岸田教団&THE明星ロケッツ×SPICE企画 公募レポートの結果を発表 特別賞受賞「みさちこ」氏によるレポートを掲載!

レポート
アニメ/ゲーム
2019.11.6

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岸田教団&THE明星ロケッツが、SPICEと連動した「ツアーファイナルレポート企画」。9月28日に開催された川崎CLUB CITTA'で『"MOD"』ツアーファイナル公演に参戦したファンからライブレポートを募集。最優秀作品をエンタメ特化型情報サイト『SPICE』にて記事化するというこの企画だが、遂に最優秀作品が決定した。

大賞を獲得したのはペンネーム「ゲン」氏の記事になるが、SPICE側と岸田教団側で相談した結果、最後まで候補に残った「みさちこ」氏の原稿もSPICE編集チーム特別賞として特別に記事化することにした。一つのライブレポートが2本掲載されるのは前代未聞ではあるが、それもこの企画の熱量の高さを物語るものとなるだろう。

この記事では特別賞受賞の「みさちこ」氏のレポートをお届けする。同時に「ゲン」氏の記事も上がっているのでそちらもチェックしてもらいたい。巻末には岸田教団、SPICEアニメ・ゲームジャンル編集長加東のコメントも付属する。

(SPICE編集レギュレーションに乗っ取り、一部編集部の方で構成・編集を行っております。)


2019年9月28日にCLUB CITTA’ 川崎にて、岸田教団&THE明星ロケッツ(以下、岸田教団)の『MODツアー』ファイナルとなるワンマンライブが行われた。ここでは、いちファンから見たライブの様子をお伝えしたいと思う。なお、筆者は専門的な音楽教育を受けていないため、主観によるレポートになることはご容赦いただきたい。

だが、ライブレポートよりも前に、まず、誤解を恐れずに伝えておかねばならない。岸田教団は信用ならないバンドである。

第一に、首謀者(リーダー)でベースの岸田さん。同じ結果を得るなら最小のコストで生きていたい人なので、利にならないと考えたことには労力を使わない。究極、メンバーすら見捨てかねない。信用ならない。

つぎに、ボーカルのichigoさん。自身がかっこよくて強くて称賛を浴びていればご機嫌な人である。自分のことしか考えていないかもしれない。信用ならない。

それから、ギターのはやぴ~さん。ギターの奏法に対する評価も、自作エフェクターブランド名も、「フレンドリーファイア」(同士討ち)である。笑顔で会話していても、いつ背中から撃たれるかと思うと油断ならないし、信用ならない。

さらに、ドラムのみっちゃん。ライブ会場にあわせてドラムを叩くことなんかしないし、むしろその音量を会場が受け止めろって感じ。しかもなんかすごく食べる。信用ならない。最後にサポートギターのてっちゃん。あんまり強くなさそう。信用ならない。

こんな信用ならない彼らの名前が初めに知られるようになったのは、「東方アレンジ」という同人音楽ジャンルの活動を通してである。東方アレンジとは、(詳しくは検索していただいた方が早いのだが)上海アリス幻樂団のZUN氏が「東方Project」と総称されるゲーム作品(おもに弾幕シューティングゲーム)などを通して発表した音楽(BGM)に、新たな編曲や歌詞を加えて制作された公認二次創作楽曲群、と筆者は認識している。

これらは「同人音楽」という、端的に言えば、自主制作の音源をインターネットで発表したりCDをイベントで販売したりという、個人to個人レベルの音楽活動の形態で広まっていった。この東方アレンジというジャンルでは多くのクリエイターが楽曲を発表しているが、とくに、東方Projectの作品がWindows PC向けに発表されるようになった2002年以降、インターネット通信の高速化にも後押しされ、2000年代中ごろから末には大規模なマーケットとなっていたように記憶している。

岸田教団が初めて東方アレンジ楽曲を含むCDをリリースしたのはたしか2005年である。ただし、黎明期はインストゥルメンタル曲を発表していた。その後、なんやかんやで現在のメンバー構成となり、初めてボーカル入りの東方アレンジ曲のみを収録したCD「幻想事変」を発表するのは2007年のことになる。岸田教団は登場初期から、原曲(原作ゲーム)を重視したメロディラインおよび歌詞の世界観や、ギター・ベースなどの楽器を使ったロックアレンジで耳目を集め、電子音楽中心・テクノポップ寄りの楽曲が多かったこのジャンルのなかで強い独自性をもっていた。

