クリスマスシーズンを彩るオリジナル作品ならではの二本立て 宝塚雪組公演『私立探偵ケイレブ・ハント』『Greatest HITS!』

レポート
2016.12.19


早霧せいな&咲妃みゆの絶妙なコンビぶりと組の総合力が相まって、目下ノリにのっている宝塚雪組が、久々のオリジナル作品でクリスマスシーズンを飾るミュージカル・ロマン『私立探偵・ケイレブ・ハント』とショー・グルーヴ『Greatest HITS!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(25日まで)。

ミュージカル・ロマン『私立探偵ケイレブ・ハント』は、20世紀半ばのロサンゼルスを舞台に、探偵事務所を営む主人公ケイレブ・ハントと、彼に関わる人々との交流が描かれていく作品。大掛かりな仕掛けやケレンはないが、これまで話題の原作もので多くのヒットを飛ばしてきた雪組にとって、久しぶりのオリジナルのスーツ物というところに、新鮮味と見どころがある作品だ。

【STORY】

20世紀半ばのロサンゼルス。探偵事務所の所長ケイレブ・ハント(早霧せいな)は、共同出資者で共に事務所を営むジム・クリード(望海風斗)、カズノ・ハマー(彩風咲奈)と、主にハリウッドのセレブたちのトラブル対応にあたる日々を送っていた。ある日、ケイレブは会社側とのトラブルを抱えている、依頼人の映画監督(奏乃はると)を撮影所に訪ねるが、折も折、アンサンブルの女優アデル(沙月愛奈)が亡くなるという事件に遭遇する。

現場にはスタイリストとしてこの映画に関わっている恋人のイヴォンヌ(咲妃みゆ)も居合わせていて、2人は事態に困惑しながら、イヴォンヌの誕生日を祝うディナーの約束を確認して別れる。事務所に帰ったケイレブは、ジムとカズノと、3人それぞれが担当している案件の経過報告をし合うが、ジムとカズノが担当している案件双方から、新興のプロダクションとして台頭している「マックス・アクターズ・プロモーション」の名前が上がったことに驚く。遭遇したばかりの撮影所で亡くなった女優の所属先も、他ならぬ「マックス・アクターズ・プロモーション」だったのだ。この不自然な一致は本当に偶然なのだろうか。

そこへ行方不明の娘を探して欲しいという夫婦(鳳翔大・梨花ますみ)が事務所を訪ねてくるが、同じタイミングで警察から電話を受けたケイレブは、夫婦をジムたちに託して警察に駆けつける。ケイレブを迎えた懇意の刑事ホレイショー(彩凪翔)は、危険人物として拘留されていた男の身元引受人を託されたケイレブに、自分なら決してこんな役割りは引き受けないと釘を差すが、ケイレブにはこの依頼を断れない強い思いがあった。拘留されていた男ナイジェル(香綾しずる)は、かつてヨーロッパ戦線で共に戦った戦友だったのだ。

そんなあれこれでイヴォンヌとのディナーに大幅に遅刻したケイレブは、イヴォンヌが探偵という危険な仕事に従事しているケイレブを案じると共に、スタイリストとしての自身のキャリアアップを目指す思いの中で、ケイレブとの将来像に不安を覚えていることを知る。でも2人はお互いに愛し合っている。ケイレブはただそれだけをイヴォンヌに訴えるのだった。

そんな一夜が明けた時、事態は思わぬ進展を見せた。行方不明の娘を探していた夫婦が置いていった写真に写っていたのは、撮影所で亡くなった女優アデルだったのだ。更にそのことを夫婦が宿泊しているモーテルに知らせにいったジムは、ホレイショーと遭遇。なんとあの夫婦もひき逃げ事故にあい亡くなったと言う事実を聞かされる。最早すべてが偶然であるはずがない。ケイレブは裏世界に精通しているナイジェルからの「この件には関わるな」という忠告を聞きながらも、単身「マックス・アクターズ・プロモーション」の経営者マクシミリアン(月城かなと)を訪ねるが、そこにプレゼンに来ていたのはなんとイヴォンヌで……

