ザ・コレクターズの美意識を見た、最高に粋で熱い初武道館 

レポート
音楽
2017.3.6
THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

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THE COLLECTORS “MARCH OF THE MODS”30th Anniversary
2017.3.1(WED)日本武道館

THE COLLECTORS=加藤ひさしと古市コータローは徹底したモダニストだ。

しかもそのモダニストは根っからの江戸っ子だった。タイトな演奏とトム・ジョーンズばり(あ、若い人分からなかったらすみません)のボーカル。喋り始めれば彼らのポッドキャスト「池袋交差点24時」ばりのくだらなくて最高な与太話(褒めてます)。武道館だからといって特別なことはしない。それはロックンローラー、モダニストとしての粋がりでもあるけれど、なにせ30年続けてきたら、それはもう等身大といっていいんじゃないだろうか。そんな彼らだからこそ、アンコールで加藤ひさしが、「子どもの頃、夢なんて叶わないと思ってた。偉い人のいうことなんか信じてなかった。でも夢は叶うんだ、30年やったら叶ってたんだよ!」と、たった一回、“夢”について叫んだとき、真実がここにあることを思い知った。なんてストイックでかっこいいんだろう。そしてTHE COLLECTORSとは、そういうバンドなのだった。

おそらく10代から60代ぐらいまでの幅広い客層は、その多様さにも関わらずモッズコートとドクターマーチン着用率が高い。そして平日の18:30開演というハードルを皆、乗り越えて、バンドのデビュー30周年と初の武道館公演を祝福するために結集した感がある。まさか加藤曰くの「おかっぱ頭の先輩が死んだから忌引きさせてくれ」という言い訳を使った人はいないと思うが、中年層ほど気合が入っているように見える。そこここで再会を喜ぶ声がする。

ほぼ定刻に暗転したステージ上のスクリーンにはデビュー当時から現在に至るアーティスト写真やライブ写真、アートワークが映し出され、そのほぼ変わらないスタイルに驚かされる。凄まじい量のスモークが焚かれる中、メンバー4人が登場し、加藤が<LOVE! LOVE! LOVE!>と歌い始めただけで、もう彼らが今日、何をしたいのかがおこがましいがわかったし、彼の力強く優しい声で冒頭から圧倒されてしまった。そう、タイトル通り、ここは「愛ある世界」なんだということをライブで証明しようとしているのだ、彼らは。もちろん男女のラブソングでもあり、広義の愛を歌った曲でもあり、つまりいつまでも愛し合おうという意志だ。そこからタイトでシュアなアンサンブルで「夢みる君と僕」まで一気に4曲を演奏。古市のギターもギターそのものの音が素晴らしく良い。「夢みる君と僕」では、“ああ、ここでほぼ50年前にビートルズがライブをやったんだな”、なんてことも思い出す。脈々と続いてきたブリティッシュロックからの血脈、そして泣き虫でわかりやすく“勝った”ことのない男の子たちを励ますロックンロールだ、と感じた。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

「サンキュー! やっとシャバに出てきたぜ!」と笑わせる加藤。なんでもリハーサル後は風邪やインフルエンザを避けるためなのだろう、Pepperだけが話し相手の軟禁生活を強いられていたそう。そしてなんと、この日のがあと7枚でソールドアウトだったことを告げると、会場中が残念がると同時に相当な快挙に拍手を送る。ちなみに当日券で100枚以上売れたそうで、発表と同時に今日に照準を当ててきたコアファンも、行けるものなら行きたい!とギリギリまで予定を調整したグレーゾンも存在することが、今、THE COLLECTORSがリアルな存在であることを証明していた。去年の『フジロック』出演しかり、彼らにとっては“今”が大舞台のタイミングだったのだと思う。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

踊れるナンバー「プ・ラ・モ・デ・ル」や、古市の爪弾くイントロで特大の歓声が上がったスマッシュヒット「世界を止めて」と、武道館全体がグルーヴする演奏が続く。アリーナに目をやると加藤、古市と同世代ぐらいの男性が席から離れて踊っていたり、両手を上げて演奏を全身で楽しんでいるのが、ステージ上同様にアツい。<♪あ~神様、時間止めて、ずーっとぉ、ずーっと>とシンガロングが起こる人気曲でもあり、マンチェビート、セカンドサマー・オヴ・ラヴ的なリズムの曲でもあり、加藤の作曲家としての目利き具合が90年代にコアファン以外をつかんだ理由を改めて知る一コマでもあった。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

