[INTERVIEW]小西遼生×チョン・サンユン『ブラック メリーポピンズ』日韓ハンス役対談

インタビュー
舞台
2016.5.12


「いつか同じ舞台で共演を」

韓国の大人気創作ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』の日本版再演が5月に開幕する。2015年、鈴木裕美による日本版オリジナル演出のもと、新感覚“心理スリラーミュージカル”として話題を呼び、再演が期待されていた本作。初演に続きハンスを演じる小西遼生が、韓国初演で同役を演じたチョン・サンユンとついに対面! 日韓ミュージカル界を率いる二人の夢の対談をお届けします。

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●チョン・サンユンさんは日本版の映像をご覧になったそうですね。感想をお聞かせください。

チョン・サンユン(以下サンユン) 韓国の初演に出演したのは2012年なので、少し記憶が……(笑)。自分の時はどうだったか思い出しながら見ました。同じ作品でも印象が違いましたね。韓国版は照明やセットで少し昔の、古い感じを出していますが、日本版の白を基調にしていて高級感があるセットに驚きました。この作品は、観客の皆さんに想像してもらう部分が多いと思うんですけど、子どもたちの現在、過去の姿を想像しやすくしている感じを受けました。韓国の観客も日本版を観たらどう思うか興味がありますね。

小西遼生(以下小西) 僕は、(脚本・作詞・音楽の)ソ・ユンミさんがおひとりで、本を書いて、音楽を作っていることが興味深かったというか、面白かったです。人物の関係性、話の流れ、音楽も含め1人の頭の中で出来上がっているから、会話とか音楽の重なり方がすごく筋が通っているというか。

サンユン 作・演出はあるかもしれないけど、音楽までやる人は韓国でも珍しいですね。それだけに作品の特性と雰囲気に合わせて音楽がよく作られているなという印象でした。

小西 僕はこの作品について、“ダークな絵本”というイメージを持っています。その世界観を音楽が作ってる印象ですね。要所要所で、お客さんにミステリアスな印象を与えるとき、すごく音楽が生きてると思います。

●初演時のことで思い出されることはありますか?

サンユン やはり初演でしたから、稽古では悩みましたし、韓国オリジナル版では演出もユンミさんが手掛けられていて、ユンミさんやキャストたちとたくさん話しました。場面ひとつひとつについて、「こうすればいい?」「こうしよう」って。いろんな面で僕にとっては印象深い、意味深い作品だったと思います。

小西 日本版は韓国版と変わっています。初演のとき、ソ・ユンミさんと相談して日本版を作り変えたと演出の鈴木裕美さんから話を聞きました。ストーリー、演出の見せ方もそうですけど、役のキャラクターも少し違っていると思いますね。僕も韓国版は映像でしか見てないので、感覚的なことなんですが、兄弟の力関係が日本版のほうがはっきりしてるんじゃないかと。

サンユン そうですね、日本版のほうが登場人物たちの関係性がより明確になっている印象がありました。

●ハンスを演じるうえで苦労した点はありますか。

サンユン ハンスはほかの子どもたちと同様、12年前に起きた火事で何か起きたのか、記憶を無くしているわけです。でもあることをきっかけに少しずつ過去を思い出していく。それに耐えて行くところが、自分的にも役柄的にもとても辛かった覚えがあります。妹のアンナのこともそうですし…。ハンスは、4人の子供たちのなかでとても弱いキャラクターだったんですけど、そのハンスが一歩を踏み出すときの痛みがほんとうにね…。

小西 わかります。僕も一緒ですね(笑)

サンユン そうですよね(笑)

小西 僕は、日本版と韓国版の演出で、一番大きな違いはメリーの存在だと思うんです。

サンユン はい。日本版を観てビックリしましたね。

小西 彼女の存在によって、子どもたちの人生もだいぶ違ってくる。もしかしたら、日本版の僕たちのほうがちょっとだけ救われてる気がするんですよ。事実は変わっていないので、辛いことはもちろん変わらないんだけど。

サンユン なるほど。

●さて、せっかくの機会なので、小西さんからサンユンさんに聞いてみたいことがあったら…。

小西 歌はいつから好きですか? いつから歌われていますか?……すみません、こんな質問(笑)。

サンユン (笑)、子どもの頃から歌うのが好きでしたね。

小西 どうしてこんなことを聞いたのかというと、日本人と韓国人の生活の中で、音楽との距離感がどう違うのかに興味を持ったんです。僕が思うに、韓国の人はすごく音楽と近いような感じがしていて、もしかしたら日本人に比べて、家族で集まった時に歌を歌う文化があるのかもしれない、とか。韓国の文化として音楽が近いのかなって。

サンユン (音楽との距離感が近い)と思います。文化的に。韓国と日本、似ているようで違うんでしょうか。韓国は飲酒、酒の文化に歌がついてくる感じがあります。“興が乗る”ってありますよね(笑)

小西 興が乗る、ね(笑)

