ircleがバンド結成15年の節目に立ったクアトロ 轟音の向こうにみえたもの

レポート
音楽
2017.3.24
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ircle「Copper Ravens」Release Tour
〜Raven claw tour final one-man live〜 2017.3.16 渋谷CLUB QUATTRO

バンプに憧れた片田舎の中学生がバンドを組む——そんな掃いて捨てるほどありふれたバンドストーリーのうちの一つがこの日、渋谷CLUB QUATTROの地で確かに花開いた。“大輪の花”とはまだ形容できない。始動から15年、初のクアトロワンマンという事実から見ても、ircleと名付けられたそのバンドの道程が決して近道でも平坦でもなかったことは、容易に想像できる。それでも一人として欠けることなく歩み続けてきた彼らは、その歴史を力に変えるかのように、晴れ舞台で正々堂々と真っ向勝負を挑み、ircleの何たるかを証明してみせたのだった。

まだ暗いステージに現れるメンバーたち。客席に向けて両手を広げ、嬉しそうに笑顔を見せた河内健悟(Vo/G)。次の瞬間、いきなりのフルボリュームで各々が音塊をぶっ放し、「ジャパニーズロックの救世主、ircleです。どうぞよろしく」と不敵な口上を述べると、「呼吸を忘れて」からライブをスタートさせた。最新作『Copper Ravens』からの「覚醒」、クラップとノイズが洪水のように迫った「ベニ」と、冒頭からスピード感ある展開。各パートのボリュームも音圧も過剰なほどにとにかくヘヴィ。ircleは(いろんなタイプの楽曲を持つとはいえ)大きく括ればギターロックのカテゴリにあるバンドだが、この轟音っぷりは最早ほとんどメタルコアとかミクスチャーバンドのそれ。パートごとに押したり引いたりするのではなく、全員が前に出ることでバランスを取っていく足し算の美学的なスタイル、なかなか希少だし痛快だ。ただし、持ち味であるメロディの明快さが大前提として存在しているので、聴き味としては重たすぎずむしろ心地いい。くわえて照明がド派手に明滅しまくるので、こちらのテンションも嫌応なしに上昇。当然、フロアの反応も上々だ。

激しさと祝福の入り混じった冒頭のブロックを終え、鳴り止まない拍手の中、笑顔の収まらない4人。「初めてのクアトロワンマン、それは当然気合い入れてきました。120%ぶち込む、それは当たり前」と頼もしい宣言をした後は、仲道良(G)と伊井宏介(B)のコーラスワークがスケール感を演出する「ダイバーコール」、さらには河内の「ここが夢の先でも、真っ暗じゃなかったと気づかせてくれて、ありがとう!」というメッセージとともに鳴らされた「光の向こうへ」とアンセミックな楽曲を連打していった。そんな中にあって、ショウダケイト(Dr)の刻む力強い重低音にギターのファンキーなカッティングと歌うようなベースが映えるダンサブルな「i hate you?」は良いアクセントだ。高まるテンションにまかせて両手をギターから離し振り付けを実践する仲道に、「全然ギター聴こえない」と河内が突っ込む姿も微笑ましい。一転してヘヴィロックのエッセンスを感じさせたのは「バタフライ」。矢継ぎ早にライブは展開していく。マイクに齧り付くようにがなる河内、テクニカルなソロも難なく弾きこなす仲道、スラップから高速8ビート、拳を突き上げてのアジテーションまでこなす伊井、全身からダイナミックに強烈なビートを生み出すショウダ。サウンドのバランスと同様、各々が競い合うように己の強みを提示してくれる。

今日が記念すべき日であることを忘れてしまいそうなくらい、センチメンタルともルサンチマンとも無縁な前半戦を走り抜け、ここで河内が「振り返るスキもなかったなぁ」と切り出した。「中1からの連れだけど、このツアーをやってみて、全然音楽に飽きてないし、バンドっつうモンは良いなって」「衝動に戻るようなアルバムができたことが嬉しくて、ワクワクしながら回ってきた……15年間ずっとワクワクしっぱなしでやってきた」と、バンドの原動力になっている情熱と初期衝動が健在である事を明かしたあと、「15年前の俺の気持ち」と鳴らされたのは「嘘つき少年より」。ここまでステージ上で心底楽しそうな彼らを観ているだけに、<少しは笑えるかい>の歌詞が胸に沁みた。この曲に限らず、ircleの、河内の歌う言葉はパーソナルな色合いが濃いのだが、そんな楽曲たちはここまでの歩みの中で次第にリスナーに届き、共有されており、聴き手それぞれの曲になっているようだ。この日もライブが進むにつれてフロアの一体感が増して、感情の振れ幅も大きくなっていくのが傍目に見てもよくわかったし、「ピストル」あたりでは自然とシンガロングが巻き起こっていた。ライブ後半〜アンコールの頃には、涙を拭うファンも少なくなかった。そういった一つ一つのリアクションが証明している。

