『なのに、ハードボイルド』かもめんたる&上田誠に話を聞く

2016.2.26
インタビュー
舞台

(左から)かもめんたる(槙尾ユウスケ、岩崎う大)、上田誠

ネタと向き合うべき芸人として、今までと違う方向を耕していきたい(岩崎)

そのコンビ名通り、人間の精神(メンタル)を鋭くえぐるような異色のコントを作り続けるお笑いコンビ「かもめんたる」。岩崎う大が生み出す、人間の闇の部分を巧みに笑いに変えたネタを、冴えない勤め人からピチピチの女子高生まで自在に演じ分ける槙尾ユウスケが体現するコントは、お笑いマニアだけでなく、実は演劇関係者の間でも非常に評価が高い。「ナイロン100℃」や「表現・さわやか」などの舞台公演に出演するだけでなく、前回のコントライブからは「ヨーロッパ企画」の上田誠を構成協力に招き入れるなど、より演劇的にも確立された笑いを目指しているように見えるかもめんたる。今回は新作『なのに、ハードボイルド』の話に加え、彼らの世界の本質や今後目指していく道などについて、上田誠も交えて話してもらった。

■“面白い”と思うことが、すでにいい形でできあがってます(槙尾)

──今回も上田さんを呼んだのは、やはり前回のライブの感触が良かったからですか?

岩崎 そうですね。単独ライブを作ってると、いろいろ不安なことが多いんですけど、上田さんに相談に乗ってもらうことで、思った以上にいろんなアドバイスをいただけたり、気持ち的にも楽になったりしたので。
槙尾 お客さんの満足度もすごく高かった気がしますね。「今までで一番面白かった」って言ってくださる人も、すごく多かったですし。
岩崎 だからもう、毎回お願いしたいと。仲違いするまではお願いしたいです(笑)。
上田 すごく良いように言って下さったんですけど、僕は「構成協力」なんていうのがおこがましいぐらい、ただ話相手になってるだけで…でもその部分が、う大さんにとってはかなり大きいと思うんですよ。僕も同じなんですけど、コメディとかお笑いの脚本って、不安な状態ではなかなか笑えるものは書けない。「それいいねー、それいいねー」という、カン違いしてるぐらいの熱の中で書く方が勢いが出るし、遺憾なく変なモノが作れると思うんです。でも本当に、普通に話をしているうちに、もともとう大さんの中にあるモノが育っていくのを、横で見てるという感じでした。
岩崎 そうですね。上田さんが枠を用意して「ここに当てはめて下さい」という感じじゃない。僕がこう行きたいのなら、こういう所に支えを立てましょうという感じ。しかもアイディアをいっぱいくれるし、趣味とか嗜好も似てるんで、僕の少ない言葉でも理解してくれるという所もあって、すごくやりやすいです。
槙尾 よっぽどシンパシーを感じるんでしょうねえ。他の芸人さんは、相談する作家さんを付けるのが割と当たり前になってるけど、う大さんはそういう人が今までいなかったから。

──槙尾さんに相談はされてなかったんですか?

槙尾 一番最初に(ネタを)教えてもらってた時期はあったかもしれませんけど、相談はされたことない(一同笑)。(脚本の)形になった状態で見る感じです、大体。
上田 プレイヤーですからね。
岩崎 そうそう。槙尾には、出来上がったものに対する、第三者の目としての判断を仰ぐという感じです。(事前に)相談しちゃうと、冷静な目がなくなっちゃうんで。
槙尾 あ、そうか。そのネタの根本となる「これが面白い」みたいな要素を先に聞いちゃうと、僕もそこにすぐ共感して冷静な判断ができないとか、あったかもしれないです。やっぱり、事前に何も知らない状態で作品を見ると「これ多分、根本の面白さが伝わってないですよ」と言えたりする。確かにその差はあります。
上田 多分僕と一緒にさせてもらった作業は、どっちかって言うと割とぶっ飛ばすような作業。それを槙尾さんがプレイヤーとして最終的にまとめ上げるというので、う大さんはバランスを取りながらやってるんじゃないかなあと、勝手に想像してるんですよ。
槙尾 でも今回、出来上がった本を4本ぐらい見せてもらったんですけど、今までとちょっと印象が違いましたね。
岩崎 どういう印象だった?
槙尾 今までは、第一稿感がすごくあった気がするんですよ。一回バーっと書き上げて「どうせここから直すから」みたいなテンションだったんですけど、今回は「自分が“面白い”と思うことを、どう表現したらいいか」というモノがすごくわかりやすくなってるというか、すでにいい形で出来上がってるという印象です。
上田 でも多分やっぱり、う大さんがグングン作家に目覚めてるんじゃないですかね?
2人 (同時に)えー?!
上田 (話を)書く機会が増えてるじゃないですか? 漫画もそうだし、脚本も最初は一人で書いてるつもりだったけど、だんだん複数の目線…複数のう大さんが出てきて、会議がなされるという状況が生まれてきたというか。
岩崎 確かにそうですね。すでに僕の中には仮想の上田さんが存在していて(笑)、シミュレーションしながら作ってるという状況が生まれ始めているんですよ。その仮想の中にも、自分で設けている関所みたいなのがあるんですけど、前よりもそのポイントを通る効率が良くなってるのかもしれないです。

