緑黄色社会 映画『初恋ロスタイム』主題歌として提供した「想い人」はなぜリョクシャカ史上最もエモいのか? 制作過程を紐解いて見えたバンドの現在地
緑黄色社会(L⇒R:peppe、小林壱誓、長屋晴子、穴見真吾) 撮影=大橋祐希
普遍のポップソングを歌いながら、メンバーそれぞれの個性が際立つバンドサウンドでも魅せるリョクシャカこと緑黄色社会。2017年1月に全国デビューを飾ってから着実にリリースを重ねると同時にライブシーンで頭角を現してきた彼らが、9月20日に公開される映画『初恋ロスタイム』に主題歌として提供した「想い人」を配信リリースした。
リョクシャカ史上最もエモーショナルと謳われる曲になったその「想い人」。いわゆるバラードながら、王道に収まりきらない曲になったところがリョクシャカらしい。そこには新たな挑戦がいろいろ詰め込まれているという。より多くの人の胸を打つ新たな代表曲になったという手応えとともにメンバー4人が「想い人」の聴きどころや制作秘話、そしてより現実味を帯びてきた夢を語る。
バンドを始めた頃は漠然と“国民的な存在”と言ってたけど、それが自分たちの行動次第でちゃんと手の届くところにある感じがどんどんして来ている。
――配信シングルの「想い人」。泣きそうになるくらい、とてもいい曲で、聴きながら感情が揺さぶられました。曲ももちろんですが、歌詞が刺さったんですよ。特にサビの<愛されながら愛していく もらった愛の分だけ>というところは、ほんとそうだよなと思いながら、自分はそんなことを考えたことがあるのか? ないよなぁと、身につまされるようなところもありつつ。まだ20代前半の若者からどうしてこんな言葉が出てくるんだろうと、ちょっと不思議に思いながら聴かせていただきました。
長屋晴子(Vo/Gt/Key):前々から人を思いやる気持ちというのは、ずっと書きたいと思っていたんです。それで、今回、主題歌のお話をいただいたとき、自分たちが表現したいテーマだ!というところから、映画からもインスピレーションをもらいながら、元々あった気持ちをさらに広げていったんです。
穴見真吾(Ba/Cho):(小林)壱誓のメロディーがまずあったんですよ。まだ、ほんとにワンコーラスのデモだったんですけど。
長屋:しかも、もう「想い人」ってタイトルもついていて。曲はまだメロディーだけだったんですけど、そのタイトルがもう素晴らしいなと思っていたら、ちょうど映画のお話もいただいて、なおさらそういう方向性で進めたいなっていう。だから、タイトルからも広げていった感じです。私たちには珍しいパターンではあったんですけど。
小林壱誓(Gt/Vo):全部のピースがはまったんですよ。
長屋:運命的にね。全部のタイミングがちょうど良かったんです。
――小林さんはメロディーだけしかない曲に、どうして「想い人」というタイトルを付けたんですか?
小林:「想い人」だなって思ったんですよ(笑)。それは僕が大事な人を思い浮かべて書いたからなんですけど。
――大事な人?
小林:大事な人って言うか、大事な人の大事な人を思い浮かべたんですけど。
――なるほど。大事な人を思い浮かべるってことはあっても、大事な人の大事な人を思い浮かべるってなかなかないと思うんですけど。どんなきっかけで思い浮かべたんですか? その大事な人の大事な人を。
小林:僕の知り合いの父親が余命宣告を受けたという話を聞いたんです。でも、僕には何もしてあげられることができなくて、泣いている人を思って、ただひたすらこの曲を書いたっていう。
――そうなんだ……。なんか、無理やり聞き出したみたいになってしまってすみません。
小林:いやいや。
長屋:その話は、私は後から聞いたんですよ。
小林:言わないようにしていたんです。曲を書いた経緯は伝えたらいけないなと思って。
長屋:だから、ほんとに「想い人」ってタイトルから広げていったんですけど、この曲を聴いたとき、私がすぐに思い浮かべたのは私の母だったんです。
――はい。
長屋:段々大人になってきて、育ててくれたことに……この話、したことはなかったんですけど、うちは母子家庭で、ずっとそれに対してコンプレックスがあったんです。今はもう、そんなことはないと思うんですけど、私が子供の頃はちょっと言いづらかったんですよね。友だちから“お父さん何やってるの?”って聞かれても、ちょっとごまかしたりみたいなこともあって。ちょっとコンプレックスみたいなものがありました。もちろん、だからって親を責めているわけではなくて、父とも会うし、仲も良いしって関係なんですけど、懸命に私たち兄弟を育てながら、私たちにコンプレックスがあったように母も同じ気持ちだったと思うんですよ。そういうことを、年齢とともに段々わかるようになってきて、返していきたいなっていう。だから、最近は、たくさん一緒に出掛けるし、いろいろなところにも連れていくし、いろいろな話もするし。前は全然出かけなかったとか、話さなかったとかじゃ全然ないんですけど。そういう気持ちになったので、私の中の想い人は母なんですけど、みなさんの気持ちに当てはめて聴いてほしいです。歌詞は、あなたと誰かという書き方をしているんですけど、聴いてくれる人の中では、きっとその誰かは“誰か”じゃない。ぼやっとした誰かではなく、思い当たる誰かがいると思うんですよ。
――映画サイドからは何かしらのリクエストはあったんですか?