橙色に照らされるステージに激情を迸らせた新譜収録曲「orange」から、ライブはクライマックスへと向かう。タイトル通り、視界の開けるような開放感を生んだ「明瞭度」、イントロから一斉にオイコールとともに拳が突き上がった「セブンティーン」。「一番になれなくても、羽ばたけるんだよ! なあ?」と放たれた「Blackbird」はフロアからの歓喜の声に迎えられる。曲中で河内のギターから音が出なくなるアクシデントに見舞われたものの、サウンドの隙間を埋めるようなフロアからの声と熱が4人の背中を押す。気づけばすでに18曲。最後の一曲は「サーチライト」だった。あたたかく輝かしい曲。登場してきたとき以上の満面の笑みで「超楽しかった、ありがとう。バイバイ!」と告げ、ステージを後にした河内。だが当然、これだけでは終わらない。

アンコールの声に応えて再登場すると、まずは「本当の事」から。渾身の力を込めた歌い出しに心が震える。河内がラストサビを大きくフロアに身を乗り出して歌い上げると、高ぶる感情そのままに中島みゆきの「ファイト!」の一節を叫びながら客席へ。そのまま「未来」へとなだれ込んで、アンコールも大盛況のもと終了した……と思いきや、鳴り止まない手拍子に三度ステージに戻ってきた4人。河内のTシャツに書かれていた“NO COMMENT”の文字を伊井がいじって笑いが起きたりと和やかな雰囲気の中、正真正銘のラストナンバーとして奏でられたのは「優」。1サビまでをじっくり弾き語った河内、今日ここまであまり見せる事のなかった優しく繊細な歌声だ。満を持してバンドINすると、ロックバンドの王道を往くシンプルながら重厚なサウンドで、ライブの最後を飾った。

周りを見ればアリーナツアーをやってるバンドもいて、自分たちだってドームでやるような夢も見てきた。でも、人と比べる事はもうやめた——河内はそんな事を言っていた。確かに、クアトロよりも大きなハコはたくさんある。でも彼らにとって大事なのはそこじゃない。いつもの調子でフワフワとした調子のMCだったため意訳するが、彼はこう続けたのだった。
「あなたがたのおかげで、いつも最高な気分でステージに立たせてもらってます。でも、もっと深く、もっと清く、本当の本当の心で、刻んでいかないといけない。これからもあなたが生きている限り、良い音楽と出会えるように、素晴らしい日々を送れるように」
この15年のどこかのタイミングで出会ってきた一人一人に対して、正面から向き合う。この日クアトロを満たした鮮烈で凄絶な音の向こう側に見えたものは、そんな青くてピュアで誠実なircleというバンドの本質であった。

結成15年、本格始動してからは10年ほど。きっと数え切れないくらいの挫折やまわり道も経験しただろう。そうやって、真新しさや流行とは一線を画す彼らのスタイルを愛する人たちと出会いながら進んできた道は、クアトロにつながっていた。さあ、ここからだ。こうなったら20年、30年かけて武道館!くらいの勢いでもいいので……いや、もっと早いに越したことはないんだけど、自らの信じる音を鳴らし続けていったその先にある場所で、また思いっきり轟音を叩きつけて、痛快に笑ってみせてほしい。


取材・文=風間大洋

セットリスト
ircle「Copper Ravens」Release Tour
〜Raven claw tour final one-man live〜 2017.3.16 渋谷CLUB QUATTRO
1. 呼吸を忘れて
2. 覚醒
3. ベニ
4. 2000
5. ダイバーコール
6. 光の向こうへ
7. 風の中で君を見たんだ
8. i hate you?
9. after school planet
10. バタフライ
11. 嘘つき少年より
12. 一夜完結
13. 悲しいのは僕の方だ
14. ピストル
15. orange
16. 明瞭度
17. セブンティーン
18. Blackbird
19. サーチライト
[ENCORE]
20. 本当の事
21. 未来
[ENCORE 2]
22. 優

 

リリース情報
『Copper Ravens』
発売中
『Copper Ravens』

『Copper Ravens』

YMNT-1008 / \1500+税
【収録曲】
01.orange
02.悲しいのは僕の方だ
03.覚醒
04.ダイバーコール
05.一夜完結
06.Blackbird
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