芳根京子が満を持して挑む、女性ばかりの四人芝居『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
芳根京子
映画にドラマにと話題作に次々と出演してその演技力に磨きをかけ、今や若手女優筆頭株とも言える存在に成長した芳根京子。彼女が、2016年に初演された蓬莱竜太作、栗山民也演出の舞台『母と惑星について、および自転する女たちの記録』の再演版に出演することになった。共演には、初演にも出ていた鈴木杏と田畑智子がそれぞれ再び次女・優、長女・美咲に扮するほか、芳根同様この再演版からの参加となるキムラ緑子が三姉妹の母親・峰子を演じる。
父親を知らない三姉妹は、奔放な母親へ複雑な感情をそれぞれ抱いており、その母の死をきっかけに三人だけで異国を旅する。母の遺骨を抱きつつ、特に目的も帰国の予定もない中で三姉妹が経験する出来事と、それをきっかけに生まれるお互いへの想い……。彼女たちにとって、母親の存在とは、血縁とは、家族の絆とは?
今回もまた見事なほどに実力派キャストが揃う、母と三人の娘たちの愛憎溢れる家族の物語に、新たな期待が高まる一方だ。三女・シオを演じる芳根に、『幕が上がる(2015年)』以来4年ぶりに舞台に立つことへの意気込み、作品への想いなどを語ってもらった。
ーー今回、この『母と惑星について、および自転する女たちの記録』という作品に出ることになって、どんな思いを抱かれましたか。
私は舞台の経験があまりないのですが、いろいろな方から「舞台は若いうちにやっておいたほうがいいよ」という言葉をひたすらに言われ続けてきたんです。なぜみなさんが口を揃えてそう言うのか、詳しく聞いてみても結局わからなくて。だったら自分で挑戦してみて「あ、ホントだった!」って実際にわかったら、きっと私も後輩が出来た時に同じ言葉が言えるんだろうなと思ったんです。それに純粋に、舞台に挑戦してみたいという気持ちも年々、大きくなってきていました。以前はなぜか勝手に苦手意識を持っていたんですよ。映像作品に出る時のお芝居とは全然違うし、やっぱり怖くて。マネージャーさんからは「怖いはやらない理由にならない」って言われていたんですけれど、なかなかこの一歩が踏み出せずにいました。
ーーそんな中、この作品への出演のお話が来て。どういった点に魅力を感じられましたか。
まず、4人だけしか出ないお芝居だということですね。これはきっと、ちゃんと舞台と向き合うにあたってすごいチャンスになるだろうなと思ったんです。しかもこんなに豪華な共演者のみなさんに囲まれて、4人だけでひとつの作品を作れるなんて。栗山さんにも、みっちりご指導いただけるのかなとも思いましたし。このみなさんと、舞台を作る楽しさというものを感じたいなと思いました。自分でもまだ、具体的なことは全然想像がつかなくて一体どうなるんだろうという感じですけど、それでも「絶対に乗り越えてやる!」っていう気持ちでいます。
芳根京子
ーー今回のキャストのみなさんとは初共演なんですね。
はい、みなさんと初めましてです。ご迷惑をたくさんおかけしてしまいそうですが、舞台経験の豊富な方ばかりなので、たくさんのことを吸収させていただけたらと思っています。それにしても、改めてすごい方ばかりで。本当に一日、一日の時間を大切にしたいなと思います。
ーー初舞台の『幕が上がる』を経験した後も、怖いという気持ちはあったんですか?
そうですね、実はあまり人前が得意ではないということもあって(笑)。あと、これは私のダメなところで甘えなんだろうとも思うんですが、何度も同じお芝居をできる自信がないんです。映像作品の時も監督と事前に細かく話しておくというより、まず「一回やってみるのでそれを見てもらっていいですか?」っていうタイプで。あまり言葉にするのが得意ではないので、感覚で乗り切っていることが多いのかもしれません。つまり何度もできるお芝居になっていないので、それが自分の課題でもありました。舞台だと何度も同じセリフを毎日言うことになりますから、ここでちゃんと自分の中に落としこんでから言葉を発するという経験ができたら、ちょっとは身につくんじゃないかな、自分に足りないところを強化できるのではないかなと思ったんですよね。
ーー『幕が上がる』に出られていた時、舞台に立つことの面白さはどういうところに感じられていましたか?
