自然体の家入レオに訊く 新作『WE』インタビュー「自分を縛っていたのは自分だった」
家入レオ
家入レオが7月6日、4枚目のアルバム『WE』をリリースした。シングル「Hello To The World」以来タッグを組んでいる多保孝一をはじめ、Christopher Chu(POP ETC)、80KIDZなど、多彩なクリエイターとセッションしている本作は、エレクトロやオルタナティブ他さまざまなエッセンスを取り入れ、歌詞も外に向かって開かれている。彼女の中のもうひとりの家入レオが花開いた、そんな新鮮で開放的な作品だ。より好奇心旺盛に、より自由に。新しい季節を迎えた家入レオに話を訊いた。
――ビックリしました。今までとはだいぶテイストの違うアルバムになりましたね。
そうですね。取材でお会いしたライターさんからもかなり驚きの声が届いているので、リスナーのみんなはどういう反応をしてくれるのかな?って、ちょっとドキドキしています(笑)。
――リリース当日って、CD屋さんを見て廻ったりするんですか?
はい、今回も行ってきました。やっぱり自分の作ったものが店頭に並んでいるのを見ると、感慨深くなりますね。“嬉しいなぁ”って思うと同時に、“間に合って良かった~!”って(笑)。今回は……というか今回も(笑)、ギリギリの進行で締め切りを1週間ぐらい延ばさないといけないくらい。ニュースで「家入レオ、ニューアルバムをリリースします」って発表した時には、まだ3~4曲足りてなくて。(心の中で)“ヤバイぞ、家入!”みたいな(笑)。
――追い詰められるとパニックになって先に進まなくなっちゃう人もいるみたいですけど、レオちゃんは大丈夫でした?
私は逆境に強いほうなので、そういう時は逆に燃えるんです。「絶対負けない!」って。それに、スケジュールは予定をハミ出すだろうっていう前提で組まれていたので(笑)、そのあたりはスタッフさんもわかってくれているというか。
――なるほど(笑)。作り終えた後、レオちゃん自身は今作についてどんな風に感じましたか?
なんかすごくラクになりました。17歳でデビューして、その時に私が吐き出していたものっていうのは、思春期の葛藤だったり、弱さだったり。そういうものを作品にしてたから、私を含めて誰もが持っている“陰と陽”の、“陰”の方ばかりに今までスポットが当てられがちだったんです。それをすごく感じたのは、あるテレビ番組の収録の時で。私が「友達とパンケーキとかアイスを食べに行きます」って言ったら驚きの声が返ってきて(苦笑)、“え? 私そういうイメージなんだ!?”って思ったんですよ。
――パンケーキって、普通は驚愕するところじゃないですからね。
そう。でも“こういうリアクションが来るんだ?”と思って。で、いくら言葉で「自分も時にはハッチャけますよ」って言っても、やっぱり作品で言わないと説得力がないなと思って、今作に収録している「Party Girl」を作ったんです。この曲で自分の中にある“陽”の部分を形にして……もちろんこの曲だけじゃないですけど、「私も“陰と陽”両方あるんですよ」っていうのが示せてラクになりました。そして、どっちにも振り切れるようになったので、自分の強みにもなったなと思っています。
――今回、前作から1年5ヶ月ぶりのリリースになりますけど、その間の気持ちや環境の変化みたいなものも、作品に影響を与えた部分はありますか?
