20世紀フランス絵画の巨匠、マティスとルオーの50年を超える男の友情
4月4日(火)からあべのハルカス美術館で始まった『マティスとルオー -友情50年の物語-』。本展では20世紀フランス絵画界を代表する、色彩画家アンリ・マティス(1869-1954)と宗教画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)の油彩画をメインに、デッサン、版画、彫刻や挿絵本などを紹介。加えて、両者の間で50年もの長い間に交わされた手紙から、二人の友情を読み取ることができる貴重な展覧会です。今回は、展覧会を開催するための大切な準備の一つ、音声ガイドの制作現場にお邪魔し、これまでも数多くの展覧会の音声ガイドを制作されてきた、株式会社アコースティガイド・ジャパンのプロジェクト・マネージャー高橋 茜(以下、高橋)さんにお話を伺うことができました。さらに、音声ガイドを担当した関西テレビのアナウンサー3名からもコメントをいただいています。
高橋 茜 撮影=日吉”JP”純平
――音声ガイドの役割について。
高橋:音声ガイドがあると、作品を鑑賞しながら、同時に耳から作品の情報を聞くことができます。作品の説明以外にも、作者のエピソードや時代背景の説明があったり、いろんな情報を知ることもできます。それによって、鑑賞者はさらに想像を膨らませて、目の前の作品世界に入りやすいと思います 。
――今回の音声ガイドの今までと違う点は?
高橋:マティスとルオー、二人の画家のそれぞれの作品説明に加え、二人が互いに影響しあい、良き友人関係が50年間も続いていたことを伝えるものになっている点です。しかもそれを、一人のナレーターで表現するのではなく、マティスとルオーの“語り” があるところが特徴ですね。
もちろん、本人たちの声ではないが、本物の手紙から、二人の“語り”を音声ガイドに取り入れることにしたそうです。
――台本を作るときのご苦労は?
高橋:苦労というよりは、できるだけ本人たちの言葉を生かしたセリフ作りに気を配りました。これは、マティスとルオーの二人の手紙が存在したからこそ出来た音声ガイドです。
様々な資料と手紙を調べ、学芸員にアドバイスを求めたりと、およそ1ヶ月近く費やして完成した台本。この台本のセリフに命を吹き込んだのが、関西テレビの3名のアナウンサーです。
(左から)大橋雄介、豊田康雄、中島めぐみ 撮影=日吉”JP”純平
マティス役は大橋雄介アナウンサー(以下、大橋)。普段は、感情を抑えて原稿を読み伝える、プロのアナウンサーです。しかし今回は、作品を見てイメージを膨らませ、マティスになりきって語りかけたのだそう。
大橋:声を作り込んで話したので、いつもとは違う疲労感がありました。しかし楽しかったですね。
大橋雄介アナウンサー 撮影=日吉”JP”純平
豊田康雄アナウンサーは、ルオー役。ユーモアのある人物像のルオーを演じるうちに、どんどん熱が入って感情が溢れ出す豊田アナ。「収録の2〜3日前からルオーの気分で過ごしました」と言う豊田アナは、年に一度、結婚記念日には奥様に手紙を書く愛妻家だ。
豊田康雄アナウンサー 撮影=日吉”JP”純平
全体のナレーションは、柔らかで穏やかな声色で進行された中島めぐみアナウンサー(以下、中島)。絵画鑑賞が趣味というだけあって、今回の音声ガイドの担当が決まったときから、何度も何度も自身で録音し、聞き直し、練習にも余念が無かったそう。
中島:美術展の音声ガイドのお仕事は、夢でした。アナウンサーになって良かったです!
中島めぐみアナウンサー 撮影=日吉”JP”純平
3人のアナウンサーの“職人技”とも言える素晴らしいナレーションは、『マティスとルオー -友情50年の物語-』をさらに面白く、深く知るに相応しい音声ガイドに仕上がっていました。
(左から)中島めぐみ、大橋雄介、豊田康雄 撮影=日吉”JP”純平
さて、展覧会の見どころは、直筆の手紙や貴重な初期の作品、そしてフランスでも実現していない、世界初の一挙公開となるルオーの『気晴らし』シリーズ油彩画全15点や、初来日となる作品の数々です!
本展は、全く異なる画風の二人が、実は1892年に国立美術学校(ギュスターヴ・モロー教室)で出会っていたという初期作品の展示から始まります。 世界大戦も経験した二人の巨匠は、ともに激動の時代を生き抜き、互いに尊敬し支えあいました。50年もの間、厚く深い友情で繋がっていたマティスとルオーが交わした手紙からも、二人の固い絆が伝わる感動的な展覧会です。二人の出会いから戦争中の苦労の日々、それぞれが進んだ道(異なる画風)は、4つの章にまとめられています。
第1章 国立美術学校(エコール・デ・ボザール)からサロン・ドートンヌへ 1892年~1913年
ここでは、国立美術学校のギュスターヴ・モロー教室で出会った二人が、共に学んだ頃の貴重な初期作品や、初公開となるルオーの国立美術学校時代の作品、サロン・ドートンヌへの出品をめぐる手紙のやりとりや、次第に変化していく作風などに注目です。
《スヒーダムの瓶のある静物》1896年/マティス美術館、ル・カトー=カンブレジ
第2章 パリ・ニース・ニューヨーク 1914年~1944年
2つの世界大戦が起こった激動の時代、パリで活動するルオーと、南仏ニースに拠点を移すマティス。さらに、マティスの息子ピエールが、ニューヨークで画商として二人を支え、次世代もずっと交流は続きます。絵をかくための油をマティスが調達してルオーに贈るなど、心あたたまるエピソードもありました。
《肘掛椅子の裸婦》1920年/DIC川村記念美術館
第3章 出版人テリアードと占領期
ナチスによるパリ占領期に、テリアードという出版人が発行した芸術誌『ヴェルヴ』。作品を自由に発表することができなかった苦しい時期に、マティスとルオーを精神的にも金銭的にも助けたのが、この本作りの仕事でした。そのことが手紙からもわかる重要な章となっています。
《マティスからルオーへの書簡、1946年11月4日》/ジョルジュ・ルオー財団、パリ
第4章 『ジャズ』と《聖顔》1945年~1956年
マティスは、色彩画家としての真骨頂ともいえるエポックメイキングな作品集『ジャズ』を発表。対するルオーは、重厚な油彩で、光輝く世界を表した名作《秋の夜景》(1952)に代表されるように宗教的な画題を極めていきました。全く異なるテーマに邁進していった二人が、お互いの仕事を尊敬しあっていた様子が想像できます。
《秋の夜景》1952年/パナソニック 汐留ミュージアム
油彩、版画、手紙などなど、どれだけ見ても興味が尽きない展覧会『マティスとルオー -友情50年の物語-』は、5月28日まで あべのハルカス美術館で開催中。
会場を後にしたとき、誰かに『手紙』を書きたくなっているかも?
撮影=日吉”JP”純平
日時:2017年4月4日(火)~5月28日(日)
【月・土・日・祝】10:00~18:00
<ただし5月3日(水・祝)~7日(日)は20:00まで開館時間を延長>
休館日:4月10日(月)、17日(月)、24日(月)、5月8日(月)
※いずれも入館は閉館30分前まで
講師:山田五郎氏(評論家)
日時:4月21日(金) / 午後6時~7時
会場:あべのハルカス25階会議室
(17階からエレベーターにお乗りください。)
定員:270名(先着)
※聴講は無料ですが、本展の観覧券(半券可)が必要となります。講演会当日、午後5時30分より、あべのハルカス25階にて受付開始。