朗読劇の概念を覆した話題作、天野天街演出&岡本理沙出演の『尿意』が名古屋で再演!
『尿意』チラシ表
まるで飛び出す絵本! 独特のリズムを持つ諏訪哲史の文学作品を如実に立体化
昨年の夏から秋にかけて、名古屋・岡崎・豊橋を主会場として愛知県内で開催された「あいちトリエンナーレ2016」。その特別連携事業として「七ツ寺共同スタジオ」がプロデュースした朗読イベント『往還Ⅱ~原初の岬から~』(こちらの記事を参照)の上演作『尿意』が、名古屋・円頓寺の小劇場「円頓寺Les Piliers」に場所を変え、12月19日(火)から6日間に渡って再演される。
『尿意』2016年9月「七ツ寺共同スタジオ」初演より。 撮影:羽鳥直志
『尿意』は、名古屋を拠点に活動する芥川賞作家・諏訪哲史が小説の限界に挑んだ短編小説集「領土」(2011年 新潮社刊)に収録された一篇で、見知らぬ港町の小学校に転入した“ぼく”の主観により、周囲で起こる出来事などが限界まで高まっていく尿意と共に描かれた作品だ。諏訪は小説表現の試みのひとつとして、入学(ニューギャク)や授業(デュギャオ)など独自の音のルビを振るなど、不思議な感触の文体でこの物語を記している。
舞台化の演出を担当した天野天街(少年王者舘主宰・劇作家・演出家)は、「朗読劇という概念がどうしてもわからない」と、役者に小説をすべて覚えてもらい、役者の身体全部を使ってフィードバックさせて顕在化する、という方法を選択。いわゆる一人芝居の形態で、開幕すると役者が開いていた本をパタンと閉じて動き出し喋り出す、という上演を行って話題を呼んだ。また出演者の岡本理沙(星の女子さん)は、絶え間ない身振り手振りも駆使したこの演技で、日本劇作家協会東海支部が主催する【第2回俳優A賞】を受賞をしている。
今回の再演にあたっては、「円頓寺Les Piliers」の小屋主で演劇プロデューサー・演出家の加藤智宏が名乗りを上げ、10ステージに及ぶ公演を企画。初演の半分ほどのスペース、最大収容人数24名の小空間でどんな再演になるのか、加藤、天野、岡本の3者に話を聞いた。
左から・加藤智宏、岡本理沙、天野天街
── まず、加藤さんが今回プロデュースをしようと思われた経緯から教えてください。
加藤 私、初演を観ていないんですよ。【俳優A賞】の審査員をしていて昨年、岡本さんがこの作品で受賞されましたけど、私が観ていない作品が受賞したという。それは一体どういうことだ、と(笑)。周りの人たちの評判も良くて、それが2ステだけで終わっていて(初演は昨年9月22日の1日、2回公演のみ)、わずかな人しかご覧になっていなくてもったいないので、じゃあやろうかと。
── それでいきなり10ステに(笑)。
天野 わずかな人しか入らない小屋だから。
加藤 そうそう。24人しか入らないので、ここで5ステージやってもたかだか120人かと思うと、じゃあ10ステージと。それでこなれたところで、どこかツアーにでも出たいという欲望はあるんだけれども(笑)。1人なので行きやすいっていうもあるし、椅子だけ持っていって。
天野 いや、現地調達で。
岡本 本だけ持って行きます(笑)。
── 岡本さんは、最初に再演の話を聞いた時はどう思われましたか?
岡本 またやりたいなと思っていたので、上演できる機会をいただいて嬉しいなというのと、10ステというのもそれぐらいやりたいという気はしていたので。
── 最初から抵抗なく?
岡本 もっとやってもいいなと。
天野 すごいよなぁ。
加藤 じゃあ、大晦日までやろうか(笑)。お客さんがいなくなったら次の演目に変わるとか。
岡本 きっと10ステくらいやったら、何か変わるかなぁと思ったり。
天野 腑に落ちてくるかもね。
稽古風景より
── 実際に再演の稽古に入ってみてどうでしたか?
岡本 初演で覚えたことが多少、身体にも頭にも残っていたので最初はそれを追いかける感じで、一人で稽古している時は初演の時の状態になるべく近づけるようにしていました。それを天野さんに見ていただいて、動きの稽古になってからこの劇場のサイズに合わせた形になったので、そこからは新しい気持ちというかイメージを塗り替えて、稽古の目的もはっきりしたので楽しくやってます。一人の時は、なんとなくイメージが違ってやりづらいなぁとか気持ち悪いなぁとか、動きも無理していましたね。
── 天野さんは久しぶりに岡本さんの稽古をご覧になって、どう思われましたか?
