村井良大が辻仁成と5回目のタッグで挑む 舞台『99才まで生きたあかんぼう』ロングインタビュー
村井良大 撮影=山越隼
辻仁成が原作・脚本・演出を務める舞台『99才まで生きたあかんぼう』が来年2018年2月に舞台化される。一人の男の人生を6人の俳優だけで演じる本公演。主演の村井良大に作品の見どころや思いを聞いた。
人生の記録本のようで面白かった
――原作をお読みになった感想を教えてください。
話すと長いんですが、一言で言うと、泣きました。人生というのは努力だなと思いましたね。「人間は誰しもあかんぼう」というのがコンセプトで、0歳から99歳まで、2ページで1歳年を取っていくんです。自分の年齢の時と照らし合わせながら読んだりもしました。幼い時も、10代の時も、現時点の年齢も、重ね合わせてしまいました。そこがすごく面白いなぁと思っています。
そういうスタイルの本ってあんまりないじゃないですか。いろんな部分で共感もしました。「主人公はこう考えているけど、俺はこの時こうだったなぁ」とか、「こんなに苦しそうだけど、俺はこの時楽しかったなぁ」とか、いろんなことを考えられる本でした。人生の記録本のようで、すごく面白かったですね。
――作品は0歳から99歳まで描かれています。まだ29歳の村井さんは割と前半の方に集中して共感したということですか?
いえいえ、そんなことはないです。年齢は重ねるものですけど、数えなくていいものだなとも思うので、そんなに強く年齢を意識していたわけではないです。辻さん自身がそう思われたのかな〜と思いながら読んでいただけです。年齢はそんなに重く考えていなかったですし、すべて年齢で区切って読んでいたわけではないです。やっぱり一人の人間の人生として読んでいましたね。
村井良大 撮影=山越隼
――ひとりの男の人生を俳優6人で描くというのは、新たな挑戦だと思いますが、いかがですか?
そうですね、僕は少人数のお芝居も好きです。少人数のお芝居の方が密になれるので。そういう意味では、大人数の作品より好きなんですよね。一つの人生を物語る作品は、今まで何本か見たことがありますが、年齢を気にしなくていいというのが舞台の面白いところです。おじいちゃんが小学生の役をやっていたとしても、小学生に見えたりするので(笑)。そういうのって面白いなぁと思いますね。舞台だからこそできる表現方法もあると思うし、連れて行ける場所があると思うので。
――稽古場が楽しみですね。
そうですね。久々に共演できる方もいるので、すごく今から楽しみですね。一方、松田凌さんと松島庄汰さんが初共演です。具体的にお話ししたことはないのですが、素敵な役者さんなんだろうなと想像しています。
――村井さんが軸になられて物語が進んでいくのでしょうか。
どうなんでしょう? でも、6人だからこそできることもあると思うんですよね。確かに一本軸はあるかもしれませんが、周りがいろんな役をやってくれると思うんですよね。大変そうですが、すごくいいなぁ、楽しそうだなぁと思います。羨ましい。
――今回、座長という立場ですが、責任感のようなものは感じていますか?
作品をいいものにしたいとは思いますが、あんまり“座長”でなくてもいいよなという気もしていて。6人で創るものなので、チームワークでやっていきたいなと思います。
村井良大 撮影=山越隼
あまりの悔しさに泣いた稽古最終日
――辻さんとのタッグは今回が5作品目だそうですね。
はい。一番最初に『醒めながら見る夢』の舞台をやらせていただいて、その後に映画を2本、朗読劇を1本です。
――過去4作品も取り組まれたとなると、相当分かり合っている間柄かと思いますが、「演出」としての辻さんのイメージは?
今まであんまり見たことのないような独創性を持っている方です。他の演出家と被らないです。新しいタイプの方ですよ。芥川賞受賞作の『海峡の光』という小説を舞台化した作品を見に行った時に、「辻さん、こういう演出をするんだ!」とすごくびっくりして。光の使い方がすごく面白かったですね。印象的に残す技法を知っていると感じます。辻さんは小説を書くような感覚で、脳裏に残るようなシーンを作るから、すごくそれが面白いなとも思うし、挑戦的だなと思います。そして、役者をやっている身としては、その独創性が面白く楽しいところが多いですね。
――稽古場や撮影現場だとどういうお人柄なのですか?
