三谷幸喜が描く新作幕末群像喜劇『江戸は燃えているか』に出演! 妃海風インタビュー

インタビュー
舞台
2018.1.13
妃海風

妃海風


2016年の大ヒット大河ドラマ『真田丸』をはじめ、年年歳歳快進撃を続ける劇作家三谷幸喜が、2018年3月新橋演舞場で新作幕末群像喜劇『江戸は燃えているか』を書き下ろし上演する。作品のスローガンはずばり「新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ」。

歴史に名高い江戸無血開城を、歴史をつくった偉人たちと、歴史に名を残さなかった庶民たちを通して、可笑しくも愛おしい江戸を戦火から守るための、奇想天外な大芝居が描かれていく。

そんな作品で、三谷幸喜作品に初出演するのが、元宝塚歌劇団星組トップ娘役の妃海風

宝塚退団後、クリエプレミア音楽朗読劇『VOICARION GHOST CLUB』、そして、初の単独コンサートとなった「妃海風CONCERT 2017『Magic!』」を大成功させた妃海が、女優として初となる本格的な演劇作品への出演への意気込み、また退団からここまでの活動の思い出などを語ってくれた。

激動の時代がコメディになるワクワク感

──三谷幸喜さんの作品に初出演ということになりましたが、この幕末から明治維新というのは妃海さんにとって縁のある時代ですね。

そうなんです。宝塚の退団公演『桜華に舞え』(16年)が、幕末から西南戦争へ至る物語で、西郷隆盛さんも登場していたので。

──そんな激動の時代の物語を「ただただ笑える喜劇」で描くというのは、三谷幸喜さんならではの発想だと思いますが、その舞台に臨む今の心境は?

まず、宝塚卒業後大きな舞台に立たせて頂くのが初めてになりますし、出演者にタカラジェンヌが1人もいないという環境も初めてです。そして、ずっと昔からお名前をよく存じ上げていた方ばかりの中に、自分の名前が並べられている。しかも三谷幸喜さんの新作ということで、本当に新しいことに挑戦させて頂けるんだな、また新たな扉が開くのだなと感じています。基本的に私は体感型なので、お稽古が本格的にはじまったら、更にたくさんのことを感じるだろうと、とても楽しみなのと同時に、大変光栄に思っています。特に『桜華に舞え』もそうでしたが、この時代の物語は悲劇的なものが多い中、「新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ」というフレーズを聞いた時、私自身、観る側に回ったときは明るい作品が大好きなので、なんて素敵なんだろうと。やっぱり、人のぬくもりを感じる作品が好きですし、関西人でもありますから吉本新喜劇のような単純に笑える作品も大好きなので、コメディ作品に出られることにワクワクしています。三谷幸喜さんの作品を色々拝見させて頂くと、皆さんが本当に力まずに笑いを誘っていらっしゃるので、笑わせようとして空回りしてしないように、本気でやりながら緊張し過ぎずに、良い意味で力が抜けた感覚で舞台に臨みたいです。宝塚時代にもそこまで笑いに特化した舞台の経験はなかったので、まさに未体験ゾーンに挑むという気持ちです。

──そうですね。コメディと言ってもオペレッタが題材だった『こうもり』くらいでしょうか?

はい。『こうもり』もとても楽しい作品でした。今回は、三谷幸喜さんの演出で、これだけ錚々たる共演者の方たちが、どんなコミュケーションを取りながら、コメディを創り上げていかれるのかを、カンパニーの一員として体感できるので、1つでも多くのことを学びたいと思っています。

──その中で妃海さんの役は、中村獅童さん演じる勝海舟の妹・順子で、夫の中村俊吾郎を演じるのが田中圭さんですね。

田中圭さんと夫婦役ということで、大変緊張しています。初めて男性の方が夫役ということで、当たり前のことなのですが、私にとっては非日常なので、お芝居をした時に自分が何を感じるか、ドキドキしています。

──そういう意味でも吸収することがたくさんありそうですね。

少し女らしくなるかもしれませんね!(笑)

──今でも十分キュートです! また今回は勝家の人々ということで、勝海舟は幕末に欠かせない歴史上の重要人物ですが、勝海舟についてはどんな印象を?

