安田レイ はっとするほど大人になった、24歳、デビュー4年を迎える彼女がいま見つめているもの
安田レイ 撮影=北岡一浩
約1年ぶりに会った安田レイは、はっとするほど大人になっていた。頭の回転の速いトークと明るい口調は変わらないが、表情や身のこなしに落ち着きが生まれ、作品について語る言葉の一つひとつには重みがきらり。久々のニューシングル「きみのうた」(TVアニメ『夏目友人帳 陸』エンディングテーマ)は、自ら作詞を手がけた泣けるバラードの自信作。24歳、デビュー4年を迎える安田レイが今見つめているものとは?
傷つくようなことを言われたこともあったけど、日本とアメリカの血が混ざって安田レイが成り立っているから、“This is me!”と常に思っていました。
――1年ぶりですね。前回のインタビューは、赤坂BLITZでのワンマンライブの直前で、意気込みを語ってもらったのを思い出します。
そっか、赤坂BLITZの前だったんですね。本当に時間が経つのって早いですね。7月でデビュー4周年になるんです。信じられないなと思いながら、それだけ忙しくやらせていただいていることもあって、いろんな場所に行ったりいろんな人に出会ったりしているうちに、“また1日が終わっちゃった”みたいな感覚です。今はラジオパーソナリティも始めていて、生放送で週に1回、それが始まってからさらに時間が速くなりました。土曜日の13時、TOKYO FMの『JA全農COUNT DOWN JAPAN』という番組なんですけど、ゲストさんが来る番組なので学ぶこともいっぱいあるし、すごく刺激になってます。
――ライブもいろんな場所で披露してます。
最近は大阪のイベントや、名古屋のテレビの収録で歌いました。そういった場所でのファンの皆さんのエネルギーってすごいなと思います。誰も来てくれてなかったらどうしようとか思ったら、うれしいことに、ツアータオルを持って来てくれたりとか、そういう人がいてくれるだけですごく心強いです。デビューしたての時には、誰も私を見てくれないようなこともありましたけど、いまは全然平気なハートになったし、マイクさえあればどこででも歌えます。いや、マイクがなくても歌えるかな。それくらいのハートになりました。最初は本当にか弱い少女だったんですけど。
――あはは。自分で言う。
生まれたての小鹿のように震えてました(笑)。ちょっとずつ大人の階段を上ってる状況ですね。4月で24歳になったんですけど、20歳と24歳は全然違いますね。いろんな変化があって、今回も歌詞を書かせていただいて、デビュー当時の自分には絶対書けない歌詞だなあと思ったり。何もできないところから、とにかくやってみようという気持ちだけでやっていたのが、今はさらに意思が強くなって、制作意欲が湧いて、自分で曲を作っていきたいという気持ちだったり、デビュー当時からは想像できない自分になってるなと思います。
――今回の「きみのうた」は、アニメ主題歌。『夏目友人帳 陸』のエンディング曲で、思い切りせつないバラード。
作品を見させていただいて、主人公がいろんな出会いや別れを乗り越えて前に進んでいく姿が、私の気持ちとリンクして、“別れ”について歌いたいなと思いました。歌詞は本当に実体験で書かせていただいて、今までの人生を振り返りながら、普段だったら思い出さないような細かいことも全部思い出して、そのせいか、この曲を書いている間は毎晩のように、夢の中に思い出の人たちがたくさん出てきて、何か言いに来てくれてるのかな?って。スピリチュアルな感覚に近いというか、これは何なんだろう?って、毎朝起きてぼんやりと考えてたんですけど。それをまさに、歌詞に書いてます。
――ああ、それで<夢のなか>という歌詞が出てくるのか。
それと、思い出につながる場所というものがあって。<駅のホーム>が出てくるんですけど、そういった景色だとか、一緒に口ずさんだ曲とか、いろんなものを通して、離れ離れになってしまった人のあたたかさを感じたり、その人が言ってくれた言葉を思い出したり。そういう時が、自分は一人じゃないなと思える瞬間かなと思いながら書いてました。
安田レイ 撮影=北岡一浩
――面白いのは、思い出につながる要素として、感覚につながる言葉が全部入ってるなと思ったんですよ。<君の匂い>は嗅覚、<赤いベンチ>は視覚、<鼻歌>は聴覚、とか。
普段思い出そうとしても思い出せないものが、ふとしたきっかけで蘇ったりとか、そういう記憶力ってすごいなと思います。特に匂いは、すごくありますね。その人がつけてた香水とか、“あ、あの人の匂いだ”って、ハッとしたりとか。この前テレビでやってたんですけど、そういうワードがあるんですよ。匂いが記憶を呼び起こす機能に名前がついていて、プルースト効果っていうみたいです。