前回ライブ 『抜旗根生~ある兄弟の物語~』より(上下とも)

■それぞれのコントは深い所でつながってるんです…と自分で言います(岩崎)

──2回目ということで、今回何か変えようと思ってる所とかはあるんですか?

上田 前回は共同作業が初めてということもあって、「いつもと違ったライブにしよう」っていう意気込みが、何となくお互いあったんですよ。槙尾さんにジャグリングをやってもらおう、とか。
槙尾 あー、確かに新しい試みでしたね。ちょっとだけ練習したけど、結局陽の目を浴びないまま終わりました(笑)。
上田 でも今回は、そういう浮ついたことというか、力みが抜けましたね。もっと堂々と、う大さんワールド…かもめんたるワールドをより深めたという感じじゃないですか? その印象がすごくありますよ、僕。

──タイトルの「ハードボイルド」の意図は?

岩崎 僕らはタイトル先行で決めて、そこからいろいろ広げていって、最終的にタイトルが何となく意味を持っていた…というスタイルでやってるんですけど。今回も「ハードボイルドとは?」までは行かないんですけど、そこに全体の話が収まっていくというのはあります。
上田 かもめんたるさんのスタイルって、一個の縦軸にすべての話がつながってるというよりも、それぞれの作品がオムニバスになってるというニュアンスで作ってる部分の方が大きい気がして。だから今回も『なのに、ハードボイルド』というテーマにつながっていくこともあるんですけど、1本1本のコントは独立したコントだなあという風には思っています。
岩崎 そうですね、やっぱりコントの面白さ優先で。あと僕ら、全体の統一感は持たせてるんですけど、他のライブでよくあるような…単純に前のコントに出てきた人が最後に出てくるとか、同じ小道具を使うというようなつながり方とは、まったくの別物でやらせてもらってます。わかりやすいつなげ方じゃないから、たまに「中途半端につながってる」みたいなクレームを入れてくる人もいるんですけど。実はそうじゃなくて、もっと深い所でつながってるんですよって…僕はねえ、もう自分で言います、これは(一同笑)。
槙尾 そう自己評価している、みたいな。
上田 でも本当にそう。「ここつなげられますよね」って言ったら「そういう浅いつなげ方するならつなげない方がマシだ」というような所が、かなりう大さんの中にはある。
岩崎 簡単なつなげ方じゃないけど、僕はもっとお客さんを信用して、もっと深い所で「ここがつながるんだ」ということを。「笑いの冒険」とはまた別の所で、もっと笑い以外の世の中の要素としての、何かつながりみたいな所を発見していきたいという…ちょっと今、よくわかんないこと言っちゃってますけど。
上田 でも、ある宇宙の法則みたいなことが、やっぱりあるんですよね。
岩崎 それがね、表現していきたいこと。ダサいシンクロニシティみたいなのが、僕好きなんで。何かと何かを勝手に「つながった」と思ってる人間とか、そういう存在が面白いとか思ったりするんですよ…ということを、上手くまとめてください(一同笑)。

■「明るくなくてもいい」というのが、作り手の希望になっているのでは(上田)

──かもめんたるさんは自分たちの世界を「グロテスクと愛」って説明してるのを見たんですが、確かに愛だけじゃないけどグロテスクにも行き過ぎてない絶妙な感じが、オリジナルな笑いだなあと思いました。

岩崎 あー、僕ら結構それはありますねえ。
上田 槙尾さんもそういうのは好きなんですか? 何て言うか、かもめんたるのお2人の中では、ポップに見えるじゃないですか?
槙尾 ありがとうございます、ポップ担当ですよね(笑)。でも本当はそういうグロテスクだったりとか、ポップではない方が、僕はやっぱり好きなんだと思います。でも自分の中では、結構これがポップだと思ってたんですよ。お笑いを始めたのがう大さんと出会ってからなんで、それしか知らないみたいな。「これがお笑いだ」と思ってたら、実はお笑いの中では結構少数派の世界だったと、後から気づいた感じです。

──でも演劇だと、たとえば「大人計画」さんとか「ナイロン100℃」さんみたいに、グロテスクと愛の両方があるコメディは結構メジャーになってますけど、お笑いでそれをやってるのはまだ珍しいのかもしれないです。

