花總まり×黒羽麻璃央×渡邉蒼が語る、日本版初演ミュージカル『AGATHA(アガサ)』
“ミステリーの女王“と呼ばれ、いまも多くの作品が愛され続けているイギリスの推理小説作家アガサ・クリスティの没後 50年となる2026年、ミュージカル『AGATHA(アガサ)』が日本版初演の幕を開ける。
ミュージカル『AGATHA(アガサ)』は、脚本・作詞ハン・ジアン、作曲ホ・スヒョンの韓国実力派クリエイターが集結して制作された作品。アガサ・クリスティが生涯沈黙を守ったと言われる、実際に起きた11日間の失踪事件を、実在の人物と架空の人物を織り交ぜて再構成していて、作品世界のなかで、アガサ晩年の現在(1953年)と過去(1926年)、を行き来しながら、事件の真相に近づいていく、謎が交錯する心理劇の趣強い作品が好評を博し、2013年の韓国初演以来、上演を重ねてきている。
そんな作品の日本版初演に集った主演のアガサ・クリスティ役の花總まり。アガサに関わる謎の男ロイ役の黒羽麻璃央。アガサに憧れ推理小説作家になったものの、盗作疑惑に苦しめられているレイモンド役の渡邉蒼が、日本版初演の作品に臨む想いを語り合ってくれた。
虚実が入り交じる物語を台本から読み解きたい
──いまの段階で、それぞれ演じるお役について、どう捉えていらっしゃるかから教えてください。
花總 まずスチール撮影の時に「こんな感じで」と見せていただいたのが、軽く頬杖をついているアガサのとても有名なお写真だったんです。クリスティの顔を思い浮かべながら撮影に臨みました。ただ、作品のベースにはアガサが生涯語らなかったという11日間の失踪事件があるのですが、あくまでも私が取り組むのは今回の脚本であり、音楽なので、アガサの自伝も出ていますけれども、あまり調べ過ぎずに、台本に書かれている台詞からアプローチをして、演出家の末永さんとご相談しながら創っていこうと思っています。
──これまでにも、オーストリアのエリザベート皇后、フランス王妃マリー・アントワネット、そしてこの作品と同じイギリスのエリザベス女王など、実在の人物を多くてがけられている花總さんですが、そうした実在の人物と創作された人物とでは、役を創る上で違いはありますか?
花總 役創りの違いと言うよりは、実在の人物は世界中にその方が大好き!という方々がたくさんいらっしゃるので、イメージを壊してはいけないというのは肝に銘じています。特に今まで演じてきた実在の方は、言うならば歴史上の人物であり異国の女王様なので、いまの私たちの感覚からは遠いところにいらっしゃいますし、豪華なドレスを身にまとっただけで全く違う気持ちにもなれたんです。でもアガサの場合は没後50年ということで、毎年クリスマスには新作ミステリーが出ていた頃を、リアルにご存じの方がいっぱいいらっしゃいますから更に難しいです。皆様のイメージを壊したくないというのは同じですが、今回はミステリーでもあり、晩年と若い頃を行き来しますので、実際のアガサに良い意味でとらわれ過ぎずに、自分なりに楽しみながら人物を創っていけたらいいなと思っています。黒羽さんは謎の男ですね。
黒羽 そうなんですよ、謎の男で……困ったことに、花總さんのように話せることが何もないんです、これが(笑)。ミステリアスな雰囲気を大事に演じたいです。
──そこをなんとかもうひと言。
黒羽 プロデューサーさんの視線が痛いんですが……(笑)、もちろん韓国版をご覧になられている方はおわかりだと思うんですけれども、本当にこの物語のなかで突然出てくるので、初めてご覧になる方々は「こいつ一体何なんだろう」と思われると思うんですね。そこから物語が進むにつれて、僕の演じるロイという役の存在がどんな人物なのかがわかってくる、それこそミステリーのように紐解かれていくので。
花總 でも結構、紐解いていくのは最後の最後よね。
黒羽 最後の最後ですね。1幕の間はおそらく「こいつ誰?」だと思いますし。
制作発表時の様子(撮影:橘涼香)
──謎のまま見せ場はたくさんあるという感じですか?
