リュック・ベッソンにVR……世界を騒がす異色のアクション映画『悪女/AKUJO』を構成するものとは チョン・ビョンギル監督インタビュー
『悪女/AKUJO』チョン・ビョンギル監督
『悪女/AKUJO』は、藤原竜也主演・入江悠監督によるリメイクでヒットを記録した『22年目の告白 -私が殺人犯です-』の原作『殺人の告白』で脚光を浴びたチョン・ビョンギル監督の最新作。犯罪組織の殺し屋として育てられ、最愛の人を殺された一人の女性スクヒ(キム・オクビン)が、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み、愛と裏切りに翻弄されながら最強の“悪女”と化していく姿を描いたアクションノワールだ。多数の敵に囲まれて戦うようすを一人称視点でとらえたアイデアあふれるアクションや、CG処理を最小限に抑えた激しい戦闘シーンが大きな魅力で、第70回カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニング部門に招待されて話題に。さらには、世界144ヶ国で配給・販売も決定している(2018年1月19日現在)。商業映画2作目にして世界に注目されるビョンギル監督は、異例の高評価を得ている同作を、どのように作り上げたのか。製作までの道程や、アクションシーンの意図などをインタビューで訊いた。
企画から公開まで1年 異例の速さで成立したアクション映画
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――監督はもともとソウルアクションスクール出身で、スタントマンを目指されていたそうですね。
ソウルアクションスクールでは6ヵ月、スタントのごくごく基礎を学びました。そこから、2008年に『俺たちはアクション俳優だ』(英題『Action Boys』)という、ソウルアクションスクールのスタントマン志望者を追ったドキュメンタリー映画を撮ったんです。これが成功したおかげで『殺人の告白』でデビューすることができましたし、初長編も幸いなことに上手くいったので、『悪女/AKUJO』を撮ることが出来たんだと思います。
――やはりアクションを全面に出した映画を作っていきたいという思いをお持ちなのでしょうか?
そうですね。『悪女/AKUJO』もアクションがメインになった作品だと思います。ただ、実を言うと映画全体でアクションが占める割合は、さほど多くはないんです。おそらく、前作『殺人の告白』と同じくらいではないでしょうか。アクションの占める割合はそれほど多くなくても、今回の『悪女/AKUJO』はその一つひとつが強烈なので、ご覧になった方はみなさん「割合が多い」という印象を受けられるみたいですね。
――以前から、女性を主人公にした映画を撮りたいと考えられていたそうですね。そう考えるきっかけがあったのでしょうか?
海外ではよく取り上げられる題材だと思うのですが、なぜか韓国では「上手くいかないから作ってはいけない」ジャンルだという風潮があったんです。でも、“女性が主人公だとダメ”という意見には、映画人として、反抗心のようなものが起きました。ダメと言われれば、「そんなことはないだろう!」と。作ること自体は難しくはないので、やろうと思えば面白いものもできるだろう、と思ったんです。
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――前作の『殺人の告白』から、本作の公開まで約4年の間隔があります。脚本の執筆や企画の立ち上げに時間がかかったのでしょうか?
企画の立ち上げにはあまり苦労はしませんでした。『殺人の告白』の後は、あれをやったり、これをやったりと、いわば“遊んでいた”というか(笑)。実質1年くらいの間にシナリオを書いて、撮影もしているので、比較的短いスパンで作ることが出来たと思います。
――製作に、日本でもヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』の映画会社NEWが名を連ねています。同社の参加で、企画がスムーズに進んだ部分もあるのでしょうか?
NEWは製作会社ではなく出資会社で、『悪女/AKUJO』にも投資してくれています。彼らは「本当にあなたが作りたいものを作っていい」と、自由に撮らせてくれました。商業映画を約1年で企画から上映にまでもっていけたのは、かなり異例なことだと思います。
――一人称視点の映像など、斬新なアクション演出が各国で話題になっています。映像のアイデアは、企画の立ち上げ以前から温めていたものなのでしょうか?
一人称視点という形式は、昔からゲームセンターのシューティングゲームなどでもよく見られたものだと思います。20年以上前の映画でも見ることができますよね。最近になって、一人称視点のVR(バーチャルリアリティ/仮想現実)映像も出てきました。実は、3、4年前に、かなり予算の大きなプロジェクトで「VR映像を作りませんか?」という提案を受けたこともあります。その時点で、私はVRで何が出来るのかを調べ始めました。残念ながらVRの企画自体はなくなってしまったのですが、当時に勉強したものが、『悪女/AKUJO』オープニングの疑似ワンカットにも活きていると思います。
――なぜ疑似ワンカットにされたんですか?
