大衆演劇の入り口から[其之五]・後編 「芝居で人を救いたい」藤乃かな座長・都京弥座長夫婦インタビュー!

2015.10.28
インタビュー
舞台

左・藤乃かな座長 右・都京弥座長(2015/8/20) 筆者撮影

心の奥の奥にまで入ってくる「劇団都」の芝居。そのヒミツはどこにあるのか?知るべく、筆者は友人と10月の静岡・島田蓬莱座へ向かった。

⇒芝居の魅力を書いた前編はコチラ!

「劇団都」を率いる藤乃かな座長・都京弥座長のご夫婦。島田蓬莱座の客席でお話を伺った二人は、こちらの心をパッと照らすような明るさに満ちていた。

「最近の京弥座長は、もう全然私の言うこと聞いてくれませんよ(笑)“俺だってなぁ!”って言い返してきて喧嘩になります、あはは」

かな座長がカラカラと笑えば。

「最近は何も言い返さないよ。穏やか」

場を和らげるような声で京弥座長が微笑み、

「いや、私が言わなくなったからでしょ!」

かな座長の間を置かないツッコミ。夜の部の終演後、お疲れの様子を微塵も見せず、熱く語ってくださった。

初めてのお客さんを惹きつけるには

―ではさっそく始め…どうされました?(かな座長が京弥座長を見ていたので)

藤乃かな座長(以下、かな) 二人だと京弥座長はあんま喋らないんですよ。

―ええと、インタビューなので、なんか喋って下さい(笑)

都京弥座長(以下、京弥) 大丈夫っす。

―毎日のお客さんの中で、劇団都を観るのは初めて、あるいは大衆演劇自体が初めてという方もたくさんいると思います。そういうときって、何か普段と違う心構えになったりします?

京弥 僕はないですね。いつも通り。

かな 私は変えるかな…。マニアックな曲じゃなくて、誰でも知ってるような曲にしたりだとか。(初めての人は)後ろのほうに座ることが多いから、自分が逆に、客席下りていって、近くに行ったり。そういう努力はやってます。

―そういうことをすると、良かったよーみたいな反応が返ってきます?

かな うん。「また来る!」とか「初めて観たけど楽しかった!」みたいな。

京弥 この島田蓬莱座でも初めてのお客さんはたくさんいますね。

かな ふふ、こないだ初めて観ましたっていうお客さん3人が、3部構成だってわかってなかったみたいで。あ、こんなに長いんだって。お芝居終わって帰っちゃった(笑)。お腹減ったって言って。今からがメインなんです、ショーなんです!って言ったけど、“お腹が減って…また必ず来ます”って言って、前売り券だけ買って帰りました(笑)

―初めて来る人にはこんな低料金で3時間観られるって想像つかないと思います。

京弥 だから時間配分がわかってなかったーって言ってたもんね、お客さんがね。

※大衆演劇は多くの劇場では1部・ミニショー、2部・芝居、3部・舞踊ショーの3部構成で計3時間~3時間半。

初めての人も惹きつける笑顔あふれる舞台。左・城麗斗副座長 中央・藤乃かな座長 右・都京弥座長(2015/10/12) 筆者撮影

信念を貫いてシリアスな芝居を

―劇団都の芝居は、シリアスな芝居が多いように思います。

かな うん、多い。私たちが座長になる前から、うちの劇団はシリアスな芝居が多くて、喜劇っていうのが全然なくって。父とか兄が人情劇をすごく大事にしてたんで。

―ただ、最近の大衆演劇では、どっちかというと喜劇のほうが受けるという傾向も若干聞きます。

かな うちも喜劇を上手にできるんだったらどんどんやるんですけど…(笑) 基本、シリアスな芝居のほうが得意です。軸がフラフラぶれるよりも、私は自分の信念を貫きたいと思ってるんで、自信があるほうを選びたい。だから朝日劇場(大阪)にお世話になった時も、三吉演芸場(横浜)にお世話になった時も、そうしました。たとえそれで、お客さんに暗い芝居多いねって言われても。やっぱりシリアスなお芝居を好んでくださるお客さんもいるし。

―今日の芝居も思いきりシリアスな『喧嘩屋五郎兵衛』でした。京弥座長、口上で、この芝居は師匠の長谷川先生がやっていて憧れの芝居だったとおっしゃっていましたね。この芝居に惹かれたポイントはありますか?

京弥 うーん、やっぱ五郎兵衛が一人で泣くところかな。一人になって、刀を持って、刀に映る顔を半分ずつ見る。あそこが一番かな。観よってね。お客さんとして観よって、一番感じる場面。僕はあそこが好きだったかな。

―かな座長はいかがです?

