プロジェクトKUTO-10『なにわ ひさ石 本店』工藤俊作×村角太洋にインタビュー「コメディは難しいけど、難しいからこそ面白いです」
(左から)「プロジェクトKUTO-10」主宰の工藤俊作、今回の作・演出の村角太洋(THE ROB CARLTON)。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
ベテラン俳優・工藤俊作が、主に関西在住の演劇人たちを集めたプロデュース企画「プロジェクトKUTO-10(くとうてん)」。2018年には、後藤ひろひと作・演出の『財団法人親父倶楽部(以下親父)』で、30年近い歴史の中で初のコメディを上演。KUTO-10初の山形・群馬公演を実現するなど、大きな評判となった。
それに味を占めた……わけではないが、次回公演『なにわ ひさ石 本店』でも、人気上昇中の喜劇集団「THE ROB CARLTON(以下ROB)」主宰で、作家・演出家の村角太洋a.k.a.ボブ・マーサムを招き、再びコメディに挑む。村角にとって、初の関西弁の長編という点でも注目の本作について、工藤と村角に話を聞いた。
■工藤さんと久保田さんと保さんは、衣裳を着ただけで熟練感が。
──村角さんに新作を依頼したのは、やはり『親父』でコメディに開眼したからでしょうか。
工藤 確かに「これ、いいなあ」と思いましたね。KUTO-10は『親父』まで、たまたまコメディをやる機会がなかったけど、お客さんの反応がすごく明確でわかりやすかった。それでこれからは、ダークな作品とポップな作品を、交互ぐらいにできたらいいなあと。前回がダーク系だったから、次にコメディを書いてくれそうな作家って、誰がいるやろう? と思った時に、ボブが浮かんだんです。
──ROBはご覧になったことはあったんですか?
工藤 噂はいっぱい聞いてたけど、観たことはなかったです。それで『CREATIVE DIRECTOR』(2015年)をネット配信で観させてもらったんですけど、パソコンで観てるのに、めっちゃ笑って。と同時に、これから絶対人気出るやろうから、今のうちに声をかけとかないと、一緒にやるのが難しくなるだろうと。それで(KUTO-10常連の)久保田浩に連絡先を聞いて、正式に依頼したのが一昨年でした。
THE ROB CARLTON 『CREATIVE DIRECTOR』より。 [撮影]今西徹
村角 かなり早かったですね。その時点では当然(予定は)まっさらだったので、そらもうぜひという感じでした。最初の打ち合わせで言われたのは「関西弁の芝居がやりたい」ということと「カタカナは嫌だ」(一同笑)。
工藤 実は『親父』では、台詞にカタカナが多いことで、結構苦労したんです。それでいうとROBも、洋モノっぽい世界だから「こんなにカタカナが多い台詞、大丈夫かな?」と(笑)。という事情が半分と、あとは大阪弁の芝居をやったことがないと言うので、せっかくやからKUTO-10みたいな場で挑戦してもらおうと考えました。
村角 短編ではやったことがあるんですけど、長編でしっかり関西弁というのは、もしROBでやるとしたら、何か工夫が必要になるなあと思ってたんです。関西弁って、リズムに独特の強さがありますからね。でも工藤さんに、保(たもつ)さんと久保田さんが出ることがまず決まってたので、このお3人さんなら下手な小細工をしなくても、純粋に関西弁を使った芝居が作れるんじゃないかと思いました。
──舞台を料亭にしたのは?
村角 (大阪公演会場の)ウイングフィールドは舞台とお客様の距離が非常に近い、キュッとした空間なので、この距離感をリアルに生かせる設定は何か? を考えた時に、僕が以前働いていたホテルの料亭を思い出しました。そこの厨房も思った以上に狭いんですけど、その中でそれなりの人数の人が、効率よく働いていたんですよ。そのサイズ感と、皆さんが和食の調理師の格好をしている姿が、どっちもピッタリとハマりました。
──ROBでも以前『フュメ・ド・ポワソン』(2013年)という、ホテルの調理場を舞台にした作品を書いてましたよね。
村角 僕がコックコートというか、調理師の格好が好きなんで。でもあれは20代の僕らが、白髪とかシワとか描いてやってて、そこが一つ変な面白になってたんです。でもこのお三方は、チラシを見ていただいたらわかると思うんですけど、小細工なんかしなくても熟練感が出るんですよ。
プロジェクトKUTO-10『なにわ ひさ石 本店』公演チラシ。 [宣伝美術]粟根まこと(劇団☆新感線)
工藤 あの衣裳を着るだけで「調理師」ってなるんですよね。
村角 実年齢の説得力ですね。それはROBにはない強みです。
──ほかの皆さんは、どういう役割ですか?
