野田あすか ~「ありのまま」を音楽で表現する、と話題を呼んでいるピアニスト
野田あすか
心の中から生まれる純粋な音楽とピアノの響きを、コンサートホールで体験する
小さなスタジオの中、あたたかくピュアなアコースティック・ピアノの音が豊かに響く。音楽は、フランス人作曲家のフランシス・プーランクが名歌手エディット・ピアフへ捧げた「即興曲第15番」。そのメロディはシンプルで、一度聴くと鼻歌で歌えそうなほどだが、それだけに演奏者の心がそのまま投影されてしまう。演奏を聴かせてくれたのは,自らが探し当てた「こころの音」をピアノで表現していると話題になっている野田あすか。広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)、解離性障害と診断される中、音楽で多くの人とコミュニケーションし、聴き手の心をあたたかくするピアニストである。
幼い頃からピアノを演奏し、22歳のときには名門であるウィーン国立音楽大学へ短期留学をするなど、その才能を発揮。その一方で自分を表現する手段を模索しながら苦しんだが、ピアノの恩師である田中幸子氏との出会いが、彼女を大きく変えた。言葉で人とコミュニケーションすることが苦手だった彼女が、ピアノで自分の心を表現できるようになっていく。こうした経緯などは、付属のCDで演奏も聴ける書籍『発達障害のピアニストからの手紙』『心がホッとするCDブック』(共にアスコム刊)に詳しい。 その野田あすかが、東京・銀座にあるクラシック音楽専用ホールの「王子ホール」でコンサートを行う。これまでにもさまざまな会場でピアノを弾き、自作の歌なども披露してきたが、彼女のピュアな音楽を共有できる最高級の環境となるだろう。
「コンサートホールの中で,ピアノの小さな音がポーンと広がっていくのが好きです。ピアノは私自身。華やかな曲であってもズドーンという重い音があるとほっとします。だって自分は根暗な性格だったから、重い音を弾くとピアノが友だちになってくれるんです」
野田あすか
とはいえ、彼女が作曲し、演奏している音楽を聴いてみると、スピーカーから柔らかな太陽の光が差し込んできたり、温かな微風が吹いてくるような感触を味わう。決して「ズドーン」という衝撃的な音が迫ってくることは少ない。しかしそうした音楽の中であっても、どこか彼女なりの「ズドーン」が含まれているのだろう。
「そのままの自分を出してしまうのは恥ずかしいけれど、私の音楽を聴いて『あ、自分も同じだ』と感じてくれる人がいたら、とてもうれしいです。毎日が楽しくてルンルンしている人よりも、悲しいことや寂しくなることがあって気持ちが沈んでいる人のほうが、音楽を必要としていると思いますし、そういうときに楽しい曲を聴くと空しくなってしまうかもしれません。自作のピアノ曲は、どれも私の心がギュッと詰まっています。それを聴いていただき、お客様のお一人ひとりが自由に感じてくれればうれしいです。歌は、私が伝えたいメッセージを言葉(詞)にしています」
野田あすか
自作の曲はピアノソロと歌詞のついた歌があり、弾きながら歌うこともあるが、今回はピアノ曲のみを演奏する。その場で感じたことを即興的にピアノで表現することも得意だが、どのような方法であれ、そのすべてが野田あすかからのプレゼントだ。コンサートでは自作曲のほか、ショパンやドビュッシーの曲なども演奏し、クラシック・ピアニストとしての腕前も披露する。
「私はお客様から拍手をいただけるのが幸せ。たった一人であっても、心がこもった拍手が何よりうれしいのです。たくさんの曲をコンサートで続けて弾くのは初めてなので、あたたかく見守ってください」
コンサートでは演奏だけではなく、彼女自身が感じている音楽のこと、ピアノのこと、また自身の気持ちなどを語ってくれるはず。野田あすかという一人の音楽家に接することにより、もしかすると聴き手自身の心が開かれて、新しい日常の過ごし方が見えるのかもしれない。
(取材・文:オヤマダアツシ 写真撮影:荒川潤)
■日時:2017年3月18日(土)13:30開演
■会場:浜離宮朝日ホール
■曲目予定
ドビュッシー:2つのアラベスク第1番
ショパン:幻想即興曲(遺作)嬰ハ短調 Op.66
新曲(自作曲):あしたに向かって、しあわせのプレゼント、など
■公式サイト:http://www.nodaasuka.com/