かな 私のポイントは、お吉と五郎兵衛が姉弟二人きりで話すシーン。今日の芝居では、私、ちょっとやり方変えたんです。今までのお吉は、八百源の前でも弟のことを五郎兵衛、五郎兵衛って言ってたんですよ。でも今日は、八百源の前では「五郎兵衛親分」って言いました。あえて、ちゃんと。お吉はホントに五郎兵衛命のお姉ちゃんだと思うんですね。顔を傷つけちゃったっていう負い目もあると思うんですけど。“弟を全力で守りたい”っていう感情がすごく強くて、親心であり、姉心であり…。でも色んなしがらみがあるから、八百源の前では「親分」って呼ぶ。そして二人っきりになったときに、ふっと呼び方を変えて「五郎兵衛」って呼ぶようにしました。あの一瞬だけホントにお姉ちゃんになる。弟に、我慢してくれてありがとうね、ごめんねって言って。

―昔からやっているお芝居だそうですが、昔と演じ方は変わって来たんでしょうか。

京弥 やっぱり年とるごとに、考え方も段々変わってくるんで、やり方も変わってくる。多分もう、最初にやったときとは全部違うんじゃないですかね。

―芝居の筋は同じですから、膨らませるところが違うってことですか?

京弥 セリフは同じなんですけど、感情が違う。若いときはそれこそ勢いだけで演じてたんですけど、今は色んなことを考えながらやってます。冷静な部分もあり、まだ考えられないところもあり…。芝居によっては、その日のお客さんの層に合わせてやり方を変えることもあるんですけど、『喧嘩屋五郎兵衛』はどこでも変えないでやってますね。変えちゃったら間の取り方も全部変わって、やりにくくなっちゃうんで。

緻密な間と全員の息の合い方が芝居の要。左・京乃健次郎さん 右・都京弥座長 (2015/9/21) 筆者撮影

「人の心を救いたい」

―かな座長主演の芝居『へちまの花』を観ました。喜劇っぽく笑えるところもいっぱいあるんですけど、そこにある人間観はすごくシリアスですよね。かな座長の人間の見方って、とてもシリアスなんじゃないかと。

かな なんか…人が生きるってすごく大変なことだから。一人じゃ生きていけないし。お金がなくても生きていけないし。生きていくって、人との繋がりにしても、ご飯食べる一つにしても、すごく大切なことだと思うんですね。そういうことを忘れつつあるこの現代社会の中で、私は日々感謝しながら生きているので。ご飯食べれることも、お風呂入れることも、お布団入って寝れることも。忘れつつあることを、私という人間を通じて、“共感”してもらいたいってすごく思ってやってます。あ、そうだよね。わかるわかるって。やっぱり自分の考えはこれでいいんだよね、間違ってないよねって。

―劇団都の芝居は、観る側の心に近寄って来てくれるという感想をよく聞きます。

かな 一生懸命に皆さんに生きてもらいたいって思うし…傍に生きる希望も失くしてるような人がいれば、その人を救ってほしいと思うし…自分も人を救いたいと思ってるので。私は、人が苦しんでる姿を見るのがすごい嫌いなんですよ。劇団員が悩んでると、もうほっとけないんですよ。それは、観に来てくださるお客様も同じです。お客様が、時間使ってお金使って観に来てくださるのは、何かを求めて来てくれてるんだと私は思ってるんですね。それが何かはわからないし、全員の要望に応えられるわけではない。けど、なぜ自分が舞台に立ってるのかと考えたときに、人の心を救いたいだとか、悩みがあれば笑顔になってほしいだとか、そういう思いを持ってやってます。だから、私のお芝居はどうしても、そういう方向に走っちゃうんですけどね。

―“人を助けたい”という思いは、座長になる前からずーっとあるんですか?たとえば10代の頃からとか…

かな いや、そんなことは全然ない(笑)。今、やっぱ守るべきものが増えたからですよ。子どもも、劇団員もいてくれて。自分たちが経営者になって、劇団員のお父さんお母さんになったから。だからこういう感覚って、ここ最近じゃないのかな。

かな座長の一語一語は、キッパリしていて声が大きい。インタビュー中も「うん!」「そうそうそう!」と陽気な相槌が挟まる。藤乃かな座長(2015/8/20) 筆者撮影

「女性が生きるのは難しい世界だよね」

―大衆演劇専門誌『花舞台』の、かな座長のインタビューを読みました。“自分は大衆演劇の常識の中だけで生きてきたから、一般社会の常識とかマナーをお客さんや友達から教わったとき、自分はすごく間違って生きてきたんじゃないかって悩んだ”と…。

かな 2年間くらい、何をやってもお客様から厳しいことを言われることが多かったんです。ブログの書き方や、子どもを幼稚園にやらないことや…。でも冷静になって考えたときに、あ、指摘されているのは、たしかに私にない知識だって。私は生まれたときから大衆演劇の世界でしか生きてないけど、そういう意見もあるんだ、そりゃそうだわな、と思って。こんなことで負けちゃダメ、逃げちゃダメ、ちゃんと意見は受け入れよう、と思って受け入れられたから、ああやって雑誌に載せられたんですけどね。

