Ivy to Fraudulent Game バンド名は覚え辛いがその音は一聴で爪痕を残す、メジャー第一歩の四方山を訊いた
Ivy to Fraudulent Game 撮影=山内洋枝
12月6日に1stアルバム『回転する』でメジャー進出を果たしたIvy to Fraudulent Game(アイヴィー・トゥ・フロウジュレント・ゲーム)。一度聞いただけではまず覚えられないだろうバンド名ながら、彼らが鳴らす音、思想を映し描く歌詞、それらをダイレクトに表現するライブは、一度耳ににただけで受け手に爪痕を残す。タチが悪いほどクセになる、Ivy to Fraudulent Gameのメジャー第一歩の四方山を、寺口宣明(Vo,Gt)、大島知起(Gt)、カワイリョウタロウ(Ba)、福島由也(Dr)のメンバー4人にじっくりと訊いた。
――結成以来、着実に活動してきたとは言え、昨年春に初の全国流通盤『行間にて』をリリースしてから、急激にスピードが上がっている気がするのですが。
寺口宣明(Vo,Gt):確かに。早いっちゃ早いのか。
福島由也(Dr):けどそんなに急激な感じはしてなくて、まだ1年なんだなぁっていう感じですね。
――それは意外というか。Ivy to Fraudulent Gameの楽曲は思いの丈をぶちまけたというようなものではないし、むしろ丁寧に構築された音楽だから。1年半でミニアルバム2枚、さらに1stアルバムまで届くって、内側からは一体どんな景色が見えているんだろう?って思ってたんです。
福島:普通にものすごく大変です。ストックがまったくないので。
――ええっ、そうなんですか?
福島:納得するまで1曲に時間をかけたいというか、時間はあればあるだけ使っちゃうというか(苦笑)。だから本当に毎回、アルバムのために新しく作っている感じなんです。
――となると、今回の『回転する』を作る際にはどういうことを考えていたのでしょう?
福島:今回は再録の曲が半分入ってるので、作品としてまとめ上げるのにかなり苦労したんですけど。まぁなんだろう、デビュー作、メジャー1発目に出すものとして、自分たちの現在の術であり、これまで歩んできた道であり、全部ひっくるめて土台となる作品にしたいなという意図があって新曲は書いていきましたね。
――メジャーデビューというのは、バンドにとってやはり大きな転機でしたか?
カワイリョウタロウ(Ba):そうですね。でもそこに向けて活動スタイルを変えるとか、方向を決めていくみたいなことはまったくなくて。
寺口:メジャー自体が目標ではなくて、自分たちの素晴らしいと思う作品を、出会ってくれた人にも感じてもらいたいっていうところなので。そもそもやりたいことをやるために、好きな音楽を鳴らすために、バンドをやってるわけですから。もちろん売れたい気持ちもありますけどね。
――そこのバランスって大切だけど、ものすごく難しくて。
福島:ただ、特別閉鎖的な音楽かと言ったら、そうじゃないのかなと思ってて。ポップネスみたいなものもわりと意識していて。まぁ、人が聴いたらわかんないですけど、僕の感覚はちょっとズレてるかもしれないから(笑)。
寺口:世の中のポップスと比べたら、多少オルタナティブな部分もあるしね。
福島:まぁまぁ、そうね。だけど僕は自分が受け取ってきた感動を詰め込んでるから。曲を作るときに、感動したその気持ちを主体に作っているから。なんだろうな、きっと届くって思ってるんですよね。
――原動力である“感動”って、曲を作れば作るほど、新たに出会うのが困難になったりしませんか?
福島:そうですね、日常に溢れてるわけじゃないから。音楽はたくさん聴くけど、その中にいくつもあるわけじゃないじゃないですか、感動するものって。けど本気で感動したときには徹底的に聴き込んで、自分のものにして……。そう、それはすごく意識してますね。そのためにも昔の感覚を忘れないように、大事にしているし。
――今の話を聞くと、バンドにとっての土台であり、多くの人と出会うきっかけになるであろうデビューアルバムが、<最低、最低>というフレーズで始まるのも、なんとなく合点がいくというか。
大島知起(Gt):あぁぁぁ、なるほど。
――しかもそれはピアノが軸の打ち込みサウンド。そこでもいい意味で裏切られる。
福島:もう既成概念みたいなものは全部打ち破っていきたくて。アルバムだからこうしなきゃとか、1曲目はこうあるべきとか、人が予想するようなことが悪いわけじゃないけど、必ずしも正解じゃないよっていう。いつも“なぜ自分らの中に正解ができちゃうんだろう?”、“その正解ってなんだ?”って話になるんですよね。大抵、聴いてきたものがそういうカタチだったというだけの理由で。だから常にいろんなことに対して疑って、本当にいいものを模索してますね。
Ivy to Fraudulent Game/寺口宣明 (Gt&Vo) 撮影=山内洋枝
ボーカリストだけど自分で歌詞を書いてないということに対してコンプレックスを抱えていた時期もあるけど、自分の言葉として歌えるし表現できるところまでいったら、ますますこのバンドで歌う意味を見出せた。(寺口)
――いろんな想いを巡らせて福島さんが作った曲を、メンバーはどう受け取って、どのようにカタチにしていくのでしょう?