一人称視点の映像については、これまでの映画でも使われてきた手法ですが、今回のようにワンシーンワンカットのような形で利用したものはなかったと思います。そこで、完全なワンカットではなくても、疑似ワンカットで撮ろうと思ったんです。それも、完全に一人称視点で終わるのではなくて、途中で三人称に切り替えることは出来ないだろうか、と。それをオープニングにすることが出来れば、より観る方が入り込めるんじゃないかと思ったんです。
アクション映画は「顔の出ている部分だけを俳優さんが演じるべき」
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――俳優さんが演じるアクション自体は、ワイヤーワークも控えめで、全体的に生々しいものが多かったです。一方で、現実離れした派手な演出もありますよね。シーンによって、コンセプトが違うのでしょうか?
オープニングの疑似ワンカットは一人称視点なので、ある意味観客にとってリアルに感じられる映像だと思います。あるいは、逆に一人称視点にゲームのような非現実感を覚えるかもしれません。というのも、映画でここまでの一人称映像を観たことがある方は少ないですし、今の人はこういった形式のゲーム映像に慣れているので。いずれにせよ、冒頭では観客にビジュアル的なショックを与えることで、「この映画はこんな風に始まるんだ」と感じさせることが出来ますし、映画に対する集中力を高めてもらう装置として構成しています。
――映画中盤の日本刀バイクチェイスや、終盤のカーチェイスにはどんな役割があるのでしょうか?
映画中盤のバイクでのチェイスは、実はプロット上では必ずしもなくてはならないシーンではないと思います。スクヒの人生にすごく大きく関わるシーンでもありませんし。ただ、映画が続いていく中で、中盤で切り替える、ビジュアルショックを与えるという意味で、ちょっとファンタジー的な、娯楽色の強いシーンを入れてもいいかな、と考えてアクションをデザインしました。一方で、クライマックスまでのアクションには、全ての要素を入れる必要がありました。主人公のスクヒの感情も、ジュンサン(主人公の育ての親・元夫/シン・ハギュンが演じる)の感情も入れこまなくてはならない。そして、観客も「また何かすごいものが観られるだろう」という期待を持っていると思います。ですから、ここでは登場人物の感情を入れこんだうえで、ワンシーンワンカットに見える演出を心掛けました。
――本作でリュック・ベッソン監督の『ニキータ』にオマージュを捧げた理由を教えてください。
自分が子供のころ、9歳か10歳ごろに『ニキータ』を観たのですが、その時にすごく大きなショックを受けました。当時、リュック・ベッソン監督を通して、「映画を作るということはこういうことなんだ」と思うくらい、強い影響を受けています。『ニキータ』は、そのきっかけになった作品です。
――主人公に子供がいるというのは、『ニキータ』とは大きく異なる点ですね。なぜ母親という属性を持たせたのでしょうか?
母親という設定にすることで、母性があるからこそスーパーウーマンになれる、と表現する意図がありました。また、皮肉なことに、殺し屋であることで子供に対するうしろめたさも感じるだろう、と思いました。母親として子供を守らなくてはいけないし、子供を守るためには誰かを殺さなくてはいけない。こうすることで面白くなると思ったので、母親という設定を考えました。
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――キム・オクビンさんの起用は、過去の出演作での演技をご覧になって決められたのでしょうか?
これという作品があったから、というよりも、私が思うこの作品の“悪女”のイメージに彼女がピッタリだったから。彼女の心の中に“悪女”を見たからです。
――かなりのアクションをオクビンさんご自身で演じてらっしゃいます。もともとすべて本人に演じてもらうつもりだったのでしょうか?
基本的に、スクヒの顔が出ているシーンはすべてオクビンさんが、顔の出ていないシーンはスタントダブルの方が演じていると思っていただければ。私は顔の出ている部分だけを俳優さんが演じるべきだと思っています。というのも、顔が出ていないシーンを無理して俳優さんが演じて、ケガにつながることがありますし、そのことが撮影に支障をきたすこともあります。ですから、最初から“俳優さんの顔が見えるアクション”と、“顔が見えないアクション”をわけて、計算して映画を作るべきだと思います。
映画『悪女/AKUJO』は2018年2月10日(土)、角川シネマ新宿ほかロードショー。同日より109シネマズ大阪エキスポシティ、109シネマズHAT神戸にて、4DX上映決定。
インタビュー・文=藤本 洋輔
監督:チョン・ビョンギル『殺人の告白』
出演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン、キム・ソヒョン
原題:THE VILLAINESS/悪女
2017/韓国/カラー/R15+
提供:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:KADOKAWA
【ストーリー】
犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒ(キム・オクビン)は、育ての親ジュンサン(シン・ハギュン)にいつしか恋心を抱き、結婚する。甘い新婚生活に胸躍らせていた矢先、ジュンサンは敵対組織に無残に殺害されてしまい、逆上したスクヒは復讐を実行。しかしその後、スクヒは国家組織に拘束されてしまい、ミッションを10年間つとめたのち自由の身になるという条件のもと、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み始める。やがて新たに運命の男性に出会い幸せを誓うが、結婚式の日に新たなミッションが降りかかる。
公式サイト:http://akujo-movie.jp/
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