ヴァイオリニスト・奥村愛が贈るミニコンサート 「クラシックを子供の時から身近に」

レポート
クラシック
2016.6.24
小柳美奈子(ピアノ)、奥村愛(ヴァイオリン) (撮影=原地達浩)

小柳美奈子(ピアノ)、奥村愛(ヴァイオリン) (撮影=原地達浩)

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ヴァイオリニスト・奥村愛のライフワーク “キッズのための音楽会” 風ライブ! 第25回“サンデー・ブランチ・クラシック”5.8レポート

GWの最終日となった5月8日(日)、LIVING ROOM CAFE by eplusで行われた“サンデー・ブランチ・クラシック”に登場してくれたのは、ヴァイオリニストの奥村愛。2012年にデビュー10周年を迎え、全国でリサイタルを行うほか、自らプロデュースした親子向けの公演を数多く手掛けている。この日のライブは、そんな奥村ならではの音楽を多方面から楽しめるプログラムとなった。

大きな拍手に迎えられた奥村が1曲目に選んだのは、アンダーソン作曲「フィドル・ファドル」。軽快なメロディに空気が華やぎ、カフェを彩っていく。伴奏は、アンサンブル・ピアニストとして活躍し、奥村とともに親子向け公演も行っている小柳美奈子が務め、息の合った演奏を聴かせてくれた。

奥村は「皆様こんにちは。本日は短い時間ですが、最後まで楽しんで頂けたら嬉しいです。私は、ここ数年キッズのための初めての音楽会というものに力を入れてをやらせて頂いています。本日はその中から抜粋して、親子で一緒に楽しめるミニコンサートのような感じでやらせて頂ければなと思っております。」という挨拶とともに、よく演奏をするというエルガー作曲「愛の挨拶」を披露した。

演奏の様子 (撮影=原地達浩)

演奏の様子 (撮影=原地達浩)

“キッズのための音楽会”をやろうと思ったのは、「子どもの頃からクラシックに身近に感じてもらえたら、大人になっても身近に感じてもらえるのでは」という気持ちからだったという。自身も娘を持つ母親という立場から、いきなりちゃんとしないといけない場所に連れていこうとするのは大変なことだと感じているため、「親と子どもが一緒に音楽を楽しめる練習をしていく場として、“音楽会に行くための第一歩”となるようなコンサートをやっていけたらなと思ったんです。」と、その想いを明かしてくれた。

「子どもが楽しめるコーナーも作りつつ、クラシックの名曲なども知ってもらえたらな」ということで、続いて演奏されたのは、クライスラー作曲「愛の喜び」と「中国の太鼓」の2曲だ。同じ作曲家ながら雰囲気の違う2曲のリズムを楽しむもよし、クラシックはよく知らないけれどどこかで聞いたなと思いを馳せるのもよし、奥村の技巧を堪能するもよし。

ふと客席に目を移すと、綺麗なドレスを身にまとい、ライトの中で演奏する奥村と小柳の姿を、お姫様のように一生懸命スケッチしている女の子の姿が。豊かな子どもの感性の表れに、大変微笑ましい気持ちになった。

クイズコーナー (撮影=原地達浩)

クイズコーナー (撮影=原地達浩)

「続いては、子どもたちにも参加して頂きたいクイズコーナーをやりたいと思います! もちろん、大人の方も参加してください(笑)」と、奥村は大きなパネルを用意してきた。パネルに描かれていたのは、ある動物のシルエット。

「クラシックには、動物を題材にした曲が結構あるんですね。今から、この生き物に関する曲を演奏するので、聴きながら考えてみてください」とクイズ形式である曲が演奏された。

ゆったりと優雅な旋律……。繰り返されるアルペジオは水の上を滑らかに進んでいくような……その曲は、『動物の謝肉祭』より、サン・サーンス作曲「白鳥」だった。パネルに描かれていた鳥のシルエットに、普段子どもたちからは「ひよこ!」「アヒル!」といった答えが上がるという。「曲を聴いてイメージが変わった?」という奥村の問いかけに、この日も「アヒルから白鳥に変わった!」と、子どもから声が上がっていた。

「クイズをもう一問! この二枚の絵を見てください」と示されたのは“亀”と“蜂”の絵。「この蜂、本当は熊蜂なんですけど、針を描き忘れちゃったのでだいぶ穏やかな蜂に見えますね(笑)。これから二つの曲を演奏するので、どちらがどっちの生き物の曲か、考えてみてください」と問いかけた。

