芭蕉が見た澄み渡る水の都へ『日本橋と深川 水都復活まつり』で江戸文化を体験!
水都復活まつりメイン画像
日本橋と深川 水都復活まつり 2016.10.22〜23・29〜31 日本橋・深川
松尾芭蕉や永井荷風をはじめとして、日本橋から深川を目指した文人は少なくない。大都会東京では古典作品の光景を味わうことなどかなわないと諦めていたが、水都が復活したと聞き、『日本橋と深川 水都復活まつり』に参加してみることにした。『日本橋と深川 水都復活まつり』は、江戸時代に水路で結ばれていた日本橋と深川が中心となって開催された。
前夜祭~日本式ハロウィーン日本橋百鬼夜行
10月22日、突如日本橋に妖怪があらわれ練り歩く百鬼夜行から『水都復活まつり』は始まった。信号待ちをする妖怪、スマートフォンで写真を撮る妖怪など現代風になっているのも興味をそそる。
日本橋の上を首都高が通っているのを見ると、江戸時代と現代が入り組み、時空を超えた違和感のようなものを覚える。そこに今も昔も変わらず愛され続けている妖怪があらわれると、時空を繋いで融合しているように感じた。
日本橋と深川を結ぶ御府内水上ラインの船に妖怪たちが乗り込んだ。深川と言えば牡丹燈籠の由来の1つとも言われる怪談があるところで、妖怪が行ったらどうなるのだろうと思いながら船を見送り、期待に胸を膨らませて深川へ急いだ。
高橋乗船場に到着した妖怪を待っていたのは河童の子供。大勢の河童を見ると水の都のお祭りという実感がわいてくる。
本格的な百鬼夜行が深川の街を彩った。妖怪を通じて老若男女が交流し、文化を伝えていく瞬間に立ち会えるのは何とも言えない感動がある。
妖怪と河童の子供によるパフォーマンスが終わると、失われていた深川七不思議の復活にも立ち会うことになった。今でもそのまま使われている地名が出て来る深川七不思議は、日本のミュージカルと言われる浪曲として復活。浪曲が「名調子」といった合の手を入れる参加型のイベントというのも嬉しい。
日本橋イベント~福徳くじとおたのしみ相撲
10月23日、昨日妖怪が宣伝していた日本橋のイベントが開催された。福徳神社周辺の浮世小路や特設ステージでは福徳市と福徳くじ、新選組のパフォーマンスが行われ、今年オープンした福徳の森では、おたのしみ相撲が行われた。深川からは駕籠屋が参加。画像は駕籠を怖がる弟と一緒に乗った姉の優しさが胸にしみる一コマだった。
河童は相撲が大好きというところから繋がっているのか、おたのしみ相撲が開催された。賜杯争いを中心としたスポーツ要素の強い大相撲ではなく、ふれ太鼓・相撲甚句・髪結い・初っ切りといった文化的な一面を垣間見ることができるのは珍しい。相撲甚句も浪曲と同じように「どすこい」といった合いの手を入れる参加型の歌になっており、出来るだけ多くの人に参加して欲しいという思いが伝わってきた。
禁じ手を紹介するコントのような初っ切りは笑えるのだが、一つ間違えば怪我にも繋がるだけに緊張感も十分。日本橋と深川を繋げる努力と、怪我に繋げない努力の対比が、土俵という円の中で見え隠れしていた。
子供相撲では、大人でもひるんでしまう力士に挑む子供たちへの応援に熱が入った。
こうした経験があれば、壁にぶつかっても心が折れなくなるのだろうと感じた。
福徳くじでは、なんと3年連続当選という方が! 1000本のくじの中に当たりはわずか49本。1人3枚までくじを貰えるので、かなりワクワクするくじだが、3年連続当選を目の当たりにできるだけでもありがたい気持ちになる。
今年は300人に出羽海部屋特製塩ちゃんこが当選するという大盤振る舞いもあって、大勢の人でにぎわった。
ちゃんこに当選した人たちが舌鼓を打っている中、新選組による寸劇が始まった。朝から新選組がネズミ小僧を探していたのだが、寸劇の伏線だったのだ。
寸劇が終わり、祭りも終わりかなと思っていると、着物姿の女性がやって来て、宮司さんとの記念撮影会になった。終わりそうでなかなか終わらない、祭りというのはそんなものなのだろう。
深川イベント~高橋夜店通り復活祭
10月30日、深川にある高橋のらくろ~ドで夜店通りが復活した。
のらくろ~ドの由来は「のらくろ」の作者田河水泡が幼少の頃住んでいたことから来ている。のらくろだけでなくお福さんもやってきて、子供と写真を撮っていた。
子供たちによるパフォーマンスも場を和ませ盛り上げていた。
高橋乗船場では和船体験が行われていた。日本橋から深川までの路線は予約が必要で、なかなか体験できないものだったが、こちらは比較的に参加しやすそう。水の上から見ると一風変わって見えるそうなので、ぜひ体験してみてほしい。
子供が参加できるものは他にもないのかなと見ていると、大道芸があった。参加した子供には大きな実りがあるが、見ている方も色々と感じるものがある。参加型のイベントが日本橋・深川だけでなくもっともっと増えていって欲しい。
夜はお酒が中心。名物の深川めしと一緒に味わおうと、大勢の人が詰めかけた。ちょっと冷え込む日だったが、みんなと一緒に音楽を聴きながらお酒で体の中から温めて秋の夜長を楽しむお祭りは風流に感じた。
大団円~JAZZ句会&演奏会
10月31日、締めはJAZZ句会&演奏会。ジャズと俳句のコラボなんてどうなってしまうのだろうと思っていたのだが、両者の共通点について語られると頷かずにはいられない。頭に残る演奏会の音楽に心をゆだねながら、日本文化に少し迫れた気がしたのは心地よかった。
最初のお題は深川。やはり深川めしに隅田川といった有名なものが歌われる。深川に縁が深い方が読んだだけあって、日々の生活から得られた感動を受け取ることができた。
句をイメージして曲が演奏されたが、音楽という技術を使って表現するとこうなるのかと感心せざるを得なかった。日々の生活から得られる感動を表現するというのは俳句もジャズも同じで、表現する技術が異なるだけだそうだ。
2つ目のお題は日本橋。今度は身近な感動ではなく、江戸時代や渡り鳥といった距離や空間が離れたものが歌われた。一回大きなものに置き換えてから表現していき、省略によって余情が見えるかどうかも共通点と言う。削ぎ落していくという日本文化の神髄がジャズにも通じるというのが面白い。
『日本橋と深川 水都復活まつり』は、江戸時代の中心的な交通手段であった水運を復活させることで、江戸文化を体験できるようにした祭りになっている。江戸の中心であり街道の起点である日本橋と水運で栄えた深川を結ぶこのイベントで、日本橋を離れ深川に移り住んだ松尾芭蕉や、近代化の進む日本橋から江戸情緒が残る深川へ足を運んだ永井荷風といった文人たちが愛した水路が復活。いつの日か芭蕉が見た隅田川と名月を見れるのだろうと思い、JAZZ演奏会の興奮冷めやらぬまま会場を後にした。
撮影・文=城岡修史