『私立探偵ケイレブ・ハント』というタイトルが示す通り、物語は紛れもなく探偵ものなのだが、その上で謎解きに主眼を置かなかったのが、この作品の個性になっている。もちろん事件は起こるし、ケイレブたちは事件解決に向けて奔走するが、そのからくりはさほど難解ではなく、黒幕に意外などんでん返しもない。事件とその解決という流れだけに絞れば、探偵を主人公とするテレビシリーズの1話と言った趣きで、革命や、戦時下などギリギリの状況で、尚明日を信じる人々を描くことが多い脚本・演出の正塚晴彦作品としては、むしろ異色な部類に入るものと言える。実際従来の正塚であれば、最も力を入れて描写したのはケイレブとナイジェルの関係だったろうし(そうした場合話は、かつて雪組で上演された正塚作品『マリポーサの花』に近づく)、謎解きに重点を置くなら、二番手の役柄になるのは当然マクシミリアンだったろう。ヒロインも事件を通じてケイレブが出会う女性、ハリエット・マクレーンにシフトしていく可能性が高い。

けれども、そうしなかったこと、物語がはじまった時すでに恋人同士であるケイレブとイヴォンヌの恋愛模様を中心に、ジム、カズノ、ホレイショー、更に探偵事務所の事務方の面々など、キャラクターの立った登場人物たちそれぞれが、日々生きている日常を切り取り、ひとつの事件を経て彼らがまたそれぞれの1歩を踏み出す様を、むしろ淡々と描いたところに、この舞台が持つ軽やかな魅力がある。

派手さはないし、鳳翔大を筆頭にあまりにもの役不足が気の毒なスターたちの存在も散見されるから、好き嫌いは分かれる作品ではあろうが、有名原作をどう宝塚化するか?に主な興趣を引かれる作品に多く立ち向かってきた雪組にとって、早霧をはじめとした主要メンバーに当てて書かれたオリジナルのキャラクターを、シャレた台詞の応酬で演じていく、こんな舞台が用意されたのは決して悪いことではなかったと思う。特に早霧&咲妃の次公演での退団が発表され、その退団公演も日本ものと決まったから、ここでスーツ物の作品、更に早霧以下、演者の個性をこそ楽しめるオリジナル物が展開されたのは良いタイミングだった。作品の主眼が主人公とその恋人の恋のゆくえに収斂されていくのも、早霧&咲妃という当代の名コンビに相応しい。

そんな作品でタイトルロールのケイレブ・ハントを演じた早霧は、一見クールな美青年、だが心には燃える信念を秘めていて、思いこんだらむしろ無鉄砲なまでに猪突猛進という役柄を、なんとも魅力的に演じている。さすがはオリジナルの当て書きならではの伸びやかさがあり、喜怒哀楽の表現をはじめとした一挙手一投足から目が離せない。かつて同じ正塚作品『ロジェ』で演じた殺し屋役のクールビューティぶりは今も忘れ難いが、そうした外見の美しさの中にある、早霧の熱血感な部分と、重ねて来た経験から巧まずして現れる大きさと余裕が、ケイレブの中に花開いていて見事だった。

一方、イヴォンヌの咲妃は、自身も才能があり、キャリアとスキル双方のアップに向けての目標もある自立した女性が、恋人との関係に惑うという、宝塚の娘役としては珍しいながら、現代の女性が共感しやすい役どころをきっちりと見せている。元から可憐な容姿だけではない芯の通った演技者である咲妃だが、どちらかと言えばおっとりした個性の持ち主でもあるので、今回示したシャープさは新たな魅力として印象的だった。