サンユン 今の話に関連してるか分かりませんが、以前、ミュージカル『スリル・ミー』(韓国版)の演出を2013年に栗山民也さんが手がけたときのインタビュー記事で、「韓国の俳優は舞台上で実在している」という言葉が印象に残っています。

小西 そう思います。舞台上の人たちが演じていることに“日常感”があるんですよね、僕、先日、韓国でミュージカルを何作品か観たんですけど、非日常的なストーリーだったのにも関わらず、すごくリアリティを感じた。民族的なエネルギーが音楽と近いのかなと思ったんですよね。だから訊いて見たかったんです。僕は栗山さんと3作品でご一緒しているんですが、栗山さんは演劇的なことというよりは、人間的な、その人の本質的なものを求める人。韓国で演出した時の話も聞いたことがあって、すごく楽しかったんだろうなと思っていました(笑)

●ちなみに、サンユンさんは、小劇場から大作までと幅広いミュージカルに出演されていますが、どの作品にも対応できるようなトレーニング方法、コンディションを保つ秘訣はあるんでしょうか?

サンユン 酒好きなので、公演中は禁酒するとかでしょうか。水をたくさん飲んだり、鼻うがいをしてスッキリさせます。それ以外は特に何もしていないですね。普段は悪いことばかりですよ。お酒を飲むしタバコを吸うし……(笑)

小西 公演中の禁酒は辛いですよね。僕もそうです。お酒が好きだから分かります。

サンユン ほんとにお酒を我慢するのはねえ……。時々、氷でうすーくして飲んでます(笑)。

小西 水をたくさん飲むのも同じです。以前ボーカルトレーニングを受けていた人から勧められて以来飲んでいます。2、3リットルとか飲むから、そのせいで、すぐトイレに行きたくなるけど(笑)

サンユン 僕もそうです(笑)

●サンユンさんは、今回「夢友 春コンサート」のために来日にされましたが、日本での公演はサンユンさんにとってどういった位置づけなのでしょうか。

サンユン 普段は韓国で公演していますが、日本のファンの皆さんがたくさん韓国へ来てくださいます。ですから機会があれば自分が日本に行って歌を聞かせたいという思いがあったんですね。そしてコンサートを企画している「夢友」との良い機会があって昨夏初めて実現しました。すごくいい公演になったので、また来たいと思ってその気持ちを伝えたところ、1年待たずして再び来ることができました。こんな良い季節に来ることができて嬉しいですね。日本のファンの人たちは、温かいですね。韓国と比べると静的な温かさがあります。韓国は動的な感じ。良い意味ですよ(笑)

小西 確かに。この間韓国へ行ってミュージカルを見たんですが、韓国の観客の皆さんはノリが良かったですね。盛り上がると上演中にも客席から「ウォ~!!」って声が出ちゃう感じ(笑)。日本ではそういう人はほとんどいないから。

サンユン 韓国ではどんな作品を観ました?

小西 来年1月に日本版に出演する『フランケンシュタイン』と、『小人たち』『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』の3作品。種類の違うミュージカルを観に行きました。その中でも『小人たち』で、王子とシンデレラのやりとりとか、「いま、ぜったい下品なこと言ったでしょ?」って。言葉は分からないけど、ずっと笑い続けてました。お客さんがすごく解放的だから、自然とノレちゃう感じなんですよね。歌がとても良かったし、やはりリアリティをすごく感じましたね。

●小西さんは韓国でボーカルレッスンも受けたんですよね? 日本と違いました?

小西 1回受けただけなので、何か変わることは無いですけど、実感したのは、教育環境がすごく整っているんだろうなということ。先生のお話を聞いてる時に、国としてちゃんと演劇文化を後押しているような感じを受けましたね。

●では、2人は今後、こういう作品に出てみたい、こんな役を演じてみたい、などありますか?

サンユン 特にこんな作品に出たいとかではなく、演劇やミュージカル、小劇場、大劇場とかを選ばずに、良い作品、キャラクターがあれば。ずっと舞台に立っていたいという思いです。決まっている作品は、5月からミュージカル『エドガー・アラン・ポー』が始まります。僕は悪役で出るので楽しみにしてもらえたらと思います。

小西 僕は、『ブラック メリー・ポピンズ』のあと、やはり昨年上演された『エンド・オブ・ザ・レインボー』の再演、その次は『ガラスの仮面』に出演します。来年は先ほど言った『フランケンシュタイン』と続々と出演作が控えています。自分自身にとって、舞台はすごく色んな得難いことを得られる場所。もう舞台から離れられないですね(笑)

●いつか互いの国のミュージカルに出てみたいというお気持ちはないですか?

