松尾貴史がG2演出版『マイ・フェア・レディ』再演で今年もヒロインの父親役に!
『マイ・フェア・レディ』ドゥーリトル役の松尾貴史(撮影/石橋法子)
日本初演50周年となった2013年、演出にG2を迎え新たに生まれ変わったミュージカル『マイ・フェア・レディ』が、2016年一部装いも新たに再演される。ロンドンを舞台に下町に暮らす花売り娘イライザが言語学者のレッスンを経て、麗しい貴婦人に変貌を遂げる姿を描く。オードリー・ヘップバーン主演映画としても知られるシンデレラ・ストーリーだ。前回に引き続き、ヒロインを霧矢大夢、真飛聖がダブルキャストで務めるほか、イライザの父親で飲んだくれのドゥーリトルを松尾貴史が演じる。合同取材会の模様をレポートする。
「酔っぱらっても、立て板に水のごとくしゃべります(笑)」
--松尾さんは2013年の『マイ・フェア・レディ』で初めてミュージカルに出演されました。
僕は踊って歌う勇気がないから、ミュージカルは絶対にできないしやらない。ただ、イライザのお父さんみたいに酔っぱらいの役ならやってもいいよ、と昔から言っていて。そこへ偶然ドゥーリトル役のお話をいただきました。
--すごい偶然ですね!
実のところ、プロデューサーから先に打診されていた演出のG2が「彼はやりませんよ」と勝手に断っていたんですよ。G2とは仲良しなので、僕がミュージカルをやらないことを知っていたので。その後、念のためにとプロデューサーから再び依頼されたG2から、長いメールが届きました。そこにはドゥーリトルの人生哲学や、いかに僕のキャラクターとぴったり合うかなどの分析が書かれていて。そこで僕が「じつは昔から…」と返事をして「え、そうやったん!?」と出演が決まりました(笑)。
--例えば、映画版のドゥーリトルはそこまで酔っぱらっていませんが、松尾さん演じるドゥーリトルは終始酔っぱらっている印象です(笑)。
1幕と2幕、カーテンコールまで酔っぱらっている回もありました。酔っぱらっていないと歌い出せないという僕の照れがあるのかもしれません。G2からは酔っぱらっていても滑舌良く、再演ではいっそう立て板に水のようにやってくれ、と言われています。
--役作りで参考にしたことはありますか?
こどもの頃、藤山寛美さんが劇団員の方に、酔っぱらい役の稽古を付けている光景をどこかで見たんです。その役者さんがつま先立ちで演技されたのを見て「違う。爪先重心は腹が減っている人や、酔っぱらいはかかとに重心が来るねん」とおっしゃっていました。原点はそんなところからです。まさかあの時のコツが、今になって活きるとは。
『マイ・フェア・レディ』ドゥーリトル役の松尾貴史
--再演では高橋惠子さん、水田航生さんが加わるなど、さらに新しくなりますね。
音楽も少し変わるので、雰囲気はだいぶ変わると思います。僕の役柄としては髭がはえます。「年老いた父親に~」という台詞もあるので、ある程度の質感はいるかなと。前回はつるっとして健康的だったので(笑)。
--歌やダンスについてはいかがでしょう。
振付は前より楽になり、いくつかの決めごとが自由になります。前回は、公演の最初と最後の方で自分の動きが相当変化しました。オーケストラピットが2階の左右にあり、音に挟まれるので、さらにはアンサンブルの皆さんの盛り立てもあり、どんどん気持ちがのり、調子が良くなっていくんです(笑)。
--2013年公演では代表的なナンバー「スペインの雨」(劇中では「日向のひなげし」)の歌詞が大胆に改訂されるなど、新演出を印象付けました。
「スペインの雨」の歌詞については僕もずっと気になっていました。あれは”レイン”と”スペイン”の韻を踏んで発音を正すための歌なのに、ずっと昔に直訳された歌詞のままで上演されてきたので。”スペイン”と”雨”では全然韻を踏まないでしょう。今回は、韻や発音を重視したため歌詞が変わりましたが、それにより少し気に入らないと思う人もいれば、逆にそうすることで意味が分かったという人も新たにいるでしょう。あとは、江戸っ子が「ひ」と「し」の発音を入れ替えることを上手く利用して、美しいしゃべり方を指導する場面に整合性を出している。それらは、G2の功績のひとつかなと思います。
