笑いあり、涙あり!名曲を思う存分楽しもう!~『世界まるごとクラシック2020』青島広志インタビュー
クラシックの魅力をまるごと詰め込んだラインナップで毎回人気を博している『世界まるごとクラシック』。2018年に10年目という節目を迎えた本シリーズの12回目の公演が、2020年2月9日(日)東京国際フォーラムにて開催される。2020年のオリンピックイヤー公演も、生誕250周年となるベートーヴェンをはじめ、さまざまな名曲を予定している。テレビでもおなじみの青島広志による、愉快に、楽しく、そして「世界一」わかりやすい解説もみどころのひとつ。当日演奏予定の曲目やそれぞれの作曲家たちの背景など、青島先生の軽快トークにのせて、公演前に軽くおさらいしておきましょう!
――今回の『世界まるごとクラシック』では、『カルメン』や「威風堂々」など定番のほかにも、さまざまな曲目が予定されています。
『世界まるごとクラシック』ではおなじみの「周年シリーズ」は、生誕250周年のベートーヴェンを取り上げます。彼の曲って、例えば落ち込んだりした時に聴くと、ものすごい薬になる。聴く人も弾く人も本当に、ベートーヴェンの曲で力を得るところがあるんです。私は音楽における「癒し」という言葉が苦手で。音楽家はお医者さんではないから、癒すより、音楽を聴いてくださることで、もっと活力を与えることができたら、と思っています。
『カルメン』や「威風堂々」はとにかく派手な曲ですね。特に『カルメン』は血沸き肉踊る曲。ですから、曲に合わせて手拍子をして、皆さんにも参加してほしい。ここで、「このコンサートは騒いでもいいんだ!」とお客様が実感できるような仕立てです。
一方で「G線上のアリア」のように静かな曲も入れています。やっぱり派手な曲が続くと聴く方も疲れますから。アリアはもともと組曲の第3番で、宮廷での踊りの「休憩」にあたる曲です。お客様には休憩の気持ちで聴いていただければ。でも静かな曲って弾くほうは緊張しますよ。ここでオーケストラも休憩することができるかというと、決してそんなことはない(笑)。
――プログラムの構成や流れにも、お客様を飽きさせない工夫が隠されているんですね。
ベートーヴェンは長くて飽きる、なんて言われてますね。私も「飽きる」っていうのが一番いやです。だから衣装もできる限り変えたり、わざと早口で喋ったり。とにかくお客様を飽きさせたくないんです。
今回はベートーヴェンをメドレーにしますが、ただ曲をくっつけただけのメドレーにはしていません。彼が生まれてから死ぬまでを辿るような流れになっていたり、音楽がすごく好きで詳しい人が聴いても、理論上おかしくないメドレーになっています。それから、メドレー中に「核」となるメロディを使ったりしています。今回、核となるメロディは何と言っても「ジャジャジャ、ジャーン!」の「運命」です。
ベートーヴェンの時代はオケが現代の半分ほどのサイズでした。トロンボーンやチューバなど、当時は使われていなかった楽器も今回のオーケストラには入っていますから、わざわざ加えています。メドレーを通して、ベートーヴェンの生涯がわかり、力が湧き、かといって恐ろしさだけではなく、楽しさも感じられるようなしかけになっています。
ーーバレエ音楽も毎回プログラムに組み込まれていますね。今年は『白鳥の湖』から演奏されます。
演奏するシアターオーケストラトーキョーは、熊川哲也先生率いるKバレエカンパニーのオーケストラです。オケというのはやっぱり得意、不得意があって。バレエ音楽を得意とする奏者と演奏することで、私自身が皆さんから教えられることもあるんですよ。
バレエ音楽って「振り」が先なんです。舞台に誰が何人いて、何分踊るのか。シンメトリーの振り付けがあれば、その分同じ小節数が必要になるとか、シナリオに「雪が降る」とあれば、雪の情景を表現する音楽にしたり。『白鳥の湖』を作曲したチャイコフスキーは、それまでのバレエ音楽では常識だった、「振付師のいう通りの曲を完璧につくる」という習慣をガラッと変えました。つまり、作曲家自身の意志を入れなかった当時のバレエ音楽において、チャイコフスキーは自分の意志を盛り込んだんです。やはり偉大な作曲家だと思います。
チャイコフスキーは、たとえばフリルのついた服だとか、女の子が好みそうなものが好きな、いわゆる少女趣味の人間で、バレエには向いていたでしょうね。私はピアノの先生のお宅で少女マンガを読んだり、真似して描いてみたりしていたことがあります。私の描くイラストは、少女マンガが基になっていますしね。そんなこともあってチャイコフスキーには共感できるんです。
――作曲家や時代背景の解説も『世界まるごとクラシック』のお楽しみのひとつですね。
音楽はその国の言語や特徴とも密接に関わっています。例えばフランス語は言葉が柔らかく抑揚が少ないのでメロディにはなりにくかったり。フランスにも四季はあるけど、日本ほどの激しい差がないからなのか、しとしと雨が降っているような、シャンソンみたいな歌い方が主流ですよね。激しい音楽の『カルメン』を書いたビゼーは、フランスの作曲家ですが、『カルメン』はスペインを舞台にしているのでフランスっぽさが少ないんです。
「威風堂々」はイギリスですが、女王・王様文化という特色がよく表れていて、重厚感のあるメロディとなりました。日本の皇室に近いものを感じます。実は、文部省唱歌の「故郷」もイギリスとつながりがあったり……と、こういった国同士の関係や作曲家について、コンサートでは1曲1曲、解説をしつつ進めます。4歳から入場できるので、小さいお子さんにもどうお話すれば楽しんでもらえるかな、とか常に考えています。
――前回の公演(2018年11月~2019年2月にかけて開催)でシリーズ10年目という節目を迎えられました。今回また次の一歩を踏み出されたわけですが、今後の展望を教えてください。
次の10年にはなんと74歳になります。でも今どきの74歳なら、まだまだ若いし元気!私も頑張るし、お客様とも一緒に次の10年を迎えていきたいですね。常連さんもいらっしゃる。ただ「前回まで母と一緒だったのですが……」なんて言われると、悲しくもあります。次の世代に受け継がれていることは嬉しいことではあるけれど、やっぱり誰一人欠けることなく、皆さまと次の10年を迎えていきたいですね。
――プログラムの面では、今後はどんな意図を考えていらっしゃいますか?