――そうなんだ。ちゃんと証明されている。
そういった思い出を大切にしていきたいなということと、思い出があることによって新たな一歩を踏み出せたリ勇気が湧いてきたりするので。まだリリース前ですけど、アニメやミュージックビデオを見た人から“すごい共感しました”とか、“見てたら涙が出てきました”とか、そういう言葉をたくさんいただいて、本当に作って良かったなと思います。そうやって共感してもらえるのが一番うれしくて、私にとって一番の励みになります。
――最後のヴァースで<さよならなんかじゃない、笑顔のありがとう>って歌ってるでしょう。それ、なかなか言えない言葉だと思うけれど。
別れた直後は心がズタボロになって絶対そんなこと言えないし、どうやって生きていこう?というどん底の時期がまずあって。でもそこから少しずつ時間が解決してくれたりとか、誰かにその気持ちを伝えたり、音楽を聴いてその出来事と重ねてみたりすることで、だんだん気持ちが落ち着いていくと思うんです。私は音楽に救われてきたところがあって、まさにこの曲でもそうなっていただけたらいいなと思いで作ったので。常に我慢してきた気持ちをここで解放してほしいなと思っています。人間ってみんな不器用で、そんなにすぐに切り替えて“よし頑張ろう”とは思えないじゃないですか。どんなに強がっても心の中には弱さがあると思うので、この曲を通してみんなの気持ちが少し軽くなったり、我慢してた部分を涙に変えて流していただけたらうれしいなと思います。
――歌う時、大丈夫でした? 泣いちゃったりとか?
いやー、本当に大変で(照笑)。自分で書いているというのもあるし、実体験を歌うということは、言葉の重みや説得力は増すんですけど、そのぶん自分の気持ちが乗っかりすぎちゃって。プロデューサーさんに“レイちゃん号泣しすぎだわ”って言われて“ごめんなさい…”みたいな、それくらい入り込んで歌いました。私はこれを一つのストーリーだと思っているので、レコーディングだと一行ずつ区切って歌うこともあるんですけど、この曲は気持ちを途切れさせたくないので“頭から最後まで続けて歌いたいです”と言って歌ったんです。そうすると自分の感情の波が本当にリアルに伝えられるので、私にはこのやり方が合ってるなと思いました。
――ちなみに、どのへんが一番ヤバイですか。
ラストのサビがヤバイです(笑)。ミュージックビデオの撮影の時にも泣いてしまって、その映像が採用されてるんですけど。この曲には本当にリアルな言葉と感情が詰まっているので、これからもライブで歌ってみんなと一緒に涙を流す、そんなことができたらいいなと思います。
――気持ちが浄化される歌だと思いますよ。決して暗い歌ではなく。
そうなんです。最終的には前向きな気持ちになって、ミュージックビデオの最後のシーンもそうなんですけど、彼がいなくなってしまってどうしよう、という気持ちを乗り越えて、それを写真に収めて、また新しい気持ちで部屋を出ていくシーンが私は大好きで。そのシーンがこの曲の中の“光”を表してくれてるなと思っています。
――レイさんの性格かもしれない。去年の「Message」の時も言ってましたよね、やっぱり最後は光で終わりたいって。
常にポジティブでいたいなと思います。陰になってしまうことももちろんあるけど、でもどうにかこうにかプラスに考えて、自分がポジティブなマインドで毎日ハッピーに過ごしていたら、きっと周りにいる人にも伝染していくものだと思うので。私の曲はどの曲も、必ずポジティブなマインドが入っているので、それがすごく自分らしいのかなと思いますね。
――タイトルはシンプルに「きみのうた」。
私が思い浮かべた大切な人に対する「きみのうた」でもあり、歌詞にある“ふたりで歌った鼻歌”とか、そういう意味でもあり、あとは聴いてくれる人に対してこれは「きみのうた」だよという、いろんなミーニングを持ったタイトルになってるんです。シンプルだけどいろんな意味を持ったタイトルになりました。
安田レイ 撮影=北岡一浩
――カップリングも、タイプはまったく違うけれど素敵な曲。「up to ME」の曲紹介を。