村角 女性の皆さんは女将さんや仲居さん、長橋(遼也)君は東京から修行に来た、若い調理師です。
工藤 今回は「ボブの脚本に合うだろう」という基準で、俳優を選びました。松浦さんは以前から僕がファンで、いつかKUTO-10に出てほしいと思ってたけど「あ、今度や」と思って。古谷(ちさ)さんは、外部の作品を2本観た時に、(所属している)「空晴」とはまったく違った芝居をしてて「これも必要や」と(笑)。あともう一人、シャンとした女優さんを入れたいと思って、久野(麻子)さんをお呼びしました。遼也は、ここ最近KUTO-10に連続で出演してるんですけど、個人的に「ROBに出してください」って言い続けてたそうで。
村角 『親父』を観に行った時も「いつ出してくれるんですか?」って聞かれました(笑)。すごく個性的な人たちの集まりですけど、あんまりうるさくないんですよ。誰が際だってるって訳でもなく、バランスがすごくよくって、それでキャラ分けがしやすかったんです。だからそのキャラ分けに沿って、物語を作っていった所があります。
工藤俊作(プロジェクトKUTO-10)。
■役者と一緒に疲れるために、立ったまま演出をしています。
──ストーリーはどんな感じでしょうか?
村角 大阪の隠れ家的な料亭の、ある一日の話です。東京から修行に来た男の子が、今までで一番美味しいまかないを作っちゃったのをきっかけに、これまでなかったことが起こり続けて行くという。今までみんなが、淡々と仕事をこなしていく毎日だった料亭に、些細な変化が起こって、多分翌日からお店がガラッと変わるんだろう……という、群像劇っぽい話になります。それと懐石料理って、全体のラインアップにストーリーがあるんです。八寸でつかんで、蓋物でお店の個性を出して、メインとして焼物が出る、とか。だから今回は、本当にわかりやすい起承転結がある物語になってます。
工藤 最初に脚本読んだ時から「傑作や」とは思ってたけど、やってみると台詞が本当に緻密に計算されてますね。『親父』の時も、コメディはやっぱり難しいと思ったけど、難しいから面白い。
村角 自分でも演出しながら「すごく細かいことお伝えしちゃってるなあ」と思うんですけど、工藤さんを始め、全員それを打ち返してくださる方々ばっかりで。「こんなことも、やってもらっていいですか?」と言うたびに、2・3個判断できる材料をいただけるというか。ラリーの繰り返しみたいになってて、役者の皆様はしんどいと思います。
工藤 いやいや、いつも以上にキュッといい感じ。今までずっと一緒にやってた人たちじゃないか? というぐらいの雰囲気です。またボブが、いい人ですからね。一人ずつ誠意を持ってしゃべってくれるし、稽古中もずっと立ってるんですよ。その理由が、稽古してる役者と一緒に疲れなくてはいけない、自分だけ楽したらあかんと。
村角 それ、今回の現場でいろんな方に言われるんですよ。「なぜ立ってるの?」って。
プロジェクトKUTO-10『財団法人親父倶楽部~死んだと思って生きてみる~』(作・演出:後藤ひろひと)より。 [撮影]クリス(500G Inc)
──確かに他の稽古場では、演出家はだいたい座ってる方が多いですよね。
村角 この前も、稽古の見学に来た大王に「ボブ、君にとって演出は立ち仕事なのかい?」と聞かれました(一同笑)。今回の稽古場は先輩ばっかりなので、なおさら僕一人がボーンと座って「はい、じゃあもう一回」みたいなことは、ようやらんなと。あとはまあ、立ってる方がいろんな角度から見やすくて、演出がしやすいというのもあります。
工藤 ちゃんと稽古場にマイスリッパ持って来て、立っているから(笑)。
村角 立ちっぱなしでも膝に優しい奴を。最初はやっぱり皆さん、それぞれの(所属する)劇団の演技体やルールをお持ちなので、本当にバラバラでした。それをちょっとずつ整えていくうちに、僕が何も言うことがないぐらいに、キャラクターをどんどん育て上げてくださってます。この物語は一日だけの話なんで、そんなに皆さんのキャラクターが極端に変わることがないから、淡々とその役を演じてほしいんです。その理想にちゃんと近づいてるので、今は見ていて楽しいですね。
村角太洋(THE ROB CARLTON)。
■結局はみんなが調理場に集まってくる、ワンチームのお話。
──ちなみに久保田さんは「羽曳野の伊藤」(注:久保田が十八番とするクールな狂人キャラクター。『親父』には登場した)ではないんですか?
