古河耕史、細田善彦、伊藤祐輝、ROLLYの中でいちばんヤバい男は誰!? 舞台『High Life』稽古場レポート
『High Life/ハイ・ライフ』
ドラッグ中毒の過激かつ退廃的な4人の中年男の生き様から、人間の本質の一面を浮かび上がらせる、リー・マクドゥーガルの戯曲処女作『High Life/ハイ・ライフ』が、4月14日(土)から東京・あうるすぽっとにて上演される。演出・上演台本を手掛けるのは谷賢一。そして4人のヤバい男たちを古河耕史、細田善彦、伊藤祐輝、ROLLYが演じる。この舞台の稽古場の模様をレポートする。
あちこち壊れているような家具や調度品が雑然と置かれた舞台は、家具の一つ一つがまるで4人の男たちをイメージしているようでもあった。「さあ、演劇しよう!」と声を張る谷は「(熱が)37.5度あります!」とまるで自慢するかのように宣言。そんな谷に「演出家のテンションがいちばんおかしいよ(笑)」と誰かが突っ込む中、稽古が始まった。
公開されたのは4人が初めて出会う場面。長めの沈黙を破るかのように、突然4人同時にタバコを吸い出す。一息ついたところで、保護観察中のディック(古河)が出所したばかりのバグ(伊藤)に女性問題で追い込まれているビリー(細田)を紹介するが、その声を無視するかのようにバグは部屋の隅にいた弱々しいドニー(ROLLY)を衝動的にいたぶる。バグを止めつつ、ディックは3人をここに呼んだ理由を話し出す。それはある計略のもと、大金を得ようというものだった―。
古河耕史、細田善彦
伊藤祐輝、ROLLY
『High Life/ハイ・ライフ』
区切りの良いところまで芝居を通したあと、谷は4人に「タバコを吸い始めるときの動きのスピード感」について説明する。「子どもの頃にこういうゲームをしたことがある? 4人でそのスピード感を出してほしいんだ」。そのゲームとはみんなの手を交互に重ね、一番下の手の人がその手を瞬時に引き抜き、上で重なっている誰かの手を叩くというもの。他の人は叩かれたくないから瞬時に手を引っ込めるが反応が鈍いと痛い目に合うゲームだ。「実際にやってみようか」とゲームを試してみる…が、このゲームをやったことがないというROLLYは、他のメンバーにルールを教えられながら参加。そして予想通り手を叩かれてしまい、ものすごい表情を見せていた。リベンジ戦ではROLLYが叩く側に回るが、今度は他の3人が鮮やかに逃げてしまい空振り。笑いながらスピード感を体感した4人は、稽古を再開した。
「こうやって手を重ねて…一気にいちばん下の手を抜くと!」
手を叩かれて無念のROLLY
「次は私が叩く番ですよ」と言いたげなROLLY
谷の指示は前述のタバコの場面のように、「例え」を用いながら役者にイメージをより具体的に伝えていた。そして「ゴム紐が突然プチンと切れるように……」と普通の声のトーンで指示を出した直後「てめえ、○×△~!」とその役が乗り移ったかのように豹変。一発でその場面に求めている空気感や台詞の鋭さをキャストに伝えていた。
古河は、この壮大な計略の概要と、各自の得意なことと苦手なことを分析しつつ、計略の中でどのような役割を果たしてほしいかを語るリーダー的ポジションを演じ、細田は爽やかな笑顔を浮かべてはいるが、危なさを隠し持っているような香りを放つ。伊藤は粗暴な振舞いを見せる反面、どこか憎みきれない人柄を見せていた。そしてROLLYは、集団の中で常に強者にヤラれる側が持つ徹底した弱さを見せ、さらにドラッグ中毒による「どこかイッちゃってる人」を体現する役割を果たしていた。
谷賢一、伊藤祐輝、古河耕史、細田善彦、ROLLY
稽古公開の後、谷と4人は取材に応じた。谷は本作を「人間の弱さ、可愛らしさが詰まった作品。ジャンキー(薬物中毒患者)というと世間的にはイメージが悪いが、ある意味では欲望に忠実で、生き方が不器用な男たちの姿を楽しんでもらいたい」と見どころを語った。また、ドラッグによる幻覚作用のイメージを、生演奏と映像とを組み合わせて、舞台上に再現できないかと考えているというプランも口にしていた。「実際にドラッグを使うと捕まってしまいますが、舞台の物語の中では遵法ですので、僕らと一緒にあうるすぽっとでトリップ!トリップ!」と作品のトーンと真逆の軽い口調で説明し、笑いを誘っていた。
「自分の役をどう捉えているか、それをどう演じようとしているか」という質問に、古河は「ディックはいかようにも捉えられる余白のある人物。どんな人の集まりの中にもこういうポジションの人がいると思う。そしてそのポジションを受け入れたとして、肝心の自分自身は何がしたいのか、そこには自ら触れない人だと感じています」と語る。
古河耕史
細田は自身が演じるビリーという人物について「空っぽでつかみどころがないところが魅力かな。自分でもこの役のつかみどころがなくて、模索しているところです。サディストの気があるじゃないかなと思っています。人をおちょくって喜んだりマウンティングしたり……」と分析。
細田善彦
伊藤は「バグは怒りっぽいんですが、その怒りの裏に淋しさや悲しさが強くある人物。他人といることで精一杯怒れる……それが心の拠り所でもあり、ある意味他人に依存している男かも」と述べた。これまでの作品と本作の稽古場の雰囲気が異なる点についても触れた伊藤は「稽古場で本読みをして『この役ってこういう人だよね』と皆でざっくばらんに話し合うことが僕自身初めてでした。役者はそれぞれ自分の役を完璧に作って稽古場に持ってくるものだと思っていたので。皆で作品を作っていくことに安心感を感じました」とバグとは正反対の柔らかな笑顔を見せていた。
伊藤祐輝
最後にROLLYが「子どもの頃から生粋のいじめられっ子でした。小学校の頃、学校の廊下を歩いていると前からいじめっ子がやってきて、見つかっては絡まれていました。あの不良に絡まれる感覚が今回(ドニーの役作りに)すごく役に立ってますね」と語り出す。「何事でもどんな事でも無駄なことはないと思いましたね。あの心臓が止まりそうな思いとか(笑)」その言葉に皆がたまらず笑い出していた。
ROLLY
なお、ROLLYは、本作がストレートプレイ初挑戦となる。ギターを持たず歌も歌わないという役を「丸腰」と表現したROLLYは「もし、神様が僕に楽器を弾いていいと言ってくださるなら最高のプレイをお聞かせしたいです……が今回は(丸腰で)頑張っています」と控えめに口にした。
なお4人ともジャンキー故にどこか正気ではない役どころだが「プライべートでいちばんヤバい人は誰?」という質問が飛ぶと、谷が「せーので一斉に指をさしてみようか。せーの!」その瞬間、全員が迷わずROLLYを指さし、ROLLY自身も自らを指さして大笑い。ROLLYは「中学生の時、友達がピンクフロイドの『狂気』というレコードを貸してくれたんですが、これが理解に苦しむ内容で。ある日、インフルエンザにかかって天井がグリングリンに回っていたので『あ、この状態でピンクフロイドを聴いたらええんちゃうかな?」と思って聴いてみたら……『これがサイケデリックか!!』って覚醒しました(笑)」。
そんなROLLYに古河は「こんな話が1日4つくらい出てくるんですよ(笑)。リスペクトという意味でROLLYさんはヤバイ人です」と嬉しそうにフォローしていた。
おふざけバージョンでカメラマンに応える5人(笑)
取材・文・撮影=こむらさき