic Storm」をコピーしていたことでストレイテナーと出会って。あとは、スリーピースバンドだったというのも大きくて。私もスリーピースのコピーバンドを組んでいたから、ストレイテナーの楽曲だったら出来るんじゃないかなっていう。そこから「Lightning」をキッカケに、自発的にどんどん聴くようになりました。
ホリエ:そっか、そういう地元の先輩後輩関係があったのか。逆に我々の世代は、全然ロックが流行っていなかったというか。それまで好きだったバンドもアングラに位置づけされるようになってしまったし、奥田民生さんがソロになってロックを鳴らしてくれているのが希望だった。だから、青春時代をバンドが格好良い時代に送れるのは羨ましい。
牛丸:そうですね。でも、今またバンドは厳しくなっている感じもして。そんなことないですか?
ホリエ:厳しくなっているというか、天才が現れすぎている感じもあるんじゃないかな。それでも、やっぱり日本独特のバンドカルチャーってあると思うから。そこにいるいないは別にしても、横の繋がりや縦の繋がりで支え合って、引っ張り合えるのは良いなと思います。
牛丸:私の周りもそういうタイプの人が多いですね。My Hair is BadもKOTORIもそうですし。
ホリエ:Age Factoryの英介(清水英介・Vo,Gt)とYouTubeで対談している動画も観たんだけど、みんな同世代なんだよね?
牛丸:同い年です。Age Factoryに関してはずっと仲良いんですけど、英介が尖り過ぎているじゃないですか。
ホリエ:確かに、尖りの向こう側にいる時はあるかも。
牛丸:そう、だからお互いが同じテンションの時に一緒にやって、ふわっと離れて、みたいな関係をずっと繰り返してますね。
ホリエ:英介は達観している感じがするけど……でも、達観する頃なのかもしれない。yonigeも今、可能性が広がっていると思うし。
牛丸:確かに、年齢的に新しく開けてくるタイミングな気はしています。
――ホリエさんは牛丸さんくらいの年齢の時、新たに開けてくる感覚もありましたか?
ホリエ:ちょうど29、30歳の頃に、ストレイテナーは3人から4人になったんですよ。もちろんスリーピースって格好良いんだけど、どうしても音楽に制限もあったから。4人になったことでかなりチャレンジができるようになったし、好きなことを自由にやれるようになっていった気がします。呼吸がしやすくなったタイミングだったというか。
――それこそ、yonigeも4人編成でライブに臨むようになっていったわけですが、4人で演奏することの魅力は何だと思います?
牛丸:一番は歌に集中しやすくなることだと思っています。基本的に私はギターがめちゃめちゃ苦手なんですけど、3人だとギターを弾かなかったら絶対に成り立たないじゃないですか。だけど、もっと歌に集中したい気持ちがあった。だからこそ、土器さんにメインのギターを任せられるようになって、歌に重心を置けるようになったんですよね。
ホリエ:近いかも。ギターが1本だけだと、歌だけじゃなくてギターでも凝ったことをしないと曲の個性が生まれにくかったりして。だけど、その曲の個性を担ってくれる人が別にいたら、自分は歌を歌うためのギターを弾けば良いというか。手癖みたいなコードを弾いていても、メインギターが他に鳴らしてくれていれば、その2本でバンドの個性的な音が生まれるんじゃないかなと。
自分がやりやすいやり方を大切にしていくのが良いんだろうな(ホリエ)
――先ほど牛丸さんから、新たに開けていくタイミングかもしれないというお話もありましたが、5月からスタートした『Homing tour』はyonigeにとって初めての47都道府県ツアーで。結成12年目を迎えたこのタイミングで全国各所を回ることにしたキッカケは何だったのでしょう。
牛丸:今年の3月に日比谷野外音楽堂でワンマンをやったんですけど、その日に発表できるものが何もなかったんですよ。そういう状態で次に繋げていくための発表を考えていたら、お世話になっているイベンターさんから「47都道府県ツアーをやれば良いじゃん」と言われて。なので、自分たちで「やろうぜ」って始まったわけじゃなく、提案を受け入れたというか。もともと私はライブも苦手だし全然やりたくなかったんですけど、いざ回ってみたら勝手にグルーブが高くなっていくんで、面白いなと。