槙尾 ほー、なるほど。でもグロテスクと愛って、客観的に言われたのが初めてというか、改めて言われると「あ、そうなんだ」って気持ちになりますよね。僕らは自信を持って「演劇的な要素を踏まえた、グロテスクと愛の笑いなんだな」っていうのを。
岩崎 その部分はまあ、僕の中ではサービス精神に近い。笑いだけよりも、何かそういうグロテスクなモノがあった方が良いんじゃないかって。
上田 そうですね。かもめんたるさんは、コントの深度がやっぱりすごいんで。台本とか読ませてもらってると、もう最初の一言二言目で、ブワーッと深い所まで潜ってることが多いんです。普通はね、逆なんですよ。アッパーというか、どんどん上に飛翔していくイメージの芸人さんはすごく多いと思うんですけど、どんどん深堀りしていくような印象なんですよね。

──確かに、ツッコミの人がイヤな所を突いてくるなあと思ってたら、ボケの人がそこからさらにイヤな所に突っ込んで行くとか、そういう畳み掛けが笑えるけど怖くもあります。

岩崎 それが僕の中のリアリティというか、本当はそういうことが世の中のルールのような気がしていて。そんなことって往々にしてあるし、むしろその世の中を面白がった方がいいんじゃないかと思うんですよね。みんなが目を当てない部分にあえて目を当てて、そしてそれを許そうぜと(笑)。みんなそうなんだから安心しようよっていうのが、僕の考えなんです。
槙尾 確かに「みんなが目を当てない」って言うと「別にそこは掘らなくていいじゃん」みたいになるけど、あえて掘ってるという感じですよね。

──でもそういう目を当てない…当てたくないような部分を、コントという形で突きつけられると「ああ、そういう部分あるわ」って、意外と素直に見れちゃいますよね。

岩崎 そうですよね。お笑いって結局、理解できないと笑えないんですよ。自分の中のイヤな部分とか、何かどっかでわかることを描かないと、笑いにならない。簡単に言うと「あるある」じゃないと笑わないんです。そういう風に言うと、人間の誰しも持ってるモノっていうのは、何でも「あるある」…笑いになるわけなんです。その「目を当てない」部分を誰も掘ってないのならば、笑いにできる要素がまだそこにはいっぱい埋まってるはずだとも言える。そこは今後も掘っていきたいですね。
上田 そうですね。う大さんは何かネガティブな感情だったりとか、そういう「今、変な感じに一瞬なったな」みたいなことに、すごく寄り添って作られてるなあと思います。多分ある低温…何て言うんでしょう? 温度がすごく高い状態で作るとかじゃない気が。
岩崎 その温度じゃないと培養できない笑いが(一同笑)。あんまり明るい場所だと死んじゃうから、暗闇の中で作業して増やしていかなきゃいけない。
槙尾 低温で人のイヤな所を培養してるっていう。
岩崎 で、槙尾はその検体(一同笑)。
上田 サンプルだと(笑)。でもやっぱりエンターテインメントをやってると、つい強迫観念のように「明るく明るく」ってなりがちなんですけど、かもめんたるさんはそっちじゃない方に、いかに早く引きずり込むかという。それがやっぱり一番面白いと思う所だし、一緒に作りながらすごく癒される部分でもありますし(笑)。

──「暗い所って落ち着くなあ」みたいな。

上田 そうですね。そこで笑いを成立させているということが、きっと多くの作り手の人にも影響というか…「明るくなくてもいいんだ」という希望になってる感じがします。

■ポップだとだまされて入って、いつの間にかハマったみたいな人が増えれば(槙尾)

──今かもめんたるさんは、コントに対してハングリーな気持ちが高まってるとも聞いたのですが、そう思うきっかけがあったんですか?

岩崎 去年「キングオブコント」の準決勝で敗退したことへの悔しさもあるし、それによって吹っ切れた部分もありまして。これまた精神的な話になるんですけど(笑)、僕は「キングオブコント」で優勝したけど、その後TVでいわゆるスター街道を歩いてるみたいな芸人人生を送ってはいない。それはなぜだろう? と考えた時に、やっぱり僕は今後もネタと向き合っていくべき芸人なんだということじゃないか? と思うようにしたんですね。今までは一応TVの方向に向いてたけど、実は他の方向を耕していく方が、その先には幸せが待ってるんじゃないかって。そうすれば、いつか笑いの神様が「お前は俺の言ってることがようやくわかってきたなあ」という風になって(笑)、新しい成功につながるのかなあと。つまり今は、もっともっとコントを作る方向でやっていきたいというのが、自分の正直な気持ちなんです。
上田 でも今現在、TVとは違う方向にいち早く身を投げるというのは、よっぽどの度胸…というか、覚悟がないとできない選択だと思うんですよ、きっと。何がメジャーで何がマイナーなのかとか、時代の趨勢(すうせい)みたいなことがわからなくなってる今、こういう「自分の正直な道はどこだ?」を考えるのって、僕も含めて割とみんながやらなきゃいけないという気がするんです。お笑い界を見ていると、やっぱりそういう時期を迎えていると思うし、その中で実はかもめんたるさんが、一番何か尖端のことをされているような感じがします。

