佐渡裕指揮トーンキュンストラー管弦楽団 来日公演への期待 by 山田治生
佐渡裕 (Photo:Takashi Iijima)
佐渡裕&トーンキュンストラー管弦楽団のコンビが来年5月に再び来日する。まさにウィーンからの2度目の凱旋公演だ。トーンキュンストラー管弦楽団は、オーストリアのザンクトペルテンとウィーンを本拠地とする名門オーケストラ。1907年に創設され、これまでに、クルト・ヴェス、ハインツ・ワルベルク、ファビオ・ルイージ、クリスチャン・ヤルヴィ、アンドレス・オロスコ=エストラーダなどの巨匠や実力派がシェフを務めてきた(この楽団は特に若くて才能ある指揮者を起用する伝統がある)。今はニーダーエースターライヒ州のオーケストラとなっているが、創設以来、“黄金のホール”として知られるウィーンの楽友協会(ムジークフェライン)大ホールで定期的に演奏を行い、ウィーンを代表するオーケストラの一つに数えられている。夏に広大な敷地を持つグラフェネック城で開催され、著名なアーティストが集うグラフェネック国際音楽祭のレジデント・オーケストラも務める。
2015年、佐渡裕が音楽監督音楽監督に就任。2016年には日本ツアーを成功させる。佐渡はトーンキュンストラー管弦楽団と積極的にレコーディングに取り組み、すでにR.シュトラウスの「英雄の生涯」と「ばらの騎士」組曲、ハイドンの交響曲第6番「朝」、第7番「昼」、第8番「晩」、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、第9番*、シベリウスの交響曲第2番、バーンスタイン・アルバム*(「キャンディード」序曲、「ウエスト・サイド・ストーリー」より“シンフォニック・ダンス”、交響組曲「波止場」、バレエ音楽「ファンシー・フリー」)、武満徹の「セレモニアル」*(笙独奏:宮田まゆみ)などをリリースしている。地元で好評を得ている佐渡は2022年までトーンキュンストラー管弦楽団との契約を延長した。
*日本では11月下旬以降より順次発売予定
トーンキュンストラ―管弦楽団 (Photo:Werner Kmetitsch)
2018年は佐渡の恩師であるレナード・バーンスタインの生誕100周年にあたる。バーンスタインは20世紀を代表する巨匠指揮者であり、作曲家でもあった。佐渡が最晩年のバーンスタインの愛弟子であったことは周知のこと。このメモリアル・シーズンに佐渡&トーンキュンストラー管弦楽団は地元ザンクトペルテンとウィーン楽友協会大ホールでバーンスタインの作品を連続的に取り上げている。この11月には、「ウエスト・サイド・ストーリー」より“シンフォニック・ダンス”、交響組曲「波止場」、来年4月には交響曲第3番「カディッシュ」、5月には「セレナード」(ヴァイオリン独奏:庄司紗矢香)を演奏する予定である。今回の来日公演では、「キャンディード」序曲、交響組曲「波止場」、「ウエスト・サイド・ストーリー」より“シンフォニック・ダンス”を日本の聴衆に披露する。「キャンディード」は、18世紀フランスのヴォルテールの同名の小説に基づくミュージカル。その序曲は、20世紀の「フィガロの結婚」序曲といえるほど、軽快で楽しい曲だ。佐渡が司会を務めていた頃の「題名のない音楽会」ではテーマ曲に使われていた。「波止場」(エリア・カザン監督)はバーンスタインが唯一、映画音楽を担当した映画であり、交響組曲「波止場」はその音楽をコンサート用にまとめたものである。「ウエスト・サイド・ストーリー」は、バーンスタインの代表作といえるミュージカル。“シンフォニック・ダンス”もやはり、そのハイライトをコンサート用にまとめたもの。バーンスタインらしいリズミックなノリが楽しめる。聴衆も参加しての「マンボ!」の掛け声が恒例となっている。なお、佐渡は、来年、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団やワシントン・ナショナル交響楽団でもバーンスタイン作品を手掛ける。
また、今回のツアーでは鬼才ヴァレリー・アファナシエフが帯同し、ブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾くのにも注目だ。アファナシエフは、1947年、モスクワ生まれ。モスクワ音楽院で学び、1972年のエリーザベト王妃国際音楽コンクールで優勝した。その後、ベルギーに亡命。極端に遅いテンポを採るなど、超個性的な演奏を繰り広げることで知られている。作家や詩人としても活躍する才人。今や70歳となり、円熟の巨匠の境地に達したアファナシエフが得意のブラームスでどのような演奏を聴かせてくれるのか興味津々である。
