Bialystocks 大きな空間を集中させる音楽の興奮と歓喜、規格外のライブを見せた初武道館公演レポート
Bialystocks
Bialystocks NIPPON BUDOKAN
2026.7.15 日本武道館
この世とあの世、意識と無意識、都市と自然、自分と他人。Bialystocksのライブはそれらのあわいに(間に)我々オーディエンスを立たせる。自分の体や意識を規定しているものから解放されるのは彼らの音楽が深くルーツや技術に基づいている上で、それらの総合体として軽やかに逸脱しているからだろう。
映画監督でもある甫木元 空(Vo,Gt)の監督作品『はるねこ』の生演奏上映に伴いタッグを組んだ、主にジャズシーンで活動していた菊池 剛(Key)らとの出会いが2019年。初期にはインディミュージック好きのアンテナに触れ、CMやドラマ主題歌などで徐々に広くリスナーを獲得していった彼らのファンは驚くほど多様だ。強いステートメントもコンセプトもなく、音楽と漏れ伝わる人柄だけで形成された出入り自由な、しかし濃淡ありつつのBialystocks中毒者たち。Bialystocksが初の日本武道館公演を満員御礼に導いた。
開演時間になるとBialystocksのオリジナル曲をビッグバンドにアレンジにしたOvertureが流れ、暗転するとなんと2人はアリーナ東・西のドアから別々に入場。すれ違っても視線を交わさないのはなんとも彼ららしい。個が個であるまま音楽という接地点で共鳴すること。それはバンドメンバーも同様だ。「Upon You」の幕開けとともに雛壇にはすでにバンドメンバー、朝田拓馬(Gt)、越智俊介(Ba)、小山田和正(Dr)、市原ひかり(Tp)、オオノリュータロー(Bvs)がスタンバイ。リズムに合わせてクラップが大きくなる。オープニングに相応しい朗らかさを湛えたライブアレンジは、ストイックさよりリラクシーなムードが前景化しており、珍しいなというのが最初の印象。「Bialystocksです。よろしくお願いします!」と甫木元が挨拶すると、その後はひたすら演奏に集中していく。最新曲「一瞬」ではフュージョン寄りのギターサウンドや大会場に映えるタム使い、深呼吸したくなるトランペットが晴れやかさを増幅する。最近、シカゴやドゥービー・ブラザーズの再解釈的な曲を洋邦問わず耳にするが、この曲もその一角で光る。虹色のライトが珍しく感じた「聞かせて」、甫木元がアコギでパーカッシヴなグルーヴを作る「頬杖」は後半、菊池のサンバのピアノリフにも自然に繋がりテンポアップ、そしてスローに着地するとちょっと旅した気分に陥った。精緻かつ剛腕なライブアレンジで毎回新鮮に響かせるBialystocksのライブはそれだけに演奏に異様に集中してしまう。
武道館だろうがMCなしで曲をどんどんやっていくスタイルは不変。菊池の長めのピアノソロからノワールな「憧れの人生」で序盤からの空気を変え、少し喉に引っかかるブルージーな歌唱も交える甫木元に底なしのポテンシャルを見る。ダークだが熱い演奏が頂点を迎えると割れんばかりの拍手と歓声が起きた。間髪入れず残響のないベースのアタックが響くと「灯台」へ。凄まじい高低差の歌メロに満員のオーディエンスが息を詰め、甫木元が見事にフィニッシュするとまたも割れんばかりの歓声。ライブが初めてのオーディエンスにとっては「これがBialystocksの凄さの一つか」と唖然とする場面だったかもしれない。が、矢継ぎ早に「花束」では切なくも苦しいファルセットの歌い出しや、言葉数の多さと上り詰めていくメロディを持つ「Over Now」と何度も圧倒してくる。甫木元 空という歌い手がそもそも特定のジャンルに所為しないが故の押し付けがましさのなさは、何度ライブで実感してもいい意味で変わらない。デジタルクワイアを施した「Thank You」がオリジナルとは違うインディR&Bのニュアンスを纏ったのも新鮮で、どこかフランク・オーシャンが革命的だった2010年代終わりの空気を感じつつ、続く「あいもかわらず」では最終的に7人全員がアコギとコーラスで参加するという楽隊スタイルがメンバーのセンスの合致を窺わせた。そこから肩の力の抜けたアレンジの「言伝」への繋がりもナチュラルだ。
時代を超えて普遍的なロックバンドのダイナミズムを感じる楽曲も要所に配置された印象で、リリースされた時も中期ビートルズ的な全体像が新鮮だった「Kids」が、この日はさらに存分に特徴的なサウンドのギターソロに、ビートルズだけでなくクイーンのオーケストラっぽい厚みも加味する。音量でも圧倒し、この曲が自由に手足を伸ばし切ったカタルシスに包まれる。それに浸るまもなく連綿と続く水のようなピアノリフが静謐な祈りめいた「Branches」。終盤、開かれたトランペットの音で曲の姿を変え、「日々の手触り」のイントロに繋がるのも白眉だった。この曲のAメロでは甫木元は菊池の背後にまわり、照明はランタンの灯りのみ。個人的には今は亡き人に現状報告するように聴こえるこの曲に演出がハマりすぎて、この日は特に響くものがあった。巧さと直向きさにしか生み出せない感銘は続く「All Too Soon」での菊池のピアノソロが雄弁で、ジャズのインプロビゼーションとも違うポップスの文脈にある曲でオーディエンスの集中力をどんどん上げていく、その事実にも感銘。武道館のスケールで着席したままこんなグルーヴが生まれる現場は体験したことがない。