勝海舟さんは、宝塚で北翔海莉さんが演じていらして。

──『JIN─仁 』(15年)の時ですね。

私にとってはその作品のイメージが強くて「とても良い声で歌う人」という感じで(笑)。勝海舟さんは世間的には歌うイメージの人ではないと思うんですが、私にはどうしても北翔さんのイメージがあります。ですから逆にあまり文献などを読み込むというよりは、まず三谷さんの脚本から入りたいと思っています。三谷さんが描く歴史上の人物は、これまでも例えば豊臣秀吉であっても、世間一般が抱いているイメージとは違う観点から描かれていると思うので、今回もまず三谷さんが描かれる、中村獅童さんが演じられる勝海舟さんを、自分の中の新たな勝さんとして感じたいと思っています。

観終わった後に人間が好きになれる三谷ワールド

──新橋演舞場の舞台に立つ、というのもまた特別の体験ですね。

本当に! 歌舞伎が大好きですから、新橋演舞場にも通い詰めていた時期もあるので、まさか自分があの舞台に立たせて頂けるなんて思ってもいませんでした。劇場には劇場毎に必ず独特の空気があるので、舞台に立った時にどういう空気を感じるのか、新しいお客様にも出会えると思いますし、如何にその場に溶け込めるかが課題だと思っています。

──三谷作品の魅力については、どのように感じていますか?

まず、三谷さんの新作というだけで大きな話題を呼ぶ劇作家さんですし、私自身もこれまで一観客として拝見してきましたが、改めてこれだけ惹きつけられる魅力はなんなのだろう?と考えると、人とのつながりに真実味があるんですね。私たちの日常にも起こりそうな、決して特別ではない出来事にスポットを当てて、さりげない日常のちょっとした勘違いなどからドラマが動いていく様がすごいなと思います。だからこそ共感できるし、笑えるし、観終わった後に人間が好きになっているんです。人っていいな、人と関わるっていいなという幸せな気持ちになれる。人間って面白い!と思えるのが、これだけ愛される理由なのではないでしょうか。きっと常に自分の周りに起きるささいな出来事もきっちりと観察されているのでしょうし、その小さなことを掘り下げていかれる感性も素晴らしいですね。実際に作品創りの現場を体験したら、もっと様々な魅力が発見できるんだろうなと思っています。

──そうすると、あらゆる意味でお稽古が楽しみですね。

本当にあらゆる意味でなんです!自分で言うのもなんですが、まだ生まれたての赤ん坊のような気持ちですし、自分がどう変わっていくのかわからないので、前向きに臨みたいと思います。これだけ長い期間をかけて、たくさんの方たちと舞台を創り上げていくというのは、退団後初めてとなります。元々私は舞台を皆で創り上げていく過程ごと大好きですし、共演者の方たちも本当に豪華な方なので「妃海どうなる!?」と(笑)。

──出演者の方たちそれぞれにたくさんファンの方がいて、妃海さんを初めて観るお客様も多いでしょうから、新たな出会いがたくさんありそうですね。

はい、精一杯頑張りたいと思います!

朗読劇の虜になった『VOICARION GHOST CLUB』

──宝塚退団後の舞台のお話も伺いたいのですが、シアタークリエでのクリエプレミア音楽朗読劇『VOICARION GHOST CLUB』では、少年役に挑戦しました。

素晴らしい経験をさせて頂きました!私は恥ずかしいことに、それまで朗読劇というものを観たことがなかったので、初めは本を読み聞かせるものなのかな?と思っていたのですが、お稽古から本番を迎えてあんなにも興奮するものだったんだと感激しました。今となっては朗読劇の虜になっています。共演した宝塚の先輩紫吹淳さん、春野寿美礼さんは私が宝塚ファンだった時代からの憧れの方でしたし、初めてご一緒させて頂いた声優さんで女優さんの朴璐美さんも、声だけのお芝居も多数経験されている方ならではの表現力を感じて、声優さんが出演される舞台や、またアニメなどの声のお芝居にも深い興味を持つようになりました。この朗読劇に出させて頂いたことによって、自分で体感したからこそ、その魅力にハマれたので、更に様々なジャンルの経験を積みたいという意欲がわいています。

──台詞のないところで座っている時にも、少年らしい座り方をされていて、声もとても魅力的でしたが、かなり研究したのですか?

台本を頂いて、役を理解してから自然にあの声が出たんです。でもとても低い声だったのでファンの方々もびっくりしていらして、最初は私の声だとわからなかったとおっしゃった方も多かったほどでした。私自身もあんなに低い声でお芝居をするとは思っていなくて。宝塚時代の少年役はかなり高い声で話すものが多いのですが、そうではなく、声変わりをするかしないか、というくらいの少年の声だったので、読んでいて感じたのがあのトーンの声でした。でも声のお芝居ってこんなにすごいのかと!

──イマジネーションが広がりますよね。朴さんも宝塚の方に混じって全く違和感がなくて。

男役さんでしたよね!

──本当に!そして憧れの上級生の方々との共演はいかがでしたか?

やっぱりカッコいいです!紫吹さんは女性としてたくさんテレビに出ていらっしゃいますが、ひと声発すればもう現役時代の男役さんのままで!