長屋:「想い人」に決まる前に何曲か私たちも書いたんですよ。
peppe(Key/Cho):そうだね。
長屋:いろいろな方向から、それぞれにトライしたんです。その中から「想い人」が選ばれて、私たちもこれがぴったりだと思ったんですけど。どんなリクエストがあったっけ?
穴見:エモい。
長屋:あ、そうだね。エモーショナルな感じ。それぐらいでしたね。けっこう自由に作らせてもらったんですけど、それが映画と合致したっていう。
――じゃあ、バラードでっていうのもなく?
穴見:それはなかったです。だから、バラードに限らず、それぞれにいろいろな曲を作ったんですよ。
――ところで、映画はご覧になりましたか?
長屋:はい。めっちゃいいところで、この曲が流れるんですよ(笑)。
穴見:完璧なんですよ、出だしが。
peppe:鳥肌が立ちました。
――5月にリリースした『幸せ-EP-』の表題曲である「幸せ」も「想い人」同様にバラードでしたが、今回は、その「幸せ」よりも大きな愛を歌っている。ただ、大きな愛を歌いながらアレンジという意味では、ストリングスは入っていますけど、音数を削ぎ落としているという印象がありました。
穴見:フルバージョンをレコーディングする時には、主題歌になることは決まっていたので、温かい感じにするっていう話にはなっていたんですけど、僕的には、壱誓や長屋の話を聞いていたので、熱く、ロックな感じで行きたいなというのがあって。細かい話ですけど、最初はベースを指弾きしようと考えていたのを、ピック弾きに変えて、ちょっとゴリゴリッと。だから、敢えて逆に行ったって感じですね。みんなも、それに影響されたんじゃないかな。
――あ、そうなんですか。
穴見:そんなことない? うーん、わからないです(笑)。
長屋:私が楽器的なところで気に入っているのが、間奏のギターのリフなんです。リフと言うか、ソロなんですけど、今までのソロの中で一番好きですね。すごく歌っている感じがするんですよ。しかも、涙を堪えながら。そこでもぐっと来るんですよね。私たちってけっこういろいろな要素を散りばめることが多くて、間奏にもいろいろな楽器を入れたりするんですけど、「想い人」の間奏はもう、壱誓にスポットライトを当てて、“聴いて!”っていうふうになっています。自信を持って、聴いてほしいと言えるソロなんですよ。
――長屋さんはそうおっしゃっていますが。
小林:はい(照)。フルでデモを作る時は、ベーシックなものしか作らないんですけど、このギターソロだけは頭の中で流れてきたので、もう先に作っちゃおうと思って、デモの段階で入れたのが、“いいね!”ってそのまま使われて。最初に出てくるものって一番いいんだなと改めて思いましたね。
――削ぎ落とした印象があると言いましたが、みなさんもそういう印象はあるんですか?
