とことんリアルにこだわりたい―吉田恵輔監督に聞く!映画「ヒメアノ~ル」

インタビュー
2016.5.10
吉田恵輔監督「ヒメアノ~ル」

吉田恵輔監督「ヒメアノ~ル」

「行け!稲中卓球部」「ヒミズ」など、過激な内容が常に話題となる古谷実の人気コミック「ヒメアノ~ル」が、森田剛主演で実写映画化される。

パートタイムでビルの清掃会社で働くごく普通の青年・岡田(濱田岳)と、まるで呼吸をするように殺人を繰り返していく快楽殺人者の青年・森田(森田)。高校時代同級生だった二人の生活はいつしかリンクして――。

本作の監督を務めるのは、「さんかく」「ばしゃうまさんとビッグマウス」「銀の匙 Silver Spoon」などを手掛けた吉田恵輔。とことんリアリティにこだわる監督に製作の裏話などを伺ってきた。(※吉田の「吉」は、正しくは上が土)
 
――映画を作る段階で、いくつか候補があったそうですが、その中から「ヒメノア~ル」を実写化したいと思ったのはどういうお気持ちからでしたか?

古谷(実)さんは高校のときのバイブル的存在。いちばん俺らの中で流行った人…ヒーローみたいな人なので。古谷さんの作品を手掛けることができるというのは、憧れですね。もちろんやりたかったし、みんなもやってみたいだろうけど、古谷さんの作品の映画化は難しい、なかなか許可が取れないと聞いていたので、無理だろうなと思っていたんです…が、OKいただけました!

――では作品ありきで、それからキャスティングが徐々に決まっていったんですね。

そうです。最初は、年齢が23、4歳で探していたから、30代の人という考えはそもそもなかった。森田(剛)くんは当時35、6歳だったので、一度検討の俎上からははずしますよね。でも20代で探してもしっくりくる人がいなくて…そこで「森田くんは?」と勧められて。「設定23、4歳で無理にこだわらなくてもいいか」と思うようになってね。

――森田さんの事は以前からご存知でしたか?

直接の面識はなかったけど、もちろん知ってはいました。彼の映画や舞台のDVDも観たし、塚本晋也監督のドラマ「マシーン日記」で共演していたのも観ていました。お芝居がうまくて独特の人だと知っていましたね。
彼はマジメでバカじゃない。バラエティ番組「学校に行こう!」やV6の中ではおバカなことをよくしていて、おバカキャラという印象だったけど、実際はマジメな人だなと。

ジャニーズの方は、すでに2本(「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「銀の匙 Silver Spoon」)撮っていて、俺の中ではいちばんイイ奴。マジメで性格がいいしミスをしない。森田くんなんて彼らのさらに先輩だから、上手いし絶対周りを引っ張っていくだろう感がプンプンしていました。本当に安心感がありますね。

――キャスティングが決まってからは、役作りなど、森田さんと話し合ったりしましたか?

原作の森田と映画の森田が微妙に異なるところがあるので、どう変わっているのか、どう見えるのかをお互い探りながら、なるべく順を追って撮っていこうか、と最初話しました。あとは撮影をしながら「こうかな?」などのやり取りはあった。でも役に関しては基本的にお互いそれほど話し込まないですね。一度演技を見せてもらって「ここはもうちょっと直して」と伝えて、その後もう一度撮るくらい。「もう一回!もう一回!」ということもなくて「いいね!」が多かった。お芝居に関してはね。アクションに関しては何度かやったけど。

――森田さんは、舞台「血は立ったまま眠っている」「鉈切丸」などのイメージも強くて、無口であまり周りに人を近づけない、孤高の雰囲気があるんですが、実際のところはどうなんですか?

自分から話しにいくタイプではないですが、誰かがしゃべりかけたら返してきますよ。俺とかムロ(ツヨシ)さんはどんな人のところへもガンガン行くタイプなので、森田くんが一人でいると、だいたい俺かムロさんに捕まる(笑)

映画「ヒメアノ~ル」

映画「ヒメアノ~ル」

 
――森田さん以外のキャストについては?

一番最初にムロさんを指名したんです。原作を読んだときから「これ(安藤)はムロさんね」と。最初から全く変わってない。他の人でやるアイディアも出たことがない。

そして、ガックン(濱田岳)は場面を回すのがうまい。ムロさんが何かやったときに「いや…ちょっと」とか「…だからぁ…」とか、台本にないちょっとした間をつなぐのが本当にうまい。「受け」の演技がうまいんです。だからこそムロさんが生きるんです。

ユカ役がいちばん迷いましたね。原作のユカが女性として好きじゃなかったから。自分の好きな女の子にしたかった。
ただ一つ難点なのは、ある意味、森田・岡田・安藤という三人の男がみんなユカのことを好きになるじゃないですか。その女性の趣味が森田だけ難しくて。他二人はロリ系が好きなんだけど、だからといって(ヒロインを)ロリっぽい人にすると、森田が好きそうなタイプから離れていくのでそこが難しい。