中盤には、彼らの最新モードであり、アニメ『ドラゴンボール 超』エンディング主題歌でもある「悪の天使と正義の悪魔」、そしてロックオペラ的な曲調の「2065」を披露。イギリスにもこんな物語性と表現力を持ったThe WHOの遺伝子を受け継ぐようなバンドはいないんじゃないか?と思わせる深い表現に感服。ロックバンドとしては当然のポリティカルなニュアンスも直接的なメッセージじゃなく、物語と今のバンドサウンドに乗せて表現する。最高に粋だ。ドラマティックな「2065」から一転、会場中を照らす明るいライティングの中で、実人生を割と泥臭く歌う「ロックンロールバンド人生」を持ってくるあたりも気が利いている。曲順にも彼らの美意識が詰め込まれているのだ。ライティングといえば、スタンド側にも設置されていたり、ステージからのライトもアリーナを照らすケースが多く、バンドを見せる“舞台”というより、武道館全体が巨大なダンスホールであり、オーディエンスも“キャスト”意識を持てる演出もまた、THE COLLECTORSならではのスタイリッシュな部分に思えた。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

マイペースでステージを進行する加藤。MCになると武道館でいうことか? と知らない人には突っ込まれそうな「楽屋にトイレがなかった頃のライブハウス事情」「最近、よく歌詞間違えるんだけど、曲忘れてなかったらなんとかなる」から、古市は「俺も“あれ?このギターソロどんなだっけ?”ってのはある」と返し、加藤が「しょっちゅう会わないと忘れちゃうから、バンドは続けないとね」と、オチを投下する。もう最高である。メンバー紹介の後、15kgもあるというモッズコートを着込み、「昔のナンバーやるよ!」と、むしろBPMも早いし、演奏もギアアップして「僕の時間機械」へ突入。セカンドライン調の「Dog Race」につなぐ。この曲も特に大きなリアクションを得ていた。その後、一旦、加藤が袖にはけ、古市、山森JEFF正之(B)、古沢cozi岳之(Dr)で、ディスコビートからブルースに至るインストを披露。唯一、40代の古沢の手数は少なく、ツボを得たドラミングは彼の持ち味でもあるんだろうが、00年代のロックンロール・リバイバル時のリズムセンスにも共通していて、今のTHE COLLECTORSのアンサンブルをぐっとモダンなものにしている。正式加入は今年1月(!)、しっくりくるドラマーに出会えたことも祝福したい。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

再び加藤が登場して、ミラーボールのきらめきの中で「青春ミラー」が放たれる。大人になったロックンローラーだからこそ書ける、“なぜ、僕は歌を書き続けるのか”というモチベーションが込められた曲だ。ライブ定番曲「NICK! NICK! NICK!」、メッセージが書かれたTシャツの普遍的な力、綿々と続くロックンロールとその思想のパワーをあっけらかんとした明るさで歌う近年のナンバー「Tシャツレボリューション」のエンディングでは客電も点き、武道館全体が笑顔に溢れていることに、さらにテンションが上がる。そして本編ラストに選ばれたのは「百億のキッスと千億の誓い」。やはり加藤ひさしという人はロマンティックな人だなと思う。一人の男の子が一人の女の子に命がけで恋をする。つまりそれが世界であって、そこには歌われていないけれど、クソみたいな世の中とか、嫌なことを人のせいにするとか、そういうことは当たり前にダサいんだという意地さえ感じる。“好き”という気持ちが世界を動かす。大げさに思えるかもしれないが、加藤ひさしという男はライブでそれを信じさせる。圧巻だった。

歌と演奏でTHE COLLECTORSの価値観を最も高いレベルで見せつけた本編が終了し、半ばあっけにとられていたのだが、存外早くアンコールに応えて再登場した4人。「俺たち一人の武道館じゃない。ピロウズ、フラカン、怒髪天、BRAHMANとかたくさんの“ロックンロール互助会”みたいなバンドのおかげで武道館ができました。このバトンを次はTheピーズに渡します。でもまだ終われないんだよね、次は東京ドーム目指したいよね」という加藤。本気だと思う。