また、シンセサウンドとゲーム原作の親和性から電波ソング的なものも散見された東方アレンジのなかでは、きわめて実直な編曲と原曲解釈がなされ、東方Projectファンならずとも音楽そのものを楽しめる程度に楽曲のクオリティが高かったことも特徴だろう(念のため補足しておくが、他のクリエイターによる電波ソング的な楽曲にも多くの名曲が生まれている)。かく言う筆者自身も、原作ゲームをプレイしていたものの、初めはいち音楽ファン(ほぼ同時期の日本語ロックファンと言い換えてもいい)という立場で岸田教団を知った。

その後、岸田教団はメジャーデビューをし(オリジナル曲もとても良いのだ)、やはり原作の世界観をうまく抽出したアニメのテーマ曲や、自己と社会のあいだで生じる軋轢に立ち向かわざるを得ない力なき者たちを認め鼓舞するような楽曲などを発表しているのだが、ここでの活躍はまた別の話になる。

さて、この日の公演は、岸田教団の一つのルーツである「東方アレンジ」の楽曲のみを演奏するという、原点回帰でもあり、ゲーム攻略で言うところの縛りプレイというか、ある種挑戦的でもあるコンセプトで行われた。ちなみに会場は彼らが初めて客前で東方アレンジの楽曲を演奏したメモリアルな場所である。エモい。なにそれエモくない?(とは言っても3月にも同会場でライブをやっている)

開場時間の10分ほど前に会場に向かうと、すでに興奮をあらわにした一団が待ちきれない様子で集まっていた。岸田教団の客は男性が多い。過去10年余り、メンバーから消費税より割合が低いと言われ続けてきた女性客の1人としては若干肩身が狭い。この日も、原作ゲームや東方アレンジについて情熱的に語る男性や、気合い十分のロック男子まで、案外と広い客層が目に入った。そして皆、声が大きい。気がする。

ついに迎えた開場時間。逸る気持ちと早足になりそうになる歩調を抑えつつ、ドリンクを交換して会場に入ると、もやもやとスモークで煙った空間が迎えてくれた。前方に向けての視界は悪かったが、天井は高く、閉塞感はなかった。ようやく見えたステージには黒いカーテンらしき幕が下りていた。ライブ中にできる濁流に飲み込まれないよう、ベストポジションを見つけ、かすかに流れるあだっぽいロックサウンドを聞きながら、開演を待った。

時計を確認し忘れたので、体感で18時5分ごろ。客電と会場に流れていた音楽が消え、東方Projectの電子的でオリエンタルなBGMが出囃子として流れてきた。聞こえてきたのは『東方紅魔郷』という作品のゲーム開始画面(タイトル画面)で流れる「赤より紅い夢」というBGMだった。これから演奏される、ゲームBGMを原曲とした楽曲たちを迎えるオープニング曲としては、うってつけなセレクトだと感じた。

ステージの幕が開くと、金属のフレームで作られた「MOD」という大きな文字と、その中央に鎮座する禍々しい三角形と目玉のマークが姿を現した。この禍々しいシンボルマークは、岸田教団ファンであれば2016年の日比谷野外音楽堂での公演で目にした記憶があるはずだが、いつまでも消滅することなく彼らの活動の端々に登場する。バンド名と合わせて、どう見ても、よからぬ宗教団体の集会のようである。

やたらと目を引く装飾から意識を離し、ステージの他の様子を確認すると、ギターアンプの高層化(4段積み)がすごい。また、ベースの立ち位置の後方からはウーハーのような円形がいくつもこちらを威嚇している。どう考えてもあちらは戦闘力を上げてきている。これはこちら(客)も心してかからねば。そうこうしていると、メンバーが下手側から一人ひとり登場し、会場の期待感が圧力のように後方から押し寄せてきた。