――森田はロリより、もう少し大人の肉感的な女性が好きかも、と思いました。

そうなんです。そのうち他のキャストもどんどん決まり始めると、これはもうユカ役は相当芝居がうまくないとダメだということになってきて、芝居で決めようと思ったんです。佐津川(愛美)さんは顔もですが芝居が特に自分のタイプなのでそこにいれば安心だった。あまりセクシーなイメージや身体を張っているイメージがなかったので、今回セクシーなことをいっぱいしてもらい、結構頑張っていただきました(笑)。

――監督はヒロインには特にこだわるという話を聞きましたが。

ヒロインにだけはしつこいんです。佐津川さんの衣装決めのときは一日中あれやこれやと選んだけど結局OKを出さないで、改めて衣装を集め直してもらいました。

映画「さんかく」では、小野恵令奈ちゃんの衣装合わせも一生懸命やったけど一個も決まらなくてまた衣装を集め直してもらったんです。でも田畑(智子)ちゃんとか高岡(蒼甫)くんは「あ、それでいいんじゃない?」で15分くらいで終わるの(笑)
服と肌との密着度合とか肉感とかそういうところを一つ一つ考えるから気持ち悪がられますね(笑)

映画「ヒメアノ~ル」

映画「ヒメアノ~ル」

――先日佐津川さんにインタビューしたとき、「監督の周りにはいつも女子がいる」とおっしゃっていましたよ(笑)

男は撮影部や演出部なので、自分がいるモニター場所から離れた現場にいるのね。で、大抵女性のメイクさんやスタイリストさんが、結果モニターがある自分の周りにいるんです。そこでディレクターチェアの片肘に脚をかけて横座りとかしながら、「おっけー!」とか言ってるの。で、その恰好のまま女子と話をしている姿をムロさんが観て、「監督が女の子とくっちゃべってる」とツッコんでくる。「おい、ガックン。あれ、観てみろ。あの監督は信用できるぞ!カッコつける気がまるでない!」と(笑)

――今回の作品では、たくさんの殺害シーンが出てきますが…そもそも、そういうシーンを作るのはお好きですか?

人が殺られるのをよく想像するんです。自分がいちばん嫌なシチュエーションばかり思いつくんです。
作る側としては大変なんだけど、見せ場ではある。今回SEX&バイオレンスみたいなこと、これまであまりやってこなかったのですが、自信はあった。ゆえに力を入れましたね。

――撮影時期はいつ頃でしたか?

まさに去年の今頃。本当は桜を撮りたかったんです。高校の風景を撮るときに、入学式っぽい桜の絵を撮りたい。校門から校舎まで桜の木がばーっとある…誰もいない校舎と桜の木々を撮りたいって思っていて、桜満開の時期に合わせようとしていたんです。
撮影残り4日というところで桜の満開予報が出たので、助監督がそこ合わせで学校に乗り込んだ。そして撮影の準備を進めてお昼を食べたあとに撮影しようか、と思ったら…桜が咲いてないの!1ミリも!

――え?

みんな他の撮影に集中していていて、「そうそう、桜の実景を撮らないとねー、あれ、桜が咲いてない??あれ??」そこで現場を観に行ったらなんと桜の木じゃなかったという(笑)
学校に行くまでの交差点とかにはいっぱい桜の木があって、「満開だねー」と言ってたのに学校に入ったら桜がない。桜じゃない木はあったけどどうみても桜じゃないし。
「・・・桜の事は忘れよう」となりましたね(笑)
だから今年になってお花見をしていたときに、「(去年は)そんなことがあったなあ…」と思いながら桜を見ていましたね。

吉田恵輔 映画「ヒメアノ~ル」

吉田恵輔 映画「ヒメアノ~ル」

――吉田監督の撮影はどのように進んでいくんですか?

撮影は、大体1か月かからないくらいかな。一日の撮影スピードもこの作品がいちばん速かった。もうサクサク撮るから、逆に言うと待ち時間ばかりです。意外とカット数が少なく、一度カットを決めるとあとはアングルを変えるぐらいで終わるので、昼の場面は撮り終わっちゃったから夜の場面まで3時間くらいみんなでお茶していたり。
あと、自分の作品はセリフ劇が多いから、役者があまり動かないんです。「ヒメアノ~ル」のもんじゃ焼き屋の場面でも座ったまま動かない二人ですから何本か撮ったらそれで終わり。

――TVドラマのように様々な角度から撮って…ということはしないんですね。セットも基本的にはもともとあるものを使うタイプですか?

スタジオは使わないね。特にハウススタジオは絶対使わない。理想は誰かの家で撮りたいんです。例えば安藤の家は今普通に住んでいる人の家です。部屋の中にチェーンソーが置いてあるあの部屋ですが、あれはセットとしては本当にチェーンソーしか持ち込んでない。

――そのほかは全部もともとその家にあったもの!?