カワイ:1回目は完全にいちリスナーとして聴いて、どういう曲なのかまず感じて。そこからベースはこう弾いて、音はこうやって出そう、とかって考えていきますね。
寺口:それでまぁ、それぞれが受け取ったものでやってみるんですけど。中でも自分はわりとゆったりしているというか。ボーカルとして全体が見えてないといけないから、一番リスナー目線に立てている気がしてて。ここはこうじゃないんじゃない? とかって、思ったことはガンガン言うし。
カワイ:うん。僕はどうしてもベース寄りの意見になるし、ギタリストはギターだし、一番偏らず、フラットに聴けるのはノブかなと。
――例えば、「青写真」はコード進行といい、立体的なアンサンブルといい、新しくて面白いことが詰め込まれていて、聴き手にとってはたまらなく心躍る曲ですが、演奏する人は大変そうだなぁって思う。
カワイ:ライブでずっと外していない曲なので、よりカッコ良く鳴らそうっていう意識はありますけど、大変って意識はないかな。
――しかし構成的にかなり複雑ですよね?
福島:まぁ確かに、難易度は普通に高い。
大島:いや、相当大変ですよ! ハハハハ。
――ただ寺口さんの歌が扉にあることで、決して“複雑”が先には来ないという。
大島:そこは間違いなくそうですね。全部が歌モノとして成立してるから。
福島:僕はノブの歌があれば、それだけでこのバンドは成立すると思ってるので。逆に他はもっと自由に、より奔放に!っていう。
寺口:昔はギターとの絡みだったり、後ろで鳴っている楽器がフューチャーされがちだったんです。でも最近は歌モノとしてちゃんと聴いてもらえて、フックとして演奏がある感じになってきてるから、自分としても、バンドとしても、いい方向にいってるなぁと思いますね。心に届くのって楽器より声が先じゃないですか? どう考えても。
――だから地メロでも、ドラムとベースが大きな音でずっとこう……。
寺口:鳴ってますよねー(笑)。
福島:意外とそれを手法として使うことがあって。Aメロは音数の多いアンサンブルで聴かせて、サビで解放させるっていう。変拍子を使うのも同じ理由で。不安定なコードのあとに安定を置くと、聴き手はそこに何かを見出したりするじゃないですか。“あぁ、気持ちいい!”ってなるから。
寺口:まぁ正直、昔はめちゃめちゃ苦労しましたけどね、そのアプローチに対して。
――今や楽器がどんなに激しく絡み合おうとも、声を張り上げることなく、だけどもサウンドの真ん中を貫いてスーッとボーカルが響いてくるから。
寺口:そうなんですよ! 10代の頃の俺の武器はウィスパーボイスだったんですけど。弾き語りだったらできることでも、バンドになったら消えちゃうものっていうのがあって、楽曲的にその声では無理になってきて。じゃあどうするのか。地メロだからそんなに高音域でもないし、だけどもバンドに埋もれない歌っていうところで歌声を作り直したというか、葛藤した時期があったので、そう言っていただけると本当に報われます。
Ivy to Fraudulent Game/大島知起(Gt) 撮影=山内洋枝
まさに今の僕らがすべて詰まっているんじゃないかと。再録の曲はライブで培ってきたものなので、ライブテイクみたいな勢いを詰め込めたかな。(大島)
――寺口さんの中で、歌詞を消化するというのはどういう作業ですか?
寺口:リョウタロウも言ってましたけど、まずいちリスナーとして、一番近いファンとしてドキドキしながら聴くっていうところですね。ヘンに考えすぎると歪んだ耳になっちゃうので、まっさらの状態で聴いて、イメージを膨らませて、何回も聴き込んで曲を体に入れて、歌詞を読んで、自分で声にしてみてってなったらもう別の曲なので。そのほうが彼(福島)もワクワクすると思うし。
――うんうんうんうん。
寺口:そこもこう、ボーカリストだけど自分で歌詞を書いてないということに対して、コンプレックスを抱えていた時期もあるんです。でもそれをうまいこと消化して、ちゃんと自分の言葉として歌えるし、表現できるっていうところまでいったら、ますますこのバンドで歌う意味を見出せたので。うん。自分が生きている中ですごく大切なことなんですよね。
――すごいですね、メンバー全員が福島さんの曲の大ファンであるという。
寺口:とても大事なことだと思いますよ。
カワイ:毎回めちゃくちゃソワソワしますもんね、新曲があがってくるときは。
福島:だから作る側も、より一層真剣に曲と向き合わなきゃいけないというか。本当に納得するものでないと、メンバーに聴かせられないなっていう気持ちでやってますね。