―京弥座長は同じようなことを言われないんですか。

京弥 僕は言われませんね。やっぱり世間一般的に、女性が女性見ても、男性が女性見ても、女性ってどっかしっかりしとかないけんっていうのがあるでしょ。でも男はちょっとくらいしっかりしてなくても、女性から見たら、かわいいとかで済む。特に大衆演劇はそういう世界だしね。女性が生きるのは、難しいところだよね。

―でも、それを自覚している男性はすごく少ないと思います。京弥座長に惹かれるファンが多い理由がわかりますね。

京弥 痩せたらっちゅう話でしょ(笑) 今、アボカド食べよるけん、毎日。アボカド食べると、中性脂肪を取ってくれるんだって。

―じゃあそろそろ効果も…?

京弥 食べ始めたの、昨日から。あはははは(笑)

かな 買ってくるのも料理するのも私ですけどね…(笑)

中学卒業前、旅役者になった

―かな座長は、京弥座長と結婚する前はどんな印象を持っていたんですか?

かな 最初に思ったのは、この子は役者として絶対に伸びる。だから一人前にしてあげたいっていう感じ。結婚するとは思ってなかったですけど、自分が教えれることがあったら教えてあげて、この子はちょっと出世させてあげようくらいの気持ちがありました。

―京弥座長には光るものがあったんですか?

かな 光るものがあったのと、一生懸命だったのと、やっぱり一番はかわいかったかな。ははは(笑)。

―京弥座長が役者になったのは、中学校の卒業前と伺いました。劇団に入る前、大衆演劇ってどういうものかはご存知だったんですか?

京弥 知らなかったですね。入る1年前かな、友達に誘われて観に行って、劇団と仲良くなって、劇団入るか、入ります、みたいな軽い流れです。

―けっこう、すごい決断だなって思ってしまうんですけど。

京弥 全然すごくないです(笑)。僕からしたらやることもないし…仕事といっても力仕事くらいしかないだろうなって思うときに、ま、楽しい仕事場があって…入ってみようかなーという単純なきっかけですね。友達感覚で劇団に来たんです。最初はホントに遊びの延長でした。なので、入ってしまってからが大変だったかな。

―最初、厳しかったですか?

京弥 最初は厳しくないんですけど、段々、時間が経つにつれて…。1年経ち、2年経ってもやれないことが多くなってくると、怒られる回数も増えてくる。なので、最初に軽い気持ちで入ったのは、出だしがやっぱり遅くなったかな。だから今やり直したら、ちゃんとすると思うんですけど。きっと、多分…わかんないけど(笑)。

―最初の仕事って何なんですか?

京弥 僕の場合はほとんど最初っから舞台に出してもらってたかな?ま、子分役が多かったですけど。劇団に入る前から、遊びに来よるときから出してもらってたんで。

質問すると、一つ一つ丁寧に思い出しながら答えが返ってくる。声がお茶飲み話をするようにやわらかい。都京弥座長(2015/8/20) 筆者撮影

11月、ぎふ葵劇場で初めて会うお客様へ

―このインタビューは11月のぎふ葵劇場公演に向けて、10月末公開予定です。ぎふ葵で初めて劇団都を観るという方に向けて、ここを見てほしいというところをお願いします。

かな 3回目の公演になります。劇場がドン・キホーテの8階で、なかなか入りにくい所なんですが…大切なお時間を使ってそこに来ていただけるお客様のために、全身全霊でいつも頑張ってます。共に、泣くときは一緒に泣いてもらって、笑うときは一緒に笑ってもらって、楽しんでいただければなと思ってます。

京弥 お芝居は、みんなで一つのもんに取りかかってますんで一人一人を観てほしいですかね。全体的な、お芝居の流れとかをぜひ観てほしいです。やっぱりお芝居を一番に考える。舞踊家っていうより役者なんで。

―お忙しい中、ありがとうございました!

公演情報
劇団都11月公演 ぎふ葵劇場
会場:ぎふ葵劇場 Facebookページ
期間:11/1(日)~11/29(日) 
休演日:11/13(金)
公演時間:昼の部12:30~15:30  夜の部:17:30~20:30
料金:大人1900円 小人1200円
電話予約料金:300円
※予約なしにフラッと行っても観られるのが大衆演劇の魅力の一つ。だが前方の席で観たい・友人と並んで席を取りたいという場合には予約しておくと確実だ。
 
問い合わせ先:058-213-7244
〒500-8879 岐阜県岐阜市徹明通1-15 ドン・キホーテ8階
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