更になんと言っても、2人が物語の最初からすでに恋人同士だという設定に、トップコンビとしての2人のキャリアがすんなりと説得力を与えているのが強みだし、惑うイヴォンヌに対して、ストレートに想いを押していくケイレブという展開が実に新鮮。終幕イヴォンヌのスーツケースだけがパリに行ってしまったのか?が気になるところではあるが、いずれ気持ちを固めた2人が改めてパリや、ミラノへ旅立つ日もあるだろうなと思わせる、2人の未来に余韻を残すのが早霧&咲妃コンビならでは。何より、銀橋でのラブシーンのロマンチックさには脱帽だった。

ケイレブのピジネスパートナー・ジムに扮した望海風斗は、如何にもリラックスして肩の力が抜けている演じぶりが、より本人の魅力を倍化している。宝塚全体を見渡しても、目下最強の二番手と言って過言ではない望海をどの役にキャスティングするかによって、この物語の行方は全く違うものになったはずだが、それだけに敵役でないほがらかな望海を堪能できるのが、この作品のもう1つの魅力ともなっている。とても放っておけない庇護欲を掻き立てられる存在なのだろうレイラとの恋愛関係が、主人公カップルとの良い対比にもなっていて、レイラを演じる星南のぞみの、どこか未成熟を感じさせる個性も相まって効果的だった。

もう1人のビジネスパートナー・カズノに扮した彩風咲奈の、公演ごとに大きくなる存在感は目を瞠るばかり。事務所の中では1番の若手で、行動力もありつつ、年上の2人に対して妙に冷静なツッコミも入れる、この作品世界の中での「今時の兄ちゃん」をサラリと演じていて頼もしい。作劇としては有沙瞳演じる歌手ポーリーンとの間に、何か芽生えてくるのでは?と思わせる流れに、もうひと芝居欲しかったところだが、そう観る者にひっかかりを与えるのも、彩風の大きさ故だろう。

また、探偵と刑事という異なる立場でありつつ、ケイレブとの信頼関係を築いているホレイショーの彩凪翔が、役柄に相応しい気骨のある雰囲気を巧みに醸し出しているし、そのホレイショーとコンビを組む若手刑事ライアンの永久輝せあも、上り坂のスター性でキャラクターをしっかりと立たせている。更に、ドラマのキーパーソンであるマクシミリアンの月城かなとが、比較的遅い出番を骨太に支えていて、進歩を感じさせる。純白のスーツもよく似合い、早霧と対等に渡り合う必要がある役柄に懸命に挑んだことは、組替えを控える月城にとって大きな経験となったことだろう。

そして忘れてならないのはナイジェルに扮した香綾しずるで、謂わば正塚的世界観を双肩に担った役どころを十二分に演じている。『ドン・ジュアン』の亡霊役での快演と言うより、怪演と言いたい記憶も鮮やかな今、本公演でもこうした役柄を的確に演じきったことは、今後の雪組での香綾本人の立ち位置にとっても貴重なものとなるに違いない。
 
他に、アデルの沙月愛奈、その友人ハリエットの星乃あんりが、作品のポイントとなる役どころをきちんと締めたし、探偵事務所の事務方、コートニーの早花まこ、ダドリーの真那春人、グレースの桃花ひななど、キャリアを活かした個性派たちの中に、新進男役の縣千を無理なく加えるなど、座付としての目配りも周到。トップコンビを核としたエンディングが前述したようになんともロマンチックで、観終わったあとの印象があくまでも重くならなかったのが、クリスマスシーズンによくマッチしていた。

そのクリスマスシーズンにマッチしたという意味では、これ以上ないベストだったのが、ショー・グルーヴ『Greatest HITS!』で、稲葉太地の作。中詰めに用意されたクリスマス・メドレーが、大劇場公演時にはなんとしても早すぎる感があった分、この東京公演での季節感とのマッチングによる効果は絶大で、心躍る華やかさに満ちている。

