齢50にして新しい可能性の扉を開き続ける和田唱が語る、音楽活動の現在地と未来への展望

インタビュー
音楽
20:00
和田唱

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2025年の和田唱は“エピソード2”とも言うべき時期を迎え、音楽の新しい可能性の扉を開き続けている。1月にTRICERATOPSでの活動を休止後、2マン企画『Two Chairs』を立ち上げて、5月には藤巻亮太、10月には大橋卓弥とのステージを開催している。6月には“SHO WADA and His Band”名義で、バンド編成のライブもスタートさせている。音楽を担当したミュージカル『のだめカンタービレ』のシンフォニックコンサートへの新曲の書き下ろしなどの活動もあった。12月には『和田 唱 50th Anniversary  -The Beginning-』というテーマのもと、タイプの異なる2種類の公演も予定されている。50歳の誕生日当日のバンド公演『SHO WADA and His Band “Heat Birthday”』とクリスマスのソロ公演『一人宇宙旅行 “Sweet Christmas”』の2公演である。50歳を迎えるタイミングでの音楽活動の現在地と過去の総括や未来の展望について話を聞いた。

――和田さんは12月1日に50歳を迎えます。初めて取材をした時が22歳だったので、信じられない気がします。50歳を目前に控えて思うことはありますか?

さすがに50歳という響きには重みを感じていますよね。僕がかなり長生きをして100歳まで行ったとしても、人生の半分を過ぎたことになるわけで、後悔しないように生きたいという気持ちが強くなってきました。以前は人生の残りの時間のことなど、まったく考えてなかったんですよ。人生はずっと続いていくもののような気がしていたんですね。でも、何か集まりがある時にふとまわりを見渡すと、自分が一番年上だった、なんてことはざらにあって、そうか、自分もそんな年齢になったのかと(笑)。

――ベテラン扱いされるケースも出てきたわけですね。

そうなんですよ。今年9月に、僕が音楽を担当したミュージカル『のだめカンタービレ』のシンフォニックコンサートの東京公演と台湾公演があり、僕も同行したんですが、演出家も助手の人も全員が僕よりも年下で、キャストも竹中直人さんと、なだぎ武さん以外はみんな年下でした。

――ミュージカル『のだめカンタービレ』の現場で、年下の人たちと一緒に音楽制作に関わるのは、どんな気分でしたか?

みなさん、優秀で熱心で、とてもいい現場でした。もともと2年前にミュージカルが行われた時に、短いのも入れると50曲くらい作ったんですね。今回、シンフォニックコンサートとして形を変えて復活することになり、新たに書き下ろして曲を追加したんですが、自分で作曲しているのに、自分がステージに立たないのは、相変わらず不思議かつ、贅沢な気持ちでした。しかもメモを取りながら観ているという。

――キャストのみなさんにアドバイスしたり、指示を出したりしていたわけですね。

客席から観ていて、気付いたことは積極的に伝えるようにしていました。作曲だけして、あとはお任せするというやり方もあるのかもしれませんが、僕はそういうことができない性分なんですよ。自分がイメージしたメロディ、コード、音を大切にしてパフォーマンスしてほしいから、気になったことはすべて伝えるようにしていました。面倒くさい奴ですよ(笑)。でも稽古の段階から参加して、公演にも同行したことは、自分にとっても有意義な経験になりました。

和田唱

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――12月1日の50歳の誕生日には、『SHO WADA and His Band “Heat Birthday”』が開催されます。企画した経緯を教えてください。

6月に東京と大阪でバンド編成でライブをやって、手応えがあったので、年内にもう1回あの形でやりたいな、誕生日にやるのもいいかなと思って、企画しました。

――タイトルに“Heat Birthday”という言葉が入っています。これは?

ヒートするのもいいかなと。バンドだと、1人でやるよりもヒートしやすいじゃないですか。それぞれのエネルギーが注ぎ込まれるので、1人では出せないパワー感が生まれますから。バンドの良さって、そういうところにあるんだと思います。

――“SHO WADA and His Band”は前回と同じメンバーでやるんですか?