黒羽 そうですね。劇中でもほぼアガサとしか関わっていない、アガサが失踪している間に存在する人物なので。
花總 私が失踪しないと出番がないのよね(笑)。
黒羽 そうそう、しかもまだそこまで稽古が進んでいないので(笑)うまいこと書いておいて下さい!(笑)
渡邉 僕のレイモンドも花總さんと同じで、現在と過去、40歳と13歳の時を演じるのですが、13歳とはいえどすごく賢い子で、この作品自体ミステリー小説のようなので、アガサ・クリスティの小説で言うなら、名探偵ポアロのような役割りになるのかなと思います。でもただの推理小説らしいストーリーでは終わらないのがこの作品のいいところでもあって、演出の末永さんと13歳としてのレイモンドの初登場の台詞をどういう感じで言うか、というお話をさせていただいた時に「お客様に何かを与えられる人であることをここで見せて欲しい」とおっしゃったんです。それはたぶん、実際に作品のなかで会っている時間は決して長くないのですが、レイモンドからアガサに対しても、たくさん与えられないといけない役どころということでもあるから。
花總 それがなくなっちゃうと、進まなくなっちゃうからね。
渡邉 そうなんです。もちろんレイモンドがアガサからもらうものもたくさんあるし、渡さないといけないものもいっぱいあるので、アガサとの関係性をお稽古のなかで深くしていけたらいいなと思っています。
──13歳の少年というところについてはどうですか?
渡邉 すごく賢いけれど完璧ではない、と台詞でも言われているのですが、それに尽きるのかなと。自分の推理力に自信を持って突き進むけれども完璧じゃないという、人間らしいところを大切に演じたいです。
それぞれが役柄にピッタリの魅力を持つ
──ミステリーということで、なかなか内容に踏み込めませんので、役柄の印象と絡めて、お互いの印象についてはいかがですか?
黒羽 役と絡めてと言うとまた難しいのですが……
花總 でも結構ぴったりじゃない?
黒羽 本当ですか?僕、謎ですか?
花總 ミステリアスなロイなんですけど、アガサにとっては、結構二面性も見せてくれるんですよ。黒羽さんとはこれまでに唯一共演しているのが『エリザベート』のルキーニで、そのルキーニのイメージの黒羽さんと、今回のロイが全然違うんですよ。ルキーニは黒っぽい、ちょっと危険な雰囲気があったけれど、実際にお話しているとすごく爽やかで、色々な顔を持っているんだなと思います。
黒羽 『エリザベート』の時はコロナ禍で、舞台上以外で話せることがほとんどなかったですからね。
花總 そうそう、そうなの。渡邉さんとは今回がはじめましてですが、やっぱりとっても少年っぽくて、今回他のキャストの方たち、結構みなさんが濃い個性をお持ちなので、そのなかでまさにレイモンドでしょう!と。迫力を持ちつつすごく幼い顔をしているから、とても新鮮で、本当に二人とも「ロイだな、レイモンドだな」というそのままのイメージです。全部がピッタリのキャスティングだと思います。
黒羽 ここまで出来上がっているところを見た時に、やっぱり花總さんのアガサとしての説得力がすごくて。1幕にも出ますが、主に2幕でアガサと色濃く関わっていくなかで、これだけ説得力のあるアガサを、ロイとしてどうしていくのか、アガサがどうしたいのかが自分としてすごく課題だなと思っています。花總さんは僕のことを二面性があると言ってくださいましたが、花總さんもお稽古場でアガサとして演じていて、終わって席に戻っていらっしゃると、もう(花總を示して)このとおりふわっとされているんです。この二面性はすごく素敵だなと思います。渡邉さんは、本当にピッタリです。
花總 少年ですね。
黒羽 少年そのもの。本当は何歳なんですか?