村角 ではないですね。役名も違います。
工藤 ただボブは今まで、久保田さんを「羽曳野の伊藤」でしか観たことがなかったんで、脚本を書いてる最中に、後藤君に「久保田さんの書き方をどうすればいいか」と相談してたんですよ。そしたら後藤君が「彼には必殺の芸があって……」という話をして。そうしたら次に渡された台本に、その芸がいきなり出てきました(一同笑)。
村角 大王にそう言われて、ぜひ入れなければと(笑)。伊藤が好きな方には「ああ!」というネタが、一個入ってます。
──調理師を演じるために、演技で工夫をしてることなどは。
工藤 最初は、料理を作る手元をどこまでリアルに作り込んだらええんやろ? と思ってたけど、舞台美術の池田ともゆきさんが稽古を見に来て「手元を隠したらええんちゃう?」と。だったらそんなに、リアルにせんでも行けるわって(笑)。ただ僕が演じる調理師は「こいつ、ホンマに料理できるんか?」という役ではあるんですけど。
村角 まあ僕が書いてる人たち、みんな「こいつ、ホンマにできてるんか?」という人しか出てこないんで(笑)。あくまでも「なんちゃってですよ」という面白さです。でもこのお三方の場合、調理師の格好をして、お玉みたいなのを持って味見でもすれば、もう一発でそれらしくなりますから。
工藤 でも池田さんがその稽古を観て、上げてくださった美術プランには「おおっ!」ってなりましたね。
村角 最初(稽古を見る前)は割と2Dな感じだったんですけど、その後の図面はかなり縦とか奥の動きが増えて、立体的になって。お芝居ってどうしても、横の動きだけになりがちなんで、そこはさすが空間デザインだと思いました。ROBの美術は作り込んだ、具象のものが多いんですけど、今回はリアルに作るより「演劇」ということを前提にしたものを……という話をしたので、その辺はすごくいい案配だと思います。
(左から)工藤俊作(プロジェクトKUTO-10)、村角太洋(THE ROB CARLTON)。
──今の感触で「ここ見どころになりそうだなあ」というポイントは?
工藤 今回は今までになく稽古場が明るいので、その明るさが出るんじゃないかと思います。チームワークが出てくるというか。
村角 それは確かに、そうかもしれないです。各個人の物語が展開されるけど、結局みんなが「調理場」という同じ場所に集まってくるというお話なので、「昨日もこの人たちでお店を動かし、明日も多分この人たちが動かすんだろう」というワンチームな感じは、すごく出ていると思います。まあ、(ラグビーが好きな)僕っぽいお話ですよね(笑)。
工藤 でも今ちょっと悩んでるのが、さっき言った「八寸」とかの懐石の専門用語は、当日パンフとかで解説した方がいいのかなあって。
村角 知らなくても大丈夫です、物語としては。名称それ自体は、登場人物たちを動かすための道具でしかないですし、見せたいのは全体の会話の方ですからね。ただ用語を知ってると「ああ、今コースは中盤辺りだな」みたいなことがわかる面白さは、あると思います。
──本職の方には観てもらいたいと思いますか?
村角 そうですね。「あんなんじゃダメだ。俺は明日も頑張ろう」と思ってもらえるんじゃないですかね?
工藤 でもを買ってもらったお客さんの中に、もうその筋の人がいるかもしれなくて(笑)。送付先の住所が、それらしい場所だったから。
村角 嘘でしょう?! もうそれはぜひ観ていただいて「これは違う!」と言っていただきたいですね。どうせ違うと思いますから(一同笑)。
取材・文=吉永美和子
公演情報
■出演:工藤俊作、久保田浩(遊気舎)、保、久野麻子(スイス銀行)、松浦絵里(南河内万歳一座)、古谷ちさ(空晴)、長橋遼也(リリパットアーミーⅡ)、ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)
■日時:2020年3月5日(木)~8日(日) 5日=19:30~、6日=15:00~/19:30~、7日=14:00~/18:00~、8日=14:00~
■会場:ウイングフィールド
《東京公演》
■日時:2020年3月12日(木)~15日(日) 12日=19:30~、13日=15:00~/19:30~、14日=14:00~/18:00~、15日=14:00~
■会場:下北沢シアター711
■お問い合わせ:kuto1011@gmail.com(プロジェクトKUTO-10)
■公式サイト:https://plaza.rakuten.co.jp/kuto10/