高橋一生インタビュー オフィシャルサポーターを務める『ルーヴル美術館展』で、“肖像芸術”から感じた役者論
高橋一生
2018年9月3日(月)まで国立新美術館 企画展示室1Eにて開催中の『ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか』で、俳優の高橋一生がオフィシャルサポーター・音声ガイドを担当している。本展は“肖像”がテーマということで、高橋は日頃“顔の表現”をする役者としても、就任当初から展示内容に興味津々だったそうだ。特別番組の撮影で、先日パリ・ルーヴル美術館も訪れたという高橋に、本展の見どころはもちろん、作品からインスピレーションを受けた役者論まで、たっぷりと語ってもらった。
「観る場所によって作品の捉え方も変わってくる」
——美術展のオフィシャルサポーターという大役に今回初めて就任された気持ちや、高橋さんなりのオフィシャルサポーター観などを教えてください。
“高橋一生”にこうしたお仕事をいただいた以上、“高橋一生”として何が望まれているのかを考えるようにしていました。オフィシャルサポーターは確かに大役だと感じるんですが、大役だといって縮こまってしまうのも違うと思うので、自分自身の受け止め方はフラットなのかもしれません。「大役を引き受けたからこうしなくてはいけない」といった気概はあまりないんです。ただ、“高橋一生”に望まれていることプラス、それ以上のことができるようにと考えていました。
——高橋さんは、今日初めて国立新美術館で展示構成をご覧になったそうですね。会場を訪れてみて、感想はいかがでしたか?
展示作品のほとんどはパリのルーヴル美術館で観させていただいたのですが、展示場所によって作品の雰囲気も変わることが面白いと思いました。歴史ある本家・ルーヴル美術館は、空間がすべて額みたいに感じるんです。そのようなところで作品を観ると、良くも悪くもスッと入ってくる感覚でした。ですが、これだけ建物もモダンな国立新美術館に展示されていると、絵画自体のディティールが際立つように感じます。観る場所によって作品の捉え方も変わってくるんだと、今日鑑賞していて感じました。
アントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》1796年
——本館を訪れて、ルーヴル美術館で観た時と特にイメージが変わった作品はありましたか?
《美しきナーニ》は特にそうです。ルーヴル美術館では、《美しきナーニ》と《モナ・リザ》が近くに展示されていたんです。ほかにも肖像画がたくさん飾られている中の1枚として観るのと、単独で展示されているものを観るのとでは、また捉え方が変わってきます。また、国立新美術館だと絵画との立ち位置を結構広く取れると思うので、観る方それぞれいろんな見方ができるんじゃないでしょうか。間近で観たり、あえて距離を取ったりもできると思います。
——出展作品の中で、高橋さんはフランツ・クサファー・メッサーシュミットの《性格表現の頭像》をお気に入りとして挙げられていましたが、本作も観る美術館によって印象に違いはありましたか?
ルーヴル美術館の展示では後ろに壁がなく、後ろまで回り込んで作品を鑑賞できたんです。こちらではアクリルケースが壁を背にして置かれているので、回り込むことはできませんが、背景がグレーなので、何か示唆的な感じがします。メッサーシュミットの内的な、当時抱えていたであろう苦しみなどが、そういった背景に出てきているのだろうか、と。けれど、できる限り、許される限り、後ろまで回り込んで観ていただきたいです(笑)
「想像の可動域を、常に広く取っておきたい」
アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルシー=トリオゾンの工房《戴冠式の正装のナポレオン1世の肖像》 1812年以降
——本展記者発表会の際に、「(役者という仕事柄)“顔”の表現にはとても興味があります」とおっしゃっていましたが、実際に展示をご覧になって、役者としてどのようなインスピレーションを受けましたか?
表情を前面に出すことが、果たして表現として正しいのだろうかと元々考えていたんです。それをもう一回考え直して、これでいいんだ、と思えました。絵画にしても彫像にしても、僕ら役者がやっている無形の芝居にしても、何かを表現するにあたって、表出したものに対する不安みたいなものはきっとあると思うんです。相手に伝わっているだろうか、とか、わかってくれただろうか、とか。そういうものに対して、僕自身、さらに期待しなくなったと思います。どう捉えてもらっても全然構わないという感覚になりました。
そうしないと、例えばいろんな人の意見を聞いて大事にしているうちに、自分の初期衝動にはなかったものが出てきてしまう可能性があると思うんです。それはとっても苦しいことなのかもしれない。なので、《モナ・リザ》や《美しきナーニ》を観て、作品に一体どういう想いが込められているんだろうというところに、観ている側としても共有することを前提にしなくなりました。
クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》1813年
——お話を伺っていると、高橋さんは作品を直感的に鑑賞するというよりは、だいぶ考えを巡らせながら観るタイプなんですね。
想像の可動域というものは、常に広く取っておきたいと思っています。自分が表現する時も、何かを受け取る時も、答えをひとつに絞らないようにしています。
——“肖像芸術”にフォーカスした展覧会に関わって、今後の表現活動で何か挑戦したいと思ったものはありましたか?
顔ではものすごく怒っている表現をしていたとしても、内側では逆にすごく喜んでいるという表現もきっとあるだろうと思いました。ものすごく説明的に見えて、実は何も説明していないとか。そういった逆説的な、いい意味で期待を裏切っていくような表現も、自分で作り出していきたいです。いろんな方法論があるんだろうなと感じました。
——最後に、今回、美術展の音声ガイドにも初挑戦されたということで、改めて注目ポイントを教えてください。
音声ガイドの最後に、スペシャルトラックとして、オフィシャルサポーターをさせていただいたことに関して、自分の感じたままに喋っています。作品ガイドではフラットさを保っていますが、僕個人の感想となると、やっぱり僕の感覚が出てきますし、自由に喋らせていただきました。裏側みたいな話もしているので、そちらも聞いてもらえたら面白いかもしれないです。
イベント情報
日時:2018年5月30日(水)〜9月3日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
日時:2018年9月22日(土)〜2019年1月14日(月・祝)
会場:大阪市立美術館