渡邉 21歳です。
黒羽 21歳なの?若いのは若いけど……
花總 13歳そのままに感じられるからね。
黒羽 この演劇界でレイモンドができる人として渡邉さんがナンバーワンじゃないかと思います。僕はやったことがないんですよ。作品のなかで年齢を操るというのを。だから全く未知の領域なのですが、40歳から13歳へとガラっと変わる、その佇まいから本当にすごくて、観ていても面白いです。「すごくいい子だよ」と周りから聞いてはいたのですが、実際に好青年過ぎて、変な大人につかまりませんようにと願っています。
渡邉 (思わず笑ったあと)黒羽さんのロイについては本当に何も言えないのですが、1幕だけの印象で言うと、アガサと一緒に世間の批判や色々なものと戦っていくなかで、ロイがアガサを救い出してくれるんじゃないか?という印象を持ちます。それは黒羽さんそのものだと感じていて「(声色を真似て)大丈夫だよ」と。
花總 言い方が上手い!(笑)
黒羽 「大丈夫、大丈夫」ってね(笑)。
渡邉 その後どうなっていくのか分からないけど、実はロイとレイモンドって会っていないようで、最初に会っているんです。
黒羽 あぁ確かに!
渡邉 あの時のロイって本当に面白いんですけど、あれはどういう?
黒羽 うん、正確に言うとね(プロデューサからSTOPサイン)あーダメだって(笑)。
渡邉 じゃあ今度是非お茶でも飲みながらお話させてください(笑)。花總さんのアガサは、もうアガサ・クリスティそのままだと思って接しています。レイモンドが推理小説作家を目指すきっかけとなった人なので、とにかく敬愛していますし、凛としたお花のようなイメージの方で。
花總 ホントに?
黒羽 "花"總さんだけに(笑)。
渡邉 そう、花總さんだけに。それも部屋が花束みたいな感じじゃなくて、一輪差しにすっと立っているお花のイメージです。花總さん自体がそういう方だなと思うし、アガサ・クリスティもそういう人だなと思うので、花總さんのアガサがいてくださるだけで、レイモンドが自然と創りあげられていく感覚があって、ありがとうございます!
花總 こちらこそ、ありがとうございます。
音楽が雄弁な力を持つ韓国ミュージカル
制作発表時の様子。渡邉蒼、原田優一、東山光明の三人でスリリングかつコミカルな楽曲で盛り上げた(撮影:橘涼香)
──韓国ミュージカルがいま大変盛んですけれども、その魅力をどう感じていらっしゃいますか?
渡邉 日本のミュージカルも大好きなんですが、韓国ミュージカルの曲を聞くと、作曲家の方の心の状態が健康な時に書かれたんだろうか、と心配になるようなメロディーラインなんですよね。この音を重ね合わせたら人間の深層心理の暗い部分を描けるという、技術がおありだから書けているんだろうなと思いますが……作曲家さん、作詞家さんが本当に健康な状態でやれていることを願うぐらいの、繊細な楽曲がとても多いように感じます。
花總 この作品を初めて韓国で観た時、すごくワクワクするようなミステリアスな音楽が流れてきて。音楽を聴いているだけで気持ちが高まったんですよね、「あ、アガサ・クリスティの世界だ!」と。本当に作品のベースになる部分が音楽として流れているから、それだけでも不安な気持ちにもなるし、楽しくもなるんです。
渡邉 僕は以前に韓国ミュージカルの『ダーウィン・ヤング─悪の起源─』に出させてもらったんですが、その時も楽曲の力がすごくて。耳も目も背けたくなるような演出や曲が、引き付けてくる力がすごくいいなと思います。
花總 音楽ももちろんだし、ストーリーも多種多様で魅力的ですよね。私は先日『破果(パグァ)』という作品に出演したんですけど、最初にあらすじに惹かれました。60代の老齢の殺し屋という役どころに、パッと引き付けられて。
──当代の姫役者の花總さんが、老齢の殺し屋を演じられたことにも驚きました。
花總 そういう感覚は自分では全くなくて、ただ「これ面白い!」って思えたんです。それだけ作品に力があったんだと思います。韓国では国をあげてミュージカルを応援しているからこうした様々な魅力を持った作品が生まれるのだろうなと思いますし、この前、観に行った時に感動したのが、もしかしたら導入しているのは韓国だけじゃないのかもしれないけど、字幕メガネを渡されて初めて体験したんです。
黒羽 へ~!どんなものなんですか?
花總 本当にただの眼鏡なんだけど、そこにタイムリーに字幕が映し出されるの。スマートフォンみたいものを渡されて、字の大きさや眼鏡に映る位置を自分で調節もできて。
黒羽 それいいですね!