そうです。みんな、ナイスガイだったので、とても楽しくステージに立てたんですよ。バンドって人と人のつながりの部分が大きいですから。東京公演後の大阪公演では、バンドの一体感がさらに増したんですよ。これは次もやるべきだなと思いました。

――6月のライブ開催前のインタビューで、「4人編成で、キーボードが入ることによって、余裕を持ってステージにのぞめる」と発言されていましたが、実際に演奏してみて、どうでしたか?

リハーサルの段階からその良さは実感していました。“ギターを弾かない”という選択が可能になったのは大きかったです。鍵盤とギターを同じ熱量で弾くと、飽和してしまう時もあるので、あえて入れないさじ加減も重要になってきて。そのあたりも面白かったです。

――ギターを持たずに始まったのは、インパクトがありました。

リハーサルをやっている時に思いつきました。1曲目でギターを持たずに出て、歌で始まったら面白いかなって。そうしたアイデアを実行できたのはキーボードがいるからこそですね。TRICERATOPSではできませんから。スリーピースの良さ、フォーピースの良さ、それぞれに違いがあるということですね。

――ハンドマイクで歌う場面もありました。

ギターを持たず、ボーカリストとしてステージに立つことはあまりないので、多少の違和感はあるんですよ。小田(和正)さんも、オフコース時代は鍵盤を弾いていたので、ソロになってハンドマイクを持って花道を歩きながら歌った当初は、「とてもじゃないけど、間がもたないと思った。恥ずかしかった」と話していました。でも、「やるうちに慣れるものなんだ」とのことだったので、そうなんだろうなとは思います。あれはあれで新鮮でした。バンド活動を休止したこの機会に、これまでやっていなかったことを積極的にやるべきだと思っています。

――確かにソロだからこそできる事がありますよね。

バンド編成でのライブでも途中でソロコーナーを設けるなど、いろいろと変化をつけるように工夫しています。1つのライブの中でいろんな景色を見せるのが理想なんですよ。そのほうがお客さんも楽しいでしょうしね。最近特に思いますけど、出し惜しみせずにやれることを全部出すべきだなということ。だって、いつまでできるのか、わからないですからね。

和田唱

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――やれることって、具体的なイメージはありますか?

最近の自分のテーマとしていることが2つあります。1つは違う自分を開拓していくこと。やったことのないことにチャレンジしたい気持ちは常にありますね。もう1つのテーマは、TRICERATOPSの曲を歌い続けていくことです。正直言うと、TRICERATOPSの活動を休止しているのだから、封印すべきなんじゃないかと思った時期もありました。でも、自分以外にTRICERATOPSの曲をリアルに歌える人間はいないわけだし、今の自分が歌うことでの発見もたくさんあるんですよ。例えば、先日の大橋くんとの2マンで歌った「Hotter Than Fire」。

――あの日の「Hotter Than Fire」、とても新鮮でした。

最初はセットリストに入れていませんでした。でも、もっといいセットリストはないだろうかと、家でいろいろと考えていたんですね。その時、こんなリズムでこんなギターを弾きたいというイメージが湧いてきました。でも、そういうのが自分の楽曲にはないし、どうしたものかと考えていて、ふと「Hotter Than Fire」を違うアレンジでやったらどうだろうとひらめきました。実際にギターでそんなリフを弾きながら歌ってみたら、ぴったりハマって、アコギの弾き語りで「Hotter Than Fire」をやるのはありだなと。自分にとっては新発見でした。「it」もそう。20年近くやっていませんでしたが、弾き語りでやってみたら、オリジナルとはまた違う感じになった。TRICERATOPSの曲でも、違った視点での取り組み方をすることで、新たなトライができるんだなって、最近可能性の扉が開きました。

――過去の作品のアレンジを変えてライブで演奏することは、実はクリエイティブな作業であるわけですね。

そう思います。どうせやるなら、歌詞も変えたくなることがあるんですよ。というのは、当時の歌詞で納得いっていないものもあるから。でも、歌詞に関しては、発表したものはいじらないほうがいいなと基本的には思っています。『スターウォーズ』と一緒ですよね。ジョージ・ルーカスが90年代の終わりに、かつての『スターウォーズ』の映像をCGで修正して公開したことがあったんですよ。1作目の公開が1977年ですから、SFXの技術にも限界があったため、気に入っていないところがあったらしく、生き物や宇宙船をよりリアルになるように映像加工したんですね。