──スイッチが入ったという感じがしましたね。

足を組んでお水のグラスを飲んでいる姿ももう男役そのままで、春野さんも柔らかい雰囲気でいらっしゃるのに、でもきちっと男役で、女優さんとして年月を経ていても、すぐに男役に戻れるんだ!と感動しました。本当に素敵な経験をさせて頂けました。

 

スタッフ側の気持ちをより理解できた『Magic!』

──そして、ご自身で総合プロデュースもされた「妃海風CONCERT 2017『Magic!』」こちらはまた、盛りだくさんな内容でしたね。

構成、演出という立場に自分が立ってみて、衣装やセットも考えてプロの方に伝えるという経験をしてみて、舞台を支えてくださっているスタッフの方たちへの、感謝と興味が増しました。自分で演出することは、出演者としてお稽古をしつつ、全てのセクションとのやりとりをしなければならないということですから、とても大変ではありましたが、4日間の舞台がすべて終わった後の達成感には、かつてないほど大きなものがありました。とくに感じたことは、演出家の方に「OK!」と言って頂ける訳ではなく、自分自身で「ここで良し」と決めなければならない。もしかしたらもっと先の「良し」へ行けたかもしれないという思いもありましたが、本当に多くのことを学べたので、これからも自分の足で一歩ずつしっかりと歩いていきたいなと思っています。

──お客様とのコール&レスポンスなど、宝塚ではあまりない部分がとても上手で、良い意味で大変驚きました。

私は、及川光博さんの長年のファンで、ミッチーのコール&レスポンスはそれは素晴らしいので、自分ではまだまだだと思っていますし、とても緊張しました。

2017年10月『Magic!』より

2017年10月『Magic!』より

──まさにミッチースタイルで、「一緒に踊ろう!」と客席を巻き込んでいくところも堂々としていました。宝塚の娘役さんは男役さんに対して一歩控えるというイメージがありましたから、特に印象的でした。

宝塚時代のファンの方との交流の場である「お茶会」に来てくださったことのある方は、あのような私もご存知だったのですが、初めて観てくださった方は「この子、結構パンチ効いてるな!」と思われたようです(笑)。でも、「皆でやろうよ!」という形で盛り上がることは学生時代から好きだったので、自分自身でもそんな自分を思い出したところもありました。

──とても楽しい時間だったので、またあのような形のコンサート活動も継続して頂きたいなと。

楽しいと思って頂けることが全てなので、本当に嬉しいです。是非、頑張って続けていけたらと思っています。

2017年10月『Magic!』より

2017年10月『Magic!』より

──ロビーに北翔さんからのお花が届いていて、皆さんがそこで記念撮影をしている姿もたくさん拝見しました。

トップコンビには永遠に夫婦というイメージがあるんだなと思いました!やっぱりそうして写真を撮ってくださったりするのは、とても嬉しいことです。

──北翔さんも女優デビューされたので、また新たな交流も生まれることでしょうね。では、妃海さん自身の本格女優デビュー作品となる『江戸は燃えているか』への意気込みを改めて。

私を知ってくださっている方々はきっと「どうなるんだろう?」とワクワクしてくださっていると思います。それは私の今の気持ちと全く同じなので、私も新たな世界で、新たな気持ちで心こめて頑張りたいです。そして私を知らない方々にも、こんなに豪華な共演者の方たちの中で、一生懸命やっている妃海風を認識して頂けたら。三谷さんの作品は演じる人間の人柄も自然ににじみでるものだと感じますので、「この子面白いな」と感じて頂けて、最大の目標としては「応援したい」と思って頂けるように精進しますので、是非観にいらしてください!


ひなみふう○09年宙組公演『Amour それは…』で宝塚歌劇団の初舞台を踏む。星組に配属。歌唱力に秀でた娘役として頭角を現し13年『南太平洋』など、数々の作品でヒロインを務める。15年、北翔海莉の相手役として星組トップ娘役に就任。『ガイズ&ドールズ』『LOVE&DREAM』『こうもり』など、持ち前の歌唱力を活かした作品で活躍した。16年『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』で惜しまれつつ宝塚を退団後は女優に転身。17年クリエプレミア音楽朗読劇『VOICARION GHOST CLUB』妃海風CONCERT 2017『Magic!』と、様々なジャンルに活躍の幅を広げている。
 

 

【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】

公演情報
PARCO Production『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』

■日時:2018年3月3日(土)~3月26日(月)
■会場:新橋演舞場
■脚本・演出:三谷幸喜
■出演:中村獅童、松岡昌宏、松岡茉優、高田聖子、八木亜希子、飯尾和樹、磯山さやか、妃海風、中村蝶紫、吉田ボイス、藤本隆宏、田中圭
演劇キック - 宝塚ジャーナル
シェア / 保存先を選択