軽快なギターのフレーズから、「SPEED GRAPHER」が始まった。この曲は東方Projectのキャラクター射命丸文(鴉天狗の新聞記者)のテーマ『風神少女』を原曲とする楽曲である。幻想郷を飛び回りスクープ(ゴシップ)を報道するキャラクターの曲ということで、曲調にも歌詞にも疾走感があり、岸田教団のライブでは定番の曲のひとつになっている。高速で飛行する天狗に誘われるかのように、イントロの時点で会場のテンションは一気に高まり、たくさんの拳が振り上げられた。

さらに、1曲目にして、上手側にいたギターのはやぴ~さんが下手側まで駆け抜ける。岸田さんも前方のモニタに足をかけ、会場を挑発するようなプレイを見せた。演奏パフォーマンス(というかたぶん心のままに動いているだけ)の鮮やかさも岸田教団を喧伝するうえで避けては通れないポイントである。ライブステージではなく音楽制作を大元の出自とするわりには、職人的に淡々と演奏することはなく、視覚にも刺激的なプレイスタイルのように思う。つまり、いっときも油断してはならない。彼らはいつでもステージ上から仕掛けてくる。

こうして1曲目にして一足飛びに高まった熱を逃さず集めるかのように、続いて「メイドと血の懐中時計」「緋色のDance」といった、岸田教団では初期から演奏されている比較的定番かつ人気曲が畳み掛けられる。この2曲は『東方紅魔郷』というゲーム作品に登場するお互いに関連性の深いキャラクター2名それぞれのテーマ曲であり、この曲が続けて演奏されることに意味を感じる東方Projectファンも多いと思われる。だが、そんな感傷にふける余裕はない。ichigoさんの「踊れ!」という扇動に乗らずしてどうする。腕を掲げ、全身を揺らし、時に跳ねる。すでに体力の半分を持っていかれた。熱に浮かされるような視界のなか、はやぴ~さんが投げキッスをするのを見たような気もする。男性ファンがはしゃいでいた。なぜ……。

「クラブチッタ川崎をご覧の… ん? ご覧じゃないな」から始まる、おそらく「お越しの皆さん」または「お集まりの皆さん」と呼びかけたかったはずだけど、言葉が出てこなくて諦めた岸田さんの「来てくれてありがと~!」という潔い挨拶をはさみ(こうした、一般的なキメが決まらないという現象は、彼らにはよくあることだ)、ここからは比較的最近発表された曲のゾーンへ。

「ANCIENT FLOWER」は『東方妖々夢』のBGMから編曲された楽曲である。原作の行間を透かし見るように、魂魄妖夢ら『東方妖々夢』のキャラクターのさまざまなシーンが浮かび、想像力をかきたてられる。歌詞に使うフレーズの選びかたがちょうどいい。「ちょうどいい」ってなんだ? と思われるかもしれないが、これは、二次創作として新しい設定・属性をつけすぎず、しかし原作のエッセンスをふんだんに含み、ちょうどいい、としか言葉にしようがない。ちょうどいい塩梅。岸田教団の東方アレンジは、原作を知らなくても単独の音楽作品として楽しめるが、原作を知っているとさらに味わい深くなってとてもよい。

続く「ピュアヒューリーズ」の原曲は『東方紺珠伝』のボスキャラクター純狐のテーマ曲である。曲調は明るいのだが、圧倒的な強さを誇示するように、雄々しさすら感じるスケールの大きいメロディラインに乗せて、復讐に生きる純狐の姿が歌われる。ボスキャラクターの曲にふさわしく、ベースも聞き手を追い詰め追い立てるかのように扇動的に迫ってくる。一例をあげれば、「欠けた真実を追い求めている」という歌詞の直後に高めの音域に躍り出てくるベースが好き。この曲では思わず岸田さんのプレイに見惚れた。曲を支える堅実なベースプレイも多いが、ステージの上では大きな身体を活かした華やかなプレイヤーだと思う。

同じく『東方紺珠伝』に原曲をもつ「CROWN PIECE」では、主役としてステージの中央に立つことができないピエロになぞらえた人生の悲哀を、挑発的で偽悪的でありながら憂いを含んだ表情でichigoさんが歌う。自らを冷笑する歌詞の主人公の姿が見えるようだった。以前のライブでのichigoさんは、楽しむこと、楽しませることを目指した溌剌としてエネルギッシュなパフォーマーだったように思う。そのため、ファンの耳に、心に、メロディや歌詞を伝えることに重点を置いたような歌唱であった(と個人的に認識していた)が、このツアーではがらりと変わり、歌詞の背景にある世界観や行間に織り込まれた感情を全身で表現しようとしているように感じられた。