ありますね。一番大きかったのは二十歳になったということ。二十歳になって、もう自分で自分の責任が取れるから、いろんな場所にも行けるようになったし、交友関係も広がって、それで自然と歌詞の内容も変わってきたっていうのがあると思います。あと大きかったのは「君がくれた夏」っていう楽曲で。この曲の反響が大きかったっていうのもそうなんですけど、自分としてはそこよりも、その時にスタッフさんとかマネージャーさんがガラッと入れ替わったんですよ。で、これからどうしていきたいかっていう話し合いをした時に、「新しいことをやってみたら?」って言われて、“最初から関わっているわけでもないのに、なんでそんなことを言われなくちゃいけないんだろう”って思っちゃって。その時は私も今以上に子どもだったので、かなり閉じていたんです。でも、お互い言いたいことを言って傷つけ合うと、そのぶん距離は縮まってくるじゃないですか。そんな時にフラットな状態で「アーティスト家入レオも魅力的だけど、こうやって普通に接してくれてる家入レオという人もすごい魅力的だよ」って言ってもらって、ふっと肩の力が抜けたんですよね。“結局、自分を縛っていたのは自分だったんだな”と思って。だから……そう、今回のアルバムは、変わったというよりも、もっと自然体に近くなった、という感じなんだと思います。元から持ってた部分をストーンと出せたっていう。
――その“自然体”はアルバム全体の空気感になって出ていますよね。これだけ好奇心旺盛にいろいろやってても、そこに無理してる感はないっていう。
そうですね。だから、今作は“東京に来てからの1stアルバム”っていう気もしています。今までも東京でメジャーでやってきてはいるんですけど、どっか福岡を引きずって曲を作ってた部分があるんですよ。でも今回は東京に来て触れたインディー系の音楽だったり、東京で生活している中で“いいなぁ”と思ったことだったりを、すごく自然に、リアルに落とし込めているので。
――例えば「恍惚」はオルタナ系の要素が入っていますけど、こういうのも東京に出てきてから“いいなぁ”と思ったものなんですか?
「恍惚」はサカナクションのライブに行った時に、ドラムンベースというジャンルにすごい興味を持ったんです。それで、自分もやってみたいなと思って、アルバムを一緒に作ってくれているベースの須藤優さんとドラムの堀正輝さんにそういう話をしていたら、多保さんが「いいねそれ、やってみようよ」って。そこからサカナクションの制作チームのエンジニアが参加してくださって、「恍惚」が生まれたんです。
――いいなと思って躊躇なく自分の音楽にも取り入れるっていうこと自体が、昔とは違いますよね?
本当にそう思います。昔は“これをやったら家入レオじゃなくなる”とか、自分の領域をガッチリと守ってましたから。でも、今はもう“誰とやっても家入レオはブレない”っていう自信があるし、よく考えたら21歳で“あの人とやりたい、この人とやりたい”っていう希望をある程度叶えていただける環境って、すごく恵まれていると思うんです。だったら今は間口を広くして、いろんなエッセンスをもらおうと思って。だから「シティボーイなアイツ」とかも、私の大好きなGalileo GalileiのアルバムをプロデュースしているPOP ETCのクリストファー・チュウにアレンジで参加してもらったりとか。元々この曲はエイティーズを意識して作ってたんですけど、それがこのアレンジになって、すごくハマったなと思いますね。
――エイティーズとエレクトロの融合が面白い新鮮さを生み出してますよね。その「シティボーイなアイツ」は歌詞も、渋谷、下北みたいな若者の街が出てきたり、LINEが出てきたり、何より今までとは違うレオちゃんが出ていて、すごく新鮮でした。
この歌詞には私の日常が結構出てると思います。LINEとか始めると歌詞にもLINEとか出てくるものなんだなぁって(笑)。だから周りの人からも「一番等身大だね」って言われました。今思うと、1stアルバムの『LEO』のほうが、良くも悪くも今より大人っぽかった気もします。
――さっき“陽”の部分が出せたと話してくれた「Party Girl」もハジケてて、キュートな“都会の女の子”という印象を受けました。
でもディレクターさんとは「今イチなり切れてない感が家入っぽいよね~」「そうですよね」みたいな話になったんですけど(笑)。これも、それこそ「Party Girl 」っていうだけあって、クラブでナイトとかをやってる80KIDZの方にシンセのアレンジをお願いしたんですよ。で、結構派手に遊べた曲になったなって。
――レオちゃん自身は、クラブとか行ったりするんですか?
クラブは行かないかなぁ。
――お酒は飲むんですか?
