今年6回目を迎える『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST 2026』の軌跡と、次の世代への想いを訊く――実行委員長・本間一慶×堅展実業株式会社チーフブレンダー・立崎勝幸対談
(左)立崎勝幸氏、(右)本間一慶氏 (株)イベント北海道 藤澤快世
2018年の第1回開催時より『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』の実行委員長として携わっているBAR一慶オーナーバーテンダーの本間一慶氏と、2016年に製造免許を取得し、北海道東部の厚岸郡厚岸町で蒸溜を始めた堅展実業株式会社・取締役 ウイスキー事業本部本部長でチーフブレンダーの立崎勝幸氏が語る、フェスの歩みと北海道の現状、そして未来についての想いなどを訊いた。なお、第6回目となる今年は、2026年7月19日(日)(※マスタークラスは7月18日(土)から開催)に開催予定。
『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST 2026』キービジュアル
■踏み出さなければ何も始まらない。赤字覚悟の船出
――本間さん、まずは『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』を始めたきっかけからお聞きしたいです。
本間:札幌で第1回目が開催される前から、東京や大阪、福岡、名古屋など、全国の主要都市ではすでにフェスが開催されていました。私はバーテンダーという立場から、年々飲み手が減ってきているという実感があり、このままではいけないと危機感を抱きながら、全国のフェスに自ら足を運びました。フェスの盛り上がりを体感し、これは札幌でも開催するべきイベントだと確信。とにかく1歩踏み出そう!と、バーテンダーの仲間にも声をかけ、2017年から開催の準備をスタートしました。
――順調な滑り出しだったのでしょうか?
本間:いえいえメチャクチャ大変でしたよ(苦笑)。1回目は赤字になってもいいから、まずは開催しようという気持ちで動き出しましたが、準備をしていくうちに、見えていなかった経費がどんどんかかってしまいまして…今だから言いますが、持ち出しも結構あり、お店閉めなくちゃならないかも…というところまで追い詰められていました。
――そこまでですか! ちなみに最初にお声がけして集まったバーテンダー仲間は何人だったのでしょう?
本間: 1回目、2回目はクラウドファンディングもやったんですけど、それでも不安は拭いきれなかったですね。最初に声をかけて集まった仲間は6人。実は焼き鳥屋でたまたま会って、飲みながら「フェスやっちゃおう!」と、まあ、ほぼノリで始まったんですけど、回を重ねるごとに規模が大きくなってきて、あれ? これっていつやめられるんだ…という感じで今に至ります(笑)。
2025年会場の様子
■第1回開催の舞台裏、開催は10月で寒さとの戦い
――そんな中、立崎さんは第1回目から参加されていらっしゃるんですよね?
立崎: はい。どのような感じでお声をかけていただいたのか、細かいことは正直あまり覚えてはいないのですが…(笑)。確か、「北海道で初めてウィスキーのフェスをやることになったので、参加していただけませんか?」という感じだったと思います。その時は厚岸蒸溜所が稼働して1年目。うちの社長が「ニッカが出るなら出るか」というような返事だったと思います。
本間:お声掛けの順番として、ニッカウヰスキーさんには最初にアプローチしていました。ニッカウヰスキーさんは、ウィスキーフェスのアンバサダーという立場でしたので、北海道のフェスにも参加はしてくれるだろうと思ってはいたんです。ただ、参加者の皆様、特に北海道の人からすると、ニッカウヰスキー以上に、まだ出来立てホヤホヤの厚岸ウイスキーが気になる存在だろうと思っておりましたので、厚岸蒸溜所さんには何が何でも出てもらえないと困るなと(笑)。
――なるほど。開催地の蒸溜所の注目度が高かったんですね。
本間:そうですね、ニッカウヰスキーさんはご存じのように既に北海道の顔のような存在で、ウイスキー関係のイベントにも、当たり前に出展してくださっている存在ではありました。その中で北海道に新たな蒸溜所が厚岸に出来るという報道が出てから、ウィスキーファンはずっとざわついていましたし。間違いなく初開催の目玉的存在になると思いました。
立崎:そうおっしゃっていただけると光栄です(笑)。ただ、初開催は10月だったので、寒かった記憶が強烈に残っています(笑)。
本間:「なんでこんな寒い時期に開催するんや~」って怒られました(笑)。でも仕方なかったのです。なにせ初めて開催するイベントなので、会場探しが難航しまして…やりたい時期はほとんど埋まっているし、もちろんまだ信用もありませんし…(苦笑)。
――それで翌年から夏に開催されることになったと。ちなみに1回目の出展数と参加人数はどれくらいだったのでしょう?
