【話題の浮世絵展の監修者に突撃インタビュー#後編】「明日を生きるヒント」が見つかる、浮世絵の魅力とは

インタビュー
2016.3.2
東京国立博物館 研究員 松嶋雅人/撮影=山岡美香

東京国立博物館 研究員 松嶋雅人/撮影=山岡美香

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3月より、渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催される美術展「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」。世界有数の浮世絵コレクションを誇るボストン美術館より、1万4千枚を超える作品の中から選りすぐりの歌川国芳、歌川国貞作品が170件・約350枚が出展される。本展の監修を務めるのは、東京国立博物館 研究員である松嶋雅人さん。アートに疎い新人シマザキだが、今回の展覧会・作品を知り、魅力を伝えることができるようになるために、お話を伺ってきた。前編では主に、本展の監修にあたって松嶋さんが大切にしてきた想いについて語ってもらった。後編では、浮世絵に学ぶ生き方のメソッドや浮世絵がもっと楽しくなるノウハウを伝授する。

 
 
――今回厳選した絵の中でこれは当時すごく人気だったというものはあるんですか?
 
逆に売れなかったやつっていうのは記録に残ってるんだけど(笑)。人気というと、国芳の絵で三枚続のものとか、時々摺り方が違う絵があるんです。最初に作ったものが売れすぎてしまって、もう一回彫り直しているから。1枚の版木って2~3百枚摺ったら木がすり減って線が弱くなるので、もう一度彫りなおさなければいけないんですよね。普通は売れなかったらその最初の版で終わっちゃうんですけど、これは「後摺り」といって、売れまくったら次から次へとその版木を新しく作るんです。そこまで売れている作品っていうのが国芳も国貞もたくさんあるんです。でも、さっぱり売れなかったというのもある(笑)。
 
――そういう記録も残っているんですね。
 
版元の人で日記を書いていた人もいるので、残っています。当時は武士はほぼ100%で、文化に関わっている人、いわゆる商売人の識字率は、日本で5、6割ともいわれています。そんな国ないですよ。その頃の識字率も含めて日本文化のすそ野というのかな。ヨーロッパの貴族や軍人のような高いクラスの人はお金も領地もあったからこそ文化程度も高かったけれど、日本の場合、文化程度に関しては庶民層まで触れることができていた。だから、こういうポップカルチャー、一般の人が買うような品物でクオリティの高いものっていうのは海外にはそうそうありません。
 
東京国立博物館 研究員 松嶋雅人/撮影=山岡美香

東京国立博物館 研究員 松嶋雅人/撮影=山岡美香

 
――「日本文化のすそ野」というと?
 
日本は貧乏でも、自分が出来ることを一生懸命やって、そのなかで楽しむ方法論があったんです。浮世絵はそれが一番体現されているし、感じられるでしょって思います。そういう考え方ができる国はやっぱりなかなかなくて。結構いまの日本人もやっていると思いますよ、それぞれの趣味で。土日にはBBQだかなんだかやりながら(笑)。
 
――ちなみに松嶋先生が個人的にお気に入りの絵はありますか?
 
難しいな~~(笑)。
 
――どういう視点で「良さ」を感じてるんですか。
 
作家別に言うと、やはり国芳は当時の“粋な人”、“かっこいい人”の象徴を作り出した点。絵柄がファッションとして実際に流行ったり、現実には存在しなかったものを、絵に表したことで作り上げてしまうっていう。そういう国芳の方向性は良いよね。あと、国芳の一番の特徴は“一枚だけあっても意味が分からない”ことなんです。普通は一枚にひとつのモチーフを描きますが、国芳は複数枚を組み合わせて、一つのモチーフを描きます。大きな迫力や動きを見せる絵――それを作った創始者のような人物なんです。国貞はこういうの描けないですよ、描いてないです。
 


歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」  嘉永4, 5 (1851, 52) 年頃 
William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001  Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston
 

――確かに国貞の三枚絵は、繋がっているのは背景だけですね。
 
そう、だから僕はどの絵が、というよりもこの“動き”が本当に見える絵を是非ご覧いただきたい。実は動きを見せるときも工夫がしてあって、方向性があるんです。画面の中にあえて間を作ることで、モチーフがどちらに向かっているのかが分かったり。そういう工夫にすさまじい魅力を感じますよ。
 
―― 一方で国貞の良さはなんでしょう?
 