長屋:削ぎ落とそうとしたつもりは、みんななくて、曲の持つ力や歌詞の持つ力を、みんなが出そうとした結果なのかな。壱誓が作った元々のメロディーや歌詞がついたものを聴いたとき、感じたものが全員一緒だったんだと思います。
穴見:そうだね。
長屋:話してはいないんですけど。感動したポイントとか、この曲はこうしたい、みたいなことが、話さなくても通じ合ってた気はします。
――穴見さんがさっき“熱く、ロックに行きたかった”とおっしゃっていたように音数は削ぎ落としてはいるけど、やっぱりバンドならではのサウンドになっていますよね。その中でもベースが真ん中で存在感をアピールしているところが頼もしいと思いました。
穴見:ありがとうございます。曲の入りがストリングスだから、イントロを聴いただけじゃバンドなのか、シンガーなのかわからないじゃないですか。だからこそ、僕らの演奏が入った時に、“あ、これバンドなんだ!”ってちゃんとわかるようにしたかったっていうのはありました。
――ベースのどぅーんって入り方がそれを物語っていますね。
穴見:ありがとうございます(照)。
――ピアノはバラードらしさを強調しながら、高ぶる気持ちを表現することを担っていると思いました。アレンジでは、どんなことを意識しましたか?
peppe:いつもは音を詰め込んじゃうタイプなんです。でも、「想い人」は歌を届けたかったので、初めてのことだと思うんですけど、1番のAメロでは、ただ和音を、合唱の伴奏のように弾いているだけなんですよ。学生時代、合唱の伴奏をしていた時のことを思い出しながら、みんなの支えになるみたいな気持ちを持ってやりました。そこが今までの曲とは違いますね。
――そしてギターは一歩退きながら、音色やアクセントを加えるフレーズで存在感を主張していますね。
小林:そうですね。大体、いつも一歩退いてはいるんですけど(笑)、今回は、ギターソロに感情をぶつけられればいいなというふうに思っていました。それ以外で目立ってもしょうがないって。
――なるほど。でも、1サビの裏で鳴っているコード、オブリからのカッティングの絶妙な歪み具合は、こういうバラードには、あまり使わない音色じゃないですか?
小林:そこは真吾にひっぱられたのかもしれないです。熱いところに(笑)。
長屋:そういうのがあるから、歌もより気持ちが乗るし、きれいすぎないように歌えると言うか、感情を吐き出す感じで歌えるところもあるんですよ。音源もそうなんですけど、ライブでやってもすごく気持ちが入るんです。ライブ中は前にいるから、みんなが演奏している姿を、私はあまり見られないんですけど、熱さが伝わってくるから、歌っていても気持ちがいいんです。
――確かに、歌もすごくエモーショナルで。たとえば、サビの声が裏返るところ。あそこは聴きどころの一つですね。
長屋:壱誓がメロディーを作った時点で、オクターブで上がるっていうのがあったんです。斬新だなって思って、すごく耳に残るから生かしたいと思いながら、どう歌詞を乗せようかすごく考えて。今回は、歌詞を乗せずに母音で伸ばしたんです。もう一文字当てても良かったんですけど、これが一番、メロディーが活きるのかなって。
小林:僕はもう一文字乗る想定で、メロディーを作ったんで。
長屋:そうだよね。きっと。
小林:“そう来たか”と思いました(笑)。
長屋:そうだろうと思ったんですけど、そうすると私の中でもったいなかったんです。
小林:でも、それがフックになっている。
peppe:うん。聴いたとき、すごいと思った。
長屋:正解でしたね(笑)。
――<先を歩く人の>から始まるブリッジの力強い歌もぐっと来ますね。
長屋:私たちの中で、ここまで感情を吐き出すバラードって初めてだと思うんですよ。「Re」とか、「幸せ」とか、今まではしっとりと聴かせるものが多かったから、私的にはこういうバラードをやれてめちゃめちゃうれしい。やっとやれたっていう感じがあって。ブリッジの歌詞は一番、力を込めて歌うんですけど、ライブでは“もう聴いて!”っていう気持ちで歌ってます。
――ライブでの反応はどうですか?
長屋:この夏のフェスからやっているんですけど、盛り上がりに来ているお客さんが多い中、こういう曲も聴いてくださるんですよ。次のバンドに行っちゃいそうになりながらも立ち止まって聴いてくれているっていう状況がすごくうれしくて。フェスでやって良かったなと思いました。
――17年、18年とバンドが頭角を現してきたタイミングで、この「想い人」というバラードが今後、バンドにとってどんな曲になっていったらいいと考えていますか?