「亀の曲は、どっちだったでしょう?」 (撮影=原地達浩)

「亀の曲は、どっちだったでしょう?」 (撮影=原地達浩)

一曲目はサン・サーンス作曲「亀」(『動物の謝肉祭』より)、そして二曲目はリムスキー=コルサコフ作曲「熊蜂の飛行」。演奏を終え、「亀の曲は、どっちだったでしょう?」と答え合わせをすると、2曲目に手を挙げた子どももちらほら。「みんなと同じじゃなくていいんだよ~。」とコミュニケーションを取りながら、奥村はもう一つ豆知識を教えてくれた。

「このゆっくりとした「亀」という曲ですが、実は早く弾くと皆さんがよく知っているこの曲になります。」と、先ほどとは打って変わった弦捌きで同じメロディを弾き始めると……なんと、運動会で必ず耳にするオッフェンバック作曲オペレッタ『地獄のオルフェ』より「天国と地獄」に変貌! というのも、実はサン・サーンスの「亀」は、「天国と地獄」のパロディであり、これは知らなかった大人も多かったようで、会場からは「えっ!」と驚きの声が漏れた。

「音を楽しむ」。そんな、大人も子どもも想像力を刺激するクイズコーナーを経て、最後はモンティ作曲「チャルダッシュ」、アンコールにパッヘルベル作曲「カノン」でじっくりとヴァイオリンの音色を聴かせ、30分のプログラムを終えた。

演奏を楽しむ親子 (撮影=原地達浩)

演奏を楽しむ親子 (撮影=原地達浩)

サイン会での一場面 (撮影=原地達浩)

サイン会での一場面 (撮影=原地達浩)

出演を終えた奥村と小柳に、演奏を終えた感想を聞いてみると、「普段はどうしてもコンサートホールで演奏することが多いので、とっても新鮮でした。お客様との距離も近くて、弾いていて楽しかったです。普通にカフェとしても来てみたいなと思いました。」と奥村。小柳も、「すごく品があって、雰囲気もあるし、音の聴こえ方もすごく自然に作ってくださっていて、弾きやすかったです。」と演奏自体を楽しんでくれたようだ。

MCの中でも少し話が出ていたが、奥村が“キッズのための音楽会”に力を入れようと思ったのは、『サンデー・ブランチ・クラシック』もコンセプトに掲げている「音楽をもっと気軽に楽しんでもらいたい」という想いからだという。「子どもの頃に生のヴァイオリンを近くで観たとか、すごく楽しい音楽会に行ったとか、いい経験や思い出があると大人になった時に、クラシックに対して壁を作らずに接してくれるんじゃないかなと思ったんです。」

インタビューの様子 (撮影=原地達浩)

インタビューの様子 (撮影=原地達浩)

しかし、以前開催した音楽会で本日と同じクイズを出題した際、「熊蜂の飛行」に対し、「熊蜂に聞こえなーい!」と言われたこともあるそうで、「大人の方は、お世辞でも聞こえるって言ってくれるんですが、子どもは一切それがないので(笑)。子どもたちの反応は、本当におもしろいですね。」とキッズのための音楽会ならではのエピソードを教えてくれた。

最後に奥村は、「人間、音楽なしではたぶん生きていけないと思うんです。日本のポップスや洋楽を楽しむのと同じように、音楽を楽しむ選択肢のひとつに、クラシックが入ったらいいなと思っています。これからも、いろんな方がこの企画に出演されると思うので、いろんな音楽に触れていってほしいですね。」 小柳は「おうちのような感覚もありながら、非日常を味わえるとても素敵なところなので、ふらっとクラシックを聞きに立ち寄ってもらえたらいいですね。」と語っていた。

小柳美奈子(ピアノ)、奥村愛(ヴァイオリン) (撮影=原地達浩)

小柳美奈子(ピアノ)、奥村愛(ヴァイオリン) (撮影=原地達浩)

『サンデー・ブランチ・クラシック』では、音楽を気軽に楽しんでもらいたいという想いから、お子様連れの方も大歓迎している。日曜日の午後の楽しみとして、老若男女問わず、音楽を近くに感じてほしい。次回もお楽しみに。