もしかしたらその変化は、前ライブツアーであるREBOOTツアーの時点で片鱗を見せていたかもしれない。けれど、MODツアーに至って、より観客の胸に迫る迫真さをまとい始めたようだった。言葉(歌詞)ではなく、感情や物語を伝えようとしている。その姿は女優のようにも見えた。

このあたりで、照明の美しさにも気づいたのだが、筆者の立ち位置からはその全体像が見えず、口惜しい限りである。ステージ全体を見渡せる後方で見ても素晴らしいライブだったと思う。

さて、この日は、ichigoさんが黒のタキシードドレス、岸田さんが黒いシャツに黒いジャケット、はやぴ~さんは白地に青系の柄物のシャツを着ていた。ステージやや後方にいる、みっちゃんは白地のTシャツ、てっちゃんは白系の半袖シャツだった。6曲が終わった時点で岸田さんが雑にジャケットを脱ぎ(袖が裏返しになったまま)、マイクに向かった。

「かっこいい上着を脱いだのでここからはいつもの感じでいきまーす。……かっこいいとはなんだ?!」と岸田さんが突然の発言。「かっこいいとはなにって…」「概念?」などとツッコミが聞こえるなか、ichigoさんが「なに? 開演5分前にケンカした話?」と大雑把にそれを受ける。挨拶を除くとここが最初のMCなのだが、なぜかいきなりバンド内不和の話題が展開された。それ、いま必要な話題?

簡単にまとめると、ichigoさんがせっかく用意した衣装をはやぴ~さんが着てくれなくて開演5分前に口論になったらしい。観客に理解と同情を強請るかのようにichigoさんが「ichigoは衣装さんと相談して、白黒で花柄のシャツを用意してたのに、着てくれなかったの~!!」と地団駄を踏む勢いで主張するも、はやぴ~さんは「俺は派手な(色の)服が好き」とすげない態度。「花柄はいいんだけど、黒なら黒にラメとかさぁ… ichigoさんが買ってくれた服は私服で着まーす!」「私、はやぴ~の普段着を買ったわけじゃないのに!」と口論の経緯と流れが臨場感たっぷりに紹介される。

この流れで、岸田さんがついうっかり「言い合いをしていたから、どうした? て聞いたけど、(衣装のことだったので)どうでもいいや! て。好きな方を着ろよ!」と口を挟むと、あっという間に糾弾対象が変わる。はやぴ~さんには「ichigoさんと俺がケンカしたのに、ichigoさんのヘイトは岸田さんに向かってるのが面白い」だの、ichigoさんには「お前(岸田)のその態度が気に入らん」だの、衣装事件では無実の岸田さんが言われ放題である。岸田さんがヘイトを引き受けることでこのバンドは円滑に回っているらしい。

無駄にメンバーの弁が立つため、このようにトークテーマの舵取りが間に合わず、とんでもない超展開を披露することはよくある。今後、初めて彼らのライブに行こうと考えている諸氏は、重々ご承知おきいただきたい。

果たしてあれはファイナルに適した話題だったのか疑問が残るMCを終えて、ふたたび演奏が始まる。ここからは、オリジナル曲も演奏される普段の岸田教団のライブではセットリストから外れがちな曲も演奏された。

ほぼ1曲にわたって同じリズムパターンで繰り返されるギター・ベースのリフが印象的な「マスタースパーク」ではサビのビート感に牽引され気がついたら大きく前後に身体を揺らしていた。骨太なサウンドからは、自信家で少しぶっきらぼうなキャラクターのイメージがわいてくる。それを憎めない人物像として描写するように、ichigoさんのボーカルがキュートさを足していた。サビの前の緊張感のあるブレイクも心地よい。息を呑む。