「楽しくて、自然に歌い出している自分に驚きました(笑)」
--松尾さんは俳優に加え、エッセイスト、折り紙作家、カレーショップ「般゜若(パンニャ)」オーナーほか、様々な肩書きをお持ちです。それらの活動が役者の仕事に活かされる部分はありますか。
良い演技には返ってこないですが、ストレスは溜まらない。僕は「マインド」「マテリアル」「バランス」「タイミング」の頭文字を取ってMMBTと呼んでいるのですが、何の仕事をするにもこの4つをチェックすれば大きな間違いはおかさない。マインドは取り組む姿勢、素材は台本や役者、バランスは塩梅の問題、そしてタイミングは取り組む順番です。全然違う分野で得たものを線で結ぶと、その間のことまで分かった気になる。間違っててもいいんです。共通点や原則は何かと考えて確認したり、分かった気になるのが重要で。自己満足の楽しみとしては、色んなことをやっているのは有益ですね。
--そんな中、これまでミュージカルを敬遠されてきた最大の理由は何でしょう。
僕はジャンルでお仕事をお断りすることはないので、ミュージカルはやらないというよりも、やれないと思っていました。最近は少し意識が変わって、僕なんかで務まるんかなというマゾヒスティックな感じでお受けすることが、毎回楽しくなってきました(笑)。
--再演を待つ間、『麦ふみクーツェ』『マーダー・フォー・トゥー』と2つの音楽作品に出演されました。ミュージカルに開眼されたのでは?
『マイ・フェア・レディ』に出たことで、音楽劇も出る人なんだ、と思われたのではないでしょうか。ミュージカルに出演する前は、普通の速度で話したら30秒で終わるところをミュージカルでは4分ぐらいかけるから、内容が薄いんじゃないかと勝手にイメージしていました。ところが宝塚歌劇団や海外ミュージカルなどの作品を観るうちに、全然違う価値や感動が一杯あることに気づいて、こんなに楽しいことはないね!と(笑)。これまで触れる機会がなかった不運を感じました。
『マイ・フェア・レディ』ドゥーリトル役の松尾貴史
--いきなり歌い出すことへの不自然さは、どのように克服されたのですか。
やってみると楽しくてね、僕ってこんなに単純な人間だったかなと思うくらいイメージが変わりました。慣れもあるんでしょうけど、『マーダー・フォー・トゥー』では、自然に歌い始めている自分に驚きました(笑)。どこの現場でも音楽監督、歌唱指導の先生、振付家など大勢のスペシャリストがしのぎを削る感じが、本場やねんなと。関わらせていただくたびにレベルが高くて奥深い、凄い世界だなと感じます。
--前回の『マイ・フェア・レディ』では、歌やダンスに加え、アドリブも披露されました。
田山涼成さんがピッカリング大佐役なので、「そちらの”ピッカリィ”大佐も」と稽古場でアドリブを入れたら、G2もリベラルな演出家なので「それ採用」と(笑)。舞台では田山さんも頭を撫でるしぐさでお客さんにアピールしてくれたり、徐々に定着していきました。
--2016年版もいろいろと楽しみです。
イライザを演じる霧矢大夢さん、真飛聖さんはともにお美しいですし、同じ台本なのに霧矢さんからは親しみを、真飛さんからは鷹のように生き抜く強さを感じます。両方の違いを楽しめると思いますし、僕に関しては珍しいものを観る感じで来てもらえたら嬉しいですね。
『マイ・フェア・レディ』ドゥーリトル役の松尾貴史
■日時・会場:
【東京公演】2016年7月10日(日)~8月7日(日)東京芸術劇場プレイハウス
【名古屋公演】2016年8月13日(土)~8月14日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
【大阪公演】2016年8月20日(土)~8月22日(月)梅田芸術劇場 メインホール
■脚本・作詞:アラン・ジェイ・ラーナー
■音楽:フレデリック・ロウ
■翻訳・訳詞・演出:G2
■出演:霧矢大夢/真飛 聖(Wキャスト)、寺脇康文、田山涼成、松尾貴史、寿ひずる、水田航生、麻生かほ里、高橋惠子 ほか
■東宝ミュージカル公式サイト:http://www.tohostage.com/myfairlady/