歌舞伎俳優・中村時蔵が語るMETライブビューイングの魅力
中村時蔵
《蝶々夫人》の演出に観た、歌舞伎と文楽のエッセンス
世界の三大歌劇場の一つであるニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)で上演された最新のオペラをスクリーンで上映する「METライブビューイング」。10周年を迎えたこのオペラ上映は、本物の舞台では味わえない魅力がある。一流の歌手が出演し、新演出などの話題の舞台が上映されることで、日本でも新たなオペラファンを増やしてきた。
歌舞伎俳優の中村時蔵丈もその一人である。
「実は、初めてライブビューイングを観る前は、舞台を映画館で観るなんて面白いのかと疑っていたんです(笑)。ところが実際に拝見すると、とても素晴らしくて・・・。今年は《トゥーランドット》と《マノン・レスコー》を拝見しました。字幕があるので内容をとてもよく理解ができますし、幕間には次回作の稽古風景の紹介で少し歌が聴けたり、演出家や歌手のトークなどもあるので興味も湧きますね」
そんな時蔵丈は4月の休みを利用して一足先にニューヨークを訪れ、プッチーニの《蝶々夫人》を観劇してきたという。
メトロポリタン歌劇場の前で(写真提供:中村時蔵)
「私は《ラ・ボエーム》と《蝶々夫人》の2作品を拝見したんですが、《蝶々夫人》は少し上から観ようと、三階席にしました。すると今回のアンソニー・ミンゲラが手掛けた演出が、歌舞伎や文楽を意識していることがとてもよくわかりました。
例えば、蝶々夫人とアメリカ海軍士官のピンカートンとの間にできた子どもを人形にしているんですが、とても悲しげでうまく表現されていました。本物の文楽とは人形の遣い方が異なるんですが、おそらく研究して取り入れたんでしょう。歌舞伎の小道具にある差し金も使っていましたが、普通は一羽の鳥を表現するものを編隊で飛ばして輪を描いているのを観ると、逆に勉強になりました。そうした、新しいことを取り入れようとする芸術性の高い舞台に惹かれました。蝶々夫人を演じたクリスティーヌ・オポライスも新世代のスターとして注目されている歌い手で、声量もあるし、上手かった」
(C)Marty Sohl / Metropolitan Opera
(C)Marty Sohl / Metropolitan Opera
(C)Marty Sohl / Metropolitan Opera
今シーズン8作目となる《蝶々夫人》は、5月7日から13日まで(東劇のみ5月20日まで2週間上映)上映される。
(取材・文:山下シオン)
日本上映:2016年5月7日(土)〜5月13日(金)(MET上演日:2016年4月2日)
東劇・新宿ピカデリー・TOHOシネマズ六本木ほか全国で上映
*東劇のみ5/20(金)までの2週間上映
指揮:カレル・マーク・シション
演出:アンソニー・ミンゲラ
出演:クリスティーヌ・オポライス、ロベルト・アラーニャ、ドゥウェイン・クロフト、マリア・ジフチャック
上映時間:3時間26分(休憩2回)
言語:イタリア語
http://www.shochiku.co.jp/met/