インパクトのあるギターリフで始まる「知ってる? 魔道書は鈍器にもなるのよ」は、一見ふざけているような曲名に反して、軽薄なところなく丁寧に編曲された人気曲である。間奏を終えてボーカルパートが始まってもギター(の音量)がとくに自重しないところが非常によい。腹の底に響くようなドラムが畳み掛けてくる最終盤では我を忘れて腕と頭を振っていた。

延髄に響くようなドラムをガツンとかまされる「U.N.オーエンは彼女なのか?」も『東方紅魔郷』の曲ではあるが、2,3曲目に演奏された「メイドと血の懐中時計」「緋色のDance」とは引き離されてここにぽつんとある。岸田教団でこの曲がアレンジ曲として発表されたのが2017年であるため、2008年に発表されている2曲とは別のパートに置かれることになったのかもしれないし、この原曲をテーマ曲とするフランドール・スカーレットが屋敷の中から出ないという設定のため、ライブの先陣を切って登場するわけがないという解釈の反映かもしれない。神経に直接つかみかかるようなギターも聞こえる。

続いての「芥川龍之介の河童」も、筆者の記憶の限りではひさびさに演奏された。ゆったりと揺られるような3拍子の楽曲であり、ライブのアクセントとなっている。リズムの心地よさに没頭していると、間奏のギターのユニゾン部分でハッとさせられた。

「せっかくなので普段はやらないような古い曲もやります」という前振りで演奏されたのが「二色蓮花蝶」。岸田教団では2010年に発表された楽曲で、これまでライブで演奏される機会がなかった曲である。長年のファンには待望の1曲であり、筆者自身も(実際には今ツアーの別会場で初めて聴いたのだが)感激と驚きで言葉では説明できないような混乱した心地になった。現在の日本の主要ロックシーンからすると少し懐かしくなるような、真っ直ぐなパワーとスピード感のあるサウンドと伸びやかなメロディが印象的な曲である。

続いて演奏されたのが「自由への賛歌」。この曲もライブで演奏されることがなかった曲である。ピアノのイントロが流れた瞬間に、会場がどよめいた。ichigoさんにマイクを向けられて、会場の客も叫ぶように「自由への賛歌を歌うのだ」と声を上げる。

この曲も『風神少女』を原曲とするアレンジ曲ではあるが、1曲目に演奏された「SPEED GRAPHER」とはまた趣が違う。どちらも疾走感のある楽曲であるものの、「SPEED GRAPHER」が小気味よい8ビート感のある、原曲に対して素直なギターロックだとしたら、「自由への賛歌」(実際には編曲は岸田教団ではない)はピアノリフが牽引する流麗でドラマチックなロックサウンドになっている。東方アレンジの面白さは、こうした翻案の異なる作品を聴き比べることにもある。なお、このライブでは、『風神少女』のアレンジ曲がこの2曲以外にも演奏された。やはりまったく違う趣の曲である。

破裂しそうなほど膨張した熱をコントロールするかのように、6拍子のミディアムバラード「彼岸帰航」が始まった。ichigoさんが情感豊かに歌の世界を描き出し、演奏メンバーも先ほどまでとは打って変わって奥深いところから感情を汲み上げるかのようなプレイで聴かせる。

情緒的なバラードの余韻をかき消して、つぎは岸田教団ではタオル回しの曲としておなじみの「Desire Drive」に切り替わった。これは、タオルを回し、拳を振り上げ、折りたたみよろしく上半身を前後に大きく動かし、飛び跳ね、すでに減っているファンのスタミナを粗めのヤスリで削り取るように奪っていく恐ろしい曲である。その間奏で、蠱惑的な笑みを浮かべてドレスの上着を美しく脱いだichigoさん。間奏明けに見事な決めポーズでスッとマイクを構えるも、まさかのマイクが上下逆さまでスピーカーから声が出ないというハプニング。さすが岸田教団。何かが起こる。目が離せない。ちなみに曲が終わってからその顛末を自分で暴露していた。

「ここまでの僕たちは2019年上半期までの僕たちです。いわば、平成の岸田教団です」という岸田さんの言葉に引き続き、「ここからはMODファイル適用後の岸田教団です」と、新譜のタイトル「MOD」にかけてモディファイ後の最新の岸田教団が披露されることが宣言される。