花總 そう、やっぱり話が分かるとよりじっくりと観られるし、こういうサポートに力を入れているのは素晴らしいなと思いました。日本でもやれるようになったらいいのになと思います。
黒羽 そうですよね。僕お二人のように韓国ミュージカルに詳しいわけではないのですが、韓国ドラマはよく観ていて、同じアジア人ですけど韓国の作品って、感情の表し方がハッキリしていてそこに憧れがあります。日本人はどちらかというと、自分の本心をあまりオープンにしない方がいいというような、繊細さがあると思うんですけど、韓国で創られている作品はそこがオープンですごくわかりやすい。それは日本人が観てもちゃんと刺さってくるので、そういう表現を自分もしてみたいなという願望がありますね。
──また作品の謎にちなんで、11日間自由に過ごせる時間ができたら、何をやってみたいですか?
花總 それは海外逃亡でしょう!
黒羽 どこに行きたいとかはありますか?
花總 南の島かな。
黒羽 11日間あるんだったら、やっぱり海外逃亡かな。スイスに行きたいです。良い景色を観たい。
渡邉 僕は旅行から帰ってくると悲しくなっちゃうので……。
黒羽 へ~!
花總 そうなの?
渡邉 いや楽しいんですけど、帰ってくると悲しいじゃないですか。また行きたいなと思うけど、すぐにという訳にはいかないから、その待つ時間もあまり好きではなくて……。だから旅行は好きだけど、11日間あったら長い時間をかけて燻製とか。
黒羽 燻製を作るってこと?
渡邉 好きなんです。長い時間をかけて料理を作るのが好きなので、何か漬け込んだりとか、時間をかけた料理がしたいです。でもそれだと三日で終わるかも知れないな(笑)。
花總 遠くに行くのが得意じゃないのね?
渡邉 はい、あまり得意じゃないので、家で時間をかけられる何かをしていると思います。
黒羽 発酵だね、自家発酵!
──様々なお話をありがとうございました。では最後に代表して、花總さんから作品を楽しみにしている方たちにメッセージをお願いします。
花總 本当にまるで推理小説のような作品なので、おそらく二度、三度観ると、確かにここでこんなことを言ってたんだ、ですとか、ああ、ここを見逃してたなど、どんどんわかることが増えて、観れば観るほどのめり込める作品だと思います。お時間の許す限り、色々な方に観ていただきたいと思います。とても豪華なキャストが揃いましたので、全員で頑張りますので、是非劇場にいらして下さい!お待ちしています。
ミュージカル『AGATHA(アガサ)』は、東京・よみうり大手町ホールで7月18日(土)~8月2日(日)まで。のち8月15日(土)、16日(日)愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール、8月27日(木)~31日(月)大阪・森ノ宮ピロティホール、9月4日(金)~6日(日)福岡・キャナルシティ劇場で上演。
取材・文=橘涼香 撮影=iwa
公演情報
Lyrics and Book by HAN JIAHN
Music by HUH SOOHYUN
演出・上演台本・訳詞:末永陽一
翻訳:宋 元燮
音楽監督:甲斐正人
振付:原田 薫 アクション:渥美 博 美術:伊藤雅子 照明:髙見和義 音響:山本浩一 衣裳:半田悦子 ヘアメイク:富岡克之 歌唱指導:やまぐちあきこ 稽古ピアノ:石川花蓮 演出助手:玉置千砂子 舞台監督:廣田 進
制作:室岡美幸・長浜あかね プロデューサー:鈴木里咲
宣伝写真:永石 勝 宣伝美術:髙橋義徳 宣伝映像:田中亮祐
黒羽麻璃央 渡邉蒼 上原理生 原田優一 東山光明 内田未来 丸山泰右/保坂知寿
会場:よみうり大手町ホール (〒100-0004東京都千代田区大手町1-7-1)
公演期間:2026年7月18日(土)~8月2日(日)
会場:名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール (〒492-8145愛知県稲沢市正明寺三丁目114番地)
公演期間:2026年8月15日(土)、16日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール (〒540-0003大阪府大阪市中央区森ノ宮中央1-17-5)
公演期間:2026年8月27日(木)~31日(月)
会場:キャナルシティ劇場 (〒812-0018福岡県福岡市博多区住吉1-2-1キャナルシティ博多ノースビル4階)
公演期間:2026年9月4日(金)~6日(日)
公演公式X: @MusicalAGATHAJ