史上最大規模『手塚治虫 ブラック・ジャック展』開幕、手塚哲学を胸に刻む医師・澤芳樹が気づいた「ピノコとiPS心臓に通ずるもの」
(c)Tezuka Productions
手塚治虫 ブラック・ジャック展 2025.9.27(SAT)~12.14(SUN) あべのハルカス美術館
9月27日(土)、あべのハルカス美術館にて『手塚治虫 ブラック・ジャック展』がスタートした。1973年〜1983年に『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載されていた『ブラック・ジャック』。無免許の天才外科医ブラック・ジャックと患者、彼を取り巻く人間が繰り広げるヒューマンドラマや、緻密でリアルな人体描写は、医学部出身で医師免許を持った手塚治虫だからこそ描けるもので、一度読めば医療従事者でなくとも心を掴まれる。連載から50年以上が経った今も「No. 1医療マンガ」として愛され続ける不朽の名作だ。
同展では500点以上の原稿に加え、連載当時の『週刊少年チャンピオン』や200エピソード以上の直筆原稿、関係者が語る裏話などが、当時の映像や資料を交えつつ展示されている。入口に「企画段階より非常に高いハードルを超える気概をもって取り組んだ」とあいさつが掲げられているように、主催者の並々ならぬ情熱が伝わる内容となっている。
開幕に先駆けて行われたプレス内覧会には、大阪大学 名誉教授であり大阪けいさつ病院 院長、『大阪・関西万博』ではパソナ館プロデューサーを務め、iPS心臓を開発した澤芳樹が登壇。最先端医療の現場で活躍・尽力する医師の視点から、『ブラック・ジャック』愛をたっぷり語ってくれた。澤教授と『ブラック・ジャック』の深い関わりを伝える前に、まずは展示室の模様を紹介しよう。
第1室 B・Jとキャストたち
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第1室は「B・J(ブラック・ジャック)とキャストたち」。ブラック・ジャックやピノコといった主要キャラクターをはじめ、Dr.キリコや本間丈太郎、如月恵、桑田このみなど、作中でブラック・ジャックが関わる人物たちのプロフィールが印象的なセリフのコマとともに紹介されている。
そして次の部屋に進む手前には、当時の手塚のデスクが再現されていた。連載がスタートした1973年の新聞の切り抜きや、今は廃刊になった『週刊朝日』に『アサヒグラフ』、「天才新人」と言われて1976年にデビューした村上龍の『限りなく透明に近いブルー』など、昭和の世相が色濃く伝わる資料がデスクに置かれている。手塚はありとあらゆる情報を頭に入れながら、ストーリーに時事ネタを織り込んでいたそうだ。また、作品タイトルは新聞の見出しから付けられていることも多く、インスピレーションを受けていた模様。ちなみにライトは手塚プロから借りてきたもので、テレビは資料映像と似たタイプのものを用意したそう。
第2室以降の直筆原稿展示では、作品タイトルが新聞の切り抜き風になっており、このデスクとリンクしていることが見て取れるのもポイントだ。
第2室 B・J誕生秘話
第2室では、マンガ『ブラック・ジャック』が誕生するまでの過程や時代背景を紹介。大阪帝国大学(現・大阪大学)附属医学専門部に通いながらマンガを描いていた手塚治虫は、17歳の時にプロのマンガ家としてデビュー。1960年代にアニメ『鉄腕アトム』が大ヒットし、虫プロダクションは日本有数のアニメスタジオに成長した。しかし1973年に負債を抱えて倒産。この時の苦悩や裏話を手塚の近親者がそれぞれの視点で語る映像や、当時のニュース記事などが展示されている。
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また、手塚の医師免許証(複製)や緻密な絵が描かれた医学ノート、博士論文といった、医者としての側面を見ることができる貴重な資料も。
同時に医療を題材とした映画や文学が1960年代に立て続けに登場したこと、劇画ブームなどの時代背景も知ることができる。
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そして待望の『ブラック・ジャック』の第1話〜第4話の直筆原稿がお目見え。アナログで丁寧に描かれた線、ホワイトや切り貼りで修正された箇所がありありとわかる生原稿にはきっと感動を覚えるに違いない。特に手術シーンの緻密さたるや。手塚治虫が生きていた証を感じられる内容になっている。
第3室 B・J曼荼羅
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第3室には、壁面にずらりと『ブラック・ジャック』の直筆原稿が並ぶ。まるで迷路のようになった構成と、その量の多さに圧倒されるが、140話が「B・J遍歴」「命 VS 金」「ピノコがいっぱい」「人でないものの命」「人体の神秘」などなど、テーマごとにカテゴライズされているため、ストーリーの本質を掴み取りやすいだろう。
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また、これだけのエピソードの原稿が展示されるのは初めて。読んだことのある話も初めてのエピソードも、多様な視点でとらえることで『ブラック・ジャック』の新しい魅力に出会えるに違いない。
第4室 B・J蘇生
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最後の展示テーマは「B・J蘇生」。天井に届く高さまで壁面いっぱいに展示されたパネルが圧巻のこの部屋では、『ブラック・ジャック』の魅力を今と当時の視点から探っていく。『ブラック・ジャック』は50年以上前に描かれたにも関わらず、今もなお新しい発見と可能性を示してくれる。のちに触れるiPS心臓やロボット手術などの未来を予見する治療法をはじめ、まるでアート作品のような手術シーン、高度成長期の裏側に生まれた社会問題、医療倫理に鋭く切り込んだストーリー……。「医療 現代性」「医療 アート」「医療 技術」「医療倫理」「医療とは」という切り口で深掘りされた展示は、私たちの心に何かを訴えかけてくる。
中でも、NHKニュースの時報とともに当時のニュース映像が流れ、エピソードを読み解くパートでは、手塚の生きた激動の昭和時代をより生々しく感じることができた。
そして最後には「カミカイ」として、『ブラック・ジャック』全243話の中から人気の高い「ピノコ愛してる」「二つの愛」「弁があった!」の3話を展示(「弁があった!」は、大阪会場限定)。しかも、一部ではなく全ページの直筆原稿を読むことができる。読後の余韻に浸りながら会場を出るのも良いだろう。
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ミュージアムショップのグッズも充実。会場外のエレベーターホールの横には、手術室をイメージしたフォトスポットが登場。白衣を着て、ブラック・ジャックやピノコと記念撮影ができる。
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さらに会期中の平日(月曜~金曜※祝日を除く)に来館すると、オリジナルカードが1枚がもらえるというスペシャルな施策も(※曜日により絵柄が異なる)。ぜひ時間をとって、じっくりたっぷり『ブラック・ジャック』の世界を堪能してほしい。
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