本間: はい。2回目からは夏にやろうってことで、すぐ動きまして、まぁ、2回目なので、多少の信用も付いたかな(笑)。第1回目の出展が54社で、参加者は1,100人でした。
――1,100人! 思っていたよりは集まっている方だと思いますが、それでもしんどかったんですね。
本間: なかなかしんどかったですね(苦笑)。は各店舗でも取り扱っていたのですが、多くのバーテンダー仲間の尽力もあって、中には2日に1回様子をうかがってくれる人もいて、
を複数買ってくれたり。改めて感謝です。告知してから4ヶ月しかなかったですし、コマーシャルにもお金かけられないから、実行委員のメンバーそれぞれがSNSで広めたり、常連のお客様にも口コミで拡散してもらったり…。
――その頃の参加者は、札幌や道内の方が多かったのでしょうか?
本間:そうですね、札幌在住の方が多かったと思います。元々BARが好き、ウイスキー好きという方が大多数でした。あとは他の地区で開催したイベントに行ったことがあるお客様が、「いよいよ北海道でもやるのか、どれ見てやろう」みたいな感じで。
――なるほど。そうなると来場者の方々も色々と知っていらっしゃるから、クレームもあったのではないですか?
本間:おっしゃる通り、色々なご意見を頂きました。ただ、ウイスキー愛に溢れているクレームが多かったです。「東京とか大阪は、こういうことをやっていたから、北海道でも出来るんじゃないの?」とか、「予算の兼ね合いとか、人の兼ね合いもあるから全部はできないとは思うけど、このフェスのファンになった者として書かせてもらいます。」というような、激励のメッセージも添えられていて、苦労が報われましたし、次も頑張ろうと思いました。そしてフェスが終わった後、お客様がを購入したお店に直接足を運んで、意見を伝えてくれたりもして。皆様の愛で、ここまで続けることが出来ています。
(株)イベント北海道 藤澤快世
■北海道の顔となった、厚岸蒸溜所の想い
――立崎さん、第1回目に参加し終わった時のことは覚えていらっしゃいますか?
立崎:1回目で覚えているのは、出せる酒がなかったということです(笑)。あの時はニューメイク(まだ熟成していない透明なウィスキーの原酒)くらいしかない状況でしたので、それを出すことになったはずです。関東や関西方面でニューメイクを出すと、割と厳しい意見も出るのですが、北海道のフェスに地元の新しい蒸溜所が参加して出しているんだから、温かく見守ってやるかという雰囲気があり、あまり文句は言われなかったですね(笑)。
――北海道って優しいというか、温かい方が多い。
立崎:地元の人をはじめ、蒸溜所を応援してくれる人たちは、本当に温かいですね。以前は厚岸の場所さえ知らなかった人が多かったですが、今は蒸溜所まで足を運んでくださる人も増えましたし。町の人口は残念ながらここ10年でかなり減ってしまっていますが、地元でイベントを開催することによって、流動人口を増やすことができて、地元にお金も落ちる。そういったことで、お世話になっている地元に恩返しができるのではないかと思っております。また、弊社の看板商品である二十四節気シリーズがもうすぐ完了するのですが、そのあとはどんなシリーズにするんですか? と、多くの方から期待されているということが伝わってきます。ニューメイクから始まった北海道ウィスキーフェス。改めて考えるとフェスの成長とともに、厚岸ウイスキーも熟成されてきているんですね。
■若年層の増加と、参加者の変化を受け止めて繋げる
――『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』第1回目の開催から9年、今年6回目を迎え、今実感していることはありますか?