ホリエ:俺らもメジャーデビュー10周年で47都道府県ツアーを回ったけど、やっぱりやってみると楽しいし、ご当地飯とかお酒とかもモチベーションになるし。バンドだけをやりすぎると仲が悪くなるんじゃないかと不安になることもあるけれど、意外とそうでもなかったりするんだよね。
牛丸:そうですね。私たちも4人になって安定してきて、自分が固まったタイミングな気もしているんで。今だからこそ、良いツアーになっているのかもしれないです。
――先ほどメジャーデビュー10周年のタイミングで47都道府県ツアーを回ったというお話もありましたが、ストレイテナーは結成から27年、現在の4人編成になってから17年とyonigeとはおよそ15年ほどの差があるわけで。これまでの歩みの中でどこが変わってきたと感じていらっしゃいますか。
ホリエ:当然大人になったので、生活とバンドのオンオフを切り替えられるようになったかな。
牛丸:オンオフっていうのは?
ホリエ:若い時は、「バンドをやるぞ」という時間と普段の生活の境界線が曖昧だったというか。ホテルに到着しているのにメンバーとゲームにのめり込んで、なかなか終わりにできない、みたいなことがあった。でも今の年齢になったら、もうそういうことは出来ないから。生活の部分では変わったなと思います。一方、曲作りに関しては大きい変化があったわけじゃなくて。スタジオでセッションをしながら作るんじゃなくて、弾き語りのデモを元にするようにはなっているんですけど、スタジオでアレンジすることは続けているんですよ。メンバー1人1人がその曲に対して思い入れというか、「この曲は自分の曲だ」っていう意識を強く持てた方が良いと思うので。そういうやり方を続けてこれたのは、バンドにとって良かった気がしています。単純に僕がDTMをできないっていうのもあるんですけどね。
牛丸:DTMを試そうと思ったことはなかったんですか?
ホリエ:機械音痴だし、流行にも疎いし、人がやっていることはあんまりやりたくないタイプだからさ。でも、みんながDTMで緻密に作っていることは知っていますよ。
牛丸:私もまだまだなんですけど、最近DTMに挑戦してみようと思い始めたんです。
ホリエ:良いね。まだ全然間に合うでしょ。ただ、DTMやスマホから曲作りを始めている人たちとは比べなくていいと思っていて。そういう作り方を否定するわけじゃなくて、ソフトウェアに翻弄されるのは良くないから。どんどんアップデートされていくシステムに着いていくことで精一杯になってしまうよりも、自分がやりやすいやり方を大切にしていくのが良いんだろうなっていう。長く続けられる人は、そういうやり方を見つけていると思うからね。
牛丸:それこそ、ストレイテナーはホリエさんの弾き語りから曲を膨らませているわけですし。
ホリエ:バンドに曲とアレンジを委ねられるんで。それに甘やかされて、これが持ち味ですって言い切ってる。
牛丸:絶対に持ち味だと思いますよ。yonigeは土器さんがDTM担当みたいになっていて。私があれこれ言ったり、リファレンスを聞かせたりすると、土器さんがそれを作ってくれるっていう。
ホリエ:それなら、DTMもそこまで勉強しなくてもいいんじゃないの?
牛丸:確かにそうなんですけど、自分で自分の作品を作ってみたいんですよね。やっぱり今は土器さんのフィルターがかかっているんで。それもyonigeの良いところではありますが、例えばテクノとかを作ってみたり、色々試してみたいなと。
昔はお客さんのことを信じられていなかった(牛丸)
――現在、牛丸さんはさまざまな手法を試みているとのことですが、特に『三千世界』以降のエスニックな音色やDTMを駆使したサウンドをはじめ、yonigeというバンドは既に自らのパブリックイメージに囚われることなく、むしろそれから抜け出すようにチャレンジを続けてきた印象があって。傷だらけで生々しい恋愛を留めた『girls like girls』の時期から『健全な社会』『三千世界』での音楽的レンジの拡張を経て、『Empire』に至ったと受け止めているんですけど、今のyonigeはどのようなコンディションにあると感じています?