そう、だからああいう家だと「ここに住んでいるとしたら、チェーンソーは当然この辺に置くよな」となるでしょ。何もない部屋に美術さんがトラックでいろいろ運び込んで配置しても、やはり生活をしてないから“作った感”が出でしまう。
特に今回は血まみれになるので、できたらスタッフの家とかを使いたかったんですけどね。

――殺人事件の現場となる様々な部屋も、もともとあるお家を使ったんですか?

不動産屋さんに当たって、(契約が)決まったらリフォームする、という部屋を…ボロボロだけど「入居するならリフォームします」という部屋を狙った。そこなら撮影で畳なんかをビシャビシャにしても全部リフォームされますしね。(笑)
でもその部屋は空き室でも周りは誰かが住んでいる。1階に住人がいる家の2階の窓ガラスぶち破って下に落ちる場面とか撮ったりね。夜0時超えて、警察役が「待てえええ」とかすごい迷惑なことをやっているの。撮影前にもちろん説明はしていますし「ご迷惑をおかけします」とは伝えているけど、まさか窓を突き破って自分ちの庭に人が落っこちてくるとは思ってないよね。「勘弁してよー」と思うよね。しかも、電気を付けちゃダメとかお願いもしている。他の部屋の方が普通に生活していて「そろそろ寝るか」で電気消されると絵がつながらなくなっちゃう。だからすごく協力してもらっていました。
 
――殺人の場面とともに、なかなかハードなSEXシーンもありますね。こちらもこだわりが?

SEXと殺人の場面をリンクさせるために、あえて女性をどちらも四つん這いにして、向きと角度をそれぞれ逆にしたいと思ったんです。「あっちの場面はコレが上手だからこっちの場面では下手で」とか「カメラが入れるところは風呂場しかないから、じゃあここで逃げてここで倒れて殺されて…」とそういう逆算しながらの撮影が大変でしたね。

あと、裏話がもう一つ。ガックンと佐津川さんのSEXの場面ですが、二人とも撮るときはともかく、一人ずつカメラで抜くときはもう一人がその場にいる必要がないじゃないですか。でも演技上、後ろからするなら男は女の腰を持ちたい。だから腰代わりにプラスチックの衣装ケースを用意して。「おい、プラスチックをヤってこい」と。ガックンも「おーし、プラスチック、待ってろよ!ギャンギャンいわせたる!」と言ってて(笑)
結構深刻な場面なのに、あれ、プラスチックをヤってるんだと思っていただければ(笑)

吉田恵輔監督「ヒメアノ~ル」

吉田恵輔監督「ヒメアノ~ル」

――撮影を通して、一番大変だった場面は何でしたか?

山田(真歩)さんを殺すところかな。結構な夜中の撮影でシビレたね。アクションも多いし仕掛けも多い。おしっこを漏らすとかもあって。冗談で山田さんに「おしっこ漏らす場面だから、ちゃんとお水とか飲んでおいたほうがいいよ」と言ったら、本人は本当にするんだと思っていたみたい(笑)ピュアな子だなと。
山田さんも何度も同じところを殴られて、気持ちも落ちて泣きそうになりながらしんどそうにやっていて。台本では「部屋にガソリンをまく」という内容だったんですが、撮っているうちに「山田さんにガソリンをぶっかけたらおもしろいかな」と思って。山田さんがへこんで泣きそうになっていると聞いたので、「ちょっと、行ってくる」と、山田さんに話しかけたら「…大丈夫です…」と返すのね。そこに「あのさー、思いついちゃったんだけど、山田さんにガソリンぶっかけていい!?」としれっと言って(笑)その瞬間、周りの女子から「鬼畜ですね!!」「鬼畜だ!!」とさんざん言われた(笑)

――そこが「どS監督」と言われるゆえんですか(笑)

だって思いついちゃったんだもん。山田さんにかけたかったんだもん(笑)

――そんな思い入れも深いこの作品をもってイタリア(第18回ウディネ・ファーイースト映画祭)に行かれるんですね。

あまり「映画祭!」という意識がない人なので、観光したいなと。憧れのクロアチアとかスロベニアがすごく近いので、行けたりしないかなと映画祭とは違う邪な気持ちを抱いていたんですが、調べたら、あ、難しいなと(笑)映画祭では現地の方々が喜んでくれたら嬉しいし、嫌悪感を持たれたらそれでもいい。
あと森田くん含めキャストを知らない人たちばかりなので、映画を見てどういう反応をするのかが楽しみですね。
 

上映情報
映画「ヒメアノ~ル」

■日時:2016年5月28日(土)公開 ※R15指定
■原作:古谷実
■監督:吉田恵輔(※吉田の「吉」は、正しくは上が土)
■出演:森田剛、佐津川愛美、ムロツヨシ、濱田岳
■公式サイト:http://www.himeanole-movie.com
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