ダンス界の急成長株、s**t kingzの新作はトイレをめぐる壮大な物語『Wonderful Clunker―素晴らしきポンコツ―』上演中
撮影=荒川潤
国内外でジャンルを越えた活動を行い、着々とファン層を広げつつある話題のダンスクルー、s**t kingz(シットキングス)。その待望の単独公演第3弾『Wonderful Clunker―素晴らしきポンコツ―』が9月18日(日)まで、Zeppブルーシアター六本木にて上演中だ。今回、脚本を担当したのは、映画化もされた人気漫画『テルマエ・ロマエ』の作者でもあるヤマザキマリ。お風呂ならぬ“トイレ”をモチーフに、初めての舞台脚本執筆に挑んだ。いよいよその初日が開幕する直前に、劇場ロビーにてs**t kingzのメンバー4名と脚本のヤマザキマリが揃って登場し、まるで楽屋にいるかのような和やかなムードで囲み取材が行われた。
――今回、ヤマザキさんに脚本をお願いした経緯は。
shoji:新作のテーマは何にしようと4人で話していた時に、「トイレはどうだ」という話になったんです。それで、じゃあ、どなたにお話を書いていただこうかと考えたんですが、メンバー4人ともすごくマンガ好きだったこともあって、水まわりつながりで『テルマエ・ロマエ』が浮かんだんです(笑)。
――ヤマザキさんはその脚本依頼を受けて、どう思われましたか。
ヤマザキ:依頼先を間違えたんじゃないかと思いました(笑)。でも、トイレがテーマだとあったので「あ、風呂を描いたから今度はトイレなのか、同じ水まわりだしな」と納得しました。とはいえ脚本なんて書いたことがないし、また舞台の脚本ならまだしも、ダンスだと言葉がないじゃないですか。「いきなりハードル、高っ!」と思って。でもやらないときっと後悔するなとも思ったので、思い切ってお引き受けしたんです。そのあと実際にお会いしてみたら、みなさんハンサムなのに驕ってなくて非常に素晴らしいオーラが出ていて。私はいつもおじさんばかり描く専門家みたいに思われていたのに、若い男子がインパクトを与えてくれたので「これは面白いものが絶対にできるわ!」と直感が閃きましたね。
撮影=荒川潤
――脚本を読まれてメンバーのみなさんはそれぞれ、どんな感想を持たれましたか?
NOPPO:ヤマザキさんのトイレに対する知識もすごかったですし、自分たちで考えられる範囲を越えた目線からのトイレのことがたくさん書いてあって。自分たちからの目線のトイレではなくトイレからの自分たちとか、そういう面白い目線もあるんだなと思ったりして、とても勉強になりました。
Oguri:今までの2回の単独公演はオムニバス形式だったんですが、今回はストーリーにもこだわってみたいということで最初は自分たちで考えてはみたものの、「こんなことがやりたい」というアイデア止まりでうまくまとめられなかったんです。そこに、ヤマザキさんからポーンとまとまったものをいただけたことでひとつドアが開いてスタートすることができたので、ものすごくテンションがあがりましたね。
kazuki:最初は「オープニングでトイレの扉が開くとそこに4人がいたら面白そうじゃん!」くらいの安易な考えでテーマを決めただけだったんです。だからトイレというテーマでそこまで深みが出せるなんてと、驚きました。誰もが身近に感じられるものなだけに何でもありな部分もあるけど、逆にそこに限定することでいろいろと面白いことが生まれるんですね。だけど実は「s**t kingzのメンバーが4人だって、ヤマザキさん知ってるよね? これ、4人だけで演じるの? 無理!」とも思ったんですけど(笑)。
shoji:今回はひとりで何役もやりますからね! もう、お話がすごく壮大なんです。これだけの世界観を言葉を使わずに表現しないといけないというのは、僕たち自身にとっても大きなチャレンジなのでとてもワクワクしています。こちらからもいろいろ提案させていただいては、さらにすごいものを返していただき、何度もキャッチボールをしながら作っていった感じです。ミーティングを重ねれば重ねるほど面白くなっていくので、すごく楽しかったですね。
撮影=荒川潤
撮影=荒川潤
――今作の一番の見どころ、ここを見てほしいというところは。
Oguri:今までは4人が同じラインに立ってストーリーを構成していたんですが、今回はひとり主役的な人物がいて、その人間を軸にいろいろなストーリーが展開していく形なんです。その、今までにないアプローチにも注目してみてほしいかな。
shoji:あと、強烈なキャラクターたち。特に後半にいかにもヤマザキさんらしいキャラクターが出てくるので、そこも楽しみにしていただきたいです。
ヤマザキ:なんでヤマザキマリがこのダンスチームと一緒にいるんだという、この不思議な状況の理由が、まさに二幕にあるという感じですよね。
撮影=荒川潤
撮影=荒川潤
――今回はヤマザキさん以外にも、いろいろな方のサポートが入っていますね。
shoji:そのおかげでいつもよりさらにパワーアップしたものがお見せできると思っています。ヤマザキさんももちろんですが、楽曲を提供くださったのも本当に素晴らしい方たちばかり。あとはそれをどれだけ4人で見せられるかというところに尽きます。
Oguri:舞台美術さんとか衣裳さん、小道具さん、各セクションでプロフェッショナルな人たちがサポートしてくださっていますから。ひとつひとつのクオリティが今までとは全然違うのが、リハーサルをしながらも感じられました。
kazuki:前回までは衣裳も自前だったんですが、今回は何も持ってこなくてよくて。家を出る時、荷物が少ないので助かっています!