ヴァレリー・アファナシエフ
ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、4つの楽章からなり、50分近くを要する大作。シンフォニーに匹敵する重量感で、今回もコンサートのメインに置かれる。アファナシェフの今を知るには最適の曲といえよう。アファナシエフと佐渡&トーンキュンストラー管は、オーストリアでの共演を経て、日本にやってくる。アファナシエフと佐渡とはどのような化学反応を示すのだろうか。
シンフォニーでは、ショスタコーヴィチの交響曲第5番とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を持ってくる。
ショスタコーヴィチの第5番は、佐渡にとっては、ベルリン・フィルの定期演奏会に客演したときに取り上げた十八番のレパートリー。ソビエト共産党から徹底的な批判を受けたショスタコーヴィチが1937年に名誉回復のために書き上げた交響曲である。ベートーヴェン的な「闘争を経ての勝利」が描かれるが、その勝利は必ずしも喜びに満ちたものではない。ショスタコーヴィチの傑作を佐渡がトーンキュンストラー管弦楽団を得てどう描くのか、興味が尽きない。
ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」は、ウィーンに暮らしていた彼が、ウィーン郊外の田園風景や小川のせせらぎに心を癒されたことから書かれた傑作。トーンキュンストラー管弦楽団がウィーンのオーケストラとしてどんなに魅力的な演奏を披露してくれるのか楽しみである。
音楽の都でますます進化する佐渡裕がトーンキュンストラー管弦楽団とともに恩師バーンスタインの生誕100周年を祝う日本ツアー。今から待ち遠しい。
文=山田治生
佐渡裕(指揮)
トーンキュンストラー管弦楽団
ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)
【Aプロ】
バーンスタイン:交響組曲「波止場」
バーンスタイン:ウエスト・サイド・ストーリーより「シンフォニック・ダンス」
ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番 ニ短調 Op.47
【Bプロ】
バーンスタイン:キャンディード序曲
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68 「田園」
ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83
5/12(土) 京都・京都コンサートホール 【Bプロ】
5/13(日) 熊本・熊本県立劇場 【Aプロ】
5/15(火) 福岡・福岡シンフォニーホール(アクロス福岡) 【Bプロ】
5/17(木) 東京・サントリーホール 【Bプロ】
5/18(金) 新潟・新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ 【Aプロ】
5/19(土) 大阪・フェスティバルホール 【Aプロ】
5/20(日) 東京・NHKホール【Aプロ】
5/23(水) 浜松・アクトシティ浜松 【Aプロ】
5/24(木) 名古屋・日本特殊陶業市民会館(名古屋) 【Bプロ】
5/26(土) 仙台・東京エレクトロンホール宮城 【Bプロ】
5/27(日) 札幌・札幌コンサートホールKitara 【Aプロ】
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【東京公演のみ】
■座席選択先行受付:11/14(火)12:00~12/10(日)23:59
2018年5月17日(木)19時開演 サントリーホール
2018年5月20日(日)14時開演 NHKホール
【全公演】※福岡公演のみ一般発売中
■一般発売:2018年12月16日(土)~
<公式サイト>
トーンキュンストラー管弦楽団
https://www.tonkuenstler.at/de/japanese-information/tonkuenstler-orchester