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

全力を出し切った後のアンコール、それでも彼らの代表曲「僕はコレクター」で、加藤、古市が花道を上り、スタンドのファンとハイタッチしたり、最後の最後にコール&レスポンスしたり。若干苦しそうだが、それでもパワフルなボーカルを聴かせる加藤が、思わず発した言葉が「本当に夢って叶うんだ」というリアルな言葉だったのだ。個人的にはダブルアンコールで、マーサ&ヴァンデラスラでおなじみのモータウンソウル「恋はヒートウェーヴ」のカバーをサクッと演奏し、ステージを後にしたそのスタイリッシュぶりに痛く感動してしまった。それは、人生は続くし、生きてる限りダンスしたり恋したりすればいいじゃない?という潔くも軽やかなTHE COLLECTORSだからこそ似合うメッセージだったから。いやー、悔しいけど最高にかっこよかった。


取材・文=石角友香 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

THE COLLECTORS "MARCH OF THE MODS" 30th Anniversary 撮影=柴田恵理

 

セットリスト
THE COLLECTORS “MARCH OF THE MODS”30th Anniversary
2017.3.1(WED)日本武道館
01. 愛ある世界
02. Million Crossroads Rock
03. TOUGH
04. 夢見る君と僕
05. たよれる男
06. プラモデル
07. 世界を止めて
08. 悪の天使と正義の悪魔
09. 2065
10. ロックンロールバンド人生
11. 僕は恐竜
12. 未来のカタチ
13. 僕の時間機械
14. Dog Race
15. インスト(Space Alien)
16. 青春ミラー
17. NICK! NICK! NICK!
18. Tシャツレボリューション
19. 百億のキッスと千億の誓い
<アンコール-1>
20. ロマンチック・プラネット
21. TOO MUCH ROMANTIC!
22. 僕はコレクター
<アンコール-2
23. 恋はヒートウェーヴ
 

 

ライブ情報
THE COLLECTORS 30th Anniversary TOUR "Roll Up The Collectors"
2017年 06月10日(土) 渋谷 CLUB QUATTRO OPEN:17:00 / START:18:00
2017年 06月16日(金) 柏 ThumbUp OPEN:19:00 / START:19:30
2017年 06月18日(日) 甲府 KAZOO HALL OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 06月22日(木) 大阪 Music Club JANUS OPEN:19:00 / START:19:30
2017年 06月24日(土) 松阪 M'AXA OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 07月01日(土) 岡山 IMAGE OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 07月02日(日) 松江 AZTiC canova OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 07月08日(土) 岐阜 ants OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 07月09日(日) 浜松 FORCE OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 07月14日(金) 青森 Quarter OPEN:19:00 / START:19:30
2017年 07月16日(日) 盛岡 CLUB CHANGE WAVE OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 07月17日(月・祝) 郡山 CLUB#9 OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 07月22日(土) 新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 07月23日(日) 熊谷 HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-1 OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 07月29日(土) 鹿児島 SRホール OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 07月30日(日) 熊本 B.9 V1 OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 08月05日(土) 神戸 VARIT. OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 08月06日(日) 京都 KYOTO MUSE OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 08月13日(日) 高崎 club FLEEZ OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 09月15日(金) 広島 セカンド・クラッチ OPEN:19:00 / START:19:30
2017年 09月16日(土) 福岡 DRUM LOGOS OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 09月18日(月・祝) 名古屋 CLUB QUATTRO OPEN:16:00 / START:17:00
2017年 09月23日(土・祝) 仙台 CLUB JUNK BOX OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 09月24日(日) 宇都宮 HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2 OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 10月06日(金) 札幌 cube garden OPEN:19:00 / START:19:30
2017年 10月08日(日) 水戸 LIGHT HOUSE OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 10月14日(土) 沖縄 桜坂セントラル OPEN:17:00 / START:17:30
2017年 10月22日(日) 長野 LIVE HOUSE J OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 10月26日(木) 大阪 BIGCAT OPEN:18:45 / START:19:30
2017年 10月28日(土) 高松 MONSTER OPEN:17:30 / START:18:00
2017年 10月29日(日) 高知 X-pt. OPEN:16:30 / START:17:00
2017年 11月03日(金・祝) 中野サンプラザホール OPEN:17:00 / START:17:30

FC「コレクトロン」先行 : 2017.3.3(金) 18:00 ~ 2017.3.15(水)
一般発売 : 2017.5.28(日) ※6.10~8.13公演
2017.8.11(金・祝) ※9.15~10.29公演
2017.10.1(日) ※11.3公演

 
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