──ただ槙尾さんは、コンビである以上それに否応なく巻き込まれるわけですが。

槙尾 こればっかりはねえ、う大さんに付いて行くしかないです。僕が何を言っても、まったく影響していかないと思うので(一同笑)。でもう大さんが上田さんと関わることで、ちょっと明るい見せ方になってきてるというのが、どっかで必ずあるんですよ。その辺が、今後いいバランスで向かっていくような気がするんです。何か発せられる面白オーラを感じて、すごくポップな層も引きこまれてくるんじゃないかなあって。で、いつの間にかそういう人たちも、もっと深い部分の面白さをわかるようになって来る…というのが理想だと思います。ポップな世界だとだまされて入って来たけど、いつの間にかハマっちゃったみたいな人が増えてくれば。
上田 うんうん、入口はいくつかある方がいいですよね。でもこのインタビューを読んでくれるような人は、多分もうそんなことにはとっくに気づいてるかもしれない(笑)。

──確かに「宇宙の法則」的な話が出てきても、ここまで引き返さずに読んでくださった方は、もうかなりいい線まで引きこまれてるはずですよね。

上田 なかなかいらっしゃらないですからね、インタビュー最後まで読んでくれる人って(一同笑)。
岩崎 すいません、まとまってない宇宙の話を(笑)。まあでも今は、自分のそういう内なる声をよく聞いていこうという方向なので。だからそれ次第では、次に会った時は全然違うことを言ってる可能性もあるんですけどね。要は「いろんなことをしよう」という考えなんですよ、単純に。
上田 でも戦略が変わることは、きっとあるだろうから。次はいきなり真逆の、超ピーカン野郎になってるかもわからない(笑)。
岩崎 何かすごくサイケデリックな格好して、青い髪の毛で来るとか。

──それでも槙尾さんはう大さんについて行ってると。

槙尾 いや、そうなったら「もういい」ってなるかもしれないですけどね(笑)。
岩崎 何だよ。お前も青い髪の毛にするんだよ、その時には(一同笑)。
槙尾 まあこんなこと言ってますけど、結局根本の部分はあんまり変わってないんですよ。側(がわ)の部分をどう変えていくか? みたいな感じなんですよね。もし根本の部分が変わってきたら、もう僕は…(笑)。
上田 でも今話したような話って、本当にアレですよ。すごく次のライブの核心に迫るような話だったりも、きっとすると思いますよ。ハードボイルドを扱ったネタがあるんですけど、それにおけるお2人の関係性が、まさに今写し絵のようになっていて…。
槙尾 えー! ホントですか?
上田 それはまだ、稽古してないんですよね? 本当にコントの内容や、今回の槙尾さんの立ち位置が現れている感じがして、結構ゾッとしました。
岩崎 でもそういうことを大事にしていきたいんです、今はまさに。この作品と、このタイトルと向きあってどう感じるかということを、人間の僕が素直に書けば、どんなに深いことをやってもそれは「あるある」として皆さんに共感してもらえる、笑ってもらえるはずだと思います。

 
公演情報
かもめんたる第17回単独ライブ『なのに、ハードボイルド』
 
《東京公演》
■日時:2月26日(金)~28日(日) ※26日=19:30~、27日=15:00~/19:00~、28日=14:00~/18:00~
■会場:新宿シアターモリエール
■料金:前売3,300円 当日3,800円 ※一部公演前売完売。当日券発売の有無はお問い合わせを。

 
《広島公演》
■日時:3月4日(金) 18:30~
■会場:よしもと紙屋町劇場
■料金:前売2,500円 当日3,000円

 
《大阪公演》
■日時:3月5日(土) 18:30~
■会場:HEP HALL
■料金:前売3,300円 当日3,800円

 
《名古屋公演》
■日時:3月6日(日) 17:00~
■会場:東別院ホール
■料金:前売2,800円 当日3,300円

 
※東京は27日昼公演&28日昼公演、その他地域は全公演終演後アフタートークを開催。
■作・演出:岩崎う大
■構成協力:上田誠(ヨーロッパ企画)
■出演:かもめんたる(岩崎う大、槙尾ユウスケ)
■公式サイト:http://kamomental.com/