たまに飲みには行きますよ。ハイボールとか……ハイボールは糖質が少ないっていうのもあるので。
――レオちゃんもお酒をたしなむお年頃になったんですねぇ(笑)。
ビックリしちゃいますよね?(笑)
――もちろん21歳だから全然普通のことなんだけど、昔、取材させていただいた時「朝早く起きて学校行って、終わったらスタジオに行って……みたいな生活をしてます」って話していた女の子が、大人になったんだなぁって。なんか今改めて思っちゃいました(笑)。
そんなこと言ってましたねぇ、私。メッチャきつかったです、あの時期は(笑)。でもそれがあったから、今ちょっとずつ自由に遊べる時期に来てるのかなぁって。もちろん真面目にやることは大事だと思うんですよ。今回「Party Girl」にしても、メロディがなかなか納得できなくて、4~5回作り直して最終的にこの形に落ち着いたんです。本当に妥協せずに作りました。だから作品を作るという意味ではすごく真面目に真剣にやってるんですけど、でも自分でいろいろ自制しすぎるのはよくないんじゃないかなって思うんです。私が行き過ぎてたら、周りにそれを注意してくれる人もいますし。だったら、私は今とにかくいろんな体験をして、いろんな曲を作っていくことが大事なんじゃないかなって思っています。
――わかりました。そして、「I Wish」はピースフルなアンセムだったり、「さよならSummer Breeze」は歌声自体が心を奪う切ないラブソングだったり、「そばにいて、ラジオ」は12弦ギターが効いているポップで芯のあるナンバーだったり、本当に粒ぞろいのアルバムだなと思うんですよ。タイトル曲の「we」もすごくいいですね。シンプルなメロディと歌詞の中にレオちゃんの想いがギュッと詰まっていて、メッセージがまっすぐ届いてきました。
嬉しいです。ありがとうございます! 「we」はこのアルバムの一番最後に作った、初めて詞先で書いた曲なんです。今回、自分の作詞作曲は「Party Girl」があったので、作詞作曲はもういいかなって思ってたんですけど、「家入のバラードを聴きたい」ってスタッフさんが言ってくれて。それでやってみたら、スッと降りてきたんですよね。
――歌詞に出てくる「半年と4日」というのは?
今回のアルバムの制作日数です。本当は約半年なんですけど、「4日」っていう取っ掛かりがあったほうが頭に残りやすいかなと思って「半年と4日」にしました。私自身、これまで音楽に救われてきて。だから私もみんなに、たとえ大丈夫じゃなくても「大丈夫だよ」って歌い続ける存在でありたい、そういう想いでこれを書きました。嫌いになられたらもちろんショックだけど、“それでも僕は変わらず君の傍にいるし、曲というボートを送り続けるよ”っていう。アルバム全体を通して言いたいことが凝縮できたし、歌もウーリッツァーで弾き語りして同時に録ったんですけど、いい緊張感の中で録れたので、すごく気に入っています。大事な曲になりましたね。
――スッと降りてきたものが、こんなに宝石のような光る曲になったんですね。逆に生まれるまで難産だったとか、苦戦したっていう曲はありますか?
苦戦したのは「Every Single Day」ですね。この曲は精神的にもピークだったし、プロモーション的にもピークで、ギリギリの中「締め切り締め切り」って言われて、一度集中が切れちゃったんですよ。「10代の時、音楽とプロモーションしかしてないのに、急に自由に書けって言われても書けない!」って言って、ウワーっと号泣したんです。そしたら新しく入ってきたディレクターさんに「じゃあ書けないことを歌にしてみたら?」って言われて、この2番のAメロができたんです。
――<色のない瞳で世界を眺め、空っぽの心で歌を書いた>というところですね。
それってリアルなことなんですけど、周りはこんなのを上げられたらキツイだろうなぁって(笑)。でも、それが“曲を書く”ということなんだなと思って、なんだか身が引き締まりました。
――アルバム全体を通して、ジャンルの壁みたいなものも軽々超えている印象を受けたんですが、そのへんに関してはいかがですか?