天野 もう出来てるね。何も話さずに最初見た時はちょっと不自由そうだったけど。あと、リズムもちょっと違ったかな。
岡本 ガタガタっとしたのかなかなか。あまり直さずにいたのもあったんですけど。
天野 良かったと思う、それが。距離と自分の関係がうまく取れないからリズムが取りづらかったんだよね。でも2回やったら獲得してた、この空間を。すごく勘がいい。この小屋…と言っていいのか、どう言えばいいの? ここ。
加藤 僕ん家でいいです(笑)。
天野 舞台らしきリビング的な場所に扉が2つあるから、何か使えないかな? と思って適当に半開きにしておいたら、岡本さんがなんとなくそこに入りたそうで。とか、邪魔な柱が2本あるから、なんとか柱を無いものとしてやろうとしていたんだけど、実は岡本さんは野望として「何か…」と思ってたらしくて。俺が「あそこ(柱)にぶつかるといいなぁ」と思ってた時にぶつかったのね。すごくそれが偶然に見えて、この不測の事態みたいなものを取り入れてループ(繰り返し)に生かそうと思ったら、わざとぶつかってたんだよね?
岡本 そうです。でも、「わざと」っていうと恥ずかしいから、嘘ついてちょっと事故みたいにして(笑)。
天野 なんかそれが一番のコラボだったよね。
岡本 でも最初が一番上手くいって、それからわざとらしくなっちゃった(笑)。
稽古風景より
── 扉の向こうには入るんですか?
天野 入って出るだけ。尿意だからね。入って、出す。この空間の狭さが、小説の内容も含めてだんだん岡本さんの膀胱の中みたいに見えてきて。そういうような感触を、自分の膀胱壁に内側から耳を当てて外の音を聞いたり、自分のお腹に耳を当てて膀胱の音を聞いてるように見えたらいいなと思ったり。ずっと膀胱に見えるわけじゃなくて、内と外がちょっとわからなくなるような。小説の中にも多少そんな感覚があったから、この狭さだとちょうどそれが出来るなと思って。
── 初演の「七ツ寺」では、空間の余白を生かした演出にもなっていましたが。
天野 そこが照明とかも大変で、すごく余白がいい感じになってたけど、今回は狭いからね。絶対上手くいくとは思うけど。
── 布団を洗って干したり、蛇口のところへ行ったり、大きな動きのシーンは歩数が前回と全然変わってくると思いますが、そのあたりの感覚などは?
岡本 そうですね。歩数が変わるとリズムが変わっちゃって、そうすると今まではここで息継ぎしてたのにできなくて息が上がっちゃうところが出てきたり、その辺が上手くいかなかったりするのが結構大きいですね。あとはイメージですかね。「七ツ寺」の初演の時は明かりを絞っていたので、真っ暗な向こう側に何かあるような迫ってくるような圧迫の方のイメージだったんですけど、今回は壁があるのに向こう側がある、という感じで。最初はやっていて「気持ち悪いな、壁あるし」みたいなことが中と外でひっくり返った感じでやりやすくなって、イメージが変わったと思いますね。きちっと照準が合ってきたような感じで、楽しくやれている気がします。
── 加藤さんは、プロデューサーとしての要望などはありましたか?
加藤 特に何もないです。好きにして、って。だからここをどう使うんだろう?っていう楽しみはあるよね。
── 他に演出面で変えるところはないですか?
天野 勝手に岡本さんが変わっていくだけだな。
岡本 自覚もなく(笑)。
天野 その方向が違うなと思ったら、ピッと修正するだけのことだと思う。これはもう岡本さんの物でございますよ、完全に。
岡本 いやぁ、直してくれる人がいないと。
天野 あとは則武(鶴代)さんの照明と一緒に、どうキレイに見せるか、ですね。
ブラックボックスにスポット照明で余白を生かした演出による、どこか謎めいた印象の初演とはまた、ひと味違ったものになりそうなNEWバージョンの『尿意』。岡本の声を通して音声変換される不思議なリズムの文体と目まぐるしい動きによって作品世界に引き込まれる、濃密な時間と空間が再び立ち現れるのだ。小さな劇場ならではの、自在に動き回る魔法のごとき飛び出す絵本を間近で眺めるような、そんな感覚を味わってみては?
『尿意』チラシ裏
■作:諏訪哲史
■演出:天野天街(少年王者舘)
■出演:岡本理沙(星の女子さん)
■日時:2017年12月19日(火)19:30、20日(水)14:00・19:30、21日(木)19:30、22日(金)14:00・19:30、23日(土)14:00・19:30、24日(日)14:00・19:30
■会場:円頓寺Les Piliers(えんどうじレピリエ/名古屋市西区那古野1-18-2)
■料金:一般前売2,800円、当日3,000円 学生以下前売1,800円、当日2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下街ユニモールを抜け、「国際センター」駅2番出口へ。地下鉄桜通線「国際センター」駅2番出口から北東へ徒歩5分
■問い合わせ:090-1620-4591 rsm87200@nifty.com(加藤)