あの時は女子高生の集まりみたいな感じもあったので、楽しかったのですが果たしてそれが舞台の面白さだったのかが正直わからなくて。舞台を経験している方から話を聞くと、いっぱい悩んで、もがいて、作品を作り上げている様子だったので「あれ、違うかもしれない」と思ってしまったんです(笑)。それで、どこかに壁がもっとあるものなんじゃないのかなって、舞台というものに対してのハードルを自分の中で上げ過ぎていたから、その分、怖かったのかもしれないですね。
ーー『母と惑星について~』の初演版は映像でご覧になったそうですが、感想はいかがでしたか。
映像を拝見した時は、やはりまず自分がここまで行けるのかと思ってすごく不安になりました。でも(初演版で同じシオ役を演じた)志田(未来)さんのインタビュー記事をいろいろ読ませていただいたら、たぶんちょうど今の私と同い年の時にやられていたみたいで。「周りの同級生が就職活動とかで新しい世界に飛び込む中、自分も新しい世界に飛び込みたかった」とお話しされているのを読み「なるほどなあ、私も同じだ!」って思ったんです。確かに今、私の周りでもみんな新しいことにチャレンジしてがんばっている時期なので、やっぱり自分もチャレンジをしたいなって思っていましたし。それと今回、2月に稽古をして、3月と4月が本番になります。私、誕生日が2月なんですよ。振り返ると毎年、2月の誕生日の時期にすごく大きな経験をさせていただいているんです、私。
ーーちょうどお誕生日に、節目の時期がやってくる。
そうなんです。朝ドラのクランクアップの日が誕生日だったり、月9の主役をやらせてもらっている最中に誕生日を迎えたりして、そのたびに「よし、この一年もまたがんばろう!」と気合が入るんですね。でも今まではご縁でそういうめぐり合わせになっていた気がするんですが、今回は意識してそれを自分で作るというのもありなのかな、と。それで自分から壁に向かって立ち向かってみようと思ったんです、怖がって逃げてばかりではダメですからね。
ーー確かに、これは乗り越えがいのある、大きな壁にはなりそうですね。
メチャクチャ大きな壁ですよね!(笑) でも、これまでご一緒させていただいた先輩方には、たくさん舞台をやられている方が多かったので。今まで先輩方のお芝居を観に行かせていただいた分、「芳根、がんばってます!」という姿をここで見ていただいて、またたくさんアドバイスをいただきながら乗り越えたいなと思っています。
芳根京子
ーーこの『母と惑星について~』という作品自体の印象はいかがでしたか。
シオは、すごいしゃべっているんですよね(笑)。台本をいただいて、自分のセリフに蛍光ペンをひいてみたんですけれどもインクが途中でなくなっちゃって。ゾッとしました(笑)。だけどそれだけセリフをいただけるというのはとても幸せなことだとも思うから、一言一句を大切にしたいです。そして、ナマのお芝居の楽しさを自分でも感じたいですし、観に来てくださるお客様にも感じていただきたい。長崎弁も難しそうですけれども、自分から出てくる感情を大切にしながら、素敵な姉妹と家族に見えるように作り上げられたらいいなと思います。一回一回、大切に演じたいです。
ーーキャラクター的には共感しやすい役ですか。
そうですね。でもきっと、すごく苦しいだろうなあ、とも思います。
ーー役に入り込んでしまうと?
まだわからないですけど、たぶんすごく苦しい3カ月になるだろうな、と。でもそれも含めて「もう、どんと来い!」という気持ちでいます(笑)。やりがいのある役ですし、これが終わったら絶対に達成感があるだろうし、いろいろな景色が見られるはずですし。ですから、やらせていただくからには思いっ切り苦しみたいですね(笑)。
ーーこれは母親と娘たちのお話でもありますが、ご自身の母娘関係を重ねたりもされますか?
私はすごく母と仲が良くて、友達みたいな関係なので。そう考えると、複雑ですよね。映像で見ている時もホント、難しいなあって思っていました。稽古に入るまでに、またさらに読み込んでおきたいと思っています。
ーーお母さまは今回の舞台のお話をした時に、何かおっしゃっていましたか?
私には一緒に住んでいる祖母がいまして、すごく私が出る作品を楽しみにしてくれているので、その祖母が自力で歩いて劇場まで来られる間に舞台をやってみたいという気持ちも実はあったんですよ。これは本当に私情なんですけど。やっぱり、おばあちゃんがいるからがんばれるところもたくさんあるので。母に「舞台をやろうと思うんだよね」と話した時には「いいじゃん、いいじゃん、やってみな!」って言って、背中を押してくれました。母はスーパーポジティブで、何に対してもマイナスの考えを持たない人なんですよ。だから私が舞台をやるということに対しても、プラスの考えしか生まれない。それはそうですよね、始まる前から悩んでいても仕方がないですから。なので、ちょっと悩んだ時や不安に思った時はなんでも母に言うようにしています。絶対にプラスの言葉が返ってくるので(笑)。そういう意味でも、私にとって母の力は偉大ですね。
ーーでは最後にお客様へ、お誘いのメッセージをいただけますか。
私自身も今、すごくワクワクしています。ぜひ初演を観られた方も楽しんでもらえるようにしたいですね、そうでないと再演する意味がないと思いますから。でも稽古もまだ先なので実は私自身もピンときていないところがあるのですが、舞台では映像の時とも違う新しい一面をお見せできそうな気がしますし、演じる役も今までにない新鮮な役ですし。私、SNSをやっているんですが、いろいろな方から「舞台はやらないんですか」と言っていただいていましたし、地方の方からも「イベントなどでこっちに来てくれることはないですか」というお声もいただいていたんですね。イベントで行けるのも素敵ですが、今回は舞台を、ナマのお芝居を見ていただけるというのが私は本当にうれしくて。東京はもちろんですが、各地の公演のほうにもぜひ足をお運びいただき、観に来てくださったらうれしいなと思います。
芳根京子
取材・文=田中里津子 撮影=中田智章
公演情報
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
演出:栗山民也
出演:芳根京子 鈴木 杏 田畑智子・キムラ緑子
会 場:紀伊國屋ホール
入場料金:8,500円(全席指定・税込)
U-25:4,000円(観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・要身分証明書)
※U-25はぴあ・前売り販売のみのお取扱いです。
お問い合わせ:パルコ劇場 03-3477-5858 http://www.parco-play.com/