サンユン ぜひ出たいですね! 実は以前、『スリル・ミー』日本公演で出演するチャンスはあったんですが、スケジュールが合わなくて残念ながら出られなかったんです。親しい俳優仲間のヤン・ジュンモが『レ・ミゼラブル』に出演していましたし、自分も日本語でミュージカルをやってみたいと思う気持ちがあります。

小西 韓国発のミュージカル作品に出演する機会も重なり、言語も含め、韓国の演劇や文化にはとても興味があるので、機会があれば是非出演してみたいですね。

サンユン お互い舞台で活躍して、いつか一緒の舞台に立つことができたら嬉しいですね。

小西 ぜひ! “舞台”という共通点で、こうやって国を越えた交流ができたことがすごく嬉しかったです。また会いましょう!


チョン・サンユン、チョ・ヒョンギュンと
「夢友 春コンサート」で2度目の来日!

チョン・サンユンは、4月2日(土)に東京・古賀政男記念けやきホールで開催された「春コンサート」のため、ミュージカル『サリエリ(살리에르)』での名コンビで知られるチョ・ヒョンギュンと来日。チョン・サンユンはミュージカル『スリル・ミー(쓰릴 미)』より「私の眼鏡(내 안경)」(チョ・ヒョンギュンとデュエット)や、『コレゴレ(고래고래)』より「少年が大人になって(소년이 어른이 되어)」を披露。さらに今回のコンサートのテーマである“春”にふさわしいナンバーとしてロイ・キム(로이킴)の大ヒット曲「春、春、春(봄봄봄)」、パク・ヒョシン(박효신)の「野花(야생화)」、日本語で中島美嘉の「桜色舞うころ」などを歌い上げた。昨年8月にも2人はコンサートを開催し、再来日を楽しみにしていた2人は、日本のファンとのひとときを楽しんでいた。
<夢友公式サイト> http://www.yumetomo.info/


<プロフィール>
小西遼生(こにし・りょうせい)
1982年2月20日生まれ、東京都出身。2003年に舞台デビュー。2005年、ドラマ『牙狼<GARO>』の主人公・冴島鋼牙を好演、注目を集める。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演し、以降、舞台を中心に活躍。最近の主な出演作に、ミュージカル『NEXT TO NORMAL』『シャーロック ホームズ2〜ブラッディ・ゲーム〜』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』。今後の出演作に、7月より東京、大阪、茨城で『エンド・オブ・ザ・レインボー』、9月より東京、大阪で『ガラスの仮面』、来年1月より日生劇場にてミュージカル『フランケンシュタイン』。

チョン・サンユン(정상윤  Jung Sang Yoon)
1981年5月15日生まれ。2004年に演劇『地下鉄の恋人たち(지하철의 연인들)』で初舞台を踏む。『オペラ座の怪人(오페라의 유령)』『キム・ジョンウク探し(김종욱 찾기)』『ブラック メリーポピンズ(블랙메리포핀스)』『共同警備区域JSA(공동경비구역 JSA)』『サリエリ(살리에르)』『風と共に去りぬ(바람과 함께 사라지다)』などのほか、『Some Girl(s)(썸걸즈)』『プライド(프라이드)』などのストレートプレイにも出演。海外作品から韓国オリジナル作品まで幅広く舞台で活躍している。『スリル・ミー』の2013年公演では「彼」と「私」の両方を演じた韓国初の俳優となった。5月24日に韓国で開幕するミュージカル『エドガー・アラン・ポー(에드거 앨런 포)』では、主人公エドガーのライバルとなるクリスウォルド役で出演。6月25日には、俳優・歌手のソン・ヨンジンがMCを務めるコンサート「Song for You」 会場:BEAR HALL(ソウル市江南区)に出演する。


【公演情報】
ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』(日本版)
●東京公演  2016年5月14日(土)~5月29日(日) 世田谷パブリックシアター
●兵庫公演  2016年6月3日(金)~6月5日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
●福岡公演  2016年6月9日(木) 福岡市民会館
●名古屋公演 2016年6月17日(金) 愛知県芸術劇場 大ホール

<出演>
●アンナ役:中川翔子
●ハンス役:小西遼生
●ヨナス役:良知真次
●ヘルマン役:上山竜治
●家庭教師メリー役:一路真輝

脚本・作詞・音楽:ソ・ユンミ/演出:鈴木裕美/上演台本:田村孝裕/訳詞:高橋亜子

●公式サイト(海外からも購入が可能) http://m-bmp2.com

<ストーリー>
1920年代初頭、ドイツの著名な心理学者グラチェン・シュワルツ博士の豪邸で火事が起こり、博士の遺体もろとも、すべてが燃え尽きた。
博士が養子に迎えていた子供たち、ハンス、ヘルマン、ヨナス、アンナを家庭教師メリー・シュミットは全身にやけどを負いながらも猛火の中から4人を救い出す。しかし、その後メリーは失踪。子供たちは誰一人その悲惨な出来事を覚えていない。それから12年。当時の博士の手帳の存在を知り、それぞれ違う家庭に引き取られていた4人が再会し、彼らの記憶のパンドラの箱が開かれる……。

記事・写真協力:キューブ 夢友  TEXT:金本美代

 
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