演者もオーディエンスも個々の内面に潜るドープなセクションに続き、初期作品『ビアリストックス』(2021年2月発売)からフックのある展開でライブでの披露が常に期待される「コーラ・バナナ・ミュージック」と「I Don’t Have a Pen」を続ける。タイトル通りちょっとナンセンスなリリックではある。実際《コーラ飲―――――――み過ぎた》とロングトーンで熱唱されると、真剣勝負のグルーヴにあっても笑いながら拍手したくなるのだ。そしてスタートしたら降りられないジェットコースター級の展開を見せる「I Don’t Have a Pen」がピアノループから始まると、朝田と越智が雛壇から降りてきてロックバンドらしい佇まいを見せ、甫木元とオオノはノンストップのメロディを駆け、暴発寸前の熱量をエンディングで解放、爆発的な拍手が起きた。思わず甫木元が「サンキュー!」と叫ぶのも無理はない。
オリジナルよりフォークっぽさとAORの洒脱が共存するアレンジの「幸せのまわり道」から、「光のあと」に接続すると、シンプルなバンドアレンジもあるのか、これまで聴いたこの曲のどのバージョンより愚直に立っている人間が表出する。オレンジの照明がまるで漁火のようにも見え、主にそれは甫木元の複雑でいてどこか素朴なフィロソフィと見事にマッチしたように見えた。妥協のない演奏やアレンジと共に歌がそのまま飛び込んでくるリリックが続くことで、こちらの感情も観察から共鳴の色を濃くしていった終盤、亡き父親との情景を描いた「夜よ」の浸透力はとんでもなく、バンドの演奏がビートルズの「ヘイ・ジュード」並みにアウトロのセッションを繰り返すことで感情が溢れそうになる。あれは即興だったのだろうか? 「ごはん」の一節が盛り込まれ、その時の甫木元の歌唱はアドリブとかフェイクの類ではなく、個人的な印象では今見えた何かを掴もうとする精一杯の跳躍だった。
フィニッシュを決め、ここで終わってもおかしくない高揚を見せたが、今年の新曲リリースを考えるとまだ終わらないだろう。大団円にふさわしく「Everyday」のオルガンとアコーディオンの重奏が聴こえ、歌とピアノのみのAメロに滑り込んで行く。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」の構造を思わせるこの曲。バンドの外へ外へ開かれていくエネルギーを活かしたライブアレンジがまた、続いていく人生の悲喜交々を立体的に表現。金色の紙吹雪が、冒頭のショー的な演出にまた戻ってきた感覚が浮かんだのも、もし意図と合致していたとしたら素晴らしい演出だ。
本編で約2時間の映画を堪能した、いや、自分も映画の中に存在していた気持ちに浸っていると存外早くメンバーが再登場。「別に今日の武道館が何かの終わりでも始まりでもありません。出会ってきたすべての方々にありがとうございます」と甫木元。最小限の言葉だが雄弁だ。バンドメンバーとスタッフ、そしてリスナーへの感謝の言葉を口にすると、万雷の拍手が弾ける。「年内にはアルバムをリリースして、ホールツアーもやります。また一緒に遊んでください」と、ファンにとって最大のプレゼントを残し、アンコールはバンドマスター菊池を労うように朝田と越智がキーボードに寄り添って演奏した「差し色」、そして早耳の音楽好きによって見出された初期ナンバー「Nevermore」。甫木元がテレキャスターを携えた瞬間、ここまで座って息を呑むように見守っていたアリーナもスタンドも立ち上がってクラップ。ラスサビでは上げた手が拳を握ってしまうファンもいるほどの歓喜が武道館に充満した。
Bialystocksはこの哲学を保ったままどこまで大きな空間を集中させるのだろう? 終わりでも始まりでもないのなら、これからもその過程に自分も立っていたいと心から思った。
取材・文=石角友香 撮影=小杉歩・廣田達也
ライブ情報
日付:2026年12月22日(火)
会場:東京・LINE CUBE SHIBUYA
開場/開演:18:00/19:00
日付:2026年12月23日(水)
会場:東京・LINE CUBE SHIBUYA
開場/開演:17:30/18:30
日付:2027年1月23日(土)
会場:愛知・岡谷鋼機名古屋公会堂
開場/開演:17:30/18:30
日付:2027年2月11日(木・祝)
会場:福岡・福岡市民ホール 大ホール
開場/開演:16:30/17:30
日付:2027年2月13日(土)
会場:群馬・高崎芸術劇場 大劇場
開場/開演:17:30/18:30
日付:2027年2月19日(金)
会場:宮城・東京エレクトロンホール宮城 (宮城県民会館)
開場/開演:17:30/18:30
日付:2027年2月23日(火・祝)
会場:京都・ロームシアター京都
開場/開演:17:00/18:00
日付:2027年3月28日(日)
会場:大阪・フェスティバルホール
開場/開演:17:00/18:00
日付:2027年4月4日(日)
会場:神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
開場/開演:17:00/18:00
<
座席/ 料金:指定席8,800円(税込)
受付URL:https://eplus.jp/bialystocks2026/
■「Bialystocks New Album Tour 2026-2027」特設サイト:https://bialystocks.com/tour2627/