市村正親にインタビュー「たくさんの曲をいいとこどり!」 ミュージカルファン必見のひとり舞台『市村座』
『市村座』2004年公演より
2016年8月、実に12年ぶりに『市村座』が復活するということで、稽古初日となる日に市村から話を伺ってきた。インタビュールームに現れた市村は、記者の質問に答える……というよりは、今やりたいことが頭の中から次々とわいてきて語りが止まらないといった様子。この模様をお届けしよう。
『市村座』2004年公演より
■12年ぶりの『市村座』開幕!
――『市村座』の再開を心よりお待ちしておりました!
なんで12年も『市村座』をやらなかったんだろうね。忙しかったんだろうね。(←他人事のように。笑)12年間の間に「市村座、いつやるんですか?」って声もたくさんあったの。そろそろご要望にお応えしたいと思って「やるか」となったんです。「口上」もちゃんとやりますよ!
『市村座』2004年公演より
今年の演目は、古典落語『子別れ」を題材にした立体落語。そして音楽談義第三弾となる、『ミス・サイゴン』『オペラ座の怪人』『屋根の上のヴァイオリン弾き』の子どもたちがブロードウェイのオーディションに挑む爆笑必須の感動巨編『二世たちのコーラスライン』。さらに、伝説の歌姫エディット・ピアフの生涯をシャンソンの名曲とともに市村バージョンで届ける。
この前、ミュージカル『スウィーニー・トッド』の楽屋前に並んでいたお客さんから「市村座やるんですね!『御存知一八番/俵星玄蕃(たわらぼしげんば)』を楽しみにしています!」って言われて。「今回それ、やらないんだよ」って答えたら「え? じゃあどこでおひねりを投げたらいいの?」って返されて。定番なんですよ、みんなで楽しめる歌だから。以前、清水ミチコさんが観にいらしたとき、「俵星玄蕃がよかったー!」って言ってて(笑)。ほかにもいろいろやったのに、そこに食いついちゃって。この歌は最後におひねりが飛び交うんです。……お客さんにそう言われたらじゃあやらなきゃならないかな、って今思っています。体力と相談して入れようかなって。あ、決しておひねり目当てじゃありませんから!(笑)
『市村座』2004年公演より
■今回のテーマは「親と子」まずは、落語『子別れ』について
『子別れ』とは? (※ご存知の方は飛ばしてください)
大工の熊五郎は腕はいいのにたいそうな大酒飲みで酒乱。ある日したたかに酔っぱらって帰宅。妻のお光の前で言い訳しているうちに調子に乗って、女郎との色っぽい話までしゃべりだしたので、盛大な夫婦げんかに発展。堪忍袋の緒が切れたお光は子どもを連れて家を出てしまう。その後、年季が明けたくだんの女郎を家に入れたが、いざ暮らしてみると大層ひどい女だとわかり、叩き出そうとしたら逆に出ていかれてしまう。
それから三年後。反省した熊五郎は一生懸命働き、まっとうな生活をしていた。ある日、街角で自分の息子を見かける。別れた妻子が一生懸命に暮らしていることを知った熊五郎は、面目ない気持ちから息子に「明日会ったら鰻をごちそうする。おっ母さんには内緒だよ」とお小遣いを持たせて帰らせる。が、すぐにバレてしまう。お光は熊五郎がマジメになったことを喜びつつも、ヨリを戻すには…と二の足を踏む。そして翌日、我慢できずに息子の後を追っていったお光は熊五郎と再会。何を話せばいいのか固まる二人に子どもが仲直りを勧め、ようやく話しだす。「『子は鎹(かすがい)』とはよく言ったものだ」と。
僕も父親になりましたから、「親と子」というテーマでやりたかったんです。『子別れ』はいい話ですから。(古今亭)志ん朝さんのはホロッとするけど、(立川)談志さんのは最後はホロッとしないの。笑いで終わらせてね。そんな志ん朝さんと談志さんのいいところを混ぜて、俺風に仕上げます!
『市村座』2004年公演より
■そしてエディット・ピアフも!!
ピアフの歌だけだと物足りないので、ピアフを愛した、ピアフと関係のあった男たちの歌もやりたいと思ってます。ジョルジュ・ムスタキとかジャック・ ピルスとか。シャンソンはもちろん歌いますし、今、試行錯誤しながら稽古していますよ!
『市村座』2004年公演より
■感動巨編『二世たちのコーラスライン』。さあ、市村正親が語ります!
――この企画はどこから生まれたんですか?
