岐阜・美濃加茂市で開催される、年に一度の学生演劇祭『ミノカモ学生演劇祭 VOL.4』
『ミノカモ学生演劇祭 VOL.4』チラシ表面
劇作特訓! を経て本戦に臨む、真剣勝負の学生演劇祭。今年の優勝は?
白熱の演劇イベント『劇闘』を先日終えたばかりの日本劇作家協会東海支部。その東海支部が3年前からプロデュースする『ミノカモ学生演劇祭 VOL.4』がまもなく、3月12日(土)と13日(日)の2日間にわたって岐阜県の美濃加茂市文化会館で開催される。
会場のある美濃加茂市は文豪・坪内逍遥の生誕地で、「未来にはばたく若い演劇人の活動を応援する」目的で、同市が東海支部に演劇祭の開催協力を依頼。2013年に当イベントがスタートした。初回からの企画主旨は、参加学生の数団体が美濃加茂市で取材をし、そこで得た着想をもとにオリジナル戯曲を作成、20分間の短編演劇を上演するというもので、審査員票と2日間の観客投票を合わせてグランプリの「ガクゲキ大賞」を決定する。
初代のはせひろいちより、この第4回から実行委員長のバトンを受け取った渡山博崇(星の女子さん主宰・劇作家・演出家)に、イベントの成り立ちから開催内容などについて話を聞いた。
── 最初から“学生を対象とした演劇祭”ということで美濃加茂市から依頼を受けたということですが、実際にはどんな風に始まったんでしょうか?
僕は初回から裏方として参加しているんですが、美濃加茂市に大学がないということで、名古屋近郊の大学生たちに声をかけて、というところから始まったようです。
── 今回は4団体が参加されますが、今はそのセレクトはどのようにされているんですか。
ホームページやSNSで告知したり、チラシを撒いたりして夏頃から公募をかけます。名古屋近郊に限らず全国から広く募集しておりまして、今年は他の地方からの応募がなかったんですが、第3回の時は北九州から、第1回と2回は東京からも来てまして。できればもう少し知名度を上げて、全国的に交流ができればいいなと思ってるんですけども。
── 夏から公募が始まって、団体が決定するのはいつ頃なんでしょう。
8月末で締め切っていますので、9月頭頃には選考が始まってましたね。
── そこから上演までの具体的な流れというのは?
まず12月にですね、2泊3日の合宿を行いました。これは毎年やってるんですけど、美濃加茂を取材して、戯曲講座も開催しています。「みのかも文化の森」に宿泊施設があるので、参加団体の方にそこへ泊まっていただきつつ、あちこち観光名所とか名跡などを辿って美濃加茂の街を散策しました。
── 合宿のスケジュールはどのような感じなんでしょう。
まずは芝居の根幹である“戯曲”からレベルアップというか、若手劇作家の育成のことも視野に入れつつ教えていきたいということで、今回から戯曲講座の方を強化しました。初日は刈馬カオスさんが講師となって基本的な戯曲の講義をし、2日目のお昼からは中山道を主に散策したんですが、そこで場所をひとつ見つけて5分くらいの短編を書いてもらい、その場で上演までするというプログラムを組みました。取材後にひと晩かけて戯曲を書き上げていただき、翌朝すぐ稽古をして、お昼頃から選んだ場所をそのまま使って上演するという。あらかじめ選んだ場所の上演許可を取るなど、上演に向けて作品を創り上げていくプロセスにも参加してもらいました。
── 上演許可については、市の方も全面的に協力的なんでしょうか。
はい。「みのかも文化の森」の方にも協力していただきつつ、文化財の建物を使わせてもらったり、他にも個人のお店の前で上演したいという場合は、学生たちがそこに伺って実際に交渉するとか、そういうことを行いました。
── 以前、刈馬さんに取材させていただいた時に合宿のことを伺って、ものすごく大変だったと聞きましたが(笑)。
そうですね。5分の短編に仕上げるということで、僕たち劇作家の感覚では1~2時間もあれば形になるだろうという目論見で始めたんですけども、やっぱり初心の学生たちは「何を書いていいかわからない」「どのように書いていいかわからない」「どう作品をまとめたらいいかわからない」という感じもあったり。まぁ、そのためにアドバイザーとして1人1団体ずつ、刈馬カオス、長谷川彩、鏡味富美子、そして僕の4名で指導してきたんですけども。学生たちも面白くしたいっていう思いがありますし、その4団体の中からさらに1等賞を決めてしまおうというのがありましたので、皆さん深夜まで頑張ってしまいまして(笑)。
── 参加してみてビックリする学生さんも多いでしょうね。
そうですね。こんなにするのかって(笑)。ひとつ作品創るというのは、決して楽ではない。たとえ5分の作品であれ、創る責任を負った以上はこのくらいの苦労が待っているんだ、ということを身を持って教えている感じがありましたね(笑)。
── 全国で公募ということですが、遠方の参加者の交通費や滞在費については?
