若手作曲家の登竜門、芥川作曲賞受賞者に聞く
坂東祐大さん
坂東祐大さんが芥川作曲賞を受賞
8月30日に東京・赤坂のサントリーホールで若手作曲家の登竜門とされる第25回芥川作曲賞選考会が行われ、坂東祐大さんの《ダミエ&ミスマッチJ.H:S》が選ばれた。
この芥川作曲賞は文豪・芥川龍之介の三男であり、作曲家の芥川也寸志を記念して1991年にサントリー音楽財団によって創設された。日本で新進気鋭の作曲家に授与する賞といえば「芥川作曲賞」と「尾高賞」があげられる。どちらの賞も初演済みのものという共通点はあるが、尾高賞は譜面審査を経て受賞作品のみが公開演奏されるのに対し、芥川作曲賞は候補作品を公開の選考会で実際に演奏し選定する。また、受賞作曲家には新しい作品の創作を委嘱し、2年後の同審査会で初演されるというユニークな賞だ。過去には藤倉大や川島素晴などが受賞している。
今回芥川作曲賞を受賞された坂東さんは東京芸術大学作曲科を首席で卒業し、同大学院修士課程修了。2012年長谷川良夫賞、2013年アカンサス音楽賞受賞、2014年第83回日本音楽コンクール第3位に入賞されおり、日本を代表する作曲家として着実にキャリアを積んでいる。
今回の受賞に坂東さんは「素直に嬉しいです。それと同時に責任を感じています。」と話してくれた。受賞作品の《ダミエ&ミスマッチJ.H:S》について「ダミエ柄のように2つの異なった素材が常に組み合わされる"Damier" シリーズと自分の音楽の語り口とある特定の作曲家の作品 (今回であればJosef HaydnのSymphony) を行き来する"Mismatch " シリーズという全くコンセプトの異なった2つのシリーズをひとつにしようということを考えた」という。
今の若い日本の作曲家の考え方についてきいてみると「クラシック音楽のファンという方であっても現代音楽というのは敬遠される傾向にあると思います。でも実験的なことができたり、新しいことを常にやれるジャンルなのでとても面白いです。僕らの世代はYouTubeが一番音楽を熱狂的に聴く中学生の頃からあったので日常的にクラシックだけでなく、とにかくいろいろな分野の音楽を耳にしてきました。その影響はとても強く、クラシックというジャンルにこだわらず他ジャンルと交流をしていけたらなと思っている作曲家が多くいます。でも商業的な意味合いの強い《エンタメ》にするのではなく、ある種の学問的な指向の強い《アート》であるということは常に頭に置いている」と話してくれた。
現在、ヨーロッパで現代音楽の作曲家として活動している人の中には、ジャズやハードロックなどの世界からシフトしてくるというケースもあるそうだ。彼らの多くは現代音楽を志して以降、クラシック音楽の歴史を勉強してみてもバッハやベートーヴェン、ブラームスに親近感がわかないという。
日本では考えられない感覚かもしれない。しかしクラシック音楽の本場、ヨーロッパですらそういう時代になってきているからこそ「クラシック音楽(現代音楽)だけでなくそれ以外のカルチャーについて興味をもつことの重要性を改めて感じています。比較することでクラシック音楽のもつアイデンティティーを再認識できる」と坂東さんは言う。確かに一つのことを深く知ることはもちろん大切だが、別のものと比較することでしか見えてこない特徴もたくさんあるだろう。
今後の活動については「ヨーロッパの文化から生まれてきた音楽なのでヨーロッパでの活動もしたい。でも自分のやりたい音楽がヨーロッパでハマるかどうかはわからない。ハマらなかったとしても今まで自分がやってきたことを貫いていくことはやめたくない」と力強く語ってくれた。
インタビューの最後に「昔は作曲家の話を聞いてくださる機会は多くあったそうなのですが、最近はなかなかないのが現実です。」と言っていた。
演奏していても、鑑賞していてもベートーヴェンやシューマン、ドビュッシーが今もいてくれたら何を考えてこの曲を作ったのか聞くことができるのに…と思うことがある。せっかく同じ時代を生きている作曲家がいるのだから、彼らの音楽だけでなく『声』にも耳を傾けると新しい発見があるかもしれない。