『現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展』前期展示レポート 館長が語る、コレクションにかける想いとは?
草間彌生「自己消滅」1980 ミクストメディア ©Yayoi Kusama 撮影:木奥惠三
日本の現代美術館の先駆けとして、1979年に開館した原美術館。作家と密に関わり合いながら、様々な企画展やコレクション展を開催してきた。原美術館創立者であり、現・館長の原俊夫が初めて自ら選定しキュレーションに挑んだ『現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展』が、現在開催中だ。1月下旬のプレス内覧会では、館長自ら作品にまつわるエピソードを披露しながら館内を案内。コレクションにかける想いを語ってくれた。
一つひとつ丹念に収集した、1,000点のコレクションから
日本でいち早く現代美術のコレクションを築いてきた原俊夫。現在までに1,000点以上にもおよぶ作品を収集してきたが、その一つひとつを自らの目で丹念に選んできたという。「現代美術は、人と人をつなぐ良いツールです」と語る原は、40歳の頃から自分が面白いと思う作品なら有名無名の区別なく、できる限り直接作者に会い、アトリエで制作の現場を目撃し、交渉を重ねてきた。「まだ信用もない頃は、『素人美術館』と揶揄されながらも、自分の目を信じてポケットマネーで一点ずつ購入してきました。今回出展している作品は特に、自分で選んだという思い入れがあるものばかりです」
本展は、前期・後期に分けて展示作品が入れ替わる。前期は1977年から1980年代前半までの収集作品を中心に、抽象表現主義のジャクソン・ポロックやマーク・ロスコ、ポップアートの代表者であるアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンシュタイン、日本の作家では今井俊満、草間彌生、アジアからはナム・ジュン・パイクや艾未未(アイ・ウェイウェイ)らの作品が並ぶ。後期は企画展の開催をきっかけに収蔵された作品を主とし、安藤正子、荒木経惟、ヤン・ファーブル、加藤泉、ウィリアム・ケントリッジ、森村泰昌、奈良美智、蜷川実花らの作品が展示予定だ。
作者との良き出逢い、巡り会いの軌跡
さて、ここからは、前期展示の目玉作品にまつわるエピソードを少しずつ紹介しよう。
1階玄関を入ってすぐ、アメリカの抽象表現主義の画家であるジャクソン ポロックの《黒、白、茶》が迎えてくれる。アクションペインティングで知られるポロックだが、本作は趣が異なる。というのも、アクションペインティングを描き続けて燃え尽きた頃の、1950年代前半に制作された作品だからだ。次の画業に向かう途中の、画家の苦難を目の当たりにできる稀少な一点となっている。
ジャクソン ポロック「黒、白、茶」1952 カンヴァスに油彩 91×70 cm 撮影:木奥惠三
奥のリビングルームには、現代も絶大な人気を誇る草間彌生の《自己消滅》がある。今でこそ誰もが知る草間作品だが、本作が作られた1980年頃、草間はアメリカから日本へ帰国したばかり。国内ではまだあまり認められていなかった時期だ。そんな中、草間作品の魅力にいち早く目を留め、渡辺仁が手がけたモダニズム建築である本館に合う、食卓をモチーフにした本作が収蔵されることとなった。
草間彌生「自己消滅」1980 ミクストメディア ©Yayoi Kusama 撮影:木奥惠三
2階へ上がると、優美な曲線の空間にナム・ジュン・パイクの《キャンドルテレビ》が飾られている。プライベートでも交流のあったパイクのアトリエを、原は幾度となく訪れているという。本作もこの空間にしっくりと馴染んで、親しげに見えてくる。
ナム ジュン パイク「キャンドルテレビ」1980 テレビ、ろうそく 33×41×24 cm 撮影:木奥惠三
一番奥の部屋には、戦後日本美術を牽引した今井俊満の《黒い太陽》や、篠原有司男の《モーターサイクルママ》などが並ぶ。両人とも、長年親交の深かった原。今井とは途中、意見の相違から絶交した時期もあったというが、晩年には晴れて元の友情を取り戻し、現在まで大切に作品が所蔵されるに至っている。また、「どこでも手に入る」という理由でダンボールを作品の材料に選んだ篠原の良作も、実にのびのびとこの場を楽しんでいるようだ。作家との人間的なエピソードからも、原美術館コレクションが原自身の手と目と足で収集された、愛される作品たちであることが感じられた。
(左)篠原有司男「モーターサイクル ママ」1980 段ボール、アクリル絵具、ポリエステル樹脂 117×130×66 cm ©Ushio Shinohara (右)今井俊満「黒い太陽」1963 カンヴァスに油彩 195.1×129.8 cm 撮影:木奥惠三
館長自らが初めて選出した本展は、作家たちの魅力が滲み出る作品ばかりだ。親密な心地よさにあふれる本展を、ぜひこの空間で楽しんでほしい。