【“SAI”クイックレポ】ACIDMAN バンドの全てを凝縮し、長い1日を締めくくる万感のフィナーレ
ACIDMAN
ACIDMAN presents 「SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”」 ACIDMAN
時刻は午後8時を回った。開演から既に9時間を経過したが、会場内の熱はまったく下がらない。みんなが待っていた、長く美しい1日を締めくくるバンドはもちろんACIDMANだ。ざわめき、暗転、歓声。お馴染みのインスト「最後の国」に合わせたオーディエンスのクラップが、音の波に乗って押し寄せる。なんという壮観な眺め。スーパーアリーナを埋め尽くしたすべての人間が、彼らの20年を祝福するためにここに来たのだ。
ACIDMAN
1曲目「新世界」、スクリーンに映る大木の顔つきが違う。祝祭の喜びよりも、9組のバンドの熱演に感化された緊迫感みなぎる表情だ。「FREE STAR」ではミラーボールが廻り、一悟のキックに合わせたオーディエンスのジャンプにフロアが揺れる。サトマの煽るクラップがビートの一部になる。包み込み、連れ去る、ACIDMANにしか作れないスペイシーで非日常的な空間が現出する。
ACIDMAN
「いつもは“自由に楽しんでください”と言うけれど、今日は自由に楽しまないで。“思い切り”楽しんでください」
大木のMCに続き、「ミレニアム」から「赤橙」へ。十数年の時差のある曲を同じビートでつなげ、力強い四つ打ちがフロアを揺るがす。テンポでいえばミディアムだが、体感は凄まじくラウドでパワフル。ACIDMANの曲にはスローもファストもない、あるのは刻々と変化し続けるエモーションの流れだ。「最後の星」も、ロックバラードの域を超えてどこまでも高く遠く飛ぶ。オーディエンスは立ち尽くし、音の流れに身を任せ、大木の魂振り絞る叫びに聴き入っている。
ACIDMAN
「世界は終わる、人は死ぬ。そんな歌ばかり歌ってます。これからもずっと歌い続けます。いつか終わりが来るからこそ、生きている瞬間が素晴らしいという歌を」
曲は「世界が終わる夜」。これもACIDMAN流ロックバラード、エモーションの流れが大きくうねり、1曲の中で遠くまで旅ができる曲。一悟の乱打するシンバル、サトマの正確無比なルート音、大木の掻きむしるディストーション・ギターがまばゆい音のハレーションを引き起こす。と、ここでサプライズが。「この人たちがいなかったら今のACIDMANはありません」と、呼び込んだのは東京スカパラダイスオーケストラの谷中と加藤だ。ファンの間では周知のエピソード、かつてACIDMAN解散の危機を救った二人。強力なバリトン・サックスとエレクトリック・ギター、そこに愛と勇気と信頼を加えた「ある証明」は、今までに聴いたどの「ある証明」よりもエモーショナルな名演だった。さらに「飛光」へと、ACIDMANのラウド・サイドを代表する名曲の連発に、オーディエンスの盛り上がりは最高点に達した。
ACIDMAN
「今日出てくれたバンド。本当にありがとう。次は希望を歌った歌です」
ACIDMAN史上最高にエモーショナルな曲の一つ「ALMA」を歌う大木の声が震える。壮麗な照明が眩しく輝く。見上げたスーパーアリーナの天井から、星型のオブジェが無数に舞い降りる。大団円の雰囲気の中、「アンコールはやりません」と前置きした大木が「最後、みんなで一つになりましょう!」叫ぶ。曲は「Your Song」。一悟が最後の力を振り絞る。サトマが満面の笑顔を見せる。大木が何度も「ありがとう!」と声を上げる。10曲、1時間15分の中に2017年11月23日を生きるACIDMANの今を凝縮した、素晴らしいライブ。
ACIDMAN
すべてが終わり、明るくなったステージ。極限の緊張と興奮から解き放たれた大木がはしゃいでる。「べタなやつやっていいですか?」と、全バンドを呼び込んでの記念撮影に、オーディエンスも笑顔で参加する。と、大木が止めるのも振り切って、一悟がマイクに向かって叫んだ。
「今日は夢を見てるみたいだった。導いてくれた大木伸夫に拍手を!」
20周年の祝祭は終わり、また新しい1日が始まる。ACIDMANは歌い続ける。人が何かを信じる力、そして音楽の持つ無限の力をまざまざと見せつけられた夜だった。ありがとう。
取材・文=宮本英夫 撮影=三吉ツカサ
ACIDMAN
SE. 最後の国 (introduction)
1. 新世界
2. FREE STAR
3. ミレニアム
4. 赤橙
5. 最後の星
6. 世界が終わる夜
7. ある証明
8. 飛光
9. ALMA
10. Your Song