牛丸:一番プレッシャーもなく、のびのび出来ている状態だと思っていますし、47都道府県ツアーでその状態がどんどん良い方向に強化されている気がしていて。というのも、土器さんが加わってくれたぐらいの時に、昔の曲を全くやりたくなくなっちゃったんですよ。せっかく4人でやるなら新しいことに挑戦してみたかったから、「アボカド」とかも演奏したくなかった。その結果、ライブ中に水も飲まないし、MCもせず、ただただストイックに武骨な曲をやるだけっていう時期になっていって。そういう時期を経て『Empire』をリリースして47都道府県を回ることになった時、昔の曲も最新の曲も全部素直にやれるようになってきたんですね。フラットにやりたい曲をやれるし、喋りたいことを喋れる、みたいな。
ホリエ:スリーピースでやっていた頃から葛藤があったの?これをずっとやりたいわけじゃないというか。
牛丸:割とそうかもしれないです。いわゆるオルタナというか、UKのインディーロックに昔から憧れていたのに、自分のフィルターを通すとそうなれないもどかしさがあった。もっと格好良くなりたいのにって気持ちがずっとあったかな。
ホリエ:しかも初期曲が支持されると、どうしてもそれを求められるようになるだろうし。
牛丸:そうですね。
ホリエ:フェスだとそういう反骨精神を受け入れない感じもあって。本当は新譜しかやりたくないんだけど、ファン以外の人も知っている曲をやらないと盛り上がんないから。ストレイテナーでもそういう武骨なステージを考えてみたことがあったけれど、実際にチャレンジしていた先輩たちを見て、そういうスタンスでやるのはなかなか難しいなと思った。だけど、yonigeは全く妥協せずに、それをやり通してたってことですよね。
牛丸:やってました(笑)。
ホリエ:茨の道を。
牛丸:昔はお客さんのことを信じられていなかったんだと思います。どうせ「アボカド」なんでしょうって感じだった。でも今は、「アボカド」だって良いじゃんと思える。1回全く別のことに挑戦したおかげで、純粋に良いと思えるようになりましたね。この曲は今じゃ作れないですし。
――ここまでお互いの印象や変化をはじめ、多いに語りあっていただきましたが、10月1日(水)に開催されるZepp DiverCity Tokyoのツーマンでは相手にどのようなライブを期待していますか。
ホリエ:とにかく今のyonigeを浴びたいですね。古い曲が今のyonigeの中に入ってくることで、「この曲知ってるわ」とホッとするというか。過去の作品をメインにするんじゃなく、フックとして使えるライブは面白いだろうなと。
牛丸:これまでストレイテナーはフェスで見る機会が多かったから、Zeppっていうサイズ感で見れることが楽しみですし、yonigeと一緒で3ピースから4ピースに変わったっていう共通点もあるんで。4人ならではのステージングやライブ感が楽しみですね。
――改めて10月1日(水)に向けて、意気込みをお願いします。
ホリエ:11月からホールワンマンを控えているんですけれど、そのライブは座席で見てもらえるように熱量を抑えたセットリストを考えていて。その直前のライブなんで、めっちゃ爆発させるかもしれないです。でも「Lightning」は好きって言ってもらえたからやろうかな。
牛丸:嬉しい。めっちゃ聴きたいです。ホリエさんも「今のyonigeを観たい」と言ってくれたんで、今の一番良い状態を出したいと思います。
取材=小舟莉奈 文=横堀つばさ 撮影=稲垣ルリコ
ライブ情報
HP: https://yonige.net/updates