「あいちトリエンナーレ2016」参加アーティスト制作レポート⑥ 1日かけて巡りたい岡崎会場、アーティストも空間もバラエティ豊か!
6人のアーティストの多彩な作品が混在する、「石原邸」の一室
アーティストも展示空間もバラエティ豊か! 1日かけて巡りたい岡崎会場
8月11日から開幕した「あいちトリエンナーレ2016」もいよいよ後半戦に突入。会期は残すところあとわずかながら、ぜひ訪れてほしい岡崎会場の展示作品を紹介しよう。
名古屋から名鉄特急で約30分、東岡崎駅に降り立つとすぐ、昭和30年代に建てられたレトロな佇まいの駅ビル「岡ビル百貨店」で鑑賞できるのが二藤建人(1986年埼玉県生まれ)の作品だ。二藤は、〈重力と反発〉をコンセプトに、自ら一枚の雑巾と化して街に身体をこすりつける、全身を地中に埋めて(地球に接続)など、身体と世界の激しい触れ合い=直接的な交感を重視した作品づくりを行う彫刻家で、今回の参加にあたっては3階のフロア全体を使い、7つの作品を出品している。
そのひとつ、《人間、下流へと遡る川》(下の写真ー制作中の様子ーを参照)は、反転させた器状の“山”を石膏と愛知の土で形づくり、二藤自身が裾野から裸で這い上がった(実際には下っているように見える)移動の痕跡を見せるという作品。また、黒幕で覆われた空間に寝転んで映像を見る《deep sky》は、世界一海抜の低い場所…ヨルダンとイスラエルの国境にある死海(海抜ー418m)から見上げる“一番深い空”を目指して制作されたという。さらに、逆さまになり足を上げた人の上にもう一人が足裏を重ねて立つ《誰かの重さを踏みしめる》(2枚目の写真を参照)は、重みを感じることで他人をどのように受け入れ認めるか、という試みの作品。会期中に体験することはできないが、装置と体験者の写真が展示されている。
制作中の様子より、《人間、下流へと遡る川》について語る二藤建人。彼の背後に見えるのが《deep sky》
《誰かの重さを踏みしめる》体験の様子。開幕直前イベントとしてレクチャー&体験会が行われた
斬新な発想と多彩な表現方法、その根底にある制作意図に驚かされる二藤作品は、私たちの常識や身体感覚に揺さぶりをかけてくるものばかりだ。2階には、ベトナム・ホーチミンの社会問題をテーマにユーモアを交えて制作された、ウダム・チャン・グエン(1971年ベトナム生まれ)の映像作品《機械騎兵隊のワルツ》も。同ビル内の展示はなしでも鑑賞できるので、ふらりと立ち寄ってみるのも。
続いては、東岡崎駅から乙川に架かる殿橋を渡って徒歩約15分、国道1号線沿いにある「岡崎表屋」へ。ここは元ガソリンスタンドで、従業員用住居として使用されていたクラシカルなビルの2階と3階を使い、インドを拠点に活動するシュレヤス・カルレ(1981年インド生まれ)が展示を行っている。実際に使用されていた間取りや残された家具、小物などを活かし、自ら手がけたオブジェなどと融合させたインスタレーション作品で、タイトルは《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》。
カルレは、個人的なモノがパブリックになる瞬間に興味を抱き、どうしたら作品として存在させられるかを試行錯誤。岡崎の街や歴史、文化などをリサーチしながら滞在制作を行い、“アンチ・ミュージアム”な空間を目指したという。哲学的な問いかけを表した作品など、あれこれと自分なりに想像したり、ボランティアガイドに尋ねたりしながら楽しんでみては。
キッチンでの展示について説明するシュレヤス・カルレ
椅子の背に掛かった白いレース状のものは、タクシーの座席カバーと同じものを作ったあと重要な部分をカット。“用途の無さ”を表現しているという
元々あった飾り棚や皿を利用。たとえば皿は、紙で包まれたものとそうでない(解放されている)ものを並べて展示している。棚の上にはカルレが制作したオブジェも
そして表屋から西へすぐ、岡崎城のある岡崎公園の多目的広場では、10月16日(日)までの期間限定で、イギリスのアーキテクツ・オブ・エアー(1992年イギリス・ノッティンガムにて設立)による空間芸術作品《ペンタルム・ルミナリウム》を体験することができる。