しかも、このショーがクリスマスシーズンに合致したのが、単純にクリスマス・メドレーがあるからだけではないのが大きなポイントで、『Greatest HITS!』というタイトルの示す通り、古今の名曲が網羅された音楽で構成されたショーの根底に、言語や民族、国境を越えて、世界をつなぐことができるのは音楽の力なのではないか?という作者である稲葉太地の壮大な思いが込められていることに、深い意味がある。

スマートフォンで自分だけの音楽の中にに個々入りこんでいた若者たちが、今では見慣れなくなった煌めくジュークボックスから流れ出す、見知らぬ誰かと共有できる音楽によって新しい世界に誘われていくプロローグが、いつか世界の皆が肩を抱いて歌い合える日を夢見る主題歌へとつながる見事さ。自分さえよければ良いという、保護主義という名の、本来人が思っていても口にすることは謹んでいたはずの本音を、むき出しにすることに喝采が集まる、暗澹とした空気が覆う今の時代。そんな世界に、まるで夢幻としか思えない理想を、これだけ正面から、しかもエンターテイメントの中で唱えられるのは宝塚をおいて他にはないし、人々がほんの少し優しくなれる、街中のどこもかもが華やぐクリスマスシーズンに、これほど相応しいメッセージもまたない。

そんな思いが集約されるのが、運命の歌手・望海風斗と、宿命・彩風咲奈が率いる赤と白に象徴された、戦いから逃れられないこの世界の格闘が描かれた果ての悲嘆が、人々を結びつけるものはただ愛であるという、早霧せいなと咲妃みゆによって踊られる、得も言われぬ幸福感に満ちあふれた、ミント・グリーンの衣装のデュエットダンスに昇華される一連のシーンの迫力と美しさだ。ここには早霧&咲妃というゴールデンコンビと、望海以下実力派がひしめく今の雪組ならではの力感が余すところなく活かされていて、ショー全体としても文字通りの白眉だった。決して声高ではないだけに、稲葉が発し、雪組が構築したメッセージには、心に沁み入るものがあった。何より、2016年の東京宝塚劇場の締めくくりに、宝塚ならではの美しき夢のような願いが発信されたことを喜びたい。

初日を控えた11月25日通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが囲みインタビューに応えて、公演への抱負を語った。

その中で作品の見どころを訊かれて、早霧はオリジナル作品ならではの雪組メンバーに当て書きされた芝居と、クリスマスシーズンにピッタリのショーの内容をあげると、咲妃も役柄に親近感を覚えてもらえるだろう芝居と、やはりこの季節にお客様と共に盛り上がれる場面が満載のショーだと呼応して相変わらずのコンビネーションの良さを発揮。

また、ショーの内容にちなんでそれぞれのクリスマスの思い出を問われ、回答を咲妃に促して自分は発言しなかった早霧が、幼い頃の咲妃の愛らしいエピソードを聞き、自分の思い出は咲妃に負けるからと、結局回答を避けて記者たちを笑わせる一コマも。

更に、来年7月での退団を共に発表した心境は?という質問には、心に決めていたことを公にしたことで、更に気が引き締まり、この公演に臨めるという早霧に、ゴールを設定し、限られた時間だということを実感したからこそ、最後まで早霧にしっかりとついていきたいと咲妃が語り、同じ月日を手を携えて共に歩んできたコンビならではのラストスパートに、大きな期待が高まる時間となっていた。

尚、囲みインタビューの詳細は1月10日発売の「えんぶ」2月号にも舞台写真と共に掲載致します。どうぞお楽しみに!

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


〈公演情報〉
宝塚雪組公演
ミュージカル・ロマン『私立探偵ケイレブ・ハント』

■脚本・演出◇正塚晴彦
ショー・グルーヴ『Greatest HITS!』
■作・演出◇稲葉太地
■出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組

■日程:2016年11/25~12/25
■会場:東京宝塚劇場
■料金:SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
■問い合わせ:東京宝塚劇場 03-5251-2001
■公式サイト:http://kageki.hankyu.co.jp/
演劇キック - 宝塚ジャーナル
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