「MOD」では、収録曲と同原曲のアレンジ曲が過去に発表されたときと比べ、素人の耳をしても、音から受ける印象がリッチになった。飲み会のつまみが、ポテトサラダから八寸になったくらいはリッチ感が増した。音の空間が特別広くなった実感はないのだが、各楽器の音がそれぞれのレイヤーのなかで充満し、重なり合っているようである。そうしたMODファイル適用後の岸田教団によって、立体的な魅力が増した「フォールオブフォール」「信仰は儚き人間のために」の2曲が演奏される。

「Gusty girl」では「続きのない物語を繰り返し読んでいるような 世界の終わりが ここで、ずっと、続いていきますように」というフレーズを、感傷に揺れる心情を表すように声を震わせながら、それでも芯の通った透明な強さでichigoさんが歌い上げる。その姿は鮮明に心に残った。また、このライブのなかでスポットライトが当たるシーンが何度かあっ
たのだが、ほぼいずれの曲でも、実際にライトが照らし出していた場所より一歩前にichigoさんは立っているように見えた。それが、より近いところで伝えたいという気持ちの表れだとしたら、ファン冥利に尽きる。

さらに「妖々跋扈」「ネクロファンタジア」と刷新された名曲による波状攻撃を受けた。唐突に「これで最後の曲です」と愕然とする宣告がなされる。本編の最後は、彼らが今できるすべてを出し切ったと自負する「幽雅に咲かせ墨染の桜」で締められた。この曲は、サウンド面のみならず、岸田さんの歌詞の面でも、新境地ではなかろうか。これまでのロジカルで独特な語彙の歌詞もよいのだが、本曲には素直でエモーショナルな歌詞がつけられている。まあ、簡単に言うと、エモい。

ライブ開始から高められ続けた熱量は、最後には感情として昇華していくようだった。当然アンコールはしますよね。アンコールで登場して開口一番、「タオルがない!」とおろおろし始める岸田さん。汗かきであるため、タオルがないと弱ってしまうようだ。ichigoさんに「(ステージに)水たまりができるもんねぇ」と話しかけられると、「大阪の会場でスタッフさんに、『ペットボトルの水をこぼしましたか?』って聞かれたんで、『いや、こぼしてないですね。蓋を閉めるのが癖なので』と答えたら、『えっ、あれ汗なんだぁ…』みたいな反応された」とツアー中のエピソードが紹介された。ライブの熱量を物語っている(もしくはただ汗腺のはたらきが良すぎるだけ)。

12年前、同じ会場で、初めて岸田教団&THE明星ロケッツとしてステージに立ったことに触れ、そのとき演奏された「夢は時空を超えて」がアンコール1曲目にセレクトされた。バンドの始まりにまつわるMCに加えて、ナンバーガールをオマージュしたイントロが会場の空気を一気に2000年代に変える。

「SuperSonicSpeedStar」は筆者の入信曲である(岸田教団ファンは、バンド名になぞらえて、好きになったきっかけの曲のことを「入信曲」と呼ぶことがある)。この曲に出会えていなかったら……それでも別のタイミングで巡り会えていたような気がしなくもないが、今とは違う日常に生きていたのだろうか。想像しようとしても、まったく見当がつかない。すでに、機嫌のよかった日、やるせなかった日、なんでもない日、絶対に折れるわけにいかなかった日、そんな日常の一部として岸田教団は存在している。切り離して考えることができない。

最後は、彼らの名前が広く知られるようになった出世曲である「明星ロケット」が演奏された。すべてを振り絞ったのでもう何も記憶がない。ラスト2曲がサポートギターのてっちゃん祭りだったことと、楽しかったという感情だけが残っている。てっちゃんが笑顔でとてもよかった。

このレポートの途中、「原点回帰」という言葉をつかったが、あれは誤りであった。謹んで訂正する。岸田教団は別に出発点に戻ったりはしない。過去は大切だが、継承し更新していくものだ。

終演後、ライブで受けたインプレッションをそのまま持ち帰りたいと思った。なるべくなにもしないで機械的に帰路につく。そして電車に揺られながら考えた。ファンの勝手な思い込みかもしれないが、岸田教団には、ただの作り手と聞き手という一方通行の関係ではなく、音楽を媒介して、同じ世界観や感情の動きを愛し楽しむ仲間として受け入れてもらっているように感じる。冒頭で紹介したように、メンバーの人間性は信用できないものかもしれない。しかし、この10年余りの活動で積み上げてきた彼らの楽曲や言動を通して、そこには同じ世界に生きる同志のような信頼関係ができているのではないだろうか?