本間:一番は、20代の若者の参加が増えたことでしょうか。最初はバーをよく利用する層、おそらく40〜50代が中心で、若い世代の方たちは、連れてこられたような感じで、仕方なくここにいるという雰囲気の方もよく見かけました。今は、その頃から参加している方も引き続き参加してくださっているので年齢層が幅広くなっています。もしかすると、その時に40〜50代だった人のお子様が成人して、一緒に参加しているなんて可能性もあるかもですね。
――若い世代にとっては、決してお安い金額ではない気がしますが…。
本間:そうですよね、決して安くはない(入場料6000円)と思うんですけど、参加されている方は、本当に真剣に話しを聞いている印象です。100社近く蒸溜所やボトラーズなどが参加していますが、事前にココ! と決めて、ピンポイントで足を運ぶ方が多いのも、若い世代の特徴のように思います。
立崎:予習がすごいんですよ。今はネットで調べることもできるので、かなり勉強してから来る子も多い。
本間:それは本当に思います。かなりマニアックな質問を投げかける方もいらっしゃって、たじろいでしまうことも(苦笑)。その中でも、やはり北海道の蒸溜所についてもっと知りたいという方が多いですね。ここ数年で北海道の蒸溜所が増えているのも要因ですが、北海道のウィスキーフェスに参加しているからこそ、地元の生産者の声を直に聞いてみたいという方も増えていると思います。
――今、若者はアルコールを飲まないと聞くことが多いですが、若い方が増えてくれて、『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』をやってきた甲斐がありましたね。
本間:本当にそう思います。ただ、飲み方のマナーというか、基本的なルールが守られていないことも、残念ながらあります。僕たちの若い時代は、先輩がバーに連れていってくれて、そこで飲み方を教わったりしていましたが、最近はそのような機会が少なくなっているようで、知識はあるけどネットだけでは学べない世界もありますので。せっかく興味を持って、自ら会場に足を運んでくれているので、会場内でマナーについて学べるセミナーなども、開催出来たらと考えています。
立崎:楽しんでいただくのは本当にありがたいのですが、北海道のフェスは、他会場と比べると、(若い世代だけではなく)若干ワチャワチャしているというか、セミナーに参加される方も既に温まって(ほろ酔い状態)いらっしゃる方も多いので、内容がちゃんと届いているか不安になることもあります(苦笑)。今年はじめて、フェスの前日にもセミナーを開催することになったので、よりお客様とコミュニケーションが図れるよう対話式にしてみようと思っています。
本間:実行委員会側とお客様の考え、そして時代背景。長く続けていると少しずつズレが生じることもありますので、都度バージョンアップし、10年後も多くの方に楽しんでいただけるフェスにしていきたいと願っています。
2025年の出展者と実行委員会集合写真
■北海道のフェスの特徴は、観光との融合
――改めてお聞きしますが、北海道でフェスを開催することに、どんな意味や魅力を感じているのでしょう?