プロフィー
奥村愛(おくむらあい)
7歳までアムステルダムに在住。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースで学ぶ。第48回全日本学生音楽コンクール全国大会中学生の部第1位、第68回日本音楽コンクール第2位など受賞多数。
国内の主要オーケストラと多数共演。2000年にはポーランド国立クラクフ室内管弦楽団と、02年にはI.ビエロフラーヴェク指揮プラハ・フィルハーモニー管弦楽団と共演するほか、04年にはP.ガロワ指揮シンフォニア・フィンランディアの日本ツアーにソリストとして参加。06年・07・08年は本名徹次指揮ヴェトナム国立交響楽団のヴェトナム・ツアーにソリストとして参加する等、海外オーケストラとの共演も多い。また富士山河口湖音楽祭には毎年出演を続けている。
CDは02年『愛のあいさつ』でデビュー。最新CDは2013年発売の「With a Smile~微笑みをそえて」。 2012年にデビュー10周年を迎え、全国リサイタル・ツアーを開催。親しみやすいプログラミングと自然体なトークによるリサイタルは各地で大好評を得ている。一児の母としての経験を生かし、自らのプロデュースによる親子向け公演を数多く手掛け、各地で大絶賛されている。テレビ・ラジオ等への出演も多く、多彩な活躍で注目されている。
桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。佐藤製薬のトータルスキンケアブランド「エクセルーラ」のイメージキャラクターをつとめている。

小柳美奈子(こやなぎみなこ)
東京藝術大学卒業。伴奏のイメージを変えてしまう、アンサンブル・ピアニスト。様々なプレイヤーの呼吸の機微を読み取り、それに寄り添うしなやかな感性を数多くのリサイタル、レコーディングで発揮している。吉松隆「サイバーバード協奏曲」の準ソリストとしてフィルハーモニア管弦楽団他と共演。
須川展也氏をはじめとした共演での録音は10数枚を超える。また須川氏に献呈された多くのデュオ作品(吉松隆氏、西村朗氏、長生淳氏等)のほぼ全ての初演を手がけている。中でも03年に発売された須川氏の3枚組アルバム「Exhibition of Saxophone」に於ける須川氏との絶妙なコンビネーションは、大絶賛を浴びた。パーカッションの山口多嘉子とのデュオ「パ・ドゥ・シャ」で、吉松隆氏の作品を収めたCDも発表している。
海外での演奏も多く、訪れた国はヨーロッパ各国、アメリカ、ロシア、およびアジア諸国など20か国におよぶ。いずれのステージでも多くの注目を集め、高い評価を得ている。 トルヴェール・クヮルテットの共演者としてのキャリアも長く、9枚の録音に参加。 トリオ「YaS-375」のメンバー。 ピアノを安川加寿子、梅谷進、秦はるひ、今井正代、長谷川玲子、本村久子の各氏に師事。
 

 

奥村 愛  公演情報
イマジン七夕コンサート 2016 ~名曲ガラ・コンサート~

 日時:7月6日(水) 開演19:00
 会場:サントリーホール

<出演者>
奥村愛(ヴァイオリン)、カメラータ・ド・ローザン ヌ(弦楽アンサンブル)、
須川展也(サクソフォン)、トルヴェール・カルテット (サクソフォン四重奏)、
山形由美(フルート)、加藤昌則(作曲・ピアノ)、ぱんだウインドオーケストラ、
橘直貴(指揮) ほか


キッズのためのはじめての音楽会

 日時:2016年7月30日(土)
 会場:浜離宮朝日ホール 小ホール (東京都)

<出演者>
奥村愛(ヴァイオリン&プロデュース)/前田尚徳(ヴァイオリン)
山田那央(ヴィオラ)/奥村景(チェロ)/小柳美奈子(ピアノ)
小林洋二郎(パーカッション)/おんのすけ(キャラクター)

<曲目・演目>
■クラシック名曲メドレー 
~愛の喜び・愛の悲しみ(クライスラー)、エリーゼのために(ベートーヴェン)、
アラベスク(ブルグミュラー)、楽興の時(シューベルト) 
■カルメン組曲(ビゼー) 
■楽器紹介コーナ―! 
■みんなで歌おう!参加コーナー  他

 

 

サンデーブランチクラシック情報
6月26日(日)
加藤昌則(作曲・ピアノ)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円

公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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