もともとは楽屋でやってたネタなの。『スウィーニー・トッド』だったかな。もっと前かも。楽屋で「♪エンジニアのおじちゃん~あれはなんてビル~♪」「ここはブロードウェイ~♪」って今出演している舞台と全く関係のない舞台の替え歌をよく歌っていたんです。それがスタッフにものすごくウケていたので、「あ、これ、使えるかも!?」……それが『二世たちのコーラスライン』のスタートでした。
『ミス・サイゴン』にはキムが残した息子タムがいて、『オペラ座の怪人』のファントムにはクリスティーヌとの一夜で息子グスタフが生まれた……ここは『ラブ・ネバー・ダイ(Love Never Dies)』に描かれていますね。また『屋根の上のバイオリン弾き』にはまだ嫁いでいない娘がいて。彼らがみんなアメリカに渡って……タムはブロードウェイでオーディションを受けるところに、コニー・アイランドからグスタフもやってきて。『屋根の上の~』の末娘チャバが父親たちを追ってブロードウェイに行き、バレエを習ってオーディションを受ける……。
そもそも『ミス・サイゴン』のエンジニアは「ドリームランド」でお店を経営していたくらいの人だから振付の経験もある。そういう話から何か生まれないかなあ、って作・演出の髙平(哲郎)さんとも相談して、そうこうしているうちに『二世たちのコーラスライン』が出来上がりました。曲はふんだんにありますし、おいしいとこどりしてやろうと思っています。
今、予定している曲だけ並べてもすごいよ! 『コーラスライン』から「ONE」、『ミス・サイゴン』から「アメリカン・ドリーム」、『オペラ座の怪人』から「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」、『屋根の上のバイオリン弾き』から「愛する我が家」「サンライズ・サンセット」などなど……。
ああ、でも『ラブ・ネバー・ダイ』の曲が入ってないから、なんとか時間を作っていれたいです。これらをおもしろおかしく、さらに25分にまとめないと。さっき稽古で通してみたら40分もかかっちゃって! 一曲やったらすぐ次にいかないとね……。
『市村座』2004年公演より
――贅沢すぎるラインナップですね。ミュージカルファンにはたまらないかも! とても25分にまとまるとは思えませ……いや、まとめてほしくないです(笑)。
これで我慢できない人はぜひ「本編」を観てください、ってことで(笑)。以前の市村座で「市村座の怪人」をやったときには、もうお客さんたちがジタバタし始めて。「替え歌じゃなくて正統派のが聴きたーい!」なスイッチが入っちゃってじっとしていられなくなったみたい。僕がやるのは、似てるけど似てない曲に見事にアレンジされているからね(笑)。
――こうなると、いま話に出てきていないミュージカルで、子どもがいる作品が他にないか探したくなりますね。
『スクルージ』のティムもオーディションに参加させたほうがいいかな、病気が治った設定にして。『スウィーニー・トッド』にも娘ジョアンナがいるしなあ。「パパは首切ったー」とか歌いだすの(笑)。
あとは『アマデ』…あれは『モーツァルト』に育っちゃうからなあ(大笑い)
――『二世たちのコーラスライン』はもうそれだけでミュージカルとして上演してほしいです!
まさに『フォービドゥン・ブロードウェイ』や『ザッツ・ジャパニーズ・ミュージカル』みたいなものになるよね!
『市村座』2004年公演より
■今、市村正親が「市村座」に思うこと
今年、蜷川幸雄さんが亡くなり、昨年は坂東三津五郎さんが亡くなり、中村勘三郎さんも亡くなって……みんなやりたいことがまだまだいっぱいあったと思うので、彼らのために一曲、エンディングで歌おうかなって思っています。…いい歌詞ができたらね! (突然口ずさみだす)♪薄暗い稽古場で、光を求め生きてきた、今日まで~♪」…って、自分の俳優としての人生を歌に込めてね。彼らの分も生きていく、という想いを持って僕の残された人生を生きているという感じでね。そういうことができたらいいなあ。「市村座」ですから、そういう想いを込めてもいいかなって。
アイディアだけで終わってもつまらない、そこでお客さんがいかに笑ってくれるかが肝心なところ。一人でやるのは大変だけど、お客さんが待っているから。深刻なものはやらず、みんなが笑って帰れる「市村座」にしたいね。
(取材・構成:こむらさき)
埼玉県川越市出身。1973年、劇団四季『イエス・キリスト=スーパースター』でデビュー。退団後は、舞台作品だけでなく、テレビドラマや映画、ナレーションなどさまざまな分野で活躍。近年の主な舞台作品に『NINAGAWAマクベス』『スウィーニー・トッド』などがある。今年10月より『ミス・サイゴン』、2017年4月より『紳士のための愛と殺人の手引き』が控える。さらに、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」にも今秋出演。
■日程:2016年8月11日(木)~8月21日(日)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
■日程:8月23日(火) 19:00開演
■会場:電力ホール
■主催:仙台放送
■日程:8月24日(水)19:00開演
■会場:りゅーとぴあ
■主催:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団、BSN新潟放送
■日程:8月27日(土)13:00開演・8月28日(日) 13:00開演
■会場:サンケイホールブリーゼ
■主催:サンケイホールブリーゼ
■日程:9月2日(金)19:00開演
■会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■主催:キョードー東海
■日程:9月3日(土)18:00開演
■会場:ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)中ホール
■主催:信濃毎日新聞社、NBS長野放送、オフィス・マユ