この曲も私が歌詞を書いてるんですけど、「up to ME」には“自分次第で何だって変えられる”というメッセージを込めています。自分の心の叫びと、若い子たちの声を代弁したつもりで書きました。時代の流れがどんどん変わって行ったりとか、流行りもあっという間に変わって行く中で、どうしよう?って不安になってる部分があると思うんです。あとは親に気を使ったり学校の先生に気を使ったり、どこか遠慮して自分が本当にやりたいことができてなかったり、思ったことが言えなかったりしてるのかな?と。ゆとり世代と言われて、それだけで上の世代から斜めに見られたり、でも私たちの心の奥底には熱いものがあるんです。それをもっと前面に出してほしいと思うし、たとえやりたいことが周りとずれていても、それはあなたの個性で、あなたを作り上げているものだから、それを否定しないでほしい。私も日本の学校に行っていた時期に傷つくようなことを言われたりして、でもこれは私自身を作り上げているもので、日本とアメリカの血が混ざっていて安田レイが成り立っているから、なんでそんなこと言うの?って。だから日本人に生まれればよかったとも、アメリカ人に生まれればよかったとも思わずに、“This is me!”と常に思っていました。そう思う子がもっと増えてほしいし、自分らしさを見失わないでほしいと思うので、そういったメッセージをこの曲には込めてありますね。
――同年代へのメッセージチューン。
あとはファッションワードを入れて、<つまらない世界なら、飛び立とうhigh heels>とか、<赤いリップに隠れた本音>とか、そういうところも意識してます。<厚い雲に覆われた空><昨日よりも少しぬるい風>というのは、最近みんなシャキッとしてないなと思って、そういったことも表したいと思って書きました。いろんなことに遠慮してしまいがちな時代の中で私たち若い子が頑張っていこうよ、新しい何かを作り上げていこうよというメッセージも込められてますね。
――EDM系の曲で、ライブでいい感じで盛り上がりそうな。
この曲でみんなとウェイウェイしたいです(笑)。
――せつない別れの曲と、同世代への力強いメッセージ。面白いシングルになりました。
どっちも作詞をさせてもらって、もっと自己プロデュースというか、自分発信をテーマにこれからやっていきたいなと今思っています。曲もそうですし、ミュージックビデオやジャケットや、ファッションも混ぜながらいろんなふうに冒険していきたいですね。守りの姿勢じゃなくて攻めていきたい気持ちがあって、ジャケットもいつもと違う雰囲気になってるんです。初めて夜の撮影だったんですけど、“夜景がきれいなところで撮りたいです”と言って撮らせてもらいました。
――あ、自らのリクエストで。
はい。この“光”というものが表しているのが、一人ひとりの人生で、灯りがあることによってそこで誰かが生活していて、空を見上げて誰かのことを思っていて……って、それぞれのライフストーリーが行なわれているということを表現したくて。それって日中だとわからないじゃないですか。でも夜景にすることで、そこで誰かが生きているという実感が出てくるのかなと思って、そういう提案をしたら、みなさん“いいね”って言ってくださったんです。
――アイディアがどんどん広がっている。
いまは、作品作りがすごく楽しいです。とにかく制作意欲が湧いていて、人のミュージックビデオを見ても、“このロケーションどこだろう?”“これはどうやって撮ってるんだろう?”って、見方が変わってきたんです。今まではその人の歌い方や表情ばかり見てたんですけど、いまは全体的な色味だとか、人物像だとか、いろんなところに目が行くようになってきて。それもこの4年間で成長した部分かなと思います。
――アーティストとしてすくすく成長中。ちなみに今日着ている服も、1年前よりはアダルトになったような気がしますよ。前はポップな原色が好きと言っていて、そういう服装でしたけど。
ちょっとずつ大人になってるんです(笑)。根っこの部分ではポップなものが好きなのは変わらないんですけど、好きなものもちょっとずつ大人っぽくなってきたというか、シンプルなものの良さがわかってきたりとか。シンプルな中でどれだけ遊べるかとか、そういう楽しさもわかってきて、“大人になったな~自分”とか思います(笑)。だから7月2日の名古屋ブルーノートでのライブもすごく楽しみです。自分を作り上げてきたいろんな楽曲を、今の24歳の安田レイがカバーしたらどうなるかな?というテーマがあったり、衣装やメイクもいつもより大人めでやろうかなとか、いろんなことを考えてます。普段はアッパーでノリノリな感じが多いんですけど、今回はすごくシンプルな編成で、自分の声を前面に出してやるので、すごく楽しみですね。
――その前、5月30日には東京・渋谷duoでのイベントにも出演します。
まさかの、東京は1年ぶりのライブですね。これもすごく楽しみです。今まで安田レイのことを知らなかった人に、知っていただける機会になるんじゃないかなと思います。ぜひ来てほしいなと思います。
取材・文=宮本英夫 撮影=北岡一浩
安田レイ 撮影=北岡一浩
安田レイ
SECL-2161 ¥1,111+税
<収録曲>
1. きみのうた
2. up to ME
3. きみのうた Instrumental