NOPPO:アハハハ、本当にそうなんですよ!
撮影=荒川潤
――最後に、お客様へメッセージをいただけますか。
ヤマザキ:分野が違う人間が混ざっても、表現者であるということはまったく変わりがないんですよね。衣裳さんにしても、美術関係の方にしてもみんなそれぞれが職人さんであり、表現者。それが合体した時のパワーというのはものすごいものになるという確信が、私にはあるんです。だから「なんでヤマザキマリが入っているのよ」とか、たかをくくっていると損しちゃうと思いますね。
shoji:いや、僕も本当にそう思います。
ヤマザキ:shojiさんが「やったことないけど、マンガ家のヤマザキさんにお願いしてみよう」と一歩踏み出してくださったおかげで絶対的に世界観は広がったはずですし、ここで成就したパワーやエネルギーが観てくださる方にもいい効果を与えられたらいいですよね。私自身も、とても楽しみにしています。
Shoji・kazuki・Oguri・NOPPO:がんばります!!
この会見終了後、劇場内で本番さながらの舞台稽古が公開された。ステージには真っ白い便器がひとつポツンと鎮座しており、それにピンスポットがあたっているというあまり見たことのない、ある意味とてもシンプルな光景が広がっている。ここから“トイレ”をめぐる、壮大かつユニークな物語が始まるのだ。
あらすじとしては、こうだ。やることなすこと失敗ばかりのポンコツサラリーマンが唯一、日々のプレッシャーから解放される場所、それが“トイレ”だった。個室の中では彼は最高にクールな人間でいられるのだ。ある日、また仕事でミスをした彼はほとほと自分に嫌気がさし、職場を出て公園の公衆トイレへ逃げ込む。そこで出会ったのは奇妙な格好をした3人の男たちだった。便器に乗って、果たして彼らはどこへとタイムスリップするのか……?
会見でもメンバーが口にしていたように、二幕からと言わず一幕途中から既にヤマザキマリワールドが全開! ヤマザキが紡ぎ出す時空を超えた展開を、s**t kingzの4人がそれぞれ“ダンス表現者”としてだけでなく“役柄”として演じていたことが実に新鮮だった。これは本人たちにとっても新境地であっただろうし、“物語”という枠があること、その流れを意識することには手応えもかなり感じたはず。
冴えないサラリーマンから始まり、巨大な身体にもかかわらずやたらと身軽な掃除夫や、クラシックな幽霊が出たと思えば、それを成仏させようとする修行僧、さらにはサラリーマンがタイムスリップした時代を生きる人々……。4人はリズムと楽曲の歌詞に合わせたキレのいい振付で踊りながら、濃いキャラクターをそれぞれ演じ分け表現していく。特にクライマックスシーンの4人のパフォーマンスはとびきりパワフルで、まさに圧巻だった。
s**t kingzの、新しい魅力がたっぷり詰まったステージであることは間違いない。劇場へと足を運び、ぜひその成長ぶりを目撃してきてほしい。
■日程
9月9日(金)~9月18日(日)
Zeppブルーシアター六本木 (東京都)
12月3日(土)
日本特殊陶業市民会館ビレッジホール (愛知県)
12月8日(木)
広島JMSアステールプラザ 大ホール (広島県)
12月12日(月)
福岡市民会館 大ホール (福岡県)