そうですね、映像だと「フィルムに刻むぞ」という力強さがすごくあって、「これをいい絵にするんだ〜!」みたいなパワーがめちゃくちゃある方なんですよ。舞台だと、少し言い方が変わってきて、「印象的にするんだ」みたいな力がある演出方法されるんです。意味は一緒なんですけど、舞台と映像は違うので、面白いです。映画と舞台ではスイッチが違うんでしょうね。
村井良大 撮影=山越隼
――これまでの辻さんの現場で、印象的だったエピソードやお言葉はありますか?
いろいろありますが……そうだなぁ、最初の『醒めながら見る夢』の時に、堂珍さん(※堂珍嘉邦)に言っていた言葉ですかね。堂珍さんはその時初舞台で、舞台は「新人」の立場だったんですが、辻さんは「新人っていうのはいいことだ。新しい人と書いて新人なのだから、新しい風を吹かすんだ」と仰っていたんです。
大抵「新人」というと、「まだ何も知らない、分かっていない」というイメージなんですけど、辻さんはそういうところをすごくポジティブに捉えていた。人のいい面やその人の魅力を引き立てるのがすごく上手な方なので、そういう言葉の一つでも辻さんの中でこう蠢いている気持ちというか、頭の中で流れている言葉は繊細で綺麗なものだなと思いましたね。
――「新人」ですか。確かにそうですよね。
そう、確かにそうだよなぁと思いました。新人って1回しかないものじゃないですか。新人でいられる時間は1回きり。だからそうやって思うと素敵だなぁと思います。
――今回、出演が決まってから辻さんにはお会いしましたか?
実はまだ会えていないんです。お会いしてお話ししたい気持ちもありますが、逆にそれまでに僕もたくさん経験を積んできたので、舞台稽古の時にバッと会って色々作りたいなとも思いますし、僕だけあってお話しするのもフライングみたいで(笑)。なんとなく周りにも悪いなと思いますし、作り手同士であった時にインスピレーションで作るのがいいかなって思いますね。
――だいぶ空いていますもんね。
はい。朗読劇はあったんですけど、本当に全部演出してやる作品は7年ぶり。辻さん自身もどう変わっているか、僕もどう変わったのか。久々にお会いするのが楽しみですね。
村井良大 撮影=山越隼
――逆に7年前に悔いが残ったことやできなかったことはあるのでしょうか?
すごく大変な現場でした。『醒めながら見る夢』という作品の中で、天使と悪魔という役がありまして、ストーリーとあんまり関係がないんじゃないかと思わせるぐらい、絡んでこない。不思議でピエロ的な存在の役だったんです。その時にすごい苦労をして、相方の古川雄大くんと一緒に、踊ったり、笑いをとったり、いろいろやって、稽古でいっぱい作ってきたんです。なんですけど、稽古最終日に「全部変える!」と言われてまして……。
――え、稽古最終日ですか!
そう、稽古最終日で全部終わって、みんなが稽古場を片付けている中、二人だけ稽古しているみたいな状態で。僕、泣いたんですよ。あまりの悔しさに。
――それは今までのが良くなかったのでしょうか?
いえ、おそらく辻さんは今までのが良くないというよりは、これがあるんだから、もっと良くなるはずだという感覚だったと思います。「一新するぞ!」みたいな感じでやったんですけど、今まで1か月間苦労してやってきたものが、全部崩れてしまって。あまりの悔しさに泣いちゃって……。あれは刺激になったというか、いい思い出になったというか(笑)。
――今回はどうなるかまだ分かりませんが、辻さんの現場に臨む時は村井さんとしても「試されている」気持ちになるのでしょうか?
