「東京・春・音楽祭—東京のオペラの森2017-」概要発表会レポート
2005年にスタートし、今や上野の春の風物詩となった「東京・春・音楽祭 -東京のオペラの森-」。2017年の概要発表会が、巨匠マレク・ヤノフスキを迎えて、10月24日、東京文化会館内でひらかれた。
まずは、鈴木幸一音楽祭実行委員長が「来年で13回目になります。音楽は聴いている人の記憶にしか残らないで消えていくという意味では、人間が生きていくことに非常に近い。私たちはそれを一年一年積み重ねるしかありません」とあいさつ。
鈴木幸一音楽祭実行委員長
この音楽祭のメイン企画といえる「東京春祭ワーグナー・シリーズ」で、ヤノフスキの指揮のもと2014年の『ラインの黄金』から始まったオペラ史上最大の作品である『ニーベルングの指環』四部作の上演が、遂に、来年の『神々の黄昏』で完結する。ヤノフスキは、今夏、ワーグナーの聖地バイロイトで『ニーベルングの指環』全曲を指揮するなど、現代を代表するワーグナー指揮者としての名声をますます高めている。
「この『ニーベルングの指環』のツィクルスの完結は私にとっても特別な意味があります。このプロジェクトでは、NHK交響楽団と一緒に演奏できるのが大きな喜びであります。N響とは、1980年代、90年代から共演していますが、とてもクオリティの高いオーケストラだと思っています。この3年間の上演を振り返って、その芸術的水準の高さに満足しています。この『ニーベルングの指環』を演奏会形式で上演するというのはとても良いアイデアです。演奏を邪魔しない程度の映像を伴う見事な舞台作品になっています。『神々の黄昏』とともに、素晴らしい形で東京春祭の『ニーベルングの指環』を完結できることを願っています」
マレク・ヤノフスキ氏
毎年、東京春祭ワーグナー・シリーズには世界的にワーグナー歌手が招かれるが、来年の『神々の黄昏』には、ロバート・ディーン・スミス(ジークフリート)、クリスティアーネ・リボール(ブリュンヒルデ)、マルクス・アイヒェ(グンター)、アイン・アンガー(ハーゲン)、トマス・コニエチュニー(アルベリヒ)、レジーネ・ハングラー(グートルーネ)、エリーザベト・クールマン(ヴァルトラウテ)らが出演する。
続いて、芦田尚子音楽祭実行委員会事務局長が2017年のプログラムの説明を行った。
芦田尚子音楽祭実行委員会事務局長
東京都交響楽団と東京オペラシンガーズが出演する「合唱の芸術シリーズ」では、シューベルトの晩年の傑作、ミサ曲第6番変ホ長調が取り上げられる。指揮は、2010年にこの音楽祭のワーグナー・シリーズで『パルジファル』を振ったウルフ・シルマーが務める。
この音楽祭のレジデント・オーケストラである、東京春祭チェンバーオーケストラは、グリーグの『ホルベアの時代より』やモーツァルトの交響曲第29番などを演奏する。今年は、堀正文を中心とする、佐々木亮、辻本玲、池松宏らのトップ奏者とともに枝並千花、大江馨、小川響子、城戸かれん、伊東裕、伊藤悠貴ら期待の若手奏者も参加する。
東京・春・音楽祭は、声楽のコンサートが充実している。今年4月の『ジークフリート』のタイトル・ロールでセンセーショナルな成功を収めたテノールのアンドレアス・シャーガーが東京春祭に帰ってくる。今回は、オペレッタ出身の彼が愛するレパートリーを披露する。ヴァイオリンのリディア・バイチとの共演も楽しみ。
バリトンのマルクス・アイヒェは、来年の『神々の黄昏』でグンターを歌うとともに、先日のウィーン国立歌劇場日本公演では『ナクソス島のアリアドネ』の音楽教師を演じた。リサイタルではシューベルト、ベートーヴェン、シューマンの歌曲を取り上げる。
来年の『神々の黄昏』でヴァルトラウテを歌うメゾ・ソプラノのエリーザベト・クールマンは、シューベルト、ライター、リスト、ブリテンの歌曲を集めた凝ったプログラムを披露する。
東京・春・音楽祭の『ニーベルングの指環』の完結を祝して、バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテットが世界初演する『ニーベルングの指環』組曲(廣田はる香編曲)は興味津々。また、『神々の黄昏』に出演するN響メンバーと仲間たちによるホルン・アンサンブルがワーグナーの名旋律を吹奏する「HORNIST 8《ワーグナー×ホルン》」も楽しみ。
上野の森は、日本一の美術館・博物館街でもある。ミュージアム・コンサートは、東京・春・音楽祭の名物企画となっている。国立西洋美術館では「シャセリオー展」記念コンサートが、東京都美術館では「ティツィアーノとヴェネツィア派展」記念コンサートや「バベルの塔」展プレ・コンサートがひらかれる。東京国立博物館では、恒例の「東博でバッハ」。チェロのイェンス・ペーター・マインツの無伴奏プログラムに注目。国立科学博物館ではN響メンバーによる室内楽、上野の森美術館ではバンドネオンの北村聡のコンサートもある。
概要発表会の最後に、銭谷眞美上野の山文化ゾーン連絡協議会会長(東京国立博物館館長)が「上野の山文化ゾーンと東京・春・音楽祭」について、二木忠男上野観光連盟会長が「上野の街と東京・春・音楽祭」について語った。
銭谷眞美上野の山文化ゾーン連絡協議会会長(東京国立博物館館長)
二木忠男上野観光連盟会長
(取材・文:山田治生 撮影:鈴木久美子)
■会場:東京文化会館 大ホール他
■公式サイト:http://www.tokyo-harusai.com/