《ルミナリウム》は、1980年代に制作を開始した創立者でデザイナーのアラン・パーキンソンが’85年に発表し、これまで世界中の40を超える国で展示を行い人気を博してきた作品だ。今回は、数ある《ルミナリウム》シリーズの中から、五角形の構造体が全長50mにわたって連なる《ペンタルム》が登場。カラフルな色と光で彩られた幻想的な内部空間は、天気や時間によって変化する様も楽しむことができるのでぜひ。
<ペンタルム・ルミナリウム>展示期間/10月1日(土)~16日(日)11:00~17:00(入場は16:30まで)
料金/国際展または岡崎地区限定が必要。会場では岡崎地区限定(高校生以上300円)のみ販売。
入場方法/当日10:30から入場整理券を配布。各回定員があり、整理券の配布が終了次第、受付終了。開場時間は毎時00分、30分
東岡崎駅から北へ徒歩約20分、六供町の住宅街にあり江戸時代後期に建てられた「石原邸」では、7人のアーティストの作品に出会える。
パリを拠点に活動する関口涼子(1970年東京都生まれ)、東京を拠点に活動する田附勝(1974年富山県生まれ)、岐阜を拠点に活動する田島秀彦(制作レポート①http://spice.eplus.jp/articles/70967を参照)、フィリピンを拠点に活動するカワヤン・デ・ギア(1979年フィリピン生まれ)、パリを拠点に活動するマチュー・ペルノ(1970年フランス生まれ)、愛知を拠点に活動する佐藤翠(制作レポート②http://spice.eplus.jp/articles/72278を参照)の多彩な作品が母屋を彩り、蔵と納屋では愛知を拠点に活動する柴田眞理子(1957年愛知県生まれ)の陶芸作品が静謐な空間を生み出している。
作家で翻訳家の関口涼子は、岡崎の名産品・八丁味噌やスパイスを用いた作品を展示。母屋の土間に並ぶスパイスは、香りを嗅ぐこともできる
畳の上に並べられた装飾タイルとカラフルなガラス越しに庭の景色を望む、田島秀彦の《窓から風景へ》
蔵や納屋には、器の形をした無国籍で抽象的な造形を生み出す柴田眞理子の陶芸作品が。随所に空いた穴が織りなす影も美しい作品は、手に取って好きな場所に移動することもできる
国の有形文化財に登録された歴史ある佇まいと7作家の個性が見事にマッチした「石原邸」は、少し不便な場所ではあるものの、ぜひ足を運んでおきたい会場のひとつ。作品はもちろん、貴重な建物内部も会期中しか鑑賞することができないので、お見逃しなく!
石原邸の外観。左手奥に進むと、風格のある門が現れる
この他、「岡崎シビコ」では6階で作品展示を行っているほか、1階にはビジターセンターも。ここでは、案内や販売等を行うインフォーションと、作品を見るヒントが詰まったワークシートを貸出・配布する「エスタシオン」が設置され、会期中の土・日曜にはオリジナルミソスープの提供サービスも実施。
会場間の距離がある岡崎エリアは、時間があれば街並みを眺めつつ散策するのも楽しいが、効率よく回りたい人はレンタサイクルの利用をおすすめ。東岡崎駅会場のインフォメーション受付でを提示すれば無料で利用することができる。
■テーマ:虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅
■芸術監督:港千尋
■会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日) 74日間
■会場:名古屋地区/愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、栄会場、名古屋駅会場 豊橋地区/PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場 岡崎地区/東岡崎駅会場、康生会場、六供会場
■料金(国際展):◆普通/一般1,800円、大学生1,300円、高校生700円 ◆フリーパス/一般3,600円、大学生2,500円、高校生1,200円 ※中学生以下は無料 ◆岡崎地区限定300円(高校生以上) ※豊橋地区限定300円もあり。パフォーミングアーツは別途が必要。詳細は公式サイトで確認を
■問い合わせ:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局 052-971-6111
■公式サイト:http://aichitriennale.jp/