現代銅版画のパイオニア・駒井哲郎の展覧会が、横浜美術館で開催 ルドンやパウル・クレーなど、西洋画家との競演も
駒井哲郎《題名不詳》1971年頃 世田谷美術館(福原義春コレクション) (c)Yoshiko Komai 2018/JAA1800117
展覧会『駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙』が、2018年10月13日(土)~12月16日(日)まで、横浜美術館で開催される。
日本における現代銅版画のパイオニアである駒井哲郎(1920-1976)は、深淵な詩的世界が刻まれた版画により、国内外で高く評価されてきた。黒いインクと白い紙の豊かな表情のなかに立ち上がる、夢と狂気のあわいを彷徨う駒井の宇宙。それは、デジタル時代の今こそ観る者を魅了する。
駒井は銅版画を追求した一方、詩人や音楽家と交流し、総合芸術グループ「実験工房」での活動や詩画集の出版などで、文学や音楽との領域横断的な表現を試みた。また、ルドンをはじめ西洋画家たちへの敬愛も、駒井の芸術観の形成に深く関わっている。
本展では、初期から晩年までの駒井作品の展開を縦糸に、芸術家たちとの交流や影響関係を横糸とすることで、多面的な駒井の姿を捉えなおし、その作品の新たな魅力に迫る。色彩家としての知られざる一面も、福原義春氏コレクション(世田谷美術館蔵)を核とした色鮮やかなカラーモノタイプ(1点摺りの版画)によって紹介。駒井の版画作品や詩画集など約210点とともに、関連作家作品約80点を展示し、さまざまなジャンルとの有機的な繋がりにより紡ぎ出された、豊穣な世界を紹介する。
1:腐蝕の魔術師、駒井の幅広い表現を一望
駒井哲郎《R夫人の肖像》1971年 横浜美術館 (c)Yoshiko Komai 2018/JAA1800117
銅版画と一口に言っても、その技法はさまざまだ。駒井は多彩な銅版技法を駆使し、微妙な諧調の面と鋭い線、緻密な描写と幻想的な抽象形態、ストイックなモノクロームと色彩あふれる画面など、一見相反するような作風を同時並行で追求しながら、幅広い表現を生み出した。他に追随を許さない駒井独自の腐蝕(ふしょく)により生み出された、紙の上に匂い立つような豊かな表情。それは、デジタル時代を迎えた今だからこそ、私たちの心を揺さぶる。
本展では、日本における現代銅版画のパイオニアである駒井作品の展開を初期から晩年まで6章構成でたどる。
2:美術・音楽・文学の交差点
長谷川潔《林檎樹》1956年 横浜美術館
駒井は1950年代にインターメディアな前衛芸術集団「実験工房」に参加し、作曲家・湯浅譲二との共同制作によるオートスライドや、立体オブジェの制作を行っていた。また、50年代後半から大岡信や安東次男(あんどうつぐお)ら、多くの詩人たちと、詩画集の制作や詩集の装幀などのコラボレーションを実現した。
本展は、駒井のジャンルを超えた表現に着目し、文学や音楽との領域横断的な特質を持つ、駒井芸術の魅力にも迫る。
3:美術評論家としての横顔、そして西洋美術と駒井作品の競演
オディロン・ルドン《二人の踊女》制作年不詳 横浜美術館(坂田武雄氏寄贈)
駒井は、銅版画はもちろん、西洋美術史の幅広い知識を持っていた。ルドンをはじめ、クレーやミロなど西洋画家たちの作品が駒井の創作へ与えた影響も少なくない。また彼は、そうした敬愛する芸術家たちについての評論を美術雑誌などへ数多く寄稿しており、そこからは駒井自身の芸術観を読み取ることができる。
本展では、駒井の文章を紐解きながら、駒井が敬愛した西洋画家たちの作品と、駒井作品を包括的に並べる初の試みとなっている。
パウル・クレー《大聖堂(東方風の)》1932年 アサヒビール株式会社