辻さんご本人はもともとロックミュージシャン。小説を書くようになって、台本の言葉はすごく綺麗なんです。すごく上品で、綺麗な言葉なんですけど、やっぱり辻さんはロックミュージシャンなんだなと思う時がある。文面に惑わされてちゃいけないなという時が結構あります(笑)。ロックな心を忘れちゃいけないというか。いろいろと面白いので、あらゆることを感じ取りながらやりたいです。
辻さんのなかで今どういうプランがあるのか分からないんですけど、信頼を寄せているチームが集まっていると思うので、なるだけ辻さんの想いに応えたいなというのがあります。
村井良大 撮影=山越隼
舞台だからこその表現を大切にしたい
――現時点で思うこの作品の見どころはどういう点でしょうか?
舞台の面白さが詰められそうな作品だなと思いますね。この『99才まで生きたあかんぼう』、タイトルにある通り、99歳までの人生が描かれる作品です。やはり一つの長い人生の話は舞台上でしか表現できないこともあると思う。おそらく2時間ぐらいの作品になると思いますが、2時間で100年を生きるというのはなかなか大変なことだと思いますが、舞台だからこそできる表現があると思うし、そういうのを大事にして作りたいですね。
――東京公演の他にも、名古屋、福岡、大阪と大都市ですが地方公演もあります。地方公演の魅力は何でしょうか?
地方は空気も変われば劇場も変わって、作品としてまたリフレッシュして作れるところがあるんです。たまに東京公演が終わった後に何日か空くんです。少し休みがあってから地方なんですけど、そのお休み期間を経ると、なぜかすごく新鮮に作品と向き合えるんですよ。稽古場から東京公演まではぐつぐつ煮詰めたものを「さぁ召し上がれ!」みたいな感じなんですが、その休み期間があった後に本番やると「ちょっと味変わった? けど前より美味しくなってない?」みたいな感じ。アクが抜けたようなことが結構あるんです。それが面白いですね。地方公演はもう一回新たに作品に向き直させてくれるタイミングなのかなと思います。美味しいご飯も食べれますしね、楽しみです。
村井良大 撮影=山越隼
――余談ですが、村井さんの人生論についてお聞きしたいです。この作品は0~99歳までを描いていますが、村井さんは何歳までに何をしたいなどを思い描くことはあるんですか?
昔はあったんですけど、最近は何歳までにというのはなくなりましたね。どちらかというと、このお仕事をずっと健康的にできればいい。あんまり欲がなくなってきたというか……昔から欲を出している方ではないんですけど。作品をいいものにしたいというのは常にありますし、役者としても精進していきたいなと思います。
――年齢で区切らないということですね。
区切らないですね。来年は30歳の年で、節目ではあるんですけど、どちらかというと、今できることに集中しています。僕の人生観は今日1日を生きるという感じでしょうか。
――『RENT』の「No Day But Today」につながります。
そうですね、毎日をどう生きるかというのは結構考えます。僕らは舞台の本番など、何かと区切りがあるから、それまで頑張ろうと思えます。
村井良大 撮影=山越隼
――来年30歳の節目。年齢で区切らなくても、どんな大人になりたいですか?
役者のお仕事で生活することができたら。認められていただければ嬉しいなあと思っています。
――最後に一言お願いします。
この原作は何歳の方でも読んでいただける作品になっております。なぜなら自分の実年齢と同じ登場人物が出てくるから。自分の人生を振り返れるような作品になっていると思いますので、是非是非、老若男女に読んでいただきたいですし、舞台を見に来ていただけると嬉しいです。
村井良大 撮影=山越隼
スタイリスト:吉田ナオキ
ヘアメイク:森 香織
インタビュー・文=五月女菜穂 撮影=山越 隼
原作・脚本・演出:辻仁成
音楽:SUGIZO
出演:村井良大、松田凌、玉城裕規、馬場良馬、松島庄汰、松田賢二
【東京公演】
2018年2月22日〜3月4日 よみうり大手町ホール
【名古屋公演】
2018年3月6日、7日 名古屋市芸術創造センター
【福岡公演】
2018年3月20日 福岡市民会館 大ホール
【大阪公演】
2018年3月24日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
■公式ホームページ
http://99sai-akanbou.jp/