『世界まるごとクラシック』は、モーツァルトが生誕200周年を迎えた年から始まりました。これからも周年の作曲家を取り上げて、「隠れたる名曲」というものを発掘していきたいと思っています。誰もが知っている曲目を取り入れつつ、お客様がそれをきっかけにもっとその作曲家のファンになれるような、そんな内容にしたいですね。
クラシックの定番「威風堂々」や『カルメン』は続けて行きながら、クラシックだけに留まらせたくないという気持ちもあります。今回で言えば「クイーン・メドレー」がそれです。ただ単にポップス、ジャズというわけではなく、あくまでもクラシックの切り口でアレンジしていくことにはなりますけどね。
それから見る要素も大切にしていきたいですね。映像やイラストと一緒に演奏したり、ほかのジャンル、バレエやミュージカルの方にも加わっていただいたり。でも基本はオーケストラです。オケをなくしたり、オケを超えたりということはないでしょう。
それからお客様の負担、たとえば入場料があまりにも高額にならないようにすることも大切です。そのためには曲選びや編曲、楽器編成なども重要になってくるので、その辺りはこれからもしっかり押さえていきますよ。
――お客様のことを一番に考えているからこそ、気軽に楽しんでほしいということですね。
4歳から入場可としていますが、本当は有名無実のものにしたい。聴いてくれる気持ちがあるお子さんだったら、何歳でもいいはずです。静かに聴くことができるなら、乳幼児でもいいじゃないかと、個人的には思っています。今は、「結婚して子供が生まれたから来られない」「介護があるから来られない」という人がとても多い。でも私はそういう方たちにこそ来ていただきたいんです。そのためにはどうしたらいいのか、たとえば託児所もそうですし、楽しいグッズも扱いたいですね。
いつも「お客様をお迎えする」という姿勢を心がけています。だから入り口に出てお迎えし、サインもしたり。舞台って少し高くなってるから、それだけで威張って見える。ちょっと派手なキラキラした服を着ているだけでも「なんか(自分とは)違う!」みたいな。私はお客様と一緒に楽しみたいので、なるべくお出迎えするようにしていますね。ただ、指揮者として難しい曲を振る場合は、不可能なこともあります。一曲目の雰囲気作りが大切なので、コンサートの冒頭では、なるべく簡単な作品が来るよう毎回祈っています(笑)。
――タクトを振り解説も、というのは大変なことなんですね。
本当に難しい!曲の最後は汗だくになるし、息も上がるし。難曲のあとは特に大変で、拍手をもらっている間になるべく息を整えて。解説したあとにオケのほうに振り返って「次、どうやって指揮するんだっけ?」とわからなくなることが、実はあります(笑)。ベートーヴェンなんて特に難しいのにメドレーにしちゃったものだから、今「どの曲のところでしゃべろうかなあ……」って考えてますよ。「トルコ行進曲」や「エリーゼのために」のような易しい音楽もあるので、その辺りにしようかな、とかね。
――最後に、楽しみにされている方へのメッセージをお願いします。
私はいろいろな音楽会に出てきましたが、『世界まるごとクラシック』は、その中でも一番楽しみにしているコンサート。後進に引き継ぐ気持ちもいつかはありますが、人前で何かをするというのは、私の糧のひとつでもあるので、台本とか構成、編曲など、何かしら関わっていきたいと思っています。私に残っている能力があって、それが聴いてくださる皆さんに活力や勇気を与えられるなら、続けていきたいと思いますね。
『世界まるごとクラシック』にいらしてくださるお客様、それからオケの中にもいやな人が誰一人いない。オケとは長い付き合いになってきて、舞台の上で誰が何を考えているかわかっているので、とてもやりやすいんですよ。
温かい雰囲気のコンサートを楽しみに、ぜひ足を運んでくださいね!
なお、本公演のゲストとしてピアニスト角野隼斗の出演が決定した。角野は過去SPICEにてインタビューをしており、eplus リビングルームカフェ&ダイニングで実施したライブのアーカイブも見ることができるので是非関連記事よりチェックしてみてほしい。
また、『世界まるごとクラシック』オフィシャルサイトでは、今回のプログラムの一部を抜粋した全5回の連載がスタートする。「”G線上”ってどんな曲?」「ビゼーってどんな人?」など、『世界まるごとクラシック』をよりいっそう楽しめるイラスト解説つきの連載を予定。お楽しみに!
取材・文=Junko E. 撮影=安西美樹