長屋:曲が持つ力と言うか、伝えたいことやアレンジは、何年経っても通用する曲だと思うんですよ。10年後、初めて聴く人がいても、たぶんいい曲だと思ってもらえるような曲になったと私たちは思っているので。
peppe:うん。
長屋:後世に残るじゃないですけど、ずっと語り継がれるような曲になればいいなと思っています。
小林:ほんとそう思います。このタイミングで聴いてくれた人が10年後、20年後、今の記憶とともに歌を聴いてくれたらなと思います。
――個人的にツボの場所がいくつかあって。1番のサビが終わった後にリードギターのリフが入ってきて、そのあと、ベースとユニゾンするじゃないですか。あそこかっこいいなって(笑)。
穴見:うれしいです(笑)。
――それと、ブリッジの後のギターソロの中で、ギターのフレーズにピアノが応えるところがあるじゃないですか。あそこもかっこいい。
長屋:フレーズは少ないのに耳が行きますよね。
小林:僕のデモの段階では、あそこは何もなかったんですよ。何か欲しくなったんでしょうね(笑)。
長屋:あれがあることで強みが増すよね。ちょっとのことなのに。
――そして、ラスサビの裏でチョーキングしているギター。
穴見:出た!(笑)
――そんなところもすごくかっこ良くて、バラードなんですけど、やっぱりバンドがやるバラードなんだなって。そういうところも聴きどころだと思いました。
長屋:うれしいです。
――MVの話も聞かせてください。時間が止まるという映画の内容に合わせて、メンバーも止まっているじゃないですか。あれって……。
peppe:ほんとに止まってます。
長屋:後から調整はしてもらっているんですけど、あんなにピタッて止まるって初めてで。あんまりやることってないと思うんですけど(笑)、そういうギミックが入ることで歌詞、曲の良さが入ってくるMVになったなって、すごく気に入ってます。
――撮影は大変でしたか?
長屋:楽しかったよね。
peppe:うん、楽しかった。
小林:撮影時間の半分以上止まってましたね(笑)。
長屋:私は歌っているからそんなに止まってないんですけど。
小林:僕はこの曲の中で一番苦手なコードを押さえているんです。
peppe:練習?(笑)
穴見:ついでに?(笑)
緑黄色社会 撮影=大橋祐希
――11月8日から始まるワンマンツアー『リョクシャ化計画2019』は、東名阪がホール公演ということで、バンドにとって一つ挑戦になりますね。
長屋:ずっと言ってたんですよ。“私たち、ホールが似合うよね”って。ワンマン以外ではやったことはあるんですけど、ワンマンってなると、空気感、緊張感も違うと思うんです。そこは未知の世界なので、構想を練って、セトリ、演出をこれから考えたいなと思っているんですけど、絶対、映えると思うんですよね。今回の「想い人」も違う聴こえ方をすると思うので、今までとの違いを見せたいし、私たちも発見したいと思ってます。
穴見:歌だけになるところが良さそうだよね。
長屋:ホールならではのね。
穴見:リバーブ感って言うのかな。ピアノもホールだと、理屈はわからないけど、すごくよく聴こえるじゃん?
長屋:わかるよ、わかるよ。
穴見:感動するじゃん。そいうのが楽しみだよね。
――昨年12月のマイナビBLITZ赤坂公演でもホール公演を見据えたような演出もありましたね。
長屋:もっと未来のリョクシャカと言うか、これからをワクワクさせるようなライブをしたいんです。BLITZでは、それができたと思っているので、もっと大きな景色を見たいと思ってくれた方も多いんじゃないかな。そういうライブができたらと思います。
――バンドの目標も変わってきたのではないでしょうか?
長屋:国民的な存在になりたいっていうのは、ずっと言っているんですけど、そこに行くまでには、やっぱり「想い人」のような強い曲がもっと知れわたってほしいと思うし、小さい子も、おじちゃんおばあちゃんも知っている曲になってほしいし。誰もが憧れる『Mステ』や『紅白』にも出たいし、武道館だって立ちたいし。いろいろな夢があるので、それを叶えていって、国民的な存在になりたいです。
――そこは全然変わらずに。
長屋:そうですね。変わらないですけど、より強い気持ちになってきているし、バンドを始めた頃は漠然と“国民的な存在”と言ってましたけど、それが自分たちの行動次第でちゃんと手の届くところにあるって感じがどんどんして来ているので、もっともっとがんばりたいと思います。
取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希
緑黄色社会 撮影=大橋祐希
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