国貞はいいとこのボンボンなのでなんとなく昔はいけすかない感じで見てたんですけど(笑)。最近、国貞の描く女性を見ていたら本当に今のkawaii文化そのものだなっていう風に僕は思えてきて。男から見た女性の美しさ、可愛さとかそういうものをそれぞれきちんと描いているんです。
 
シマザキ/撮影=山岡美香

シマザキ/撮影=山岡美香

 
――なんとなく繊細な雰囲気がありますね。
 
そう、様々な商業の人を描いていても、姿勢であったり仕草であったり、それだけでその人の性格やその時その時の状況がすごく分かるんですよ。家事をしてますとか、いたずらしてますとか、仕事の合間です、とか。そして、何がすごいってそれだけでなく、国貞は当時の有名ブランドのおしろいを絵の中に入れたりして、宣伝も同時にするんです。タイアップでやっていて、本来は男の目で楽しんでいた女性画、美人画なのに、最終的には女性もそれを見て憧れを抱くようにという思惑があったのではないかな。単に売り物としての版画というだけでなく、宣伝活動も行なっている形なので、今の“カワイイ文化”に近い考え方なんだろうなっていう気はしています。
 
――最後に、このインタビューを見て「行ってみようかな」と心が揺れ動いている方がいらっしゃると思います。その方に向けて、背中をあと一押しするようなメッセージをいただけますか。
 
単純に、「知らなかったらもったいないな」という気持ちが僕は強いんです。浮世絵の見方を教えてください、という方は本当に多いんですが、日本の美術でも何でもいい、一度絵の見方を身に着けてしまえば、絶対に次に進めます。だけど、それを勉強して日本絵画の知識が増えるとかそんなの全然目的にする必要は全くない。はじめから言っているように、例えば1枚の浮世絵を見ることで気持ちの持ちようが変わったり、また明日も頑張ろうかな、ってなにかしら「明日を生きるヒント」が見つかると信じています。だって楽しいから。楽しいことって往々にしてお金の無駄だけど、これってすごくお得ですよ(笑)。ドラマも映画も日々新作が生まれているけど、浮世絵はもう存在していますから。これだけのものをもう一度全部作ろうっていわれたら、○億円単位でかかっちゃいます。
 
インタビューの様子/撮影=山岡美香

インタビューの様子/撮影=山岡美香

 
―――そのコスト考えたら、これを国内で見ることが出来るって確かに安いですね。
 
それに、こんなに古いものだけど、現代のクリエイターが浮世絵をMVとかCMのバックに使うってことは、要はかっこいんです。そのまま昔の造形のセンスが今の人に通じちゃうっていうかね。その時代や価値観を飛び越えてしまうほどのものを楽しまない道理はないよなっていう。だからもったいないなと思います。そして、ここまで綺麗なものは街中ではありませんが、神田の古書店に行けば浮世絵は今でも売っているんです。浮世絵は複製芸術で何百点もあったので、みんながかっこいい、楽しいって大切に持っていて、それがおじいちゃんおばあちゃんから子へ、あるいは古書店へと引き継がれていくわけです。そうして200年ほど経った今も売られて買う人がいる。これを買って、額に入れて家に飾ったらそりゃもうかっこいいですよ。そういう自分の生活の中で楽しめるノリも未だにあるので、ある意味すさまじく身近な芸術です。勉強だなんだというよりは、そうやって飾ったり見て楽しんでいた人の方が圧倒的に多いので、やはり、単純に見て楽しいな面白いなと感じていただけたら嬉しいです。
 
――ありがとうございました。


インタビュー・文=シマザキ  撮影=山岡美香
 
イベント情報
ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞

会期:2016/3/19(土)~6/5(日)※会期中無休
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷・東急本店横)
主催:Bunkamura / ボストン美術館 / 日本テレビ放送網 / 読売新聞社 / BS日テレ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/kunikuni/

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