その辺も支給されています。各団体に制作費が出ていまして、今年度でいえば1団体15万円出ているんです。その中から交通費や舞台製作費、必要経費などを賄っていただきます。
── この合宿でも、1等賞を決めるんですね。
最終日に講評と審査発表を行いました。簡単な賞品も用意して、本戦へ向けてモチベーションを高めてもらおうと。あと、負けるのって意外と悔しいでしょう?っていう。
── ちなみに、今回の1等賞はどちらが?
「赤いスリッパ企画」です。本戦ではどうなるか楽しみですね。
── 上演までということで、指導は劇作だけでなく演出の仕方などにも派生していく感じですか?
合宿で書いた5分の方は、本人たちで役者も担当するので基本的に二人芝居なんですね。それで演出している余裕もなかったので、担当の講師が演出を簡単につけるということになりました。各団体で分かれて稽古したので他の団体のことはわからないんですけども、僕が担当したところは、セリフを読んで、僕が演出つけたことをなんとかやるので精一杯で。ただ、このホンだったら、何が肝でどういうことをやらなきゃいけないか、どういうことを伝えないと面白くないか、ということだけは理解してもらって。
── 渡山さんたち講師の方も、指導を通して発見したことなどありますか?
ひとつの作品を創るにあたって、僕たちが普段一番大事にしてるのは動機なんですね。初期衝動というか。「何をやりたいのか」というのを学生たちに発見してもらわないといけない。なので学生の動きを見守っていたんですが、実際に彼らが「ここがいいんじゃないか」「これが面白いんじゃないか」と話し合っているのを見て、一人の創作者が「ここで作りたい」という動機を発見する瞬間を見ることができたのは、なかなか面白かったです。
── 今までの3年間で、全体として変わってきたことなどはありますか。
まず、集客の面で言うと1回目からあまり変化がないんですね、会場が不釣り合いに大きいところなので、埋めるのも大変なんですが。団体が全て美濃加茂市の外部から来ているので、なかなか美濃加茂の皆さんに興味を持っていただくのが難しかったり。3回を通じて、「どうやらこの時期に何かやっているぞ」ということはだんだん周知されてきたと思うんですけども、もう一歩劇場に呼び込むまでには少し足りないかなというのがありまして。順位とか審査には関係ないんですが、今回は地元の高校の演劇部にエキシビジョンということで出ていただきます。美濃加茂市の人たちにも興味を持っていただきつつ、そこでワークショップや宣伝活動もやって、皆さんに少しずつ来ていただこうという。やっぱり創って半分、観ていただいて半分なので。
── 今後の展望については?
とにかく、できるだけ継続させたいですね。イベント自体の成功も大事なんですけど、やっぱり学生たちに、こういうチャンスや機会を与えてあげたいというのが大きいです。美濃加茂市としても、この参加者の中から新たな才能が全国区に羽ばたいていってくれたらという思いもあるようです。できることなら、今後はHPでアーカイブを作って、過去参加した人たちが今どういう活動をしているかということも発信していけたらいいなと思っています。
『ミノカモ学生演劇祭 VOL.4』チラシ中面
■日時:2016年3月12日(土)17:00〜、13日(日)13:30〜
■会場:美濃加茂市文化会館 大ホール(岐阜県美濃加茂市島町2-5-27)
■料金:無料
■アクセス:名古屋駅からJR特急「ひだ」で約40分、「美濃太田」駅下車、徒歩約20分。または名鉄名古屋駅から約60分、「日本ライン今渡」駅下車、徒歩約20分。
■問い合わせ:みのかも文化の森/美濃加茂市民ミュージアム 0574-28-1110
■公式サイト:www.forest.minokamo.gifu.jp/bunkakaikan/
●3月12日(土)
16:30 開場
17:00 4短編連続上演① ※終演後に観客投票
19:00 地元県立加茂高校演劇部エキシビジョン ※その後に集計結果の暫定発表
●3月13日(日)
13:00 開場
13:30 4短編連続上演② ※終演後に観客投票
15:30 審査員による講評会
16:00 最終集計発表、表彰式
■出演団体と上演作品
◆劇団「獅子」 『海水浴とか行ってみたい。』 作・演出/ハシモトタクヤ
◆幻想劇団まほろ 『虚の森』 作・演出/鈴音こうし
◆とらの穴(中部大学) 『天狗の日常』 作・演出/原田哲舟
◇エキシビジョン参加 岐阜県立加茂高等学校 『楽屋講評(仮)』 作・演出/加茂高校演劇部