だからこそ、この日のライブも到達点ではなく、これから先の予感や期待を感じさせてくれた。ならば、これからも、岸田教団が次に見せてくれる景色を楽しみに待つことにしよう。

なぜなら、私は岸田教団を信じているのだから。

レポート・文:みさちこ


最後の2本まで残った2つ、どちらもかなり悩みました。

端的にライブレポとしては大賞の「ゲン」さんの記事のほうが完成度は高いのです、愛あるコンテンツのライブをしっかりと伝える文章。しかし「みさちこ」さんの文章は愛がこう、漏れている。好きだということを言わずにはいられない思いが溢れている。ライブレポとしては過剰なんですけど、それくらい好きだというのが伝わってしまったんですね。だとしたら両方載せざるを得ない。

一般の方には決してわかりやすいとは言えない東方アレンジの世界観と、普通のロックバンドではない岸田教団の濃さを発信できる良記事を2つも頂けました。濃すぎて引かれる可能性もありますが(笑)。 それもまた岸田教団らしいのではないかと。

今回の企画を通じて、改めてSPICEは人の想いを発信できるメディア・ジャンルでありたいと痛感しました。バンドも人生もいつか終わりが来る、その瞬間まで好きなものを思い切り好きでいるために、みんなが好きなものがもっと輝けるように、その手助けができるように。十六夜咲夜も言っています。

「大丈夫、生きている間は一緒にいますから」

SPICEアニメ・ゲームジャンル編集長 加東岳史

 

話を聞いた時は”えっ?・・・あ、でも確かに。”そう思った企画でした。

考えてみれば、「ロックフェスがどうだ」「最近話題のバンドはどうだ」っていう世界で、東方アレンジとか言い出したら誰もちゃんと書けないですよね・・・知らなくて当たり前だし。

”東方アレンジ限定ライブのライブレポート”、これを作ろうとした困難たるや凄まじく、一瞬スタッフ全員で大慌てするくらいの大問題でした。結果みんなのおかげで出来上がりました。ありがとうございます。

一通り読んだけどみんな真面目に書いてくれて嬉しいです。なんかあったらまたよろしく。

岸田

 

大賞のゲンさん、おめでとうございます☻
東方原作やこれまでのバンドのエピソードと絡めつつ流れるようないいテンポでライブを語ってくれて、フロアの様子もステージの様子もよく伝えてくれたとおもいます。素晴らしいですね。

特別賞のみさちこさんもありがとうございます☻
叙情的で面白く読み物としての完成度が高かった!コラムを読んでいるような気分で嬉しく楽しく読ませていただきました。素敵でしたよ。

本当にどのレポートも情熱的で読むのも選ぶのも大変でした(笑)。 こういう企画でもなければ読むことのできない言葉たちに感謝の気持ちでいっぱいです☻

みなさんが様々な観点でライブを語る中でも、メンバーが本番直前に喧嘩していたこととichigoがマイク逆に持ったエピソードはだいたい盛り込まれてて、まあまあ恥ずかしかったです(ФωФ)!ぷん(ФωФ)!

ichigo

 

まさかこんなに届くとは…

普段我々はライブステージにおいて送る側に立っているわけなんですが、まさか自分たちのライブに関わるものを受け取る側に回るとは思いませんでした、しかもこんなたくさん。

便宜上、賞を選ばせて頂きましたが、正直どの人のレポートにもその場にしかない臨場感、感情がこもっていて優劣のつけられない熱がありました。我々もこの熱量に相応しいものを送り届けられる存在でなければならないな、と思います。本当にありがとう。

hayapi

 

レポートありがとうございました!たくさんのレポート、そこから熱量溢れるみなさんからの想いを受け取って、自分も考えさせられることがありました!自分も来年40歳になりますが、これからも全力で行くので応援の方よろしくお願い致します。

みっちゃん 
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