The fin.のライブを観に行った時、ショックを受けたんですよ。自分と3~4歳しか違わないのに、こんなに完成された音楽をやってる、と思って。それで次の日あからさまに落ち込んで仕事場に行ったら、多保さんに言われたんです。「自分のカッコイイと思う音楽を貫く生き方も素晴らしいけど、大勢の人がわかる音楽でエッジの効いたことをやるほうが実は難しかったりするんだよ」って。それを聞いた時に「確かにその通りだな」と思って。私はちゃんとここで、メジャーデビューしたこのフィールドで、攻めていこう!と思ったんです。
――それも今作の多彩さに繋がっていたんですね。このアルバムをみんなにどのように聴いてもらいたいですか?
単純に“あぁ、やっぱり家入レオも生きてるんだなぁ”って(笑)。
――生きて前に進んでるんだな、と?
はい。やっぱり1stアルバムが一番いい、みたいな定義っていうのは存在すると思うんですよ。でも、そこから全く変わらずにやっていくのは、一定のファンの方とはやっていけるかもしれないけど、縮小にしか繋がらないと思うんです。それに、ファンの人たちが私に求めているのは“歌い続けてほしい”ということだと思うし、もちろん私もずっと歌い続けていきたいと思っています。だからこれは、すごく前向きな気持ちで作ったアルバムで。そんなアルバムを楽しんで聴いてほしいなと思います。
――タイトルを『WE』にしたのは?
ファンの人たちと一緒に刻んでいきたいっていう気持ちがすごく大きいのと、今回は一緒にいろんなミュージシャン、エンジニア、アレンジャーが関わってくれたので、皆さんにリスペクトを込めて。でもね、今回いろんなことをやったら、もっともっとやりたいことがどんどんどんどん広がってきちゃって。アルバムを作り終えてプロモーションがピークの時は「もう無理!」って思ってたんですけど、今は早くやりたいです……制作!(笑)
――もうやりたいですか。アルバムをリリースしたばっかりなのに(笑)。
もうやりたいです。早くやりたい!(笑) デビューしてからはどうしても、リリースが決まってから制作するっていうパターンが増えてたんですけど、リリースのあるなしに関係なく、ライフワークとして、本当の意味での制作をどんどんやっていきたいなぁって。
――本当に音楽が好きなんですね。当たり前のことだけど。
本当に好きです! 音楽も、歌うことも、やっぱりすごい好き。
インタビュー・文=赤木まみ
09月21日(水)りゅーとぴあ・劇場〈新潟〉
09月24日(土)たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール〈兵庫〉
09月25日(日) 広島JMSアステールプラザ大ホール〈広島〉
09月30日(金) 幕別町百年記念ホール〈北海道 十勝〉
10月1日(土) 札幌市教育文化会館 大ホール〈北海道 札幌〉
10月8日(土) イズミティ21 大ホール〈宮城〉
10月10日(月・祝) 秦野市文化会館 大ホール〈神奈川〉
10月16日(日) 君津市民文化ホール〈千葉〉
10月18日(火)駒ヶ根市文化会館〈長野〉
10月22日(土)出雲市民会館〈島根〉
10月29日(土)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール〈愛知〉
10月30日(日)焼津文化会館 大ホール〈静岡〉
11月3日(木・祝)紀南文化会館〈和歌山〉
11月4日(金)守山市民ホール〈滋賀〉
11月6日(日)大阪国際会議場 メインホール〈大阪〉
11月12日(土)倉敷市芸文館〈岡山〉
11月13日(日)周南市文化会館〈山口〉
11月19日(土)福岡サンパレスホテル&ホール〈福岡〉
12月10日(土)東京国際フォーラム ホールA〈東京〉
※3歳以下入場不可/4歳以上必要
http://eplus.jp/ieirileo-spice/
7/19(火)20:00~7/24(日)23:59
※一部受付対象外の公演もございます。予めご了承ください。