本間:それはやっぱり“観光旅行”と一緒にフェスを楽しんでもらえているということですかね。道外からお越しのお客さまは、せっかく海を渡って北海道まで行くんだからフェスの前後に蒸溜所まで足を運んでみよう、気になっていたバーに行ってみようという方も多く、開催当初は地元のお客様が多かったですが、ここ数年は3割強ぐらいが道外・海外から参加しています。
――食も景色も、楽しめる時期ですもんね。
本間:はい! だからこそ、夏の開催にこだわっています(笑)
立崎:厚岸も、本州からはとてつもなく遠いですが、北海道に足を踏み入れたら陸続きですので、立ち寄れない距離ではないですし(※それでも遠いです)。個人で行くとなるとハードルが高いですが、バスツアーなどがあると、喜ばれそうですね。
本間:実は2年前に試したことがあります。実行委員会としてはなかなか体力勝負な点もあり、次回の開催は未定ではありますが、やはり現地に行ってその場所の空気を感じて試飲していただき、より北海道のウィスキーのファンになってもらいたいと思っているので、また実現させたいという気持ちはあります。
立崎:新しい蒸溜所も増えていますからね、私も楽しみにしていますよ。
――『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』をきっかけに北海道を周遊してくれることが、北海道全体の活性化につながりますよね。
本間:北海道の夏は、ウィスキー以外でも様々なイベントが開催されていますし、日本や世界各地からのお客様が食とアルコールを楽しんでくださることによって、北海道の活性化、そして地元への恩返しに繋がります。それが、今後もフェスを開催し続ける理由にもなるんじゃないかなと。
■最後に改めてのメッセージ
――実行委員長として、最後にこれだけは伝えておきたいっていうこと、何かあれば。
本間:まずは入場券を買って、当日会場に来てみてください! やっぱり伝えたいのは、北海道で地元の生産者の方と会って直接会話をしていただいて、その会話を肴にバーで、「あの人が作ったのがこれか…」という体験をしてほしいのです。普通に飲むより、生産者の方に会ってからバーで飲む一杯って、同じウイスキーでも重さが違うということを感じていただけると思っています。
立崎:私たちは普段、飲み手の方と直接お会いする機会はそう多くありません。なので普段はバーテンダーさんに、自分たちが作った作品をゆだねて提供してもらっています。フェスは私たちにとっても、飲み手となるお客様と直接会える貴重な時間です。皆様の“美味しい”の一声が、次の商品作りの力になります。会場でお会いできることを、楽しみにしています。
(株)イベント北海道 藤澤快世
『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST』は、赤字覚悟で始まった小さな一歩から、今や道外・海外からも3割以上が訪れる一大イベントに成長。本間実行委員長と厚岸蒸溜所の立崎氏の対談からは、地元愛、文化継承への想い、そしてアルコールツーリズムによる北海道観光の活性化という新たな可能性が見えてくる。フェスは単なる試飲イベントではなく、作り手と飲み手、そしてバーテンダーをつなぐ「場」であり、北海道のウイスキー文化を未来へと紡ぐ重要な役割を担っている。10年後、フェスで学んだ若者たちが次の世代へマナーと文化を引き継ぐ姿を、二人は思い描いている。
『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST 2026』は7月19日(日)グランドメルキュール札幌大通公園(旧ロイトン札幌)にて開催。
取材・文:オサナイミカ 撮影:株式会社 イベント北海道 藤澤正秀
イベント情報
『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST 2026』
■会場:グランドメルキュール札幌大通公園
(旧ロイトン札幌)3Fと2Fの全フロアを使用
(〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西11丁目)
■入場券:6,000円(税込)
https://eplus.jp/hokkaidowsf2026/
※マスタークラスの参加には、7月18日(土)・7月19日(日)どちらのクラスであっても、別途7/19(日)開催『北海道 WHISKY & SPIRITS FEST 2026』の入場券が必要となります。
https://eplus.jp/hokkaidowsf2026_masterclass/
≪7月18日(土)≫
13:00開始「ニッカウヰスキー90年の原酒づくり、次なる100周年に向けて」
(講師:ニッカウヰスキー株式会社 シニアブレンダ― 尾崎 裕美)
16:15開始「厚岸蒸溜所11年目の挑戦と未来予想図」
(講師:堅展実業株式会社 取締役 ウイスキー事業本部 本部長 チーフブレンダー 立崎 勝幸)
≪7月19日(日)≫
11:45開始「THE SINGLE CASKのすべて」
(講師:株式会社シングルキャスクジャパン 代表取締役 佐々木信平)
13:45開始「苫小牧蒸溜所から生まれる、ブレンデッドウイスキーの未来」
(講師:ベンチャーグレイン㈱ 苫小牧蒸溜所 工場長 橋本 崇宏)
16:30開始「~欧州の銘酒 フルコースを愉しむ~」
(講師:THE BOW BAR 代表取締役 本間 純矢)
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