――完璧主義者のジョージ・ルーカスらしいエピソードですね。

その映画を再上映するところまでは、まあ、好きにやればいいじゃんと思っていました。ところが、ジョージ・ルーカスはなんと旧バージョンのビデオを全部廃盤にしたんですよ。オリジナルのファンは、なんてことをしてくれたんだと激怒しました(笑)。オリジナルの映像のSFXの技術は、確かに今と比べれば発展途上でしたが、そこが良かったんです。だから、僕は昔の自分の作った楽曲の歌詞を直したくなると、そのことを思い出すようにしています。作り直すことがすべていけないとは言いませんが、ファンの人がオリジナルを大切に思っている気持ちを忘れないようにしなければいけない。

――聴き慣れた曲を違うアレンジで聴くこともライブの醍醐味ですよね。

そうですね。ライブに関しては、レコーディングしたままの状態で表現すべきだとは思っていません。というのは、曲は僕とともに成長していくものだと思っているから。もちろん音源とまったく同じバージョンのまま再現するライブもありだとは思っています。でも少し前に観たスティングは原曲からアレンジをかなり変えていて、それぞれの曲がそぎ落とされて、研ぎ澄まされていたんですよ。素晴らしいライブで、とても刺激を受けました。TRICERATOPSの楽曲を演奏する場合には、そっちのスタンスでやる方がモチベーションは上がりますね。

和田唱

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―“Heat Birthday”、どんなステージにするか、イメージは固まってきていますか?

もちろんヒートする曲もやりますが、静かな曲もやる予定です。でも心の中でヒートするので(笑)。20代の頃のヒートとは違う50代のヒートがあると思っています。やはり、年を重ねてくると、自分の好みも変化してくるんですよ。僕は長年ギターを弾いてきましたし、ギターは変わらず大好きなんですが、好みの音が少し変わってきました。以前はEの低い音がかっこいいと思っていたけど、いやいや高い音の響きも味わいがあるじゃないかと思うようになってきた。ギターの仕組みも含めて、新たな扉を開いていきたいと思っています。

――先日の大橋卓弥さんとの『Two Chairs』で弾いていたGibson ES-125もとてもいい音色でした。

ありがとうございます。

――『Two Chairs』では新曲「いま」も演奏していました。すでにたくさん新曲のストックがあるんですよね。12月のライブでは、新曲も聴けそうでしょうか?

未発表の新曲、すでにたくさんあるので、やるかもしれません。でも最近、新曲に対する考え方が少し変わってきたんですよ。新しい曲を次々に作ってレコーディングして、一番新しい姿を見せていきたいと思う自分がいる一方で、新曲を発表することにどれだけの意味があるんだろうと考えてしまう自分もいるんですよ。コアなファンの人たちは新曲を楽しみにしてくれていると思います。でも、その向こうにいる多くのリスナーは、新曲よりもかつての好きな曲をやってほしいだろうし。需要と供給の狭間で揺れる自分がいるわけですよ。なので、今は手元に10~11曲新曲があるけれど、レコーディングをしていないという不思議な状態です。

――レコーディングしたくなるタイミングがあるんじゃないですか?

そうなのかもしれません。創作にもバイオリズムみたいな波がありますから。僕はレコーディングになると、昼12時くらいにスタートして夜9時くらいまで1回も休憩しないんですよ。その日の作業が終わるまで、ご飯も食べないことが多い。9時間くらいぶっ続けで作業するから、実際にはかなり消耗しているはずなんですが、消耗していると感じないんですよね。

――それだけ集中しているんでしょうね。

1回レコーディングに入ると、そういうモードに入ってしまうので、あえて避けているところはあるかもしれません。今は自分がどうしたいのか、見守っている状態かな。11曲ストックがあるのに、新たな曲を作り始めているので、さらに曲が溜まりそうです(笑)

和田唱

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――3人編成と4人編成以外に、TRICERATOPSとHis Bandとで違いを感じることはありますか?

演奏中にメンバーと目が合う!(笑)で、ニコッとするんですよ。そこは大きな違いですね。まぁ、(吉田)佳史とはたまにありましたけれど、林(幸治)が演奏中に目を合わせることなんてないですから(笑)。目が合ったとしても、ニコッとすることはありえない(笑)。林はドがつくほどのシャイボーイなので。ずっとそんな感じでやってきて、メンバー同士は目を合わせないものだと思ってきたので、ニコッとされると新鮮でしたし、キュンとしました(笑)。

――TRICERATOPSでは、目を合わせなくても音で会話できていたということでもありますよね。

まぁ、それはあるかもしれませんね。そこはやはりオリジナルメンバーの強みですよね。TRICERATOPSの15周年のタイミングで、佳史が「バンドを辞めたい」と言ってきた時、僕は基本的には“去る者は追わず”というスタンスですが、オリジナルメンバーで活動することへのこだわりと憧れが強かったので、引き留めましたもん。あの時から10数年続いたわけですが、今回休止したのは、その憧れが一旦収まったからなんだと思います。

――どうして収まったのですか?

30年近く活動してきて、この3人でやれることは全部やった実感があったからです。ここから先は音楽的進化よりも、ファンサービス業に留まってしまう可能性があった。じゃあ今から新しいバンドを結成するかというと、それはもう一度青春時代を取り戻すような行為で、かなりのエネルギーが必要。今バンド編成でのライブをやる場合は、His Bandみたいにサポートしてもらう形が一番音楽を楽しめるんですよ。

――バンドをやるには、相当大きなエネルギーが必要ですよね。

そう思います。しかも、本当の意味でのバンドになるためには、かなり長い時間がかかるんですよ。何十本、何百本、同じステージに立って、同じ時間を過ごして、だんだんバンドになっていくものなんです。だからTRICERATOPSでバンドというものを経験できたことは、自分としては貴重なことですよね。内部ではいろいろと葛藤することもありましたけど、いざ、この3人でステージに立てば、お客さんを楽しませることに集中できましたし、そこは自負しています。ステージ上では3人とも不思議と波長が合うんですよ。

――たとえ目を合わせなくても、微笑まなくても。

そうです(笑)。

――クリスマスに開催される“Sweet Christmas”、この名前にしたのは?

“Heat”と“Sweet”とで韻を踏みました(笑)。統一感プラス、意味合い的にもいいぞ、と。

――基本的には、近年やってきたソロでの弾き語りコンサート“一人宇宙旅行”の流れのものなんですよね。

そうです。そこにクリスマスのテイストをまぶしていくということですね。スイートな要素、割と得意なので(笑)。

――知っています(笑)。

最近はバラード系の新たな扉を開きつつあるので、新たなアプローチで久々の曲にもトライする予定です。僕はロックバンド出身者で、ロックを演奏するのはもちろん大好きなんですが、ソウル、ジャズ、映画音楽を演奏するのも好きだし、少し変わったポジションにいると思うんですね。そういう部分も全部出していきたい。以前は、自分にないものが気になって、自分が劣っている気がしていました。でも今は自分の個性を認めて、自分の持ち味に自信を持ち、出し惜しみせずに全部出していこうと思えるようになってきました。

――『SHO WADA and His Band “Heat Birthday”』と『一人宇宙旅行 “Sweet Christmas”』を観にいこうと考えている人に向けて、コメントをいただけますか?

「来た方がいいですよ」ってことですかね(笑)。いろいろとサプライズを用意できたらと思っています。新曲もやりたいし、しばらくやっていなかったTRICERATOPSの曲も発掘してみたいですし、新しい発見のあるステージにしたい。演奏の仕方にしても、アレンジにしても、新しいことをやらずにはいられないというか、同じ場所にずっと留まっているのが嫌という性分なんですよ。そこだけは50歳になっても変わらないですね。


取材・文=長谷川誠 撮影=大橋祐希

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ライブ情報

和田 唱 50th Anniversary  -The Beginning-
SHO WADA and His Band “Heat Birthday”
2025年12月1日(月)Shangri-La 下北沢
open/start 18:30/19:00
 
一人宇宙旅行 “Sweet Christmas”
2